イベント・舞台挨拶

『怪物』第48回トロント国際映画祭スペシャルプレゼンテーション部門 是枝裕和監督登壇!

©2023「怪物」製作委員会

 6月2日(金)より全国341館で公開した映画『怪物』(配給:東宝 ギャガ)。この度、第48回トロント国際映画祭のスペシャルプレゼンテーション部門に参加、9月10日(日、※現地時間)に北米プレミア上映された。
 現地では是枝監督がまず一度上映前に登壇され、「『幻の光』以来の、自分で脚本を書いていない映画になります。坂元裕二という、僕が一番尊敬する現役の人気脚本家の方と、初めてタッグを組んで作った映画です。いつもとはちょっと違うアプローチの仕方で作った映画なんですけれども、脚本家との共同作業というのはとても新鮮で、普段自分では書けないセリフ、作れない構造をもった映画になったのではないかなと思っております」と舞台挨拶を実施。
 また本編上映後には523名キャパの会場を埋める観客とのQ&Aを行い、坂元裕二や坂本龍一との共同作業について、劇中に出てくる台風の描写について、子役たちの演技について、また中には登場人物たちが英文字が書かれた衣装をたくさん着ていることの意図など英語圏ならではの質問もあり、会場は大いに盛り上がった。
 是枝監督作品のトロント国際映画祭への出品は、2019年の『真実』、22年の『ベイビー・ブローカー』での同部門出品に続くものとなり、最高賞にあたる観客賞の選考対象となる。

 今年5月、カンヌ国際映画祭での【脚本賞】【クィア・パルム賞】受賞から快進撃が始まった『怪物』は、その後もシドニー映画祭(オーストラリア)、ミュンヘン国際映画祭(ドイツ)、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)、ニュージーランド国際映画祭(ニュージーランド)、ニューホライズン国際映画祭(ポーランド)、メルボルン映画祭(オーストラリア)、シネフェスト・ミシュコルツ国際映画祭(ハンガリー)、アトランティック国際映画祭(カナダ)、サン・セバスティアン国際映画祭(スペイン)、カルガリー国際映画祭(カナダ)、モンテレイ国際映画祭(メキシコ)、バンクーバー国際映画祭(カナダ)、釜山国際映画祭(韓国)、ロンドン映画祭(イギリス)、ミルバレー映画祭(アメリカ)他、計42の映画祭での上映が決定(9/11現在)。また現在190以上の国と地域での配給が決まっており、すでに公開を迎えた香港やシンガポールでは『万引き家族』と同等もしくはそれ以上の成績をたたき出すなど、世界的にも大きな話題を呼んでいる。

 また国内の興行成績は9月10日(日)までの公開101日間で、観客動員数153万人、興行収入21.1億円を突破。是枝裕和監督作品で興行収入20億を超えたのは、第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『そして父になる』(13/福山雅治主演)、第71回カンヌ国際映画祭最高賞のパルムドール受賞し、第91回アカデミー賞外国語映画賞ノミネートも果たした『万引き家族』(18/リリー・フランキー、安藤サクラ主演)に続く3作目となる。
 本作は、監督:是枝裕和×脚本:坂元裕二、さらに音楽:坂本龍一という日本最高峰の才能が集結して描いた一作ということで注目を集め、公開後は40~50代の映画ファンや20代カップルを中心に幅広い層の観客が劇場を訪れ、映画レビューサイトでも高評価が続くなど好評を得ている。また本作では2度3度と鑑賞するリピーター客も多くみられ、鑑賞後に感想や見解について語り合いたい、確かめ合いたいという声も多く届き、すでに各地で計12回実施している上映後に直接是枝監督や出演キャストに作品についての質問ができるティーチイン付き上映も、活況を呈している。

6月2日(金)~9月10日(日)累計成績
 動員:1,530,000人、興行収入:2,110,000,000円を突破

トロント国際映画祭 上映前 舞台挨拶全文

、そして今日ここの会場に集まっていただいた皆さんにもお礼申し上げます。本当にありがとうございます。
 『幻の光』以来の、自分で脚本を書いていな映画になります。坂元裕二という僕が一番尊敬する現役の人気の脚本家の方と初めてタッグを組んで作った映画です。いつもとはちょっと違うアプローチの仕方で作った映画なんですけれども、脚本家との共同作業というのはとても新鮮で、普段自分では書けないセリフ、作れない構造をもった映画になったのではないかなと思っております。日本の小さな地方都市と、その都市にある小学校を舞台にした、母親と先生と子どもの物語です。楽しんで下さい。

トロント国際映画祭 上映後 Q&A抜粋

モデレーター:夜遅くにもかかわらず、ご参加くださいまして、皆様ありがとうございます。始める前に改めてご紹介しておくと、本作は『幻の光』以来初めての脚本家と共作された作品となりますので、ぜひ坂元裕二さんとのコラボレーションについてお話伺えますと幸いです。また『怪物』は坂本龍一さんが作曲した最後の映画スコアになると思いますので、彼との共同作業についてもお伺いしたいです。

是枝監督:そうですね。とても刺激的でしたし、お二人との共同作業というのは、今も自分の中にとても大きな実りとして、財産として、残っております。
 出来上がった脚本を渡されて、これでやってくれと言われたわけではなくて、2018年の暮れなので……『Shoplifters(万引き家族)』が出来上がった直後に、プロデューサーを通して坂元さんから『監督をしてほしい』という依頼があって、そこで参加をして、プロットから脚本にしていく3年間を一緒に定期的に意見交換しながら作り上げていった脚本なので、そういう意味で言うと十分咀嚼をしたうえで撮影現場に臨めたのが良かったのかな。それが幸いにも、という言い方は出来ないんだけれども、コロナの時期がありまして、そのために映画制作が一旦ストップしたものですから、その分、じっくりとこの企画と向き合う時間を作れたのが良かったのかなと思います。
 最初にプロットに書かれていた設定が東京の西のはずれで、街の中に1本の大きな川が流れているという設定だったのですけれども、東京という街がとても撮影に不親切なので撮影許可が出なくて、東京以外の街でどこがふさわしいのかというのを探しはじめる中で、川を湖に代えてみようというアイデアが出まして、坂元裕二さんにも一緒に見に行っていただいて、映画の冒頭に使わせてもらいましたけど、真っ黒な湖の消防車が走る夜のシーン、あの風景を見た時に『ここで出来るな』と思ったと同時に、ここにピアノの曲が入るな、坂本龍一さんのピアノの曲が良いなと直観的に思いまして、僕の中でその段階で、この映画の音楽は坂本龍一さんに頼みたいなと決まりました」

女性の観客:素晴らしい作品をありがとうございます。とてもとても好きな作品でした。質問は台風のシーンについてです。『海よりもまだ深く』にも台風の描写があったのを思い出しましたが、監督にとって台風には何か意味があるのですか? 台風のシーンを使う意図などがありましたら、教えてください。

是枝監督:いえ、これは最初坂元さんの書かれたプロットの中にも、この台風描写というのは書かれていまして。偶然というかですね、僕も坂元裕二さんも世代的に言ってもタイプ的に言っても、相米慎二という映画監督がとても大好きで、相米さんという名前を皆さんどのくらいご存じかわかりませんけれども、相米さんの映画の中に『台風クラブ』という傑作がありまして、これが台風をめぐる話なんですよね。多分、プロットを読んだ時に僕が思い浮かんだのも、その作品でした。自分の映画ではなくて。

男性の観客:素晴らしい作品をありがとうございました。登場人物がこんなにたくさんの英語の文字が書かれている服を着ているのを他の外国作品であまり見たことがないのですが、何か意図があるのですか?

是枝監督:あまり意味もなく日本の子どもたちは……大人もそうかもしれないけれど……英語が入ったTシャツを着ているので、それほどその文字に意味を込めてはいないんですけど。衣裳の黒沢和子さんが選んでくれたものです。何か気になった言葉がありましたか?

男性の観客:お母さん役の方(安藤サクラさん)が「A LIGHT THAT NEVER GOES OUT」という、とても美しい言葉が描かれたTシャツを着ていたのが、彼女のキャラクターにとても合っていると思ったのと、サクラさんが依里の家を訪ねるシーンで、依里が「WORKING CLASS」と書かれているパーカを着てるのが気になりました。

是枝監督:(答えを受けて)なるほど。

男性の観客:ありがとうございます。2つ質問させてください。
 1つ目は、子役の素晴らしい演技を拝見するのはこれが初めてではありませんが、どうやって子役からあの演技を引き出すのですか?
 2つ目は、監督の今までの作品群と比較すると、本作は他のものより若干ダークな物語になっているかと思うのですが、この素晴らしい脚本ができた経緯を教えてください。

是枝監督:たしかに自分で書くとどこかに笑い、そのどんなキャラクターの中にもちょっとした笑えるような要素みたいなものをどうしても書こうとするのですが、今回自分で書いていないから、そこの人間の持っている可能性みたいなものが良い面も悪い面も、自分が書くよりも少し輪郭がくっきりはっきりしているし、やや幅が大きく広いんだよね。それが僕は新鮮だったんですよね。そこは修正せずに、むしろ脚本に沿う形で人物造形というのはやったつもりです。それが多分、少し自分で書いてきた人物像とは違うニュアンスで受け取られているのかもしれません。決して脚本家のせいにしているわけではありませんけれど。
 子役については、今回は今までとはちょっとアプローチを変えていて、いつもは子どもには台本を渡さずに、現場でその選んだ子どものパーソナリティとボキャブラリーに沿う形で僕が口伝えで台詞を与え、感情を説明していくというやり方を取ることが多いのですが、今回は選んだ子どもたちがある程度もうあの年齢ですのでキャリアもあって、役が抱えている感情的な葛藤みたいなものが、その場その場で僕が説明して表現できるものではないなと思ったものですから、事前に台本を読んでもらって、勉強会もして、本読みもして、リハーサルを重ねて、そういう時間を積み重ねて、自分の人格の外側に湊と依里という2人の人間を作っていきましょうという話をして今回は取り組んでいます。本当に素晴らしい表現をしてくれたなと思っています。

男性の観客:本作が、カンヌでクイアパルムを獲ったのと同時期に、日本でも同性婚が認められたと聞いたのですが、それについての考えを聞きたいです。

是枝監督:正確には認められてないんです。地方自治体によってパートナー制度みたいな形で特例として認めているケースは出てきているのだけれども、まだ国がそれを許容するところまでは行ってない。非常に遅れているんですね。日本の社会における性的な多様性というのを、国も社会もまだまだ認めていないという状況が続いているんです。この国(カナダ)とは、ずいぶん、20年30年、時間が止まっている状況だと思います。

是枝監督最後のご挨拶:ありがとうございます。遅くまでお付き合いいただいて本当にありがとうございました。映画を作る度にこの映画祭に呼んでいただいて、本当に感謝しております。こんな遅くまでたくさんの方に残っていただいて嬉しいです。次の作品がいつになるか分かりませんけれども、また呼んでいただいて、皆さんの元に届けられることを願っております。今日は本当にありがとうございました。

 登壇者:是枝裕和監督

公開表記

 配給:東宝、ギャガ
 大ヒット公開中!

(オフィシャル素材提供)

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