インタビュー

『エレクション』ジョニー・トー監督 オフィシャル・インタビュー

美化されていない、本当の香港マフィアの姿を描こうと思いました

 香港マフィアのリアルな姿を写しつつ、組織の中で頂点に立つために熾烈な戦いを繰り広げる男たちの野望と哀しい宿命を描いた、息詰まる人間ドラマ『エレクション』。その硬質な映像スタイルと冷徹な視線で男たちの美学を描き続け、国際的にも評価の高いジョニー・トー監督がオフィシャル・インタビューで、自らの金字塔ともなる2部作の第一弾について語った。

ジョニー・トー監督

 1955年4月22日、香港生まれ。『碧水寒山奪命金』(80/未)で監督デビューし、映画業界で25年以上のキャリアを持つ。チョウ・ユンファ、シルヴィア・チャン主演の『過ぎゆく時の中で』(89)などで商業的な成功を収めた後、90年代半ばから、自身の独立系映画製作会社Milkyway Image(HK)Ltd.を設立し、アクションからコメディー、ラブロマンスまで幅広いジャンルの作品を手がけ、より精力的に映画作りに取り組んでいる。
『ザ・ミッション/非情の掟』(99/脚本も)やアンディ・ラウ、反町隆史共演の『フルタイム・キラー』(01/製作も)などの作品によって、トー監督はそのスタイリッシュな映像が注目されるようになり、欧米の映画祭にも登場し始めた。『PTU』(03/製作総指揮も)は、ニューヨーク映画祭に出品され、『ブレイキング・ニュース』(04)は、04年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映、続く『柔道龍虎房』(04)は、同年のヴェネチア国際映画祭に招待され、『Exiled(放逐)』は06年のコンペ部門に選ばれている。
その他の主な監督作品に、『チョウ・ユンファ/ゴールデン・ガイ』(90)、『ヒーロー・ネバー・ダイ』(98/製作も)、『暗戦・デッドエンド』(99/製作も)、『ターンレフト・ターンライト』(02/製作総指揮も)、『イエスタデイ、ワンスモア』(04)などがある。『マッスルモンク』(03)で04年の香港電影金像奨作品賞を受賞、『ザ・ミッション/非情の掟』と『PTU』で同監督賞を受賞している。

何故黒社会をテーマに選んだのでしょうか?

 香港が中国に返還されて、新しい時代が来ました。返還後には政治、文化、教育など表向きの部分は報道されていますが、香港社会と密接な関係をもってきた裏の社会については誰も報道しませんでした。彼らは悪い存在ですが、歴史の一部分でもあります。香港とはどういう社会だったのか将来語るにあたり、黒社会のことは忘れ去られてしまうのではないかと思い、自分が記録しようと思ったのです。

この映画にはたくさんの人物が登場し、複雑な人間関係になっていますが、理由はあるのでしょうか?

 この映画のテーマである黒社会は、大変大きな規模をもつ団体です。人間関係をこの映画の中心的なテーマとしようと思いましたので、たくさんの人物が出てきます。主人公以外にも多くの長老たちがいて、下にいくとそこにもまた人がいて、さらにその下のチンピラも入れると、まさに軍団になります。そういった組織を描くにあたり、たくさんの登場人物が出てきますので、この映画では、一般社会の中で彼らがどのような生活をしているかということを中心に描くことにしました。

すでに2作目が出来上がっていますが、もともと2部作にする予定だったのでしょうか?

 もともと2作目までは作ろうと思っていました。製作するにあたって、最低でも2作は作らせてほしい、2作なければ黒社会の話は、語れないということを条件に受けました。香港返還によって、中国マフィアはどこに向かおうとしているのか。それを描くには2部作でなければならなかったのです。もともと編集前はどちらも3時間くらいある長い作品だったので、いつか『エレクション』と『エレクション2』を前後作として続けて上映できたら、と思っています。

黒社会のリサーチには時間がかかりましたか?

 成り立ちを辿れば長い歴史があるわけですが、映画の製作に当たっては、戦前の歴史からずっと調べました。前から黒社会のことを撮ろうと思っていましたが、リサーチには2年くらいかかりました。

監督ご自身は黒社会をどう見ているのでしょうか?

 今後も、中国政府の発言によって香港のヤクザがどのように変わっていくのかということは興味があります。合法的なところと非合法的なところとの中間で成り立っていくのではないかと思っています。

『エレクション』には銃が出てこないので、他の映画との印象の違いを感じるのですが。

 実は、昔から香港のマフィアは、銃は使わず刀を使っていました。そういった黒社会の本質そのものが、この映画のスタイルを決めているのではないかと思います。彼らは、伝統的に銃は使われないんです。この映画は真実を描いているので、本当の香港マフィアの姿を描こうと思いました。最近のニュースで見たりする銃をもった強盗などは、中国(大陸)からやってきた元軍人などのヤクザです。香港映画によくある銃撃戦は、その方がヒーローのように見えるというある種の美化です。この映画にはそういうものはありません。

ロクとディーという対照的な役は、最初からサイモン・ヤムとレオン・カーファイを想定していたのでしょうか?

 この二人を見て作った役ではないです。そもそもヤクザの中に存在する典型的な2種類のタイプの人物を描こうと思いました。我慢せず直感に基づくタイプと冷静に事を運ぶタイプです。私は、俺様タイプのディーのような人をたくさん見ていますし、八方美人で、したたかな考えをもって社会と折り合いをつけ、黒社会をバックに商売もやっていけるロクのタイプもいることを知っています。そういうマフィアの典型的なキャラクターを考えてから二人の役者を選びました。彼らは脚本もない現場で素晴らしい演技力を発揮してくれました。それは観る人にも十分伝わったと思います。

撮影時の際に苦労したシーンはありますか?

 ラストのシーンです。あのシーンは撮影が始まって3分の1くらいの時点でしたので、役者の気持ちを盛り上げるのが大変でした。私が彼らの気持ちをかなりプッシュして、そこまでもっていきました。

映画を作るにあたって、心がけている点などありますでしょうか?

 ビジョンをもたずに映画を作ると、いつの間にか自分が何を語るかも分からなくなってしまいます。観客は同じ事件が起きても、それぞれが違うものの見方をします。そういう状況の中で作者は、ひとつの視点を持たなければなりません。映画では、自分の視点を入れたものを作ろうと思うんです。自分のビジョンを語り、見せるということはどの監督にとっても試練だと思います。そのうえ監督は、映画の芸術性と観客の好みのバランスも考えなければならない。私は、アート映画でもうまく作れば観客を呼べるものなのだと思っています。

(オフィシャル素材提供)

『エレクション』作品紹介

 香港最大の裏組織で、2年に一度行われる会長選挙。候補者をめぐって内部では意見が割れていた。組織に忠実なまとめ役としてのリーダーが適任なのか、力づくで牽引するパワーリーダーが必要なのか――。対立する候補は、“兄弟”思いで年上を敬うロクと、金儲けに長け、荒っぽい手段を使うディー。選挙戦の裏側では、さまざまな欲望と思惑が錯綜し、熾烈な戦いを迎えようとしていた……。

(原題:黒社會、2005年、香港、上映時間:101分)

キャスト&スタッフ

監督:ジョニー・トー
出演:サイモン・ヤム、レオン・カーファイ、ルイス・クー、ニック・チョン、ラム・シューほか

公開表記

配給:東京テアトル|ツイン
2007年1月20日(土)より、テアトル新宿にてロードショー

(オフィシャル素材提供)

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