イベント・舞台挨拶

2023年ヴェネチア国際映画祭 審査員特別賞 受賞!『人間の境界』日本記者クラブ 公開記念トークショー『人間の境界』

© 2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

 登壇者:久山宏一氏(東京外国語大学等非常勤講師・ポーランド文化研究)

 2023年ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門で上映され、審査員特別賞を受賞しもっとも大きな喝采を浴びるとともに物議を醸し、ヨーロッパのみならず世界中で激しい論争を巻き起こしたポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド最新作『人間の境界』が、5月3日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開となる。
 本作は、2021年にベラルーシがEUの混乱を狙いポーランド国境に大量の難民を移送した事態をうけ、ポーランドとベラルーシの国境で「人間の兵器」として扱われる難民家族の過酷な運命を描いた、スリルと慟哭の衝撃作。監督は、3度のオスカーノミネート歴を持ち『ソハの地下水道』『太陽と月に背いて』など数々の名作を世に送り出してきたポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド。2023年ヴェネチア映画祭コンペティション部門では、その複雑かつスリリングで息をもつかせない展開が、モノクロームの圧巻の映像美とともに絶賛を集め、審査員特別賞を受賞。ロッテルダム国際映画祭の観客賞をはじめ、これまでに18の賞を受賞、20のノミネートを果たし(2024年3月7日時点)世界各国の映画祭で高い評価を獲得している。2023年9月に公開されたポーランドでは公開されるや2週連続トップの観客動員を記録。ポーランド映画として当時年間最高となるオープニング成績をたたき出し、異例の大ヒットとなった。
 4月19日(金)に日本記者クラブによる試写会が実施され、上映後に東京外国語大学等非常勤講師である久山宏一氏(ポーランド文化研究)によるアフタートークが実施された。
 トークは、本作が持つ独特のドラマツルギーや英題「Green Border」がポーランド人にとって持つ意味、映画が本国で公開される直前に現地で吹き荒れていた映画への批判についてなど、多岐に渡って繰り広げられた。

 久山氏は、映画の感想として「ホランド監督の映画には常々尊敬の気持ちを持っていました。映画について解説文を書いてほしいとお話をいただき鑑賞しましたが、映画を観てこれはとんでもない仕事を引き受けてしまったと……。決して分かりやすい映画ではありませんが、なぜか繰り返し観たい、多少苦労してでも理解したい、挑戦をしたいと思わせられる気持ちになりました」と語る。続けて「これは群像劇で、特定の人物だけに焦点を当てられているわけではありません。最初に出てくるシリア人難民の家族と彼らと行動を共にするアフガニスタンからの難民女性が主人公のように見えますが、途中で姿を消してしまう。主人公が移行して、それぞれの運命を意図的に追いかけていない独特のドラマツルギーがあります。そして本当にさまざまな言語が出てきますが、それぞれに意味があり安易に言語をこれと統一していません」と語る。その上で、「一番難しい理由は、どの登場人物も白でも黒でもない……善と悪を抱え込んでいる灰色の人物像であるという、ホランド監督独特の世界観ゆえです。そういうものが合わさり、なにかとんでもない真実に触れていると直感させる映画なんだけど、それがそういう真実なのかは分からない……そんなふうにどんどん深みにはまってしまいました」などと止まらない様子。
 久山氏は、「1990年代前半にホランド監督の作品が日本で集中的に紹介された時期があります。日本での批評が気になって読んでみると、淀川長治さんが監督を本当に高く評価していて、『オリヴィエ オリヴィエ』や『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』などについて素晴らしい批評を書いているのを見つけました」と振り返り、2004年にポーランド南部の町チェシンで開かれたホランド監督についての学会において、そのことを紹介したという驚きのエピソードを披露。続けて、「ホランド監督は作品の幅も広くて全体像がなかなか掴みにくいので、日本での紹介が充分に進んでいるとは言えません。ひとつひとつの作品が安易な共感を拒むような、後味が苦いような作品が多いので、なかなか体系的な紹介はなされていないかもしれません。『人間の境界』をきっかけに紹介が進んでいくといいですけどね」と率直な印象を語る。

 本作はヴェネチア国際映画祭で高く評価された一方で、ポーランド国内では当時の政権が映画を激しく非難。久山氏は、本作がポーランドで公開される直前の2023年夏に現地を訪れたと言い、その時のポーランド国内の様子について「この時ほとんどの人が映画を観ていない状況です。その時点で作品に対するヘイトがかなり広がっていて、政府高官なども映画を観ずに批判する……それがだんだん拡散していて、公開前の雰囲気はかなり悪かったですね。公開された後はこの映画の価値を理解するジャーナリストなども出てきて、それで次第に賛否両論に変わっていったと思います」と振り返る。続けて、本作の英題「Green Border」について、「この映画のタイトルそのものが、ポーランド人にとっていろいろ考えさせるものなんです」と説明する。「ポーランドにはもともと<緑の国境を越える>という言葉があり、国境を不法に越えるという意味なんです。そして、ポーランド語の中にネガティブな意味合いで<緑>という言葉が出てくることがあります。例えば、解雇することを<緑色の草原に送り出す>と言ったりするんです。そんなネガティブな意味がある一方で、EUやシェンゲン圏(ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定が適用される領域)のような国境のない世界も一例ですがプラスに捉えようという意見もあり、両方の意味と捉えることができるんです」と、映画がポーランドで賛否両論を引き起こした背景のひとつを解説する。

 本作のクランクインを直前に控えていた2022年2月、ポーランドにとってのもうひとつの隣国であるウクライナがロシアから攻撃されたことを受けて急遽脚本に追加された衝撃的なエピローグについて、久山氏は「ここがこの映画のとても“苦い”部分です」と語り、その背景やこの場面が示すポーランドの国民感情についても言及。このくだりは、本作の劇場パンフレットに収録される久山氏による解説文でも詳しく紹介されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

公開表記

 配給:トランスフォーマー
 5月3日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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