インタビュー

『道草』片山 享監督 オフィシャル・インタビュー

 

俳優の感情や感性を尊重した映画作り

 12月9日(金)よりシモキタ-エキマエ-シネマ「K2」にて公開された『道草』。本作では凡庸に生きてきた画家が他人の絵・評価・価値観に翻弄されていくさまを通じ「自分らしさとは何か」「価値とは何か」という芸術家に限らず普遍的なテーマを巡る物語を抒情的に、かつ鮮烈な描写で見事に紡いでいる。国内外で注目を集めた『轟音』の片山 享監督、俳優出身の監督という出自を生かした、俳優の佇まいでドラマを成立させていく演出にも注目が集まる。今作が本年5本目の長編劇場公開作という驚異的なスピードで作品を生み出し、その創作力を支えている想いを語った。

監督/脚本:片山 享

 1980年福井県鯖江市生まれ。大学卒業後から俳優活動を開始。また2017年より映画監督しても活動を開始。
 初長編映画『轟音』は、北米最大の日本映画祭であるJAPANCUTSに日本代表として選出、またシッチェス映画祭でもブリガドーン部門にノミネートされた。
 安楽 涼監督と共同監督をつとめた『まっぱだか』では主演津田晴香がおおさかシネマフェスティバルにて新人女優賞を獲得した。
 本作が今年5本目の劇場公開作となる。

『道草』はさまざまな価値に翻弄されていく画家を通じて自分らしさや自分自身のものさしのようなメッセージ性を孕んだ作品に感じましたが、着想はどのようなきっかけがありましたか?

 映画を監督する前は役者を15年くらいやっていたんですが、よく耳にしてきた言葉に「単価をあげろ」というものがあって、役者業で生計を立てていくには必須なことでもあったので、単価をあげるために何をしたらいいんだろうかという模索はずっと続いていました。
 その反面、商売っ気とは逆行するような想い、「良い作品に出たい」というのはずっとあって、監督さんが新人であろうが、初監督であろうが、有名な人なんて誰も出てなかろうが、なんであろうが「良い作品に出たい」と思ってました。
 良い作品と売れる作品は違う、なんてことを言う方もいらっしゃいますが、そのようなことはあるとは思います。すべての理であるとは思いませんが。さっきの「良い作品」という言葉だってものすごく曖昧で、それは僕にとっての「良い作品」にすぎなくて、他の誰かからみたら「駄作」になってしまうかもしれない。
 僕は役者として売れなかったので余計にそんなことを強く思ったのかもしれませんが、価値なんて人それぞれ全然違うんだから、好きなようにやってみよう。そう思えたことで僕は映画を監督し始めました。
 映画『道草』はその想いが反映されています。道雄が寄り道をしまくるんですが、それはまさに僕が映画を撮り続けている様に似ているのかもしれません。

片山監督にとって『価値』とは?

 「価値」はもう本当に人それぞれでいいと思っています。『道草』で言うと、物語の途中で入江崇史さん演じる岡崎というお金持ちが出てきますけど、あの人が悪いわけじゃないし、あの人はあの人の価値観があります。それに群がるみたいな表現もしていますけど、それを否定する気もありません。分かりやすく悪い人を出したくなくて、この価値は間違っているんだよということは、道雄以外では絶対表現をしないつもりでした。道雄を見ている人がどう捉えるかは、その人の背景によって見え方は変わるだろうし、価値ってそんなもんだし、僕は他の人の価値に翻弄されるのは嫌ですけど、でもそれでしか生きていけない人もいると思います。それが悪いことでは絶対ないし、改めて作ってみて思うのは女性の価値観と男性の価値観の違いも当然あるけど、それはそれ、これはこれだと思います。皆に幸せになってほしいんですね。意外と自分の直感的に思ったことを素直にやっていくのが一番幸せになるんじゃないのかなって思っているので、道雄も元に戻っていく。無理に変わらなくていいし、そのままでいいということは言いたいですかね。

キャスティングについて今回はどのようにして役を決めていきましたか?

 まず道雄を決める必要がありました。俳優事務所であるハイエンドの製作ということもあって、ハイエンドの所属俳優から選ぼうとプロデューサーであり、事務所の代表でもある大松と話したうえでキャラクターに合いそうなのは青野竜平さんだなって思いました。朴訥とした見た目とその裏に垣間見える野心のようなものは道雄に近い感じがしました。ただ、絵が描ける必要があったので、これはキャスティングだとは伝えず青野に「絵って描ける」と何気ない感じでラインしました。そしたら「こんなくらいしか描けないですが」という文章に添えられて送られてきたのはものすごく上手に描かれた河童の絵でした。それでこれは青野しかいないとなり出演をお願いしました。本当に絵自体はそれほど描いたことがなかったらしく、撮影までの数ヵ月間絵のカルチャー・スクールに通っていただいて、その才を磨いていただき撮影にのぞんだという感じです。
 サチという役は自分の身の回りで考えてもイメージに合う役者さんがいなかったってのもありますが、ハイエンド製作第2弾ということもあり、せっかくなら幅を広げる意味でも初めてオーディションをやってみようとなり、来ていただいた方々の中に田中真琴さんがいらっしゃいました。僕の監督作になんて人が来てくれるだろうかと思っていましたが、たくさんの方々にご応募をいただき、2日間にかけてお芝居も見させていただきました。会場にはハイエンド製作第1弾主役の木原勝利、そしていつも僕の作品に出てくださっている大宮将司さん、オーディションの様子を撮ってもらうために呼んだ安楽、そして大松と僕。いるのがほとんど役者という、ある種お越しいただいた役者さんにとってはものすごくやりやすい環境を提示できたのではないかと思います。そこで出会ったのが田中真琴さん。僕は映画のため、脚本のために芝居をする役者さんが少し苦手で、今回もそうではなく、その役のために生きられる人を大前提で探していました。役者さんはどうしても映画を成立させようとしてくれるんです。でもそれは監督である僕の仕事だと思っているので、役者さんには自分の感覚でできることをやってほしいんです。そして、その人間たちを紡いでいくのが僕の仕事といいますか。なので、オーディションに来ていただいた方々全員にお伝えしたことですが、「自分の感覚を大事にしてください。もし感情としてセリフに書かれていることが言えなかったら言わなくてかまいません。無理してセリフ通りにやることは避けてください」とお願いしました。田中真琴さんは芝居の中で抜群に生きていました。「あぁこの人だな」って思いました。

演出で大事にしていることはありますか?

 役者さんのプランとかそういうことではなくて、役者さん自身の感情や感性を大事にしています。「今どう思いましたか? 何を感じましたか?」ということを自分の言葉を放つ前に聞きます。もちろん映画であり、脚本もありますので、筋書き通りにはなっていくのですが、こちらの意見や、意向は押し付けないようにしています。演出としては生きるために必要なことを話していくって感じです。そのためにはその人を知らないといけないので「今どう思ったか」を聞きます。
 だから普段から嘘をつくのが下手な人が好きなのかもしれません。

映画作りにおいて監督が一番大切にしていることはなんでしょうか?

 大前提ですが、人が人を尊重している現場にすることが一番大事にしています。役者さんのキャスティングもそうですが、スタッフさんたちも皆それができる人、それをしてくれる人と一緒に映画がつくりたいです。
 楽しくない現場は嫌なんです。関わってくださった全員が楽しい現場をつくりたい。それはきっと、良い作品づくりにつながることだと信じています。

『道草』を撮ることにおいてチャレンジしたこととは?

 脚本が一番チャレンジしたことだと思います。それまでの作品では描かなかった時間を『道草』では描きました。例えば道雄とサチの出会い。いつもなら出会った後からを描くのですが、そこから丁寧に描いてみようと思いました。観ているお客さんと道雄の共有している時間というものを物理的に長くすることでどうなるかってことをやってみたのが一番のチャレンジだったと思います。
 まだ公開前ですが、試写等での感想を聞いていると、その共有した時間で膨らむ感情というものがあることを学びました。チャレンジは紙一重な時もありますが、これからも忘れてはいけないことだと思っています。

本年度の公開作はこれで5作目です。端的に見れば作るペースが早く、もっと一つひとつに時間をかけてもいいのではと思いますが、作品を作り続ける想いを聞かせてください。

 時間はかけたいです(笑)。ただ、こんなハイペースになったきっかけといいますか、コロナの影響が大きいです。デビュー作である『轟音』は公開の後半、コロナの影響をもろに受けました。最初の緊急事態宣言前日まで公開をしていましたが、動員という意味では全くでした。もちろん未曾有の事態ですし、なにが悪いとかではないんですが、その時に言われた「コロナがなかったら、もっといったのにね」という言葉があって、ありがたい言葉ではあったんですが、なんか悔しくて、当時は「コロナがあったって俺は止まらない」って思って、勢いでシネマカメラを買いました。それと、コロナで劇場が閉まったり、お客さんが全然来なくなってしまったりしていて、劇場の人に「俺にできることってありますか?」って聞いたんです。そしたら「監督ができるのは新作を撮って持ってきてくれることだよ」って言われました。自分にはそれしかできないんだなって思って、1つ目の理由も合わさってたくさん撮るようになりました。ただ、撮らせていただける環境がなければこれは成り立たないことでもあったので、その機会を与えてくださった方々には感謝してもしきれません。ただ、ちょっと撮りすぎだったかもしれません。

作品を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

 映画『道草』は、「自分の価値ってなんだろう」という疑問から始まりました。生きてるといろいろなことに翻弄されたりしますが、たまにはそういうのも悪くないですが、やっぱり最後は自分に戻ってくる気がしていて。そんなことをふと考えるきっかけになったら嬉しいなって思います。
 「目的地に向かうまでの途中」道草にはそんな意味があるそうです。でも言葉としては少しのんびりしているイメージがして、だからのんびり映画を観ていただけたら嬉しいです。

公開表記

配給・宣伝協力:夢何生
下北沢K2で公開中 ほか全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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