
登壇者:伊藤詩織監督
全国各地で上映が拡大しているドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』。
2026年1月9日(金)、大阪・Tジョイ梅田で行われた舞台挨拶に、監督・伊藤詩織が登壇し、自身にとって初となる長編映画の劇場上映についての思いや、本作に込めた葛藤と覚悟を語った。
東京・TジョイPRINCE品川で1館からスタートし、現在は上映館を全国38館へと広がりを見せている本作。伊藤監督は「どこまで多くの方に観ていただけるのか、どんな方に届くのかを考えながらスタートした」と振り返りつつ、「こうして日本のさまざまな地域で上映され、直接お客さんの顔を見て、空気を感じられることは、これまでにない体験」と、劇場上映ならではの手応えを語った。

これまでショートフィルムやテレビ、ネット配信、ミュージックドキュメンタリーなどを手がけてきた伊藤監督にとって、長編映画として観客と向き合う場は初めての経験だという。「どの国、どの会場でも、このテーマがどれほど多くの人の人生と交差しているのかを感じる。きっと観客の中には、ご自身や身近な人の記憶と重ね合わせて観ている方もいるのではないか」と語り、会場への深い感謝を示した。

本作は、伊藤監督自身が経験した性被害と、“その後”の過程を自らカメラに収めたドキュメンタリーである。自身の経験を自らの視点で描くことについて、伊藤監督は「映像にまとめようと思うまでに長い時間がかかった」と率直に明かす。
「もし警察の捜査がそのまま進んでいたら、トラウマや悪夢の夜について外で語ろうとは思わなかったと思う」と語る一方で、刑法改正の節目や、自ら疑問を抱き続けた経験が、声を上げる決断につながったという。しかし、メディアで語ることへの違和感や、言葉が切り取られていく経験から、「どうにか自分自身の映像で伝えられないか」と考えるようになったと振り返った。

編集過程では、特に迷いの大きかったシーンもあったという。自死を試みた際に家族へ残したビデオレターや、病院で目覚めた直後に撮影していた映像など、当初は「入れたくなかった」と語る。しかし、記憶にないまま残されていたそれらの映像を見たとき、「死にたかったのではなく、生きて伝えたかったのだと感じた」と心境の変化を明かした。
また、捜査の過程で関わった捜査員Aとのやりとりについても触れ、「警察という一つの組織の中にも、さまざまな立場や葛藤がある。その複雑さを描きたかった」と述べ、本作が単純な善悪の構図ではなく、制度の狭間で起きる現実を捉えようとしていることを強調した。
約450時間に及んだ素材を一本の映画にまとめ上げた編集作業については、「約104分に絞り込む作業は本当に大変だった」と語り、編集を担当した山崎エマへの感謝を述べた。

舞台挨拶の最後に伊藤監督は、「この映画は本当に多くの人に支えられて完成した」としたうえで、「傍観せず、行動を選んでくれた“アクティブ・バイスタンダー”の存在があった」と語りかけた。
「性暴力だけでなく、日常の中にある不条理や違和感など、誰もがそれぞれの“ブラックボックス”を抱えている。この映画をきっかけに、身の回りで感じていることを一言でも声に出したり、誰かと共有したりする機会が増えてほしい」と締め、観客一人ひとりに静かに問いを投げかける言葉で、舞台挨拶は締めくくられた。




公開表記
配給:スターサンズ、東映エージエンシー
T・ジョイ PRINCE 品川 他 絶賛上映中
(オフィシャル素材提供)






