インタビュー

『This is BOSSA NOVA / ディス・イズ・ボサノヴァ』カルロス・リラ&ホベルト・メネスカル インタビュー

©VITORIA PRODUCOES

ボサノヴァは中流階級のための音楽だ

 日本人がこよなく愛する、ブラジル生まれの音楽“ボサノヴァ”。その誕生から現在に至るまで歴史を紐解き、数々の偉大なミュージシャンたちの貴重な映像を交えながら、ボサノヴァという音楽の魅力を余すところなく伝えている音楽ドキュメンタリーが『This is BOSSA NOVA / ディス・イズ・ボサノヴァ』だ。この映画の語り部であり、現在も第一線で活躍を続けている名ミュージシャン、カルロス・リラとホベルト・メネスカルが揃って来日、ギターで女性たちを虜にする“永遠の色男”っぷりを香らせつつ、和やかに語ってくれた。

カルロス・リラ

 1936年5月11日、リオ生まれ。
 幼い頃から音楽に囲まれて育ち、高校生のときにはギターをマスター。カレッジ時代に知り合ったホベルト・メネスカルとギター教室を主宰した。
 希代のメロディー・メーカーであり、ホナルド・ボスコリやヴィニシウス・ヂ・モライスらとの共同作業は「あなたと私」「もっとも美しいもの」「遅かったらごめんなさい」等、ボサノヴァ史上に残る多くの名曲を生んだ。70歳を超えた今も精力的な活動を続けている“永遠の青年”である。

ホベルト・メネスカル

 1937年10月25日、エスピリト生まれ。
 ギタリスト、コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとして創世記からボサノヴァに関わってきた重要人物。
 コンポーザーとしてはホナルド・ボスコリらと共に「小舟」「二人と海」「リオ」等“海・太陽・恋”のイメージの名曲を多数発表。
 70年代からはポリグラム・レコードの重役として裏方に回るが、80年代中盤に十代からの盟友ナラ・レオンとの共演を契機に演奏活動を再開。以降も第一線で活躍を続けている。

この映画を作るきっかけとなったのは?

ホベルト・メネスカル:きっかけというのは特になかったんだが、私たちの共通の友人であるドキュメンタリー映画監督のパウロ・チアゴから声がかかってね。私たちは映画のカメラで写されるのには全く慣れていなかったものの、カメラの前でしゃべってみた結果がこれだというわけだ。皆さんはボサノヴァという音楽はご存じだと思うが、今回この作品を通じてボサノヴァの歴史、ボサノヴァとは何かということを知っていただきたいね。

お二人が始められたギター教室が、多くのアーティストを生み出すきっかけにもなった場所だと伺っています。かたぐるしい場所ではなく、サロンのようだったということですが、実際どんな雰囲気だったのでしょうか?

カルロス・リラ:二人でギター教室を開いたばかりの頃は、すごく狭くて暑苦しい場所だったんだが、しばらくして生徒も増え、徐々に余裕が出てきてからは、それぞれに広い場所を借りて教えられるようになったんだ。
ホベルト・メネスカル:リオ市内の全ての若い女性たちが、私たちに習いたがったね(笑)。
カルロス・リラ:私たち二人はそこからほど近い場所に住んでいたんだ。
ホベルト・メネスカル:カルロスは色男でね(笑)。

ファスト・フードの店でもBGMとして普通に流れるほど、日本ではボサノヴァが親しまれています。もしかしたら、世界中で日本人が最もボサノヴァを愛しているのではないかと思いますが、この映画を観る日本の観客にはどういうことを期待されますか?

ホベルト・メネスカル:日本人は本当に好奇心の旺盛な方たちなので、この映画は日本で必ずヒットすると感じているんだ。というのは、日本人は他の国の人々より、作品そのものと同じくらい、こうした音楽がどうやって作られたのかということにまで興味を持ってくださるからね。この映画をご覧になって、ボサノヴァをより深く理解していただき、これからもボサノヴァを一層愛してくださればうれしいね。

日本人はどうしてこれほどまでにボサノヴァを愛すると思われますか?

カルロス・リラ:日本でボサノヴァが愛されている理由は、日本人の学歴に関係しているのではないかと思っている。というのは、ボサノヴァというのは中流階級のリスナーのために作られた音楽だからね。ブラジルは貧富の差が激しいが、日本はそんなことはなく、中流階級が多くて、学歴の高い人やアートに造詣が深い方たちがたくさんいらっしゃる。そういった方たちに向けて作られた音楽だからこそ、ボサノヴァは日本人の好みにピッタリなのだろう。私はそう思うね。

私はブラジルに住んでいたことがあるのですが、あるブラジル人ギター奏者と話していたときに、彼が「ボサノヴァは外国人向けの音楽だ」と言いました。それについてはどう思われますか?

カルロス・リラ:実はボサノヴァというのは、ウェスト・コーストのジャズからすごく影響を受けているし、ブラジルに限らず、世界中に向けた音楽だと思っている。
ホベルト・メネスカル:ブラジルを訪れる外国人観光客たちの多くはまず、「ボサノヴァはどこで聞けるのですか?」とよく質問するらしいんだが、ブラジル国内でボサノヴァが生で演奏されている場所は、今は残念ながら非常に少ないんだ。ブラジルでボサノヴァを聴く人口がだんだん減少しているからね。
カルロス・リラ:実際、私も「ボサノヴァは外国人向けの音楽だ」と言われたことがあるし、「エリートにしか向かない音楽だ」とも言われたことがある。ただ実際にそうであったとして、何が悪いのかね? ボサノヴァにはさまざまな音楽の影響が含まれているので、ある程度の教養の持ち主でないと楽しめないと思うね。

この映画はどういった観客に観ていただきたいですか?

カルロス・リラ:出来ればもちろん、世界中の方々に観ていただきたい。とは言うものの、この作品はボサノヴァがテーマであり、ボサノヴァは中流階級のための音楽だと私は思っている。ブラジルの中流階級から生まれた音楽なので、主に世界中の中流階級の方々に向けてこの映画を紹介していきたいね。

ホベルト・メネスカル:世界中の中で最も日本の観客に観ていただきたいな(笑)。

日本以外、他の国ではもう上映されたのですか?

ホベルト・メネスカル:ブラジル全国の映画館で上映された。また、アメリカのカリフォルニアとニューヨーク、ヨーロッパではオランダ、フランス、ベルギーなどの映画祭で上映されたが、一般公開はまだされていない。

日本では、東京以外の場所でも公開される予定ですか?

(宣伝担当が)はい、大阪、名古屋、福岡、北海道など、全国で上映予定です。
カルロス・リラ:(日本語で)日本、大好きです(笑)。

この映画のプロモーションが終わってから、新たに計画されていることはございますか? 例えば、一緒に作曲されるとか。

ホベルト・メネスカル:実はこれまでも、二人で一緒に計画など立てたことはないんだ。昔からの友人なんだが、一緒に作曲したこともなかったんだよ。でも、今回日本に来る前に彼に電話をしたとき、「何か良い曲のアイデアはある?」と聞いたら、「あるよ。メモして」と言われ、電話で何度かやり取りしながら作曲し、その後にジョイスが作詞を担当することになった。その曲はまだ完成していないんだが、おとといまた一緒に部屋で新しい曲を作り始めたばかりなので、期待していただきたいね。
カルロス・リラ:この場をお借りして申し上げるが、10月に東京、福岡、大阪のビルボードライブで、カルロス・リラ、ホベルト・メネスカル、マルコス・ヴァーリとバンドで来日する予定なんだ。東京は10月25~27日、大阪が29日、福岡が11月1日を予定している。
 ボサノヴァは何らかの運動に関わっているのでは決してなく、自然に発生した音楽なので、これからも進化していくと思っているよ。

 降参です。71歳と69歳のお育ちの良いラテンおじさまコンビは、そんじょそこらの若者には到底太刀打ちできない、今も十分“現役”を主張している濃厚な色気を漂わせ、その甘い眼差しと微笑みの前に身をさらしていると、思わず意識が遠のきそうになってしまった。ギター教室の前で順番待ちをしている(多少の誇張あり)リオ中の娘たちを、どうやら毎晩のようにお持ち帰りしたらしい“永遠の色男”たちが生み出す音楽からは、“海・太陽・恋”に彩られる至福に満ちた永遠の青春が香り立つ。『This is BOSSA NOVA / ディス・イズ・ボサノヴァ』は、まさしくそんな音楽を再発見できる映画だ。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

公開表記

 配給:ワイズポリシー
 2007年渋谷Q-AXシネマにてロードショー中、全国順次公開

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