
登壇者:菅野美穂、⼩松莊⼀良監督
“魂のピアニスト”フジコ・ヘミングのその⽣き様と美しい⾳⾊が刻まれた最後のドキュメンタリー映画、『フジコ・ヘミング 永遠の音色』(10/24公開)のプレミア上映会舞台挨拶を10⽉7⽇(⽕)にヒューマントラストシネマ渋⾕にて開催。上映後の舞台挨拶に、本作のナレーションを務めた菅野美穂と、12年間フジコ・ヘミングを追い続けた⼩松莊⼀良監督が登壇した。
映画上映後、⼤きな拍⼿に迎えられてステージに登壇した⼩松監督は「この映画はずっとフジコさんや、フジコさんをずっと⼤好きでいてくれた⽅に向けてつくろうという気持ちでやってきたので。今⽇、映画を観終わった後の皆さんのお顔を⾒るのは本当にうれしいこと。どこかでフジコさんも⾒てくれてるんじゃないかなと、先ほど菅野さんとも話していました」と挨拶。
続いて菅野が「わたしはかつてフジコさんの⼈⽣を描いたドラマで主演をさせていただいたことがございまして。フジコさんの⼈⽣に触れて、本当に唯⼀無⼆の素晴らしい⽅だなと思っていたんですけれども、こうしてナレーションという形でまた作品に関わらせていただけたこと、本当にうれしく思っています」と切り出すと、「ナレーション録⾳の当⽇は、偶然にも渋⾕でフジコさんの⾐装展⽰をやっていたんです。なので、そこでフジコさんの⾐装を拝⾒してから、スタジオでナレーションを録りました。またこの渋⾕の映画館で皆さんに観ていただけることが、なんだか運命のようにうれしく思います」としみじみと語った。
さらに完成した映画について菅野は「フジコさんの⼈⽣は、すごく困難もあったと思いますが、それでもピアノに向き合うことをやめずに続けられました。それはやはり、ひとつの芸にまい進する⽅だからこそ到達できる境地で。だからこそ本当に優しく、柔らかな⾳⾊だと思うんです。こうして映画でまたフジコさんの演奏に触れられるというのは、本当に素晴らしいこと。わたしも改めてフジコさんのピアノの素晴らしさに元気をいただきました」と語る。そしてそんなフジコの⼈柄については「少⼥のようでありながら、気難しい⼀⾯もお持ちで。つかみどころがないようでいて、ハッキリと断⾔するようなところもある。相反するものを内⾯に抱えているからこそ、あの⽟⾍⾊のような⾳⾊が⽣まれるのかもしれません」と分析してみせる。

本作は、⼩松監督が約12年間にわたってフジコ・ヘミングを追い続けたからこそ撮れた、彼⼥の素顔に迫ったドキュメンタリー映画。最初の出会いを「最初は廊下の向こうから、キャッ、と顔を隠されるような、少⼥のような⽅でした」と振り返る。また撮影に際しては「本⾳の部分を残したかった」とのことで、そのため、なるべく⾃然体であることや、⽇常の暮らし、⽇常の何気ない会話を映し出すことに注⼒した。「撮影の⽇は出会ってから別れるまでカメラを回しっぱなしにしていました。そうすると素材はどんどん増えてしまうんですけれども、その中に真実があるような気がしたので。結果的に12年間、フジコさんを⾒つめることができて。たくさんの素晴らしいシーンや、フジコさんの本⾳の⾔葉が撮影ができたかなと思います」。

そんなふたりの関係性に菅野も「映画を拝⾒して、フジコさんの⼩松監督に対する信頼をすごく感じました。やはりたくさんの⼈に囲まれてたからこそ、⼈の本質を⾒つけたんじゃないかなと思うんです。傷ついたこともおありだったと思いますが、そんな中でも⼩松監督の前では本⾳を語られていて。こういう出会いがあったのはフジコさんにとってもすてきなことだったと思うし、やはり芸を極めてらっしゃる⽅のお⾔葉は、広く私たちにも『ああ、そうだな』と思えるものがあるし、ハッとさせられました。(苦難を)乗り越えていらしたからこその先輩の⾔葉に、私も学びをいただきましたし、きっと他の⽅ではその⾔葉を引き出せなかったんじゃないかなと思いました」と感⼼した様⼦。
今回はアーティストのドキュメンタリーであるため、ナレーションによる余計な説明は極⼒排除し、フジコの⾔葉と⽇記、そして彼⼥の演奏で映画を語ることを⽬指したという⼩松監督。「少し説明不⾜なところも、お客さまの中で余⽩として感じてほしいなと。『きっとこうなんじゃないの』『わたしもこういうことがあったわ』みたいに感じてほしいなと思ってつくりました。だから何度も観てほしいですし、今回菅野さんに絵⽇記を読んでいただけたということが僕にとってはすごく重要でした。何⼗年も前に書いた、特に40代の苦しい時期の、その時のつらい思いなどを彼⼥なりのエンターテインメント、ファンタジーの中に閉じ込めているんです。すごく寂しい、ひとりぼっちのクリスマスなのに、絵本を⾒るかのような、おとぎ話のような情景で描ける。これを何⼗年もたった今、菅野さんに読んでいただいたことで、⾔葉の息遣いや、フジコさんの思いが伝わってきて。スウェーデンの雪景⾊が頭に浮かんだんですが、そういったことが本当に感謝でした」。
そんな菅野のナレーションは、フジコ⾃⾝の思いもあったという。「実は制作中に『ここの⽇記はナレーションにしようと思っています』とフジコさんと話していて、『菅野さんがいいんじゃない︖』というんです。『でもお忙しいから』という話はずっとしていたんですが、今回それがかなったことで、喜んでいただけたかなと思います」と明かした⼩松監督。
菅野もフジコに何度か会ったことがあったという。「本当に数少ない機会ではあったんですけれども、ドラマの撮影中に、ベルリンのフジコさんのご⾃宅にご挨拶に伺ったことがありました。映画の中でも、何度もフジコさんのおうちが出てきてますけど、本当に絵本の中のおうちのようで。緑に囲まれていて、猫がいて、フジコさんの好きなものがたくさんあって。本当に少ない、気を許した⼈が近くにいてというようなところで、ご挨拶させていただきました」という菅野の思い出話に、⼩松監督も「ベルリンで会うのは本当に珍しいですよ」と⾔い添えていた。
ピアニストとして第⼀線で輝いた⽣き⽅をしてきたフジコ同様に、⼥優としてキャリアを積み輝いた⽣き⽅をしている菅野に「輝くために⼤切にしている秘訣は︖」という質問が。それには「フジコさんを拝⾒して、⾏きたいと思ったところに⾏ったり、遠くに⾏くことは⼤事なんだなと思いました。今いる⾃分の場所も⼤事なんですけれど、価値観をリフレッシュしてくれるというか。⾃分の中の⾵通しが良くなる気がします。今はまだ子どもに⼿がかかる時期なので、思うように旅⾏ができないんですが、旅するように⽣きて、旅するように演奏していたフジコさんのように、私も時が来たら旅を再開したいなと思います」コメントした菅野。ちなみに今、⾏きたいところのひとつはウユニ塩湖とのことで、「ペルーのマチュピチュに⾏った時には、⾼⼭病があるよと⾔われて⼼して⾏ったんですけど、その時は短い滞在だったこともあって万全な体調では臨めなかったので。そういった意味も込めて、次はウユニ塩湖に。元気なうちに⾏きたいなと思います」と決意を語った。
そんなイベントもいよいよ終盤。最後のメッセージを求められた菅野は「フジコさんの演奏をスクリーンで⾒ることができる機会なので、ぜひいい椅⼦の劇場でご覧いただければと。フジコさんの『ラ・カンパネラ』や『⽉の光』といった代表的な演奏を堪能できる映画です」と語ると、⼩松監督も「映画は昔から100年残ると⾔われていて。この映画を撮っている時もフジコさんと『これを未来に残したいね』といって、⼀緒につくってきました。これで皆さんがいつでもフジコさんに会えるような形にできたかなと思っています。それともうひとつ、実はフジコさんは1930年代の⾳⾊を⽬指している⽅だったので、それを今の時代の映像と⾳響で聴けるというのは、なかなかないことで奇跡だと思う。そのあたりも楽しんでいただけたらなと思ってます。さらにパンフレットも頑張ってつくりました。フジコさんの思いも⼊れているので、また劇場で再会していただけたら」と会場に呼びかけた。
フジコ・ヘミング プロフィール
⽇本⼈ピアニストの⺟とスウェーデン⼈デザイナーの⽗を両親としてベルリンに⽣まれる。⽗と別れ、東京で⺟の⼿ひとつで育ち、5歳から⺟の⼿ほどきでピアノを始める。東京藝術⼤学を経て、28歳でドイツへ留学。ベルリン芸術⼤学を優秀な成績で卒業。その後⻑年にわたりヨーロッパに在住し、演奏家としてのキャリアを積む中、レナード・バーンスタインほか世界的⾳楽家からの⽀持を得るが、⼤事なリサイタル直前に聴⼒を失う。失意の中、スウェーデンやドイツ各地に移住し、ピアノ教師をしながら、欧州各地でコンサート活動を続ける。1999年リサイタルとNHKのドキュメント番組が⼤反響を呼び、デビューCD「奇蹟のカンパネラ」をリリース。クラシック界異例の⼤ヒットを記録した。⽇本ゴールドディスク⼤賞のクラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤーを4回受賞。2018年、フジコのワールドツアーに密着した映画『フジコ・ヘミングの時間』が異例のロングラン・ヒット。第22回上海国際映画祭で上映のほか、アジア、カナダ、中東、ロシア圏など、海外でも公開された。2021年には⾃⾝の選曲によるオールタイム・ベストアルバム「COLORS」を発売。⾃分を信じて努⼒を続け、あきらめることなく夢を追う姿が多くの⼈を勇気づける。猫や⽝をはじめ動物愛護への関⼼も深く、⻑年チャリティー活動を続けていた。2024年4⽉21⽇、92歳で旅⽴つ。
菅野美穂 プロフィール
1993年、TVドラマ「ツインズ教師」で⼥優デビュー。NHK連続テレビ⼩説「⾛らんか︕」(95)、連ドラ初主演作「イグアナの娘」(96)で注⽬を集める。03年、スペシャルドラマ「フジ⼦・ヘミングの軌跡」でフジコを熱演。⾼視聴率を獲得し話題となる。以降、数々のドラマ・映画・CMに出演し、⼈気・実⼒を兼ねそろえた国⺠的⼥優である。
代表作に『Dolls(ドールズ)』(02)、『パーマネント野ばら』(10)、『ジーン・ワルツ』(11)、『奇跡のリンゴ』(13)、2016年TVドラマ「砂の塔〜知りすぎた隣⼈」、『明⽇の⾷卓』(21)、2023年TVドラマ「ゆりあ先⽣の⾚い⽷」、『ディア・ファミリー』(24)、『近畿地⽅のある場所について』(25)など。
⼩松莊⼀良(こまつそういちろう)監督 プロフィール
ロサンゼルス⽣まれ、広島県呉市で育つ。⼤阪芸術⼤学映像学科在学中より⾃主映画製作で注⽬され、映画『Heart Breaker』で映画監督としてデビュー。おもに⾳楽やストリートダンスをモチーフにした作品をテーマとし、ドラマの他にもドキュメンタリー、ミュージック・ビデオ、ライブ映像など幅広いフィールドで活動を続ける。吉川晃司、藤あや⼦、安室奈美恵、DA PUMP、ケイティー・ペリーなどの⾳楽映像を⼿掛けるほか、2024年、WOWOWで世界配信された、新しい学校のリーダーズの初武道館ライブ『⻘春襲来』を監督し、第14回衛星放送協会オリジナル番組アワードにてグランプリなど2冠を受賞。2025年、劇場公開されたAdo×新しい学校のリーダーズ×YOASOBI『matsuri’25: Japanese Music Experience LOS ANGELES』で総合演出を務める。⼀⽅で、世界的⼈気のピアニスト、フジコ・ヘミングの映像やコンサートの演出も⻑年⼿掛け、企画・監督したドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』(18)が感動を呼び異例のロングラン・ヒットとなった。⺟校・⼤阪芸術⼤学映像学科では客員教授も務める。
公開表記
配給:⽇活
10/24(⾦) ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
(オフィシャル素材提供)