イベント・舞台挨拶

『フォーチュンクッキー』トークイベント

© 2023 Fremont The Movie LLC

 登壇者:森 直人(映画評論家)&立田敦子(映画ジャーナリスト)

 米インディペンデント映画『フォーチュンクッキー』が、6月27日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイント、アップリンク吉祥寺ほか全国公開となる。

 フォーチュンクッキーをきっかけに、孤独な女性が新たな一歩を踏み出す姿をオフビートなユーモアを交えて描いた『フォーチュンクッキー』は、ジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキの作品を彷彿させると話題を呼び、第39回インディペンデント・スピリット賞ではジョン・カサヴェテス賞を受賞。映画批評サイトRotten Tomatoesでは批評家たちから98%という高い支持を獲得した注目作。

 日本劇場公開を記念し、6月18日(水)にユーロライブにて、最速上映会を開催。上映後のトークイベントに、映画評論家の森 直人氏と映画ジャーナリストの立田敦子氏が登壇した。

ジム・ジャームッシュ&アキ・カウリスマキ後進の才能を絶賛

 まず立田氏は「こういう映画が観たかった。ジャンル映画が多い中で、こういう小さくてウェルメイドで、心も温まる作品は意外と少ない。誰にでもお勧めできるし、しかも今までありそうでなかったインディーズのかなり尖った作品」と太鼓判を押す。森氏は舞台と、原題にもなっている移民の街フリーモントと、移民の女性が主人公であること、そしてイラン出身で、イギリスで育ったババク・ジャラリ監督について解説し「いろんな地政学が交錯している。それが映画の豊かな奥行きになっていると思います。体裁はアメリカのインディーズだけど、言語は英語・ダリー語・広東語が行き交う。さらにカリフォルニア・フリーモントが舞台だけど、作品の作りとしては、ニューヨーク派っぽい。ジャラリ監督の作品は初めて観ましたが、こんなに面白い監督がいたんだなと思いました」と絶賛。

 立田氏も「私はジム・ジャームッシュとアキ・カウリスマキと一緒に歳を重ねてきた世代ですが、その後進がきちんと育っているんだなと感じました」。それを受け森氏は「印象として近いのはカウリスマキかもしれないですよね。冒頭の工場のシーンから、『マッチ工場の少女』や『枯れ葉』を思わせる労働者の映画。小さい町工場が舞台だけど、画面構成がスタイリッシュなので、制服のワークシャツとか、なぜかおしゃれに見えてくる。あの感じはジャームッシュに通じると思います」とジャームッシュとカウリスマキに通じる魅力を掘り下げた。

移民・難民問題などの政治性を後景に忍ばせる技の鋭さ

 さらに森氏は、「移民というモチーフもカウリスマキ寄りですよね。『ル・アーヴルの靴みがき』『希望のかなた』などは移民・難民の話ですが、『フォーチュンクッキー』では中東情勢という非常に難しい題材の反映がある」と本作が描く社会的な背景を解説。「タッチが違えば社会派の題材ですが、それをモノクロームの映像で、小粋な映画というふうに仕立て上げているのがすごく面白いなと思います。アメリカン・インディーズということで言うと、ジャームッシュはもちろん、アレクサンダー・ロックウェルの『イン・ザ・スープ』など、下町の人情劇の感じもありますよね」。そして2021年のタリバン復権を機にアフガニスタンからアメリカへ亡命した主人公ドニヤのキャラクター造形について解説し、「濃厚な政治性を後景に忍ばせておいて、小さな市井の人々の話に仕上げているのが、技の鋭い映画だと思います」。それを受け立田氏も、「ドキュメンタリーは、真実を必ずしも描かないと思います。むしろフィクション映画だからこそ描ける真実があると思います。この映画はまさにそうですよね。寓話的な話にしていますが、心情としては真実に近いものに寄り添っています。このルックを監督が選んだことの素晴らしさを感じます」とコメント。

カラー時代におけるモノクロ映画の魅力

 話題がモノクローム映画の魅力に移ると、森氏は「モノクロームってそれだけでまず映画的なルックになりますよね。光と影という最小限のエレメントで構成する画面はシネマティックな美しさがある。ジャームッシュが小津安二郎の影響なども受けつつ、そもそも80年代にわざとモノクロで撮ってます。低予算でも洗練されたルックになるし、あとは生々しい題材を扱っても、どこか抽象性や寓話性を帯びますよね。『フォーチュンクッキー』もほぼ社会派的な内容なのに寓話的な、メルヘン調な印象がある。ドキュメンタリーは被写体への加害性があるから映せるものと映せないものが明確に出てきますが、フィクションはそれを補完できる。この映画はまさにそういうことをやっていて、世界の縮図のようにも見える」。

 立田氏は「劇中にチャイナタウンが出てくるけど、チャイナタウンって色が煌びやかですよね。面白いなと思ったのは、その色を見せないことで、人間や感情にフォーカスしている。監督はクラシックなモノクロではなく、カラーがある時代のモノクロにしたかったと言ってます。マイク・ミルズが『カモン カモン』で「都市によって異なるカラーを消したかった」と言っていたのですが、カラーで撮ったものをモノクロに変換するということは色の厚みを大事にしたいからで、それがカラー時代におけるモノクロの表現ですよね。そのニュアンスを汲み取ることが、この作品ではよくできているなと思います」。森氏も「『カモン カモン』のモノクロームのヒントは、ヴェンダースの『都会のアリス』なんですよね。ヴェンダースとかジャームッシュとか、あの辺からわざとモノクロでやる源流があります。その系譜で言うと『フランシス・ハ』がエポックだった気がします。この10年ちょっとくらいで、ジャームッシュが80年代に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『ダウン・バイ・ロー』を撮っていた頃のインディペンデント美学を回復させた気がします」と掘り下げた。

“フォーチュンクッキー”というモチーフに込められた本作のテーマとは

 森氏は「ひとつはチャイナタウンという地理性を込めたかったんだと思います。あとは偶然性ですよね。そのおかげでボーイ・ミーツ・ガールの物語になる。カウリスマキもじれったい恋の物語を描きますよね」とコメントすると、立田氏も「その慎ましさがこの作品のキーワードですよね。工場長がフォーチュンクッキーの占いメッセージを書くコツを“美徳は中庸にあり”と言いますが、そのセリフが心に響きました。地道に生きている人たちのラブ・ストーリーに、監督が込めた真髄があると思いました」。森氏も「市井の人々の日常の物語のなかに、濃厚な政治性が詰まっている。それを中庸ということで、軽やかにまとめています。アンチ・アメリカン・ドリームですよね」と語った。

 最後に大人気ドラマ・シリーズ『一流シェフのファミリーレストラン』で一躍有名になり、若き日のブルース・スプリングスティーンを演じることでも話題のジェレミー・アレン・ホワイトや、劇中歌「Diamond Day」の伝説的なシンガー・ソングライター、ヴァシュティ・バニヤン、そしてジャック・ロンドンの「白い牙」など、本作に散りばめられた小ネタについても「掘っていくといろいろな文脈が見えてくる。掘りがいがある作品なので、細かいところもチェックしてほしい」と紹介し、トークを締めくくった。

公開表記

 配給:ミモザフィルムズ
 6月27日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイント、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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