イベント・舞台挨拶

『Ryuichi Sakamoto: Diaries』公開記念舞台挨拶

©“Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

 登壇者:田中 泯(ダンサー・俳優)、大森健生監督

 世界的音楽家・坂本龍一。ガンに罹患して亡くなるまでの3年半に渡る闘病生活と創作活動を自身が綴った「日記」を軸に紡いだドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』が全国上映中。
 今回、公開記念舞台挨拶がTOHOシネマズ シャンテにて行われ、本作で朗読を担当した田中 泯と、大森健生監督が登壇した。

「国際エミー賞」授賞式に参加。監督が明かす、現地の反応

 上映後の静かな余韻に包まれている会場に向けて、「なるべく皆さんのこの余韻と時間を邪魔しないように。短い時間ですがよろしくお願いします」と挨拶した大森監督。

 舞台挨拶冒頭では、本作のベースとなったNHKスペシャル「Last Days 坂本龍一 最期の日々」が、世界の優れたテレビ番組を表彰する国際コンクールである「国際エミー賞」を受賞したことを受け、ふたりに花束が贈られた。授賞式が行われたニューヨークに行っていたという大森監督は「坂本さんは、“世界の坂本さん”と語られているかと思いますが、本当にその通りなんだなと実感する授賞式でした。生き方が音楽以上に人の心を掴み、震わせ、動かしていたんだなと感じました」と現地での作品の反応を振り返る。

 また生前、坂本と交流があったという田中は「ちょうどYMOが世界を回り始めたのと同じくらいの時期に僕も世界中を回り始め、それから2000年代に入るまで毎年8ヵ月ぐらいは日本以外で踊っていましたが、どこへ行ってもリュウイチ・サカモトの名前は知られていました。本当に驚くべき浸透力というか、音楽の力だと思います。坂本さんの名前は、クラシックの作曲家と同じくらいに、若い人からもずっと知られているんだと思います」と、国も世代も超えて影響を与えてきた坂本さんについて語った。

大森監督「坂本龍一さんの日記を読むという難しい仕事を担えるのは田中 泯さんしかいない」
田中 泯「彼が死んだから終わりではない。会話はこれからもずっと続ける」

 大森監督はなぜ田中に朗読を依頼したのだろうか。その問いかけに「坂本さんと深い関係にあった人たちと議論を重ねる中で、坂本さんの日記を読むという非常に難しい仕事を担えるのは田中 泯さんしかいない。ということでオファーさせていただき、ご快諾いただいた」と振り返った大森監督。

 一方、そのオファーを受けた田中は、「文学者や詩人が心境を綴った日記のようなのを僕も随分読んできました。坂本さんの日記というのは、日記を読む人や世界に対してペンを走らせていた気がしてしょうがない。今生きている私が、その文字を私の感覚で読む、上手に聞かせよう考えるのは違うなと思いました」と振り返り、「僕はダンサーなので、自分の体で踊って口に出していく。それが映画を観る人に声として伝わっていくということに、猛烈なプレッシャーを感じました」と、依頼を受けた時の心境を明かした。
 また、日記で綴られている言葉について、「坂本さんが書いた“みかん”と、自分が捉える“みかん”とではどのぐらい違うのか自信がなかったんです。でも、いろんな環境を空想しながら自分の口から言葉を出してみる、ということをやりました。自分の踊りを総動員してその言葉を捉えていった気がしています。大変な出来事でした」と振り返った。

 続けて、親交のあった坂本さんと生前交わした会話に言及。「自分たちが今、この世に生きているということから始まって、人間って一体何をしていくんだろうか、これからどうしていくんだろうとか。宇宙的世間話というか、“生き物”としての人間の未来ややってきたこと。そんな話ばかり何時間もダラダラとしていました」と述懐。さらに、「会話の続きは、彼が死んだから終わりというものではなく、これからずっと続けるものなんだと思います。それは僕の癖で、先輩たち、大好きだった人たち、残念ながら若くして死んでしまった人たちとの会話をずっと続けているつもりで生きています。それは恥ずかしい思いをしたくないという気持ちもあるし、見ていてほしいという気持ちもある。一緒に戦わなきゃいけないということも。特に坂本さんの場合はそれが強くあります」とその思いをせつせつと語った。

田中 泯「僕たちはたった一回の人生を送っている。これが一番大切なこと」
大森監督「作品が、深く、静かに浸透してほしい」

 最後の瞬間まで創作に取り組んできた坂本さんについて「坂本さんは選んだわけでもないのに病気になりました。そしてその意味においては、わたしはまだ生きている。皆さんも生きている。でも、いつ死ぬか分からない。分かっている人もいるかもしれないが、みんな違うんです」と語った田中。その上で坂本さんの日記には「死ぬことだけに囚われていたわけではない。全くの孤独で文字を書いてはいません。絶望も書いてはいません。『悔しい』と言っているんですから」と続け、観客に向けて「皆さん暗くなる必要はないです。僕たちは死ぬんです、間違いなく。そして間違いなくたった一回の人生を送っています。これが一番大切なことなんじゃないですか」と強調した。

 そしてあらためて坂本さんの魅力について問われた田中は「それを言葉で言わなきゃいけないんですか?」と笑いながらも、「大人だったら長いものには巻かれろで、それでいいじゃないかとか言うのを、絶対に『うん』と言わないで生き続けた人なわけじゃないですか。そういった意味では“ガキンチョ坂本龍一”というか。皆さんもたぶん彼に共感するのは、そういうところなんだと思うんです。そういう人に会いたくて、僕は生きています。たぶん皆さんもそれに近い感覚をお持ちだから、今日足を運んでいるんじゃないでしょうか?」とかみ締めるように語る。

 そして最後のメッセージを求められた田中は「人間って死んでいった人のことは忘れるようにできているんです。だからこそ墓石とか、お盆とか、銅像を作ったりするわけですが、でもそんなことは忘れましょう。坂本龍一という名前すら忘れてもいいのかもしれません。彼がくれた刺激を忘れないようにすれば、それでいいんじゃないでしょうか。ぜひこの映画のこと、誰かに伝えてあげてください。それがたぶん坂本さんへの一番の供養かもしれません」と語りかける。
 続く大森監督も「大手を振って『観てね』となかなか言い難い面があるタイプの映画ではありますが、作品が、深く、静かに、じんわりと浸透していくといいなと思っています。できれば身近な親しい人、あわよくばその隣の人まで、多くシェアしてくださるとありがたいなという気持ちでいっぱいです」と呼びかけ、会場からは大きな拍手がわき起こった。

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ コムデシネマ・ジャポン
 全国上映中

(オフィシャル素材提供)

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