映画『川っぺりムコリッタ』のプレミア上映イベントが都内で行なわれ、主演の松山ケンイチ、共演のムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆、メガホンを取った荻上直子監督が舞台挨拶に登壇した。キャスト陣が撮影時のエピソードや荻上監督にまつわるエピソードを楽しそうに語った。
本作は、『かもめ食堂』などの作品で知られる荻上監督自身の小説の映画化。川っぺりの古いアパート“ハイツムコリッタ”に引っ越してきた孤独な男・山田(松山)が、さまざまな事情を抱えた住人たちと出会うことで少しずつ心がほぐれていく様が描かれる。友達でも家族でもない、でも孤独ではない、新しい「つながり」の物語。撮影はオール富山ロケを敢行。
荻上監督は、「2017年に脚本を書き終えたばかりのときにイタリアの映画祭で偶然松山さんに会ったんです。絶対運命だと思い、帰ってから脚本を読んでいただいて出演をオファーしようと心に決めました」と松山のキャスティングについて語った。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う公開延期を経て、ようやく劇場公開を迎えられる本作について、松山は「山田は生きていてもしょうがないという気持ちを持ちながら過ごしている人物なんですが、でも、ご飯を食べたら美味しいと思うし、みんなで食事をすると喜びがあるんです」と普段意識しない身近な幸せを気づける映画だと語った。
しつこいほど距離感が近い山田の隣人・島田を演じたムロだが、撮影前に荻上監督から「いつものチャーミングさはいらない」とキツくダメだしされたと話し、「40歳を超えてそれなりにやってきたところはあったけど、『今までのムロツヨシを捨ててください』とはっきりと言われました。とてつもなく厳しい言い方のときもありました。荻上監督は僕の人生の”天敵現る”といった感じ。役者としての考え方を大きく変えてくれる出会いでした。“荻上後・荻上前”で変わります」と熱く語った。
これを聞いた松山は「見たことがないムロさんになっちゃって……。現場が静かになっていくんですよ。集中されていたので、そういう距離感でいましたね」とコメントした。
夫に先立たれた大家の南を演じた満島は荻上監督と2人で飲みに行ったことを明かし、荻上監督の印象について「監督のことを “本当に変わった女だな!”と思っていたら、監督から『お前のほうが変わった女だよ!』と言われてしまい……(苦笑)。お互いに“変わった女“と言い合って終わっていった感じです」と笑顔で話した。
子連れの墓石販売員・溝口を演じた吉岡は「僕は監督と食事したこともないし、ムロさんと松山さんが一緒にお蕎麦に行くのも後ろで見届けていました」と羨ましそうに愚痴りながら、荻上監督については、「監督は悟りの先にある怒りのようなものを感じます。だからとても怖いです」と語った。
荻上監督の演出方法について、松山は「ビールを飲むシーンがけっこうあったんです。『あ~ッ!』っておいしそうに飲んだのに、『ビールって、もっとおいしくないですか?』と監督からダメだしがあって、飲みなおしたり、ご飯をよそうシーンでも『ごはん、もっと盛りますよね?』とか言われ、しっかり盛りなおしたりしました。口に入るものにはものすごくこだわりがある監督でしたね」と話した。
また、松山はムロとのエピソードを語る。「一緒にランチで蕎麦屋に行ったとき、店員からサインを求められたムロが「(川っぺりムコリッタを)川っぺりム“ロ”リッタ」と色紙に書いていたことをバラす。
あわてたムロは、「いつもはムロツヨシと書くことが多いから、“ム”のあと“コ”に縦線入れちゃってロって書いてしまったんでしょうね」と言い訳する。松山は「そのことをすぐ監督に教えたら『ムロツヨシー!』って鬼の形相で怒ってて、面白かったです」と大笑いだった。
最後に松山は「コミュニケーションが取りづらい世の中ですが、自分自身を救うのに一人では限界がある。山田も同じで、周囲のおせっかいがあって変わりました。そういう人たちが実はセーフティーネットなのかもしれません。皆さんの周りをもう一度見回したら、見えてなかったものが1つぐらいは見えてくるかもしれません」と呼びかけた。
荻上監督は「死や遺骨をテーマにしていますが、ユーモアもたくさん入れています。笑っていい映画です」と明るくメッセージを送った。
登壇者:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆、荻上直子監督
公開表記
配給:KADOKAWA
9月16日(金)より全国公開
(取材・文・写真:福住佐知子)