インタビュー

『恋する日曜日 私。恋した』廣木隆一監督 単独インタビュー

©2007恋する日曜日 私。恋した 製作委員会

ただ“今ここにいる”時間と空間を映画にしたかった

 80年代の日本のポップスをテーマにした恋愛ドラマ・シリーズ『恋する日曜日』。余命3ヵ月の女子高生役で堀北真希をヒロインに迎えた劇場版第二弾『恋する日曜日 私。恋した』で、第一弾に引き続きメガホンを取った廣木隆一監督が、笑いを交えながらたっぷり語ってくれた。

廣木隆一監督

 1954年生まれ。福島県出身。
 『性虐!女を暴く』(82)で監督デビュー。『ヴァイブレータ』(03)で映画賞を総なめにする。近作に『やわらかい生活』(06)など。本作ではTVシリーズと劇場版第一弾に続いてメガホンをとった。最新作『M』が2007年公開予定。

 (お渡しした過去のインタビュー記事をご覧になって)

 ……俺、変わってないな。髪も増えてないし(笑)。

ルックスの話ですか(笑)?

 同じようなことばっかり、言ってるな。

はぁ……。

 “はぁ”(笑)?

いや、「いえ」って言ったんです(笑)! 前作の『恋する日曜日』のインタビューのとき、ご自分は「19歳で止まってる」とおっしゃっていましたね。

 言ってましたね~。今度は17歳にしておこうかな。若返ってるし(笑)。

『やわらかい生活』と言えば、(寺島)しのぶさんが……。

 しのぶさんが……結婚しましたね。結婚式、楽しかったっすよ。お相手のローラン、鬚剃って可愛くなっちゃった。

お幸せそうでしたか?

 メチャクチャ幸せそうでしたよ。当たり前じゃないですか、結婚式だもの(笑)!

今回のプロジェクトは、丹羽多聞アンドリウ・プロデューサーの想いが結実しているものですよね。監督はどういった部分で共感されて関わっていらっしゃるのですか?

 僕も音楽はすごく好きなので、音楽を主題にした映画というのはいい企画だなと思っていますし、コンパクトな撮影ができるということもあります。僕はいつもコンパクトな撮影がしたいと思っているので、コンパクトな撮影でどれだけのことができるかを試せるという意味でも、このシリーズはいい機会なんですね。
 コンパクトというのは、そんなに予算がないので、撮影期間が短かったりスタッフも少人数だったりするわけですが、僕は基本的に少人数で長い期間撮影したいなといつも思っているので……、そんなに長い期間はいただけないんですが(笑)、というところですかね。

前回は12日間とおっしゃっていましたが、今回は?

 今回は9日間。これ、あまり言うとまずいんだよな、「そんなんで撮れんじゃん」と思われるから(笑)。いや、撮れない、撮れない! 僕だから撮れるんですけど(笑)。

今回は堀北さんありきだったんですよね? 丹羽多聞プロデューサーがずっと目をかけていらして。

 そうです。“俺が汚してやる~”なぁんて(笑)。いやいや、ここ、使えねーじゃん(笑)。

一緒にお仕事される前は、堀北さんをどのようにご覧になっていましたか?

 すごく真面目な芝居をする人だな、と思ってました。とても一途でシンプルな演技をするな、と。あまり余計なことをしないのがいいですね。実際に仕事をしてみても、そのイメージは同じでした。微妙に芝居が変わるんですけど、その微妙さ加減が実に微妙なんですよ(笑)。それがまた楽しくて、何度かやってもらうと、前とは微妙に違ったことをするんです。それが”あ、いいな”と思いましたね。テイク毎にそのときの気分でやってくれるんで。テレビだとそれは許されないことなんでしょうけどね。カメラの位置も決まっていますし。僕はそういうことを一切取り外して、「どこに行ってもいいし、何をやってもいい」と言っていましたから。

そうした、微妙に変化する演技というのは、彼女が意識的にやっていたのでしょうか?

 そうだと思いますよ。9日間で、堀北真希というよりも“なぎさ”のライブ感あるドキュメンタリーを撮っていこうと思っていたので、そういう意味でも良かったね。

堀北さんは「監督に不自然な部分を結構指摘された」とおっしゃっていましたが、演技に慣れて計算しているところを感じられたということですか?

 そういうことです。ある種、演技の決まり事ってあるじゃないですか? 今回はそういうのを一切止めてもらったんです。例えば、「洗濯ものをたたんでいて、ボーッと庭を見る」というシーンは本当に、ボーッと見ているだけでいいんです。“見てます”ってお芝居じゃなくてね。そういう微妙なニュアンスなんですけど。

10分くらいの長回しもあったとか?

 バスの中のシーンがそうですね。あと、どこだろ? 結構いろいろありました。喧嘩するシーンもそうです。あと、彼女が夜起きて、庭のほうに行って、また戻ってきて扇風機にあたって、今度はスイカ持ってきて食べて、縁側に行って種を吐き出す……というシーンは、10分以上回しましたね。

監督はもともと、長回しが多いですか?

 多いですね。カット割ができないんで。

ふぅ~ん。

 “ふぅ~ん”ってなんだ(笑)!

記者会見では、「あくまでも爽やかな青春映画になっていて、自分でも珍しいと思った」とおっしゃっていましたが、前作以上に青春映画になっているという印象ですか?

 いや、前は4人の高校生たちの恋愛話じゃないですか。今回は限られた何日間の物語で、「こうやって死ぬんです」と見せる話でもないし、そもそもストーリーを大きくするつもりもなくて、ただ“今ここにいる”時間と空間を映画にしたかったんですよ。説明すると面倒くさいんですけど……、言わないと分らないですね(笑)。

でも、個人的な印象としては、前作は10代の子たちを描いている青春映画なわけですけど、今作は前以上に青春映画の雰囲気があったと思います。前作では内面のドロドロさも感じさせる恋愛模様でしたが、今回は死に向かっていくということもあってか、ピュアな空気を感じました。

 そうですか。僕は神代辰巳さんとかが好きで、例えば、ショーケン(萩原健一)なんかが出ていた映画がありますよね、『青春の蹉跌』とか。実は、ああいう映画の中で描かれているような恋愛模様が好きなんですよね。気ままに生きてる男がいて、女の人が彼に振り回されてオロオロしているみたいな。そういうものにしたいって気持ちはありましたね。

その一方で、高岡早紀さんが演じているような女性がいますね。堀北さん以上に、高岡さんが造形した女性に味がありました。人生を諦めているわけではないけど、生きることの痛みのようなものを抱えている女性ですね。監督はあの役に結構こだわられたとか?

 ええ。17歳で人生が終わってしまうのも、30いくつまでズルズル生きていくのも切なかったりするじゃないですか。どっちが大変かというと、比べられないと思うんですね。だから、早紀ちゃんがやってくれた役はダーティなんだけど、「私だって17歳の頃があった」ということを、彼女はベタじゃなく表現してくれました。彼女は、週刊誌などで書きたてられているイメージとは全然違う、とてもピュアな部分のある人ですよ。だから、堀北と彼女は、いいバランスでそれぞれの存在感を出してくれましたね。

高岡さんは女優として、とても魅力のある方ですね。

 深作欣二さんや村上 龍さんの作品など、ずっと映画でやってきた人ですからね。とにかく、何か言うとすぐに分かってくれるので、すごくやりやすかったです。でも、堀北もそうだったな。言えばすぐに理解できる子ですよ。

それにしても、初恋にしろ不倫にしろ、どちらにしても痛いですね……。

 痛い。痛いですよ、恋って(笑)。

以前、監督は高校生のときに人妻と恋愛をしていたとおっしゃっていましたね。今作の撮影中は、そのときの想いが彷彿としてきたということもあったり……?

 言ってましたね~。そういうものも自ずと出てくるものですよ、へっへっへ(笑)。でも、高校のときのそういう恋って、絶対に叶わないと思いますけどね。それはすごく感じるな。だから、なぎさも自分の恋は叶わないと思っていると考えて作りました。

窪塚さんの役も、自分の恋は叶わないだろうなという思いはあったんでしょうか。

 でも、男というのは“叶わないな”というのと、“負けてたまるか”というのがあるんですよね。

窪塚さんの役は、前作の若葉竜也くんが演じた男の子と同じように、“彼女の気持ちに気づけよ”ってところがありましたね?

 ねぇ、フツー気づくよね(笑)? 「何しに来たの?」って感じだもんね。

脚本家が女性の方ですよね。あれは女性の視点なのかなとも思いましたが。

 男が気づかないことがですか? あぁ、確かに女の人って興味のないものは見ませんね。特に、他の人に恋していたりなんかしたら。男は興味がなくても、ちょっとH心がかき立てられたら、ちょっと気にしたりする(笑)。そういう意味では、あの男性像というのは女性の視点で創られているのかもしれませんね。

このシリーズは80年代の日本のポップスをテーマにしていますが、今回は「花~すべての人の心に花を」を使っていますね。

 そう、「花」って沖縄の香りがしてすごく特色があるので、この曲のもつ強さにちょっと負けるかなと、不安はありましたね。ただ、なぎさに対して「泣いてもいいんだ」と伝えるためには、最初から「花」だと思ったんですよ。

彼女がお父さんに「私。恋した」と告げるシーンは、何気ない言い方ではあったんですけど、すごくハッとさせるような瞬間になっていました。あそこはどのように演出されたのですか?

 何て言ったっけな~……、あそこは結構いっぱい撮ったんですよ。何度も「私。恋した」と言わせて、「それ、違うな」って。何が違ってたんだろ……(笑)。

あの一言は難しいですよね?

 難しいね。この台詞には、“恋した”というのと“失恋した”という、両方の意味合いをこめたいと思ったからね。

タイトルですが、どうして『私、恋した』じゃなくて『私。恋した』なんですか?

 それは、丹羽多聞アンドリウさんに聞いてください(笑)。僕も理由は聞きましたけど、忘れましたっ(笑)!

以前、ご自身のテーマとして“記憶の共有”があると、おっしゃっていましたね。でも、前作の『恋する日曜日』で終わりだ、と。ただ今回も……。

 “記憶の共有”ですね(笑)。少なくとも、前とは同じにならないようにしたいなとは思っていて、実はなぎさがいろいろな思い出の地を訪ねて、そこから写真をお父さんに送るという話も考えてはいたんですよ。でも、前と似てしまうと思って止めたんです。
 今度の場合は、“記憶の共有”というよりも、“私がいなくなっても、彼の記憶の中に自分の思い出をとどめたい”という思いの表れがあのバスのシーンなわけで、彼女が出来た唯一のパフォーマンスなんですね。

ただ、日本人の普遍的な“記憶の共有”を思わせるシーンはいくつかありましたね。夏に縁側でスイカを食べたりですとか。

 それは、わざとやってます。自分はやったことがなくてもどこかで見ている光景で、例えば古い写真なんかにもよくありますね。日本人のDNAをいやらしくクスぐってやろうかな、と(笑)。だから、蝉の鳴き声とか、音にもこだわりました。

10代の女の子、そして女真っ盛りの女性を描かれてきましたが、今度は壮年・老年の女性を描いてみたいと思われませんか?

 思いますねぇ。実際、40代、50代の女性のすごくエロティックな映画を撮りたいなと、すごく思ってるんですよ。日本って、そういう映画が本当に少ないじゃないですか。ある年代を超えると、誰かのお母さん役しかないみたいな。その人たちのドラマってもっといっぱいあるはずなのに、10代の子が主役になっていたりして。本当は、お母さんが主役のほうが面白いんじゃないかなと思ってますよ。そういうの、見たいよね? 今、すげー撮りたいんだよね、そういう映画が。
 今編集している映画は、田口トモロヲさんと宮崎美子さんが夫婦の役なんですけど、“宮崎さん、まだナイスバディだな”と思って。思いきってそういう映画に出てくれないかなと願ってるんですけどね。

他に、そういう映画で主役として撮りたいと思っている女優さんはいらっしゃるんですか?

 いますよ。富司純子さんとか。この間、しのぶさんの結婚式でお会いしたばっかりなんですけど(笑)。他にも大勢います。

私としては、八千草薫さんを主役にした映画を撮っていただきたいですね。

 あぁ~! いいですね。

最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 『恋する日曜日 私。恋した』の監督の廣木です。すごく大きなストーリーがあるわけではないんですが、観ていて切なくなれると思いますので、ぜひ劇場で映画を観ていただけるとうれしいです。

 (丹羽多聞プロデューサー登場! タイトルとポスターについて解説)

 『私。恋した』というタイトルですが、「、」ではなく「。」にしたのは、“死”を匂わせたかったのね。もう一つの意味は、「あれ、これって誤字なんじゃないの?」と目を引きますよね? それが狙いなんです。
 あと、ポスターがさかさまに見えるのも、最初デザイナーさんが考えてきたのは全く逆で、彼女の頭は上になっていたんですよ。ところがこの日、風向きの関係で、彼女が逆向きに横たわっていると、スカートがめくれてしまいまして。で、やむを得ず逆にしたんだけど、結果的に落下するようなイメージになって、かえっていいかな、と。偶然の産物だったんですけどね(笑)。

 廣木監督のインタビューはこれで3回目になるが、その飄々としたたたずまいと、嘘か本当か分からない話っぷりは本当に面白すぎで、お会いする毎に心をわしづかみされる。実は前日、相当飲まれたということで、ちょっとお疲れのご様子だったが、それでも監督は監督、つかみは万全だ。ずっとついて行こうと思った。
 壮年・老年女性のエロスを撮った映画、必ず実現してほしい!

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『恋する日曜日 私。恋した』作品紹介

 17歳の二ノ宮なぎさに突然訪れた悲劇。癌で母を亡くした翌年、なぎさは母と同じ病院への入院が決まった。
 「お父さん、私……あとどれくらい生きられる?」
 なぎさは自らの足跡を確かめるかのように旅に出る。行き先は小さい頃に過ごしたことのある海辺の町。そこには幼馴染であり、初恋の人だった聡がいた。まるで昔に戻ったようにすごす日々の中で、なぎさの想いは深くなっていく。しかし、聡は人妻との不倫を重ねていた。
 病気のことも、恋心も告げぬまま、なぎさの残された時間は淡々と過ぎていく……。

(2007年、日本、上映時間:97分)

キャスト&スタッフ

監督:廣木隆一
プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ
出演:堀北真希、窪塚俊介、高岡早紀、岩本千波、若松武史、吹越 満ほか

公開表記

配給:エム・エフボックス
2007年6月9日(土)より新宿トーア他全国ロードショー!

(オフィシャル素材提供)

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