インタビュー

『Good Luck』公開記念 足立 紳監督×足立晃子プロデューサー スペシャル・インタビュー

©2025「Good Luck」製作委員会

 NHK連続テレビ小説『ブギウギ』で大きな話題を呼び、2025年は地上波で2本の連続ドラマを手がけた足立 紳監督の最新映画『Good Luck』が12月12日よりシアター・イメージフォーラムで公開中。怒涛の1年を過ごした足立監督と、その陰に日向で常に大活躍の妻でプロデューサーの足立晃子氏に『Good Luck』について、そして今年を振り返ってもらった。

朝ドラの次に、ほぼ自主映画

Q.2025年は、足立 紳監督も晃子プロデューサーも大奮闘の年でした。『Good Luck』は「ブギウギ」(23年9月〜24年3月放送)の後の最初の仕事ということになりますよね?

足立 紳:朝ドラの脚本を書き終えて『Good Luck』に取りかかり、2024年5月に1週間撮影して編集もやりつつ、2025年1月期のドラマ「それでも俺は、妻としたい」(テレビ東京)の撮影を終えた後に映画が完成しました。1月末には坂田 聡さんとの演劇ユニット「坂田足立連続デッドボール」の舞台『6回の表を終わって7-0と苦しい展開が続いております(仮)』、続けて9月期のドラマ「こんばんは、朝山家です。」(朝日放送テレビ)もあったので、今年(2025年)はさすがに体がきつかったです。

Q.2015年公開の映画『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞して以降、それまで溜め込んでいたマグマが一気に噴き出したように仕事が続いていますが、「ブギウギ」を経て何か変わりましたか。

足立晃子:実は「ブギウギ」の後、配信ドラマのけっこう大きめの仕事がきたんです。朝ドラでようやくちょっと名前が知れてきたところへ、また規模の大きな仕事がきて、今後の足立にとってもいい経験になるはずだったんですが「やっぱり次は映画をやりたい」と言い出して……。

紳:もちろん迷いましたけど、「それでも俺は、妻としたい」がクランクインすることが決まっていたし、【別府発短編映画プロジェクト】は本当に規制が少なくて自由というのにも正直なところ惹かれて。主役2人をオーディションで決められることもなかなかないことだったので。朝ドラの後でしたし、「それでも俺は、妻としたい」も連続ドラマだし、次はやはり映画を撮りたいなと。

晃子:一般的な商業映画とは違い、キャストありきの企画ではないし、これはいいあれはダメ、という制約が本当になにもなかった。制約がなさすぎて短編が長編になったと言ってもいいかもしれないくらいです。脚本のときから私は長いんじゃないかと思っていたけど、監督は大丈夫って言いはるし……。でも結果的には良かったと思います。

Q.”短編映画プロジェクト”なのに104分の長編が完成したのは、そういった経緯からなのですね。それにしても、7日間で現場をさばけてしまう、撮影できたのが驚きですが、ポストプロダクションの費用は余分にかかりますよね。

晃子:そうですね。でも、現場中毎晩みんなで飲んでいたし、現場がキツキツという感じではぜんぜんなくて、それこそみんなでゆるゆるとした旅をしながら撮っていた感じです。俳優部さんはセリフ量がすごく多くなって大変だったと思いますが。

紳:1週間で撮りきれたのは、武 正晴監督が4日間も手伝いにきてくれたことも大きいですね。駅前の撮影では車からエキストラさんからさばきまくってくれました。当初、企画・プロデュースの森田(真帆)さんと釘宮(道広)さんからは、「長くても50分」と言われていたんですが、撮り終えて粗くつなげたものを見せたら「面白いから長くてもいい」と言ってくれたので、坂井(正徳)プロデューサーさんと晃子プロデューサーが仕上げの分を負担してくれました。

普通のロードムービーとは違う場面を見せたい

Q.映画は、自称映画監督の太郎が映画祭で訪れた別府・豊後大野で不思議な女性と出会い、まる二日間、近距離をほぼ歩いて巡るロード・ムービーですね。主人公の年齢順に挙げると『雑魚どもよ、大志を抱け!』(23)、『14の夜』(16)と『喜劇 愛妻物語』(20)の間に位置する、足立 紳監督の“私映画”サーガの一編にも見える。パンフレットで森 直人さんも指摘していたように、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』が浮かびました。

晃子:光栄ですけど、ちょっとよく言い過ぎ、『8 1/2』を100倍くらい薄めた感じですよ(笑)。別の良さはあると思うけど。

Q.2025年3月の大阪アジアン映画祭を皮切りに、すでに8つの映画祭に招待されています。監督作は4本目ですが、これまでとは違う手応えも得られていますか。

紳:『喜劇 愛妻物語』もいろいろな映画祭に呼んでもらったのですが、当時はコロナ禍でオンライン参加でしたからどこにも行けなかったので、今回は可能な限り行っています。でも、先日行ったバルセロナの映画祭は、通訳さんもいないくらいの本当に小さな映画祭で、僕の日本語を晃子さんが慣れない英語で必死に訳してお客さんに伝えていました。

晃子:イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭がきっかけで、広がったところもあります。各地で反応はまちまちですが、上海国際映画祭では爆笑となぜかの悲鳴が上がるほど大盛況。栃木国際映画祭では、観終わった観客の方に「私のベスト・ムービーです」といってサインをもらいに来てくれて、局地的に、すごくニッチな感じで刺さってくれる人がいるみたい。オランダでは、ウディ・アレンやアッバス・キアロスタミのようだと言ってくれた人もいました。

紳:キアロスタミと言ってくれたのはメタフィクションの部分があるってだけでしょう。その人は好意的に指摘してくれたんですが、僕は深掘りされたら困ると思って「残念ながら影響は受けていないです」と言って逃げました(笑)。実際、「あ、そうか。メタのとこか」と思った程度でキアロスタミを語ることなんでできないですし。

Q.観てのお楽しみということで、そこは詳しくは触れませんが、はじめからメタフィクションをやるつもりでいたなら、前後の展開も含めてやっぱり短編では難しかったですよね。

紳:まあ、そうですね。この作品は基本的に、別府ブルーバード劇場だけの上映を想定していた企画です。だから、そんなに多くの人の目には触れないだろうし、普段はやらないというかやれないようなこともやってみたいなと思って、メタ的なこともそんな弱腰な感じですがやってみたことでした。でも、メタフィクションって、映画のことというか、フィクションてなんなんだみたいなことをちゃんと考えている人しかやっちゃダメというような気がしてたんで。

Q.日本中から注目された朝ドラからの開放感も手伝ってか、そこで思いっきり気を緩められるのが足立監督のいいところなんだと思います。尺が大幅にのびたことに限らず、至るところで自由というか、奔放な実験、遊び心が見えました。

紳:ロード・ムービーって、パッと時間や場所が飛んで、景色のいいところで誰かと出会って何かが起こったり、まずは名所ですっていう引き絵からはいったり、見るたびに「なんか旅っぽくないな」と思うことも多かったんです。普段だと切られてしまいがちな移動中こそ見たいと思っていたので、歩くシーンはたくさん撮りました。脚本には「太郎、歩く」と1行しか書いていないのに、「こんなに長く使うのかよ」と、スタッフには驚かれたり呆れられたりしたかもしれませんが、豊後の町のゆったりした雰囲気は伝えられたように思います。

©2025「Good Luck」製作委員会

Q.それでいうと、太郎と未希が語り合うシーンで、太郎の「内面がそんなに悪い人はいないと思う」というセリフに、楽観的で性善説を信じる足立監督作品の「ドラマにならないところを撮りたい」という本質を感じました。

紳:生まれながらの脳の問題とかありますけど基本的には本当にそう思うんですよね。ただそれだと映画のテーマとしては弱いんでしょうね。人間が一番辛い時って、一人で佇んで苦しんでいる。その姿こそ撮りたいんですが、なかなか絵にならないし。でも今回は、ロード・ムービーという形でそういうことを描きたかったんです。

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続々登場する不思議な人々

Q.これまでの監督作品でも、物語の本筋とはそれほど関わりのないところで不思議な人が度々出てきました。今回は、板谷由夏さんや剛力彩芽さんをはじめ、いつも以上に謎の人が多かったような。

©2025「Good Luck」製作委員会
©2025「Good Luck」製作委員会

紳:夢うつつというか、ふざけてるの?どうなのこれ?といった雰囲気を出したくて、出てくる人をみんなをちょっとずつ変な感じにしました。

Q.特に、太郎と旅を共にする女性・未希がその象徴で、道中、ずっとお酒を飲んでいました。それは晃子プロデューサーの日常をイメージして?

紳:晃子さんというより、実はちょっとだけ、やっぱり『8 1/2』を意識していて、映画全体にふわ〜っと酔っ払っているような雰囲気を作りたかったんです。オーディションの時、天野さんにお酒を飲む演技をしてもらったらそれが良くて、劇中ずっと飲みっぱなしに。

晃子:『喜劇 愛妻物語』を観た人は、また酒を飲んだ女が出てくると思ったでしょうね(笑)。

©2025「Good Luck」製作委員会

Q.しいたけの帽子をかぶったサウナの係員の女性も、変でしたね。語尾が必ず「〜でございまする」というセリフも、しっかり台本に書いていたのですか?

紳:台本には一箇所だけ「ございまする」と書いていました。こういう場合、誤字だと思っても質問してくる俳優さんは少ないんですが、演じた安井紀子さんは「誤字ですか?」と聞いてきたんです。安井さんがスルーしたり、つまらないと感じたなら削除するつもりでしたが、セリフを言ってもらったらおもしろかったんで、どんどん増やしました。

晃子:安井さんは、ロケハン中、現地でたまたま入った飲食店で働いていた方。以前は東京で俳優をされていたというんで出演していただいたんです。

紳:俳優さんが台本を見ながら、「監督バカだな、字間違えてるよ」と思って楽しんでくれるといいなと思って、たまにこういことをやるんですよね。わざと字や言葉を間違えたり。

晃子:お寺で、大奥みたいな歩き方をしながら昼食を運んでくれる横江(泰宣)さんと岡野(友紀)さんのシーンもあそこまで長くなくてもいいんじゃない?と思ったけど。

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紳:面白いからあれくらいあってもいいと思うけど。前半のほうで、太郎が夜の誰もいない飲屋街を徘徊しているところも、僕はすごく好きなシーンなんだけど、あまり賛同を得られないというか、評判は良くないんですよ。

Q.『14の夜』もそうでしたが、夜の街を歩いたり、自転車に乗ったり、これから何かが始まりそうな予感が見える好きなシーンでした。

晃子:そういうところにこだわっていて、尺が長くなっていくのに切らなかったよね。そこが自主映画のいいところでもあるんですけど。

紳:短くしろと言われたら、太郎が歩いているところやこういうシーンを切らなければいけとは思ってはいましたよ。

2本の連続ドラマを経て

Q.今年は、2本のテレビドラマも画期的な作品でしたよね。2025年度の日本民間放送連盟賞テレビドラマ部門で優秀賞を受賞した「それでも俺は、妻としたい」は、足立夫妻の日常を描いたドラマで、『喜劇 愛妻物語』に続き自宅でロケ撮影を敢行。その次の「こんばんは、朝山家です。」は、WEBで連載されていた5年間の日記「後ろ向きで進む」(7月に書籍「ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ!!」として出版)を原作に、『それ妻』の舞台裏を描いているという、実録系フィクションを連発されました。

紳:日記「後ろ向きで進む」をドラマにしたいと言われたときに、「同じ夫婦、同じような設定で『それ妻』を先に撮りますよ」と正直にお話ししたんです。普通なら企画が流れると思うんですけど、それでもいいと言ってくれたのは、やっぱり朝ドラ効果だったのかなぁ。

Q.『朝山家』は、ご本人が書いたといっても日記ですから、小説の「それ妻」とはまた違った苦労があったのでは?

紳:まさにそうでした。日記からのエピソードも使っていますけど、一から作り直したも同然です。『それ妻』の撮影直後から書き始めたので、自宅で撮影するから仮住まい先を探すといった。「それ妻」撮影の実話がメイキングみたいになって、『それ妻』を見ていた人や、スタッフからは絶賛されました。

©2025「Good Luck」製作委員会

Q.『朝山家』は、足立夫妻がモデルの朝山夫妻が、自分たち家族がモデルの映画を撮るという、こちらもメタ構造。それを足立監督自身が演出するという、複雑なことになっていますが、足立さんは連続ドラマの脚本も面白いし、演出も長けていることが証明された1年でした。

晃子:確かに、それは言いたい。実は力があるんですよ!って(笑)。連続ドラマも意外と向いていることが分かったし、大変だったけど、全部やりたいことができた年でもありました。

紳:演劇も大変だったし、肉体的にも精神的にも疲れはしましたけど、続けて撮ったことで、撮るピッチをあげられるんだと思いました。打席に立つ回数も増えることで、量が質を生むじゃないですけど、多くの人が見てくれる機会を自分で増やしていけるんだな、と。

晃子:自主映画をやったことで、足立の新境地といえる作品ができたかなと。53歳で新境地というのもなんですが(笑)。

Q.今年1年の足立 紳作品の集大成として、また『百円の恋』のブレイクから10年目の新たなステージへ踏み出した作品として、『Good Luck』をご覧いただきたいですね。

 text:川村夕祈子(編集・ライター)

©2025「Good Luck」製作委員会
公開表記

 配給:MAP 配給協力:ミカタ・エンタテインメント
 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

(オフィシャル素材提供)

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