イベント・舞台挨拶

『突然、君がいなくなって』特別トークイベント

© Compass Films , Halibut, Revolver Amsterdam, MP Filmska Produkcija, Eaux Vives Productions, Jour2Fête, The Party Film Sales

 登壇者:SYO(物書き)

 第77回カンヌ国際映画祭ある視点部門のオープニング作品に選出されたアイスランドの俊英ルーナ・ルーナソン監督の最新作が『突然、君がいなくなって』(英題:When the Light Breaks)の邦題で、6月20日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。

 公開するやいなや、「こんな映画が観たかった」「感想を語り合いたい!」と絶賛、そして余韻に浸る声が後を絶たない本作。なぜこんなにも私たちの心をざわめかせながら、観終わるころにはその美しさで気持ちを浄化してくれるのか――。7月9日(水)にライターのSYOをゲストに迎え本作の魅力を語りつくす、特別トークイベントが開催された。

 SYO:この作品のポスターを最初に見たときに綺麗な映画なんだろうなと思って、邦題も気になったので拝見しました。
 映画全体がすごく喪失を抱えて、涙をこらえているような感じがあって、すごく私小説的な要素もありますよね。
 映画って1人で作るものじゃないじゃないですか。 僕のように文章を書くのは1人でもできるけれど、撮影監督や俳優さん、衣装部、美術部に“こういうことをやりたいんだよね”と話をして、ここまで個人的な話を映画にできることすごいなぁと思いました。いわゆる誰でも共感できて誰でも泣ける、という話ではなくて、非常に当事者性の強い物語。この作品に出てくるくらいの年の子たちが喪失を経験した時にどうなるかっていうようなことを、 あの頃のまま描いてくれていると感じましたね。

 MC:まさしく監督もインタビューで、ご自身が描いているものは個人的な経験をもとに描かれていると言及されています。

 SYO:正しさを押し付けるような映画ではないですよね。恋愛を描いている映画は、自分自身が持っている恋愛に対する価値観と照らし合わせて見ちゃう、というのが面白いところだと思っていて、この作品を観たときも“あれ、彼氏クズじゃね?” とちょっと思ってしまったわけですよ。ですが、観ている側の個人の信念とか心情とかが出てきてしまうっていうのは、それだけ解像度高く、生きた人物として彼らがここに描かれているということでもあるので、監督がそう言及したのは非常に納得できますね。
 (セリフの少なさに関して)余白を大事にする作品というのは、映画を観る側が能動的にキャッチしに行かないといけないというところもあるので、そういう意味ではお客さんを信頼しているんだなと思いました。驚いたのは、ディッディが同時に二人と付き合っていたということがお互いに分かるシーンすら、セリフで出さない。
 非言語であるということは、言語の壁に縛られずに届けることができるということであって、そういう意味で、遠く離れた日本の、僕ら観客のことも信じてくれてるんだろうなと感じますね。
 あとはアイスランドと日本で、どこかこう、人間関係とか奥ゆかしさとか、その中にある情念とか、ひょっとしたら共通するものがあるのかなとも思います。

 MC:若者をここまでリアルに描いていながら、監督自身は48歳で、もしかしたら本編に登場するお父さんに近い感覚を持っているかもしれないですね。ティーンのお子さんもいるので。

 SYO:そこで若者の生活をリサーチしているかもしれないですね(笑)。僕は小さい娘がいるので、ウナのお父さん側と、あの主人公たちのちょうど中間くらいにいるんです。また時を経て10年後とかに見たら完全にお父さん目線で見ちゃうかもしれないし、恋人を失った家族の気持ちで見てしまうかもしれない。

 MC:本作は、ウナやクララだけでなく、身近な人を失った仲間たちが寄り添いあっている姿が描かれているところも印象的ですよね。喪失を描いた作品で連想される作品はありますか?

 SYO:同じ北欧の映画でいうと、今年の初めに公開された『アンデッド/愛しき者の不在』(2025)の喪失の描き方は素晴らしいと思ったし、本作とどこかしら通じるところもあるような。あとは『アフターヤン』(2021)っていう僕がすごく好きな作品。アンドロイドと一緒に暮らす家族の話で、ある日アンドロイドが故障してしまったときに、家族全員の中にこう喪失が広がっていくっていうような展開で、ラスト・シーンも本作と似ていますね。『CLOSE/クロース』(2022)や『対峙』(2021)、『A GHOST STORYア・ゴースト・ストーリー』(2018)なども。喪失っていうものとある意味、物悲しさって、割とリンクするようなところがあったりするので、本作をお好きな方だったら、今挙げたような作品は割とムードが近いんじゃないかなと思いました。

 MC:会場の皆さん、もしまだ観ていなかったら、観たい映画リストが今更新されましたね(笑)。
 北欧、ことレイキャビクについていうと、映画に出てくるハットルグリムス教会という教会がレイキャビクの代表的な名所で、緊急支援センターとして出てくる建物は普段コンサートとかライブとかやってるハルパという施設で。アイスランドに行かれたことがある方は、分かるような場所ばかりで、ロケ地を回ったらそのままレイキャビク観光ができます。

 SYO:ロケ地にも、すごくこだわりを感じますね。北欧映画が好きな理由って、美しい映像の中に、めちゃめちゃ残酷なものがあるっていう、そのコントラストが好きな方が結構多いと思います。 多分この作品も中に渦巻いている情念みたいなものが、きっとそこに合致するんだろうなと。

 MC:先日久しぶりにこの作品をスクリーンで観たのですが、冒頭、そしてラスト・シーンを観ながらやっぱりスクリーンで観るべき!と思わされました。

 SYO:世界的にみても、いろんな国の映画をここまで劇場で観られる国って、とても稀。この文化を本当に継いでいきたいですよね。劇場で映画を観る体験っていうのが、どんどんどん遠ざかっていってるんじゃないかとすごく思います。僕は福井の田舎の出身だったので、金沢のシネモンドまで行って何ヵ月かに一回、母と一緒に一気に観るみたいな。東京に来てそれこそ最初に来たミニシアターがここ(新宿武蔵野館)なんです。こうやって来てくださったお客さんのお顔を見るとると、“あ、俺ら1人じゃないんだ”って思います。

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国公開中

(オフィシャル素材提供)

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