イベント・舞台挨拶

『関心領域』トーク付き特別試写会イベント

@ Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

 オンライン登壇者:ジョナサン・グレイザー監督、ミカ・レヴィ(音楽)、ジェームズ・ウィルソン(プロデューサー)

 第76回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、第96回アカデミー賞®では国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞するなど、世界中の映画祭・賞レースを席巻した『関心領域』が5月24日(木)に公開を迎える。公開を前に5月15日(水)、都内で試写会が開催。上映後にはジョナサン・グレイザー監督、音楽を担当したミカ・レヴィ、プロデューサーのジェームズ・ウィルソンが出席してのZOOMによるオンラインでのQ&Aが実施され、本作への思いや作品に散りばめられた様々な意図が明かされた。

 アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす一家の姿を描くという衝撃作だが、そもそも本作を制作しようと考えた動機について、グレイザー監督は「以前から、いつかホロコーストに関する作品を撮りたいという思いはありました。これまでもホロコーストを扱った作品は多数つくられてきましたが、それらの二番煎じにならないような“何か”を撮りたいと思っていて、この作品では加害者側の視点で見えるものを描ければと思いました。この作品で訴えたいことは『我々は何も学んでこなかったのか?』、『なぜ同じ過ちを繰り返すのか?』ということです。現代とは関係のない80年前を描いた歴史映画を見せるつもりは一切なく、いまの時代に訴えかける作品にすべくフレーミングした結果、こういう作品ができました」と語る。

 映画は冒頭からしばらくの間、真っ暗な闇が映し出され、そこに悲鳴などの音が重なっていくが、音楽を担当したレヴィはこの印象的なオープニングの意図について「一般的な映画では、タイトル・シークエンスでバンっと音を奏で、そこに風景が映し出されるのが古典的なやり方ですが、この作品では特有の意図があって、あのようなオープニングになっています。真っ暗闇が映し出されて、音を聞くというのは奇異な感じがしますが、この作品は目で見る映画ではなく、耳で聴く映画なので、繊細に音に対して耳をそばだててほしいという目的で冒頭、ひたすら音を聴かせているのです。観客の耳が音に慣れることで、サウンドデザインに耳をすますように設計されていて、そこで描かれる“暴力”を目で直接見ることができなくても、耳で感じることができるようにデザインしています」と語り、本作における“音”が伝える情報の重要性について力説する。
 ある観客からは「ロング・ショットが使われたり、近い距離でも俳優の顔に影がかかっていたりして、役者の表情が見えない作り方をされていたように感じ、印象的でした」という感想が出たが、グレイザー監督は「意図的な演出です」とうなずき、その意図について「観客を役者の芝居や映画的な心理によって、(映画に)引き込むことをしたくなかったんです。壁にへばりつくハエのように、登場人物たちをひたすら観察するような作品にしたいと考えました。彼らの行動ややり取り、体の動かし方を見つめてもらうという意図で演出しており、(役者との)批評的な距離を保って撮影しました。何より私自身、監督として役者の“芝居”を見ているのではなく、実在する人物の姿をドキュメンタリー作家として撮っているような感覚でいたいと思っていました」と説明する。
 撮影においては、セットに複数台の小型カメラを設置するという仕掛けを行なっているが、プロデューサーのウィルソンはこの試みについて、「あくまでもこの作品のテーマを描くための方策として用いられたものです。その狙いとは、観客に『いま、この家族がここで生きている』ということ、それを我々が間近で見ているんだという感覚を味わってほしいというものです。そして、その狙いは上手くいったのではないかと思います」と手応えを口にする。

 グレイザー監督、ウィルソン・プロデューサーの言葉にもあるように、本作はまさに現代を生きる人々の視点で80年前の歴史を目撃するような作りになっており、現代もなお続く戦争や紛争、対立への人々の無関心や不誠実な態度への強いメッセージを投げかける作品になっている。グレイザー監督は「我々は、世の中で起きている問題を黙認し、ある意味で共犯関係にあり、安全・安心な領域で過ごしたいがゆえに、本来は対峙すべき問題に対峙せずにいます。この作品では、そんな黙認がどこに行きつくかという極端な例を示したつもりです。この映画を観てくださった皆さんが、(劇中の)野心あふれるブルジョワの家庭の中に、自分自身の姿を見出すことができたなら、それが最終的にどこに行きつくのか、ご理解いただけると思います。頭で考えるのではなく、体でずっしりと重みを感じる作品にしたつもりです。毒入りのフルーツを口にしたような苦み――もう二度と口にしたくない苦みを感じてもらえる映画に仕上げているつもりです」と語り、最後にこれから本作に触れる日本の観客に向けて「我々は、黙認や共犯関係を拒絶する力を持っているということをお伝えしたいと思います」と訴えた。

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ
 5月24日(金) 新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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