
登壇者:丸山隆平、古川 豪監督
MC:竹下梨帆
第3回横浜国際映画祭が5月4日(日)に開幕し、正式招待作品の『金子差入店』が同日、県民共済シネマホールにて上映された。上映後の舞台挨拶には、主演の丸山隆平と古川 豪監督が登壇。映画を観終えたばかりの観客からの質問に答えた。
ファンの大歓声と拍手を浴びて登壇した丸山は、刑務所や拘置所への差入の代行を生業とする主人公・金子真司を演じた本作について「たぶん、自分が出ていなかったとしても、観ていた映画だったと思います」と物語の持つ深いテーマ性への共感を口にし「すごく素敵な、見応えのある作品に出られて光栄です」と語る。撮影について、丸山は「シーンひとつひとつ、カットごとにこちらの状態を繊細に感じ取りながら、丁寧に撮っていただきました」と語り、苦労したシーンや印象に残っている撮影について尋ねると「やっている時は、金子の状態でした。印象に残っていると言ったら、その時、金子の周りにいる家族や被害者、加害者と向き合っている時の、その人たちの佇まいや目が、金子にとって救いになったり、きつい重圧になったりしていたので、そういうものを演者の方たちからいただいていて、そのひとつひとつが印象に残っています」とふり返った。
葛藤し、思い悩み、時に涙する金子の表情が印象的だが、丸山は「理屈っぽくなっちゃうけど、表情を作ろうとすると、ああはならなくて、そういう状態になるとああいう表情になるんですね。でも普通は、自分がいっぱいいっぱいの時の表情やしんどい時の表情なんて、鏡で見ないですよね(笑)? だから僕もスクリーンで見て『こういう表情をしてたんや!?』というシーンが多くて、そういう意味で、ちゃんと金子を生き切れたのかなと思います」と充実した表情を見せた。
この日は、丸山自身と古川監督の要望もあって、映画を観たばかりの観客との質疑応答の時間が長めに設定されており、観客ひとりひとりの質問や感想に丸山も監督も真摯に耳を傾ける。本作が長編初監督作となった古川監督だが、本作には北村匠海さんら、助監督時代に出会った俳優が数多く出演しており、そうした点も踏まえて「今回の主要キャスト11名で、次回違う作品をつくるなら?」という質問が飛び出すと、丸山も「すごい大喜利キター(笑)!」と興味津々。古川監督は「ゴリゴリのコメディですね(笑)」と即答し「丸山さんにもう一度主演してもらいたいですね。寺尾 聰さんが黒幕で、みんなが丸山さんの命を狙うけど、ポンコツ暗殺者ばかりで、何もしてないのに、勝手に失敗して、寺尾さんにクビを切られていくみたいな話ですね。北村さんは最初の刺客で、観客を惹きつけてもらうけど、一瞬で失敗して、寺尾さんにクビ切られます(笑)」と即興でプロットをつくり上げ、客席からは本作とは180度異なる丸山の役柄への期待も込めた拍手がわき起こった。
また、丸山のファンからは、普段から「ペーパードライバー」を公言している丸山に対し、劇中の運転シーンについて「本当に運転されたんでしょうか……?」という質問も。これには古川監督が「してます! が、エンジンがかかっているかどうかは……(苦笑)」と言葉を濁し、丸山は「金子はちゃんと運転します(笑)」と釈明。会場は笑いに包まれていた。
また、金子が車の中で妻(真木よう子)が作ってくれたお弁当を食べるシーンで、「いただきます」と言う前に「ありがとうございます」とわざわざ口にするが、この「ありがとう」があまりにも自然な口ぶりだったため、観客からは「丸山さんのアドリブだったのでは?」という推測も……。丸山は映画全体を通して、どれくらいアドリブがあったかを尋ねられると「全編アドリブです(笑)!」とおどけつつ、「今回の現場は、何が起こるか分かんないし、もちろん演出も脚本もあるけど、セリフがある中で演者さんとの“生”のやりとりをカメラに収めていった感触だったので、ある意味で動きや感情はアドリブでした」と述懐。ちなみに、先述の「ありがとうございます」は最初から台本にあったセリフだったそうだが、古川監督は「あまりに自然ですよね。そこが丸山隆平たる所以でして、本当に恐ろしい俳優で(丸山さんが)何の打算もなく金子真司になる瞬間があるんですけど、それは1回きりなんです。そこを僕らがどうやって捉えるか? 当たり前のようにセリフなんて入っていて、その“先”にいるんですけど、スクリーンで観ていただくと分かりますが、ライブ感の中で感情が爆発しそうになった瞬間は頬が痙攣してるんです。そういうものが出る瞬間、計算にならない最高潮を僕らは必死に捉えていました」と改めて俳優・丸山隆平の凄みを語った。
金子のビジュアルに関して、古川監督は「僕からお願いしたのは、収容されている時の坊主頭だけで、あとは丸山さんにお任せしていました」と丸山自身のアイディアがベースになっていると明かすと、丸山は「(特別なことは)何もしてないです。(劇中の金子は)白髪も出てますけど、“自白髪”です。アイドルの仕事をやっている時は、まめに染めてるんですけど、金子という人間、ああいう職業をしている人が、どういう風貌をしていて、どんな生活をしているか? と考えると、髪を染める時間もないだろうし、お風呂も子どもが髪を乾かす間に自然乾燥するだろうと。(撮影期間中は)私生活でも全身を石鹸だけで洗ったり、化粧水も乳液も使わず、見る方に違和感のない方向を目指してつくっていきました」と述懐。古川監督の「どんどんオッサンになっていった(笑)」という言葉に、丸山は「アイドルに戻るのが大変やった……」と苦笑を浮かべていたが、そんな丸山のプロ意識の高さに会場からは称賛の拍手が送られた。
映画祭の観客のみならず、豪華俳優陣からも熱烈激励コメントが到着。公開に先立って本編を鑑賞した戸田恵梨香、山田裕貴、伊藤沙莉から絶賛の声が寄せられた。伊藤は、「信じたり疑ったりしながら生きていくしかないけど目を逸らさないことが大事なんだとこの映画を観て改めて思った」と本作を受けての気づきを語り、戸田は「強くて儚く、悲しくて優しいその姿が明日からの日常を生きる私たちを勇気づけてくれる」と、本作で描かれている“希望”を自身の言葉で表現。山田は、「僕が今、観るべき映画だった」と大絶賛の嵐。
5月16日(金)の劇場公開を楽しみにお待ちいただきたい。
コメント全文
伊藤沙莉(俳優)
生きていく上で正義とか信念を貫くって何気に難しい
お互いのそれが衝突すると尚更難しい
信じたり疑ったりしながら生きていくしかないけど目を逸らさないことが大事なんだと
この映画を観て改めて思った
戸田恵梨香(俳優)
人は誰しも光と影を持ち、どちらかを選択して生きている。
その日、その時々で人は変わり、脆く、怯えながら生きている。
と、私は感じている。
近頃多様性という言葉が世の中には溢れているが、
多様性という言葉の本質を今作はついているのではないだろうか。
何かを守るために生きる。
強くて儚く、悲しくて優しいその姿が明日からの日常を生きる私たちを勇気づけてくれる。
山田裕貴(俳優)
この作品を覗くと突きつけられる
本当と心は殺されていく
世が社会がルールが人間が
真実を希望を志を砕いてくる
邪魔をしてくる
どうか、どうか
自分のやっていることが
すごいことであってほしい
自分の思うようにしたい
自分の想いは正しい
そう思っている人はたくさんいる
僕もその一人だ
きっとある、暖かい居場所は
生きていれば
僕が今、観るべき映画だった
公開表記
配給:ショウゲート
5月16日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
(オフィシャル素材提供)