インタビュー

『ドッグ・バイト・ドッグ』サム・リー インタビュー

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一番嬉しかったのは、『ドッグ・バイト・ドッグ』という素晴らしい脚本が、ちょうど良い時期に自分の元に来たことです

 個性的なキャラクターで香港のみならず日本映画界でも活躍しているサム・リーが、『ジェネックス・コップ2』『ファイナル・ロマンス 天若有情Ⅲ』に続きエディソン・チャンと共演した『ドッグ・バイト・ドッグ』が公開された。リンゴ・ラムの愛弟子ソイ・チェンによる作品は、2人の孤独な男が生き残りを賭けて戦うバイオレンス作品。初日舞台挨拶のため来日したサムが、多望なスケジュールの中、久々の日本公開作品について答えてくれた。

サム・リー

 1975年9月7日香港生まれ。
 電気関係の技師だったが、路上でスケートボードをしているところをフルーツ・チャン監督にスカウトされ、『メイド・イン・ホンコン』(1997)でデビュー。
 その個性的なキャラクターで『ジェネックス・コップ』など多くの作品に出演し、香港映画には欠かせない存在に。『無問題2』(2001)、『ピンポン』(02)など日本映画でも活躍。
 今秋には『夜の上海』(本木雅弘、ヴィッキー・チャオ主演)の公開が控えている。

サム・リーさんから見たこの作品の見どころは?

 暴力シーンの恐ろしさと、人間関係を緻密に描いた脚本です。

ソイ・チェン監督のお話だと、当初エディソンさんは、自分が演じる冷徹な殺し屋パンが突然善人になってしまう展開にはちょっと納得いかなかったそうですが、サムさんはご自身が演じたワイについてどのように理解していましたか? 納得のいかない部分はありましたか?

 自分が演じたワイ役に、不満な点はありませんでした。父親や仲間のことで複雑な背景を背負っていたが、その仲間も父親も結局全てを失い、タイに渡って人殺しになる。ストーリー的にとても良くできていますし、ワイの役柄に不満な点はありません。

アクションが見どころで、緊張感が張りつめ笑顔が見られない映画ですが、撮影現場でテンションを維持していくのは大変でしたか?

 この映画自体全く笑顔がない作品なので、現場にも非常に緊張感があり、誰も冗談を言わない、というより言える状態ではありませんでした。下手にジョークを言うと監督に怒られそうな空気だったので、皆いつも緊張していました。僕もエディソンも撮影中はなるべくテンションを下げないようにしていたので、撮影が終わっても僕の眉間にはずっと皺が寄ったままでした。どのようにテンションを維持するのかではなく、この映画の現場では自動的にテンションが維持されていたのです。例えばコメディ映画の撮影なら現場は和気藹々で楽しい雰囲気になり、その雰囲気が直接フィルムから伝わってくるはずですが、こういうシリアスな映画では誰かが冗談を言って大笑いしているようなことはまずあり得ません。

トレーニングなど、アクション・シーンの準備はかなりやりましたか?

 今回の作品では、前もってアクション監督と相談して動きを付けると、嘘っぽくなってしまいます。リアルな喧嘩、リアルな殺し合いを撮りたかったので、事前の打ち合わせはあってないようなものでした。最初に、エディソンと「本気で当たっても止めないで、痛くても続けよう。監督が“カット!”というまでは、アクションを続けよう」と約束していたので、あのようにリアルなアクション・シーンが出来たのです。もし、最初に約束をしていなかったら、お互い怒っていたと思います。ジャッキー・チェンやドニー・イェンはカンフーが出来るので、殴ってきたらココで受けて殴り返すという、歌舞伎で言えば“決め”のようなアクションが続くのでしょうが、この映画はとにかくリアルにやらないといけない。普通の人にはカンフーは出来ません。喧嘩のシーンや殴り合いのシーンでは相手を殺すまで殴ることになるので、今回はアクションの組み立てはやりようがありませんでした。

撮影で印象に残っていること、辛かったことは?

 やはりゴミ捨て場のシーンです。あんな広いゴミ捨て場は見たことがありませんし、匂いも強烈でした。あの場所で一晩撮影をしましたが、一番ショッキングだったのは、ゴミを捨てに来るのを子供たちが待っていたことです。ゴミが捨てられると犬と一緒になってあさり、食べ物を捜して食べていました。それを見たときは、かなり衝撃的でした。

撮影期間中に、エディソンさんやペイ・ペイさんとの間で、まだ誰にも言っていないような面白いエピソードはありますか?

 こういうシリアスな内容の映画、しかも熱いタイでの撮影があったので、一番楽しかったのは食事の時間です。撮影は冬でしたが、タイではかなり熱く、疲れていても皆でわいわい言いながら食事をするのが楽しみでした。タイのゴミ捨て場で食事をしたときには、皆片手で食べながらもう一方の手を振り回していました。ハエがたくさんいるので、そうしないと一気に自分の食べ物にハエが集ってしまうからです。

撮影のために坊主頭になることに、躊躇しませんでしたか?

 撮影前にシナリオを読んでこの作品を気に入り、とにかく全力投入するつもりだったので、坊主頭にすることには抵抗はなく、頭を刈れといわれれば当然そうするつもりでした。眉毛も剃っているのですが、最初に眉毛を剃れと言われたときには、「大丈夫か? 一度剃ったら二度と生えてこないのではないか?」と心配する人もいました。実は、撮影の途中で、監督から「その眉毛、チョット燃やしていい?」と聞かれたことがあります。カンボジアに来た当初、ワイは虐待される設定なので、眉毛を焼かれたことにしたいというのです。さすがにそれは勘弁して欲しいとお願いし、結局のところ焼かなくても良いから剃ってくれということになりました。ですから、この映画ではスタントは一切使っていません。監督が僕の眉毛を焼くといった瞬間からスタントはナシ、(眉毛を焼くのなら)自分でやりなさいということになりました(笑)。

今年は香港返還10周年、サム・リーさんもデビューから10年目ですが、この10年で香港とサムさんが一番変わったことは何ですか?

 まず香港についてですが、親方がイギリスから中国になりました。特に最近大きく変化したのは、中国内地の人が旅行に来ることが出来るようになり、香港中で中国の人が増えたことです。しかもお金をいっぱい使ってくれるのが、大きな変化です。この10年間は香港にとって良い時ばかりではなく、暗い時期もありました。不景気になったり、SARSがあったり、香港映画が当たらなくなったりしましたが、それらは香港返還とは関係ありません。例えば、イギリス領だったとしてもSARSは起こったでしょうし、経済が落ち込む可能性もあったので、決して返還のせいだとは思いません。たくさんの内地の人が来てお金をいっぱい使い、香港の経済を救ってくれたことが、返還による非常に大きな変化だと思います。
 自分自身の10年ですが、もちろん、役者になったことが大きな変化です。それまでは電気の内装工事をやっていたので、こうして役者をやっているのはかなり大きな変化です。この10年間の間に、色々な役を演じ、いろいろな監督といろいろな映画を撮ってきました。もちろん、いろいろなことを勉強しました。でも、一番うれしかったのは、『ドッグ・バイト・ドッグ』という素晴らしい脚本が、自分が待ち望んでいた芝居、やりたかった役の脚本が、こうして自分の元に来たことです。しかも、良いタイミングで。もしこれが何年か前だったら、自分の人生経験が足りずに、これほどの芝居が出来たかどうか判りません。自分の人生経験はとても豊富だとはいいませんが、ちょうど良い時期に、この役を充分やりきれるだけの経験を持った状態でワイの役を演じることが出来たことは、非常にうれしいです。自分自身、ある程度大人になった、成長しているのが大きな変化ですね。

 何年かぶりに会ったサム・リーは、予想以上に魅力的な大人の男になっていた。もちろん、インタビュー中にもカメラを向ければ様々な表情を作ってくれるなど、香港人ならではのサービス精神は健在。香港映画界でも日本映画界でも、もっともっと活躍してくれるだろう。

(取材・文・写真:Kei Hirai)

公開表記

 配給:アートポート
 2007年8月11日(土) 新宿武蔵野館他にて公開

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