イベント・舞台挨拶映画祭・特別上映

『TBSレトロスペクティブ映画祭』初日・2日目舞台挨拶

©TBS

〜かつてこの国を挑発した名作ドキュメンタリーが60年の時を経てスクリーンに甦る〜

 TBSレトロスペクティブ映画祭」が、4月26日(金)より開幕した。TBSのアーカイブからテーマに合わせて作品を抽出、クリーニングを施し、大スクリーンで現代の観客にご覧いただこうという画期的な取り組み。第一回は昭和のカルチャーをリードした寺山修司特集。執筆から舞台、映画までマルチに活動した彼だが、テレビとのかかわりも深く、テレビ史上に残る挑戦もいくつか行っている。初日の最終回は「あなたは……」「日の丸」が上映され、上映後は2022年に「日の丸」のリメイク版「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」を監督した本企画のプロデューサー、TBSの佐井大紀が、「国葬の日」など独自の視点で日本の政治と社会を見つめたドキュメンタリーを世に送り続ける大島 新監督を初日ゲスト、2日目は社会学者の宮台真司氏をゲストとして迎え、多くのドキュメンタリー・ファンが詰めかける中、トークセッションが行われた。

4月26日(金)

©TBS

 登壇者:大島 新(映画監督)×佐井大紀(プロデューサー・監督)

 大島は冒頭、鑑賞した2作品に触れ「あのインタビュアー大変そう」と全く知らない道行く人にきつい質問を投げ続ける、街録インタビュアーの女性(村木真寿美・高木史子)を気遣った。対する佐井が事情を説明。
 「あの方々は当時女子大生で、ディレクターの萩元さんに『機械のようにやれ』と言われてやったそうです。アナウンサーだと相手とのコミュニケーションが生まれる。それではだめで、自らを記録用紙として、ただひたすら聞く係として雇われたらしいです」と、街録番組の先例がほぼない中、一般人を被写体として撮りまくった実験的な番組を振り返った。
 また大島は「この質問をひたすら繰り返されている番組をみると、観ているほうも自分の答えを探し始めている。そして人間という生き物は、いかに幻想と共に生きているかが分かる。食べて繁殖しているだけが現実という動物の観点から見ると、人間の生き方や僕らが信じている『幸せ』なんてものはいかに幻想かと思う」。
 「それこそ、寺山の言いたかったことなんだと思います」と佐井が答え、「特に『日の丸』は、寺山はこの番組をして、【情念の反動化への挑戦】と言っています。きっと、ほとんどの人が疑いもなく信じている【幸せ】や【国】などの概念を揺さぶりたかったのだと思います」と寺山がこの取り組みに込めた想いについて語った。

©TBS

 「日の丸」はTBSドキュメンタリー史上最大の問題作といわれる。サブカルチャーの先駆者であり時代の寵児であった劇作家の寺山修司が構成を担当し、街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」といった、人々が普段考えないような本質に迫る挑発的な質問を次々とインタビューしていく内容。1967年の放送直後から抗議が殺到し、閣議でも偏向番組、日の丸への侮辱として問題視され、郵政省が調査するにまで至った。
 「この番組枠は通常、人物をフィーチャーしている枠で、岡本太郎とか藤子不二雄とか、毎回人物がテーマになっていた。いわば60年代の『情熱大陸』的な枠だったわけですが、そこでいきなり今日の主人公は『日の丸』です、となったものですから、視聴者もびっくりしたようです」と佐井が言うと、大島が「しかもこれは、戦後制定された建国記念日の前にオンエアされたんですよね? 狙ってますね」と当時のテレビ局のチャレンジャーぶりにびっくり。
 そして、この番組のディレクターこそがテレビ業界では伝説的な存在として知られる、後のテレビマンユニオンの創始者萩元晴彦、村木良彦だった、と大島が捕捉した。テレビマンユニオンは後に是枝裕和など多くの映像作家を生み出す、日本初といっていい番組制作会社。
 その後大島が「日の丸」をリメイクした佐井に、直接町行く人に話を聞いた実感として、1967年の日本人と、現代の日本人てどう変わったと思えるか?という質問に、佐井は答える。
 「答えの内容はそう変わらないと思うが、きっと60年代の質問の内容を日本人は考えて答えていた。今の日本人は考えるより模範解答を探している。そして見え方が大事、という面も強くあると思う」と答え、逆に「国葬の日」というドキュメンタリーで、安倍元首相の国葬の日に合わせて、全国で街録を実施した大島監督にも同じ質問を投げかけた。
 大島は「多くの人は曖昧。周りを気にしてる。日本人の自分のなさ、弱さを感じる」など、自らの作品の体験談も披露した。トークは特徴的な街録番組とその制作者の話題を軸に、過去と現代を行き来し、とても興味深い内容で盛り上がった。終了後は観客からの熱い質問もいくつか飛び出し、活気あるトーク・セッションとなった。

©TBS

4月27日(土)

©TBS

 登壇者:宮台真司氏(社会学者)×佐井大紀(プロデューサー・監督)

 登壇早々に「多分、今回僕はふさわしいゲストだと思います。僕の母と寺山が生まれたのが同じ時代でして、国民学校で物心がついた頃から天皇主義を教えられていて、国民学校をもうすぐ出るかどうかというところで、教科書の墨塗りにされて、天皇陛下万歳とかって言わせていた先生が、今日から皆さんは民主主義者です。と言い出す。天皇陛下万歳ではなくて……。天皇主義の全体主義の美学を心底信じていて、それがひっくり返された衝撃っていうのを忘れられない世代。寺山と僕の母のがそういう世代。その後、僕は昭和34年、1959年生まれで戦争が終わって13年目に生まれるんですけどあまりにも戦後復興の速度が早く、高度経済成長を遂げ、1964年に東京オリンピックがあり、つまりもう何がリアルで何がアンリアルなのかがよく分からないっていう状態にいたということで、その3~4年後に『あなたは……』や『日の丸』などが作られたというね。そのことも頭に置いておいたほうがいいってことですね。あと僕はサブカルチャー研究者でもあるけど、日本では7年周期で表現やコミュニケーションのモードが変わるんですよね。ところが1996年を境にその変化が全くなく、突然モードの変化がなくなって今に至ってる。今の大学生は生きている間にモードの変化っていうのを経験していない。僕の世代は経験しまくってるんですよ。東京オリンピックを見て、大阪万博を見て。しかしその直前に東大紛争をテレビで見て、71年に中学に入ったら中学高校1貫校で紛争に巻き込まれ、学年集会とか全校集会で演説する毎日が終わったと思ったら、しらけの時代。僕なんかは79年にそれまでめちゃめちゃアングラ少年青年だったのが、周りにアングラ廃業宣言というのをして、もうこれからはナンパ1筋でいきますっていうふうに宣言するっていうことをした。それも半分本気で、でも半分嘘で。どこかでまたシフト・チェンジをしなきゃいけないから、タイミングを間違えないでおこうっていうふうに思った――と今、お話したことが一応自己紹介です」と宮台節全開でトークがスタートした。

©TBS

 続けて宮台は「今日、劇場にいらしてる客席の皆さん、すごく若い方も多いけれど、寺山はかなり世代が上で、戦後の日本人の豹変をめぐる衝撃や、その後のものすごい急激な社会の変化を見てきて、これはね、災害にあった人たちとよく似た状態になるんだよね。つまり、リアルとアンリアルの区別がよく分からなくなる。これってリアルなのかな? じゃないとしたら、何がリアルなのか。例えば戦中の全体主義はリアルなのか? そんなの嘘に決まってる。そう考えると。何がリアルで何がアンリアルかっていう問題設定自体が間違っていて、寺山的に、経験する全ては映画なんだというのは認知的な効果としてはすごく意味があると。これは映画なんだ。映画の中に出ているんだ。映画の中で作られて死にかけているんだというふうに思うことができるんだよねって。例えば、本当に単純に現実をね、これは映画だと思って、芝居だと思って生きることは、人を重力から解放するよね。これは寺山がずっと取ってきた戦略だと思う。で、それは誰もが本当は採用すべき戦略だというふうに思いますね」。

 それを受けて佐井は「寺山が作った劇団天井桟敷のコンセプトはまさにそれですからね。全員名もなき若者を舞台上に上げて、彼らの自作の詩を読ませたりとかして、全員人生とかそういう社会みたいなものが全て虚構であり、舞台であり映画であるっていうような、今回上映している『勝敗 第一部・第二部』でも例えば将棋の駒を、碁盤を荒野に例えるとかですね、何か競馬を人生に例えるとか、彼はその虚実を行ったり来たりすることによって、生き抜いてきてますよね」。

©TBS

 宮台はさらに「僕は襲撃されて救急車が50分来なかったんで、だんだん出血して死ぬかなっていうふうに思った時に、でもロシアやウクライナではこういうことを経験している人はたくさんいるんだろうなとぼんやり思ったりしていた。つまり、勝ったやつよりも、負けた奴のほうが、病に倒れた奴が、あるいは傷を受けて倒れてたほうが、全体を俯瞰する。例えば死を想うってこともそうですね。死を身近に感じるっていうのは、だいたい負けた奴なんだけど、そのことでいろいろな物事の優先順位が揺るがし揺るがされて、これでよかったのかな?というふうに思うっていうことだよね。だから、さっきから話してきたような寺山のモチーフから言えば、勝った側に肩入れするとか絶対あり得ない。負けた側にしか本当のことは分からない。【本当のこと】というのも、もちろんストーリーだけども」と、自身の経験も交えての寺山論を展開しトーク時間を過ぎても熱心に語った。

©TBS

 また、トーク後もさまざまな質問が飛び交い場内は大いに盛り上がった。

©TBS

TBSレトロスペクティブ映画祭 開催概要

 劇作家、詩人、歌人、映画監督……マルチ・クリエーターとして活躍した寺山修司。テレビ作家としてもその才能を開花させていた。60年の時を経てTBS収蔵の貴重なアーカイブが紐解かれる。時代の寵児として、時に市井の人々と向き合い、時に国家に刃をむけ、彼は何を伝えたかったのか。鬼才・寺山修司、その軌跡を辿る珠玉の5番組、そしてその影響を色濃く受けた令和のドキュメンタリー2作品も上映する。

上映作品ラインナップ(作品解説:佐井大紀)

「あなたは……」(デジタル修復版)(1966年11月20日放送)

©TBS

 メディア史に燦燦と輝くテレビ・ドキュメンタリーの伝説的傑作
 「あなたにとって幸福とは何ですか?」ハンドマイク一つしか持たない素人の女子大生が、まるで機械のように、決められた17の質問を町ゆく人にぶつけていく。フランスの映画監督・人類学者ジャン・ルーシュの「シネマ・ヴェリテ」に影響されたディレクター萩元晴彦が、盟友・寺山と仕掛けた記念碑的作品。デモ隊の先頭、挙式中の花嫁、在日米兵など取材対象はさまざま。しかしなぜだろう、それらの問いは、観客である我々自身に向けられている気がしてならない。

 構成:寺山修司 ディレクター:萩元晴彦 音楽:武満 徹

「日の丸」(HDリマスター版)(1967年2月9日放送)

©TBS

 “偏向番組だ”として政府がTBSを調査、タブー化された問題作
 建国記念の日が初めて施行される2日前、寺山と萩元は『あなたは……』と同じ手法を用いて「愛国心」をテーマに制作したのが本作。「日の丸といったらまず何を思い浮かべますか?」「家庭と祖国のどちらを愛していますか?」といった質問を矢継ぎ早に投げかけていく。放送後には“偏向番組だ”として郵政省がTBSに事情聴取を行った。入社して受けた新人研修で本作に衝撃を受けた私は、拙作『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』を監督するに至る。

 構成:寺山修司 ディレクター:萩元晴彦 

「中西太 背番号6」(デジタル修復版)(1964年7月14日放送)

©TBS

 詩的なナレーションが光るスポーツドキュメンタリーの先駆的作品
 若くして西鉄ライオンズの監督となった天才野球選手、中西太。1964年6月7日、福岡県平和台球場で行われた西鉄ライオンズ対東映フライヤーズ第15回戦の実況中継に、貧困から這い上がった中西の栄光と孤独に満ちた半生を絡ませていく。「プロ野球のスカウトというのは今様の人買いであり、プロ野球の球場は、買われた若者たちの人生を懸けた孤独な劇場なのである」この冒頭ナレーションだけでもう、寺山の仕事だと分かってしまう。

 構成:寺山修司 ディレクター:萩元晴彦

「サラブレッドーわが愛―大障碍の記録―」(HDリマスター版)(1964年10月13日放送)

©TBS

 競馬を愛する寺山が手がけた躍動感あふれる意欲作
 1964年10月11日、千葉県中山競馬場で行われた大障碍レース。フジノオーとタカライジンの対決を軸に、騎手、調教師、厩務員、そしてサラブレッドの人生を描く。リマスターされた映像を観た私は、得も言われぬ感動に打ち震えた。馬の毛並みの美しさ、山本直純が手掛ける劇伴の艶やかさ、そして熾烈なレースを繰り広げるクライマックスの、一切ピントを狂わすことなく競走馬を捉え続けるカメラワークの超絶技巧に。これらのディテールこそが、本作の真価を謡いあげている。

 構成:寺山修司 ディレクター:萩元晴彦 音楽:山本直純

「勝敗 第一部・第二部」(デジタル修復版)(1965年10月5日・12日放送)

©TBS

 寺山の文学性とテレビ・メディア論がぶつかり合った隠れた傑作
 萩元がテレビの“中継性”を見出したという『第一部』。坂田栄寿名人と林海峯八段の第四期囲碁名人戦の模様を4台のカメラと同時録音で収録。最小限のナレーションと両者の表情・手つき・呟きなどから、緊張感漂う現場の時間そのものを伝える。しかし翌週放送された『第二部』は一変、物語は思いもよらない展開を見せ、THE寺山作品へと変貌していく。ヒッチコック『サイコ』のような巧みな構成に貴方も翻弄されるがいい。

 構成:寺山修司 ディレクター:萩元晴彦 音楽:武満 徹

「日の丸~寺山修司40年目の挑発~」(2023年2月24日公開 配給:KADOKAWA)

©TBS

 TBSドキュメンタリー史上最大の問題作が、半世紀の時を経て現代に甦る
 『日の丸』放送から50年後の2017年、 新人研修で本作に出会った私は、メディア論的な実験精神と社会に切り込む挑発性を持った作風に強い衝撃を受けた。「現代に同じ質問をしたら……?」二つの時代を対比させ「日本」や「日本人」の姿を浮かび上がらせようと、私は自ら街頭に立った。さまざまな実験がなされていた60年代をノスタルジックに振り返るのではなく、その普遍的な新しさを後継しテレビが成熟しきった現代に一石を投じる作品を目指した。

 監督・編集:佐井大紀
 出演:金子怜史、安藤紘平、シュミット村木眞寿美、今野 勉
 語り:堀井美香、喜入友浩(TBSテレビ)
 イラスト制作:臼田ルリ

「カリスマ~国葬・拳銃・宗教~」(2023年3月17日公開)

©TBS

「あなたの人生の主役は誰ですか?」取材対象を追わない反ドキュメンタリーへの挑戦
 当初は『エキストラ』というタイトルだった本作だが、“エキストラ”の観察とは不在の“主役”の強調を意味していた。両者のイメージが観客の脳内で共存したとき、自ずと社会構造が立ち上がる。“国葬”をテーマに山上徹也と永山則夫、統一教会とイエスの方舟を比較。一見関係ないモチーフを追うことで本当に追いたい対象を想起させるこの手法こそ、“情報伝達”というジャーナリズムの呪縛から解放された新しいドキュメンタリーの文法であり、寺山的アプローチの後継でもあると信じたい。

 監督・編集:佐井大紀
 構成:寺坂直毅
 出演:千石まさ子、千石 恵
 イラスト制作:臼田ルリ

TBSレトロスペクティブ映画祭の企画について

 昨今「テレビはオワコンだ」とよく聞くが、かく言う貴方は本当の“テレビ”を知っているのか?
 TBSではテレビ黎明期から現在に至るまで、メディア論を根本から問う名作ドキュメンタリーが数多く制作されてきた。しかしそれらの多くは、放送後ほとんど視聴の機会に恵まれず、暗く冷たいテープ倉庫の中で今も静かに眠ったままなのだ。そこで私は独断と偏見でいくつかのフィルムを取り出し、デジタル修復して世に再発表する「TBSレトロスペクティブ映画祭」を企画した。
 第1回は、拙作『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』の原型である『日の丸』を手掛けた巨人・寺山修司特集。フィルムの保存状態によって修復に限界があった作品も少なくないが、作品そのものが持つ熱量と説得力は今でも我々の胸に迫ってくる。故きを温ね新しきを知る……そうこれこそが、自由で可能性に満ちた“テレビ”の本来の姿なのだ! 第2回、第3回の作品選定の合間を縫い、私も大画面のスクリーンで堪能したいと思う。
          TBSレトロスペクティブ映画祭企画 映画監督 佐井大紀

 企画・プロデュース:佐井大紀
 エグゼクティブ・プロデューサー:大久保 竜
 プロデューサー:津村有紀
 テクニカル・マネージャー:宮崎慶太
 製作著作:TBS
 配給:TBS DOCS

オフィシャル・サイト(外部サイト)

TBSテレビ『TBS DOCS』
TBSドキュメンタリー映画の新ブランドが誕生しました。その名は…「TBS DOCS(ティービーエス ドックス)」

  公式X:@tbs_retro

©TBS

(オフィシャル素材提供)

関連作品

スポンサーリンク
シェアする
サイト 管理者をフォローする
Translate »
タイトルとURLをコピーしました