イベント・舞台挨拶

『かぞく』初日舞台挨拶

©土田世紀/日本文芸社,ANIPLEX, Inc.

 17歳で漫画家デビュー、代表作『未成年』『編集王』『雲出づるところ』を送りだし『同じ月を見ている』では平成11年度文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞、人気作家としてのキャリアを積み重ねていた2012年、突然この世を去った伝説の漫画家・土田世紀。松本大洋を初め多くの漫画家が影響をうけた土田の生きざまを色濃く描く未完の絶筆作品『かぞく』を実写映画化。脚本・監督を務めるのは、映画『十三人の刺客』『るろうに剣心』シリーズ、人気TVCM『au 三太郎』シリーズの衣裳デザイン、キャラクターデザインを務めてきた澤田石和寛。写真作家、映像作家として活動する澤 寛(Kan Sawa)として、吉沢 亮・永瀬正敏・小栗 旬・阿部進之介(登場順)らをキャストにむかえ、満を持しての映画監督デビューを果たす。監督デビュー作にもかかわらず、豪華俳優陣が出演、すでに国際映画祭への招待も決定しており、その期待度の高さが分かる。11月3日より劇場公開中。

 11月3日(金・祝)、阿部進之介、澤 寛監督、鈴木大造プロデューサーが登壇した映画『かぞく』の初日舞台挨拶がテアトル新宿で開催された。

 この日、登壇者陣は上映後の余韻と熱気が漂う会場に登場。澤監督は「とても丁寧に作って、とても大切な気持ちを乗せた映画です」と心を込め、大きな拍手を浴びた。

 本作で映画監督デビューした澤監督だが、「日本映画と関わったキャリアの始まりにお世話になった方がいて、その人から『あなたは映画監督になるのよ』と言われたことがあった。『衣装を通して、監督になりなさい』という一言をいただいた。15年以上、コスチュームのデザインや人物のデザインをやってきて、どこかでずっと『映画を撮るんだ』という思いが根っこにあった」と告白。「自分はどうやって映画を撮るのかということを考えながら、コスチュームや人物造形に関わっていたのかなと思います」と胸の内を明かした。

 これまでにも澤監督と仕事をしてきたという阿部は、その言葉に大いに納得した様子。「最初に彼と映画の仕事をしたときに、衣装を用意して(俳優に)着せるだけではなく、衣装を用意するときのストーリーや、カメラの前に立って集中をしている僕が、どのようにしたら芝居をやりやすいかということまで考えていた。演出側のことも考えながら接してくれていた」と回想。「『映画のために何をするのか』という思いが、とても強い人」と澤監督が常に演出側の視点を持ちながら仕事に臨んでいたと話した。

 「澤監督が原作と、それをもとにした台本を持ってきてくださって、非常に感動した。これは何がなんでも実現しなければならないと思い、協力してくれる方を募って制作に至りました」と澤監督の熱意に背中を押されてここまで辿り着いたと振り返った鈴木プロデューサーは、「非常にビジョンが明確な監督。シナリオを作る段階から、全スタッフ、キャストに、すべてのシーンのコンテやイメージ画を展開していました。僕は20年、映画制作をしてきましたが、そういったアプローチを見たのは初めてです。合理的かつ、わかりやすかった」とその力量に感服していた。

 セリフが少ないながら、それぞれの登場人物の心象風景を通して「家族とは何か」と観客に問いかけるような力強い映画が完成した。阿部が「セリフが少なく、自然と食い入るように没入していく映画になった」と切り出すと、観客の中にも大きくうなずく人の姿がたくさん見受けられた。阿部は「それでいて突き放しているわけでもなく、自然とお客さんがそこにある情報を拾っていきたくなるような映画。お客さんが能動的に映画に接して、お客さんも参加するような映画になっているんじゃないかなと感じました。表現する人、作る人も不安になるものなので、いろいろなことを『伝えよう』とするあまり表現過多になることもある。僕は本作を観て、『いらないものを削いでいったら、こうなるよな』と思いました」と本作の表現方法に共鳴していた。

 画作りはもちろん、音楽や音声にも澤監督のこだわりがたっぷりと込められている。じっくりと耳を澄ますとあらゆる音を感じられる映画でもあり、澤監督は「セリフの取り扱いはとても慎重にやっていました。画で(キャラクターの気持ちが)伝わると判断したところには、セリフを抜いていくという作業がありました」とセリフが少なくなった意図について説明しつつ、「そういうことができてくると、環境を説明するための音が必要になってきた」と音へのこだわりを吐露。

 サウンドデザインはアピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品『世紀の光』『ブンミおじさんの森』『メモリア』などに参加してきた清水宏一が担当しているが、澤監督は「清水さん、そして音響効果の堀内さんと一緒に、画に必要な音を精査してデザインしていきました」と音について細かく設計をしていったと語る。SPAC静岡県舞台芸術センター芸術総監督である宮城聰の協力のもと、SPACの俳優たちが音楽演奏に参加しており、「SPACの俳優の方たちが、鳥の声なども演じている。登場人物が何を感じているかを表現するために、そういった、日常のようで日常ではない表現をするなど、特異な音響表現を行なっています」と新たな境地に挑んだという。

 撮影を述懐して「本当はもうちょっとセリフがあった」とつぶやいた阿部は、完成した映画では削られたセリフがあったものの、「今の監督の話を聞いて、なるほどなと思った。役本人が表現するのではなく、音で表現することで補われていた。音の表現や音楽が、本当にすばらしかった」としみじみと語る。すると澤監督は「音楽は、舞台音楽家である棚川寛子さんが、“父”や“母”などテーマごとに曲を作ってくれた。そしてSPACの俳優の方たちが演奏者となって、映像に音を落とし込んでくれた」と感謝しきり。阿部は「それぞれのパートが、映像を観ながら演奏をしているんですよね。だからこそ、気持ちを乗せながら演奏できたのかなと思った」、その収録に立ち会っていたという鈴木プロデューサーは「フィルム・スコアリングという形式。ライブ感あふれる音を作っていただいた」と制作背景を思い浮かべつつ、映画に寄り添った音楽に惚れ惚れとしていた。

 またデジタル制作が主流となっている中、本作ではフィルムでの撮影が行われている。鈴木プロデューサーは「澤監督のこだわりから、フィルムの色彩の再現度、やさしさを追求したいということで、クランクイン前に相談して、フィルムを採用しました」とコメント。阿部と「フィルムが高くなった」とその貴重さについて語り合う中、澤監督は「光の捉え方など、実際に私たちが目にしているものを再現しようと思った。また日本の風景を切り取ろう、人の感情を切り取ろうという思いもあり、フィルムカメラで撮ろうと思った。フィルムに映る物質性も含めて、大切な作業だったなと思っています」とその重要性を口にし、阿部も「光や虫、自然がとても美しかった。その場所の美しさがちゃんと映っていた」と映像の美しさについて驚きと共に語っていた。

 最後には、阿部が「この映画が少しでも、皆さんの人生の一部になっていただけたらうれしいなと思います。どこかで思い出していただいて、自分の人生との結びつきが少しでもあったらうれしい。僕も大切にしたい映画になりました」、鈴木プロデューサーは「この映画は観るタイミングによって、それぞれのシーンの表情が変わるように仕上がったと思っています。ふとしたときに思い出していただいて、またご覧いただけるとうれしいです」と希望。「ありがとうございました」と改めて観客に感謝した澤監督は、「心象をどのようにポエジーとして伝えていくかというアプローチをした映画なので、少し掴み取りづらい部分があるかもしれません。またどこかでこの映画に改めて出合っていただき、長く付き合っていただければという思いで制作しました」と映画に込めた思いを語ると、会場からは今日一番の拍手が鳴り響き、作品の持つ美しい余韻が漂う中、イベントは終了した。

 登壇者:阿部進之介、澤 寛監督、鈴木大造プロデューサー

公開表記

 製作・配給:アニプレックス
 2023年11月3日(金・祝) 公開

(オフィシャル素材提供)

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