イベント・舞台挨拶

『痛くない死に方』初日舞台挨拶

© 「痛くない死に方」製作委員会

 映画『痛くない死に方』の初日舞台挨拶がシネスイッチ銀座で行われ、出演の柄本 佑、宇崎竜童、奥田瑛二、原作の長尾和宏先生及び監督・脚本の高橋伴明が登壇した。司会は、闘病経験のある笠井信輔フリーアナウンサー。

 まず主人公の在宅医・河田を演じた柄本 佑が、「今日はたくさんの方にいらしていただき、ありがとうございます。高橋伴明監督は大ファンでして、監督の作品に出るのは夢でした。しかも今回は主役という立場で出させていただけて、自分としては幸せな一本です。今、すごい方々の間に俺いるなと思っています」と、一映画ファンとして興奮気味に挨拶。

 末期のがん患者・本多役の宇崎竜童は、「死に方を考えていらっしゃる方がいらっしゃっていると思っていたんですが、若い方もいらっしゃいますね。ぜひ観ていただきたい映画です。こんなに多くの方に初日に観に来ていただいて嬉しく思います」と挨拶。

 主人公の先輩の在宅医・長野役の奥田瑛二は、「隣にいるのが義理の息子でございます。それと盟友と言わせていただきましょうか、監督の高橋伴明さん。そうなると、一生懸命やらざるをえない。だから一生懸命やっておりました。今日のお客さんはもうSNS以上に口コミが確実な方々ばかりだと思います。長年映画人生を過ごしてきた私としては、完全に大当たりです。これからご覧になりますが、『奥田は預言者か』と思われるかと思います」とジョークを交えて挨拶。

 本作の原作である『痛くない死に方』、『痛い在宅医』の著者であり、これまでに2500人を看取ってきた在宅医の長尾和宏は、「今日はありがとうございます。私の書いた本、『痛い在宅医』と『痛くない死に方』がこういう映画になったことを本当に嬉しく思います。高橋伴明監督に脚本を書いていただいて、演じられた俳優の皆さんに厚く御礼申し上げます。この映画はリアルで生々しいと思います。また、尊厳死、リビングウィルについても理解していただけるのではないかと思います」と内容に太鼓判を押した。

 そして本作の脚本と監督を務めた高橋伴明監督は、「実はこの映画の公開は延期になったんですよね。今日という日も本当にどうなるか分からなかったんですが、やっと皆さんに届けることができたことが一番嬉しいです。映画というのは観ていただいてやっと完結すると思うんです。ですから、本当に感謝しております。今日の登壇者以外にも、『よくこんな人がこの映画のために集まってくれた』という驚くようなキャスティングになっています。その辺もゆっくり堪能してください」と感謝を述べた。

 伴明監督は、プロデューサーから、長尾先生の著書『痛い在宅医』を映画化しないかと持ちかけられたそうだが、その前から在宅医療に関しても興味があり、ご家族でも話し合っていたそう。「65になった時に、自分が死ぬということを真面目に考え出したんです。死の周辺に関わる本だとか資料だとかを結構読んでいまして、在宅医療や尊厳死協会があるということを知りまして、かみさん(女優の高橋惠子)に、一緒に入っちゃわないと誘いました。前向きに同意してくれました。この映画のテーマというには身近なテーマとして感じていました」とのこと。

 主人公の在宅医を演じた柄本は、「看取るということをお芝居の中でやったんですけれど、かなりエネルギーを消費することだと思いました。長尾先生のクリニックに1日体験させていただきまして、4軒ほど在宅の往診の現場を見させていただいたんですが、長尾先生が本当にフラットに、近所のおじさんが近くに寄ったから顔を出したというような感じで行かれるんです。在宅医療というのはお医者さんが自宅に来るから、(病院カバンや白衣を排除し、)いかに異物が入ってくるということを感じさせずに診療できるかということがあったので、意識しながら演じました。この映画を出来上がったのを観たとき、タイトルは『痛くない死に方』ですけれど、生き方の映画なのかなと思いました」と話した。

 柄本は本作を『鬼平犯科帳』みたいと思ったそうで、「『鬼平犯科帳』は大好きなんですけれど、鬼平はそんなに活躍しないんです。物語を進めていくのは鬼平ではなくゲスト主役なんです。本作では主役ということになっていますけれど、どちらかというと患者さんとか家族だとかの中にいかに目立たなくいるかがテーマでした」と理由を説明。「患者役の宇崎さんや下元史朗さんが主役ということですかね?」と聞かれ、柄本さんは「ですね!」と同意。

 その宇崎は、柄本が演じる河田が新たに担当することになる明るい末期がん患者の役だったが、「演技はしていません。セリフは覚えて間違えなくしゃべっているんですけれど、高橋伴明監督と40年来の友達なんですね。台本を頂いた時、40年見てきた高橋伴明監督が役の中に潜んでいるので、俺は芝居しないで、僕が見てきた高橋伴明をそのままやればいいんだと思いました」と回想。

 宇崎は末期がん患者の役だが、「リハーサルで監督から、『手の動きがロックンロールだよ』と言われ、少し抑えました」と話し、笑いを誘った。

 死に方について奥さんの阿木燿子とはどういう話をしているか聞かれた宇崎は、「『一緒に死ねたらいいね』というのは60過ぎたあたりから話しておりますが、70過ぎたら、『一緒じゃなくて、1日でも多く生きて欲しい。私をちゃんと見送ったらいつ死んでもいい』と約束させられました」と話し、「この映画の中で、伴明組のスタッフが30人位カメラの向こうにいる中で死ぬ(シーンを演じた)んです。にぎやかな、たくさんの人が看取ってくれるシミュレーションをさせていただいた感じで、絶対密葬はしないと決めました」と貴重な体験だったと話した。

 長尾先生は、ご自身の著書を高橋伴明監督が映画化してくださり、ご自身をモデルにした在宅医の役を奥田瑛二が演じてくださると聞き、「最初嘘かなと思い、信じられなかったです。テレビ、映画でしか見たことがない方に僕の役を演じていただけるというのも夢のような話でした。僕が普段言っていることや、本に書いていることを奥田瑛二さんが再現されていて、本当に感無量で感謝している」とお礼を伝えた。

 奥田は、長尾先生について、「衣装合わせで初めてお会いしたんですけれど、監督が衣装合わせの時に、『奥田、Gパンな。上はそのシャツ』と言われたんですが、それがダサいシャツなんです。ドアから長尾先生が入ってきて、『なんだ、結構二枚目じゃないか。この(衣装の)ダサさ。はっはーん。俺の方が少し二枚目だから、ダサくして、長尾先生に合わせようと高橋伴明が企んだんだ』と思い、納得しました」と話し、会場はクスクスと笑いに包まれた。「この役は、『赤い玉、』で主役をやらせていただいた伴明監督だから、『やるやる』、主役・柄本 佑と知り、『おいおい、ちょい待て。困ったな、伴明監督だけでも信頼関係を獲得するのにプレッシャーがあるのに、僕がもし下手なことをしたら殴られるな、二重苦だ』と思い、台本を読み込みました。あまりにも読みすぎちゃってNG連発でした。中盤の長台詞の最後に『生きることは食べること』と言うんですけれど、『食べることは生きること』と2回、3回、4回、5回とNGを出し、(訪問看護師役の)余貴美子さんがふふという顔をしていました。正面を向いたら佑が心配そうな顔で見ていました。普通だったら頭が真っ白になるけれど、ナーバスにならないで、『もう1回行こう』って言って、OKがでました。僕にとっての『生きることは食べること』は、台本の余白にも鉛筆で太く囲いを作って書いていたのに、NGを連発していましました。気負ってはいけないなというのが一番印象的でした」と告白。

 同じシーンに出演していた柄本 佑は、「頑張れ頑張れと思っていました。(奥田の)長台詞の間でたまに僕が台詞を言うので、『この一言は失敗できないぞ。ここまでうまくいっているので失敗できないな』と思っていました」と心境を語り、観客の笑いを誘った。

 長尾イズムが反映されたセリフについて聞かれた奥田は、「僕が一番印象に残る一言一言を言っていますね。でも皆さんこれからご覧になるじゃないですか。『生きることは食べること』を言っているその時の奥田君はすごく頷くようなかっこよさがあるんで、ご覧ください。観終わった後に、ノートや手帳に僕の名台詞を必ずメモしてください」とお願いしたところ、笠井アナも「私もメモしました。後で見せます」と名台詞が幾つもあることを示唆。

 これまでに2500人を看取ってきた長尾先生は、「今コロナ禍で触れることができません。面会もできません。本作のポスターを見たら柄本 佑さんは患者さんに触れているんですね。触れるということの大切さもこの映画で思い出して欲しい。また、コロナで面会できないから、病院や施設からどんどん家でお看取りする方が増えているんです。この映画を参考にさせていただけたらと思います」と現役の在宅医ならではの実情を説明。

 最後に、高橋伴明監督が、「死との向き合い方。病気との向き合い方。設備の整った大きな病院に入院することがいいのか、自宅で静かに最期を迎えるのがいいのか、いろいろな考え方があると思いますが、自分ならこのように死んでいきたいなということを形にしたつもりです。皆さんに『こうしたらいいです』と言っているわけではなく、『こんな死に方もありますよ』とそっと差し出したつもりの映画なので、それをどのように受け取っていただいてもいいと思います。最後に、奥田が予言しました『大当たり』。これは実現することを願っていますので、皆さんどうか、映画の感想を拡散してください」とメッセージを送った。

 登壇者:柄本 佑、宇崎竜童、奥田瑛二、長尾和宏先生、高橋伴明監督
 司会:笠井信輔アナウンサー

 厳しい現実にさらされ惰性に流れ、自身の立場に意味を見出せなかった若き医師が、先輩医や同僚医、そして何よりも患者たちの生き様・死に様に接して、医師として人として謙虚に学び、死にゆく患者の人としての尊厳を守るために奉仕する姿に、観る者が寄り添える映画だ。
 原作を書いた実在の医師のモデルでもある奥田瑛士演じる医師の、「生きることは食べること」「人を好きになれ」という言葉が、シンプルだけれども“生きること”の本質をついており、未だ死を目前にしていない人間も背を正される思いがした。そうだ、生きるってそういう単純の繰り返しなんだ。それが有難くかけがえのないことだというのは、病になって初めて気づく。
末期癌患者を演じた宇崎竜童が見事だった。死への恐怖に耐えながら、決してウィットを忘れず、見守る人々に口惜しさを残させない圧倒的な死に様を体現していた。ラストの葬儀のシーンも、一生を終えたひとを讃える祝祭にも見え、心震える。
 病に侵された親しい人を看取るときには迷いと苦しみから逃れられないものだが、自分自身を含めて、最後の日々の送り方について、あらためて深慮させられた。
  (Maori Matsuura)

公開表記

 配給・宣伝:渋谷プロダクション
 シネスイッチ銀座にて公開中ほか 全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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