
登壇者:長塚京三、瀧内公美、河合優実、黒沢あすか、吉田大八監督
2024年第37回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、東京グランプリ/東京都知事賞、最優秀監督賞(吉田大八)、最優秀男優賞(長塚京三)の3冠に輝いた映画『敵』のプレミア上映会が都内で行われ、舞台挨拶に12年ぶりの映画主演となる長塚京三、共演の瀧内公美、河合優実、黒沢あすかとメガホンを取った吉田大八監督が登壇してクロストークを行った。

本作は、筒井康隆の同名小説を、『桐島、部活やめるってよ』『騙し絵の牙』などの吉田大八監督が映画化。穏やかな生活を送っていた元大学教授 (長塚)の前に、ある日「敵」が現れ、平穏な日常が壊されていく……という様子がモノクロームで描かれる。
東京国際映画祭コンペティション部門での受賞を受けて、キャスト陣の登壇後、長塚と吉田監督にサプライズで花束が贈られた。客席からは拍手がわき起こった。

主人公の渡辺儀助役演じた長塚は、受賞の発表時のことを聞かれ、「ホントにびっくりして、監督と飛び上がりました」と当時を振り返る。長塚は「50年俳優をやってきましたが、この作品が完成して自分の姿を見て、初めて感動しました」と話す。また、「劇中の主人公と自分自身が同世代ということもあって胸に来るものがありました」と感無量な様子で話した。

吉田監督も「撮影は去年の前半くらい。東京近郊の街の小さな家の中でコツコツ作っていた映画が、あんなに華やかな場所で褒めてもらえるなんて。(思いがけない受賞で)『映画には夢があるんだな』って思いました」と受賞の喜びを噛みしめた。

長塚と共演した3人の女性たち。教え子の鷹司靖子役を演じた瀧内は「儀助を慕っている教え子の役です。儀助にとっての理想像のような女性。彼の後ろめたさや、隠蔽したくなるようなことを発現させる女性。監督と相談しながら現場で作らせていただきました」とコメント。

吉田監督は「瀧内さんの役は、原 節子さんをイメージしました。劇中、衣装を着けた瀧内さんの姿にスタッフ一同が息をのみました」と瀧内の見事な変身ぶりを称賛。さらに、吉田監督は「そういえば、瀧内さん、ご自分で、『私はモノクロ映えする』っておっしゃっていましたよね~」と暴露し、瀧内を照れさせた。
瀧内は「モノクロ撮影はカラーと違って、情報量が少ないので、その分こちらが想像力を湧き立てられるなと感じました」と話す。清楚で妖艶な魅力を持つ教え子を熱演。瀧内にとって「今後の自分にとって宝物になる作品」と話していた。瀧内の美しい存在感はぜひ劇場で。

儀助を翻弄する謎めいた大学生・菅井歩美役を演じた河合はオファー時を振り返り、「脚本を読んで、監督の想いが素直に綴られていて素敵でした」と監督に伝えたことを明かす。吉田監督は「映画の成り立ちを気に入ってくれたことで河合さんには、ぜひ出て欲しいと思いました」とコメントした。

儀助の亡くなった妻の渡辺信子役を演じた黒沢は「亡くなった妻の役ということで、監督に幽霊ですか?と聞いたら『普通に演じてください』と言われました」と伝え、気に入っているシーンに儀助との入浴シーン挙げた。「(歳を重ねた)今の私にしかできない役だと思います」と熱くアピール。黒沢は儀助と隣り合わせに座るシーンも印象に残るシーンにあげた。


3人との共演で、長塚は「とても緊張しました。皆さん、力いっぱいぶつかってきて、受け止めるのが精いっぱい……」と素晴らしかったという共演者たちを称賛した。長塚は、吉田監督にも「恵まれた環境でやらせてくれてありがとう!」と感謝を伝えた。

吉田監督は「長塚さんは、それぞれの女性と接するときの表情がみんな違っていて、感動しました」と長塚の名優ぶりに感心しきり。3人の共演者たちも口々に大先輩である俳優(長塚)との共演で「ホントに素晴らしいお芝居に感動しました。豊かな時間が過ごせました」と語っていた。
吉田監督は、最初儀助の役を20年ぐらい前の筒井康隆氏をイメージしていたそうだが、「長塚さんの身体を借りて、脚本を完成させた」と途中からは長塚をあて書きするようになっていたと告白した。
映画のタイトルにちなんで、「今年、自身にとって“敵”とは何だったか」と聞かる場面があり、フリップに河合は、「怠惰な心」と書いた。「“敵”と聞いて思い浮かべたのが、自分のことしかなくて……。怠けたくなる欲求に全然勝てないです。いつも、やるべきこと、優先すべきことになかなかたどりつけない……」と話した。


「わがままなわたし」と書いた長塚は「僕は、ものすごく短気で、どんなことも私がぶち壊してしまう場合が多いので、これからは人にも自分にも優しく、僕も赦しますから皆さんも赦してくださいね」と話した。また、長塚は作品のオファーについて「歳をとり、人生を閉める役はやらなければいけないと思っていました。“来るものが来た”と思い、喜んでお受けしました」と話していた。

他の共演者には、松尾 諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島 歩ら個性派の俳優たちが顔をそろえている。
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ
2025年1月17日(金) テアトル新宿ほか全国公開