
登壇者:石川 慶監督、モモコグミカンパニー
映画『遠い山なみの光』スペシャルトークイベントが10月13日(月・祝)、都内で行われ、メガホンをとった石川 慶監督と元BiSHで小説やエッセイなど文筆業でも活躍しているモモコグミカンパニーが出席した。
ノーベル賞受賞作家カズオ・イシグロの長編小説デビュー作品「遠い山なみの光」を、日本アカデミー賞受賞監督の石川 慶が実写映画化した本作。1950年代の長崎と、1980年代のイギリスを生きる3人の女たちの知られざる真実に涙溢れる、感動のヒューマン・ミステリーとなっており、1950年代の悦子を広瀬すず、悦子が出会った謎多き女性・佐知子を二階堂ふみ、1980年代の悦子を吉田 羊がそれぞれ演じている。
本作を数回鑑賞し、映画公開時にも作品への深い考察と熱い想いを語っていたモモコグミカンパニーは、石川監督の他作品も何作か見たそうで「寒色寄りでクールな質感で、不穏な感じが常に流れている映画が多くて、めっちゃ怖い人だったらどうしようって思っていたんですけど(笑)、お会いしたら、まだ分からないですけどめちゃくちゃ柔らかい方で、とっても安心しました」と胸を撫で下ろすと、石川監督は「表向きは柔らかいけど……(笑)」と微笑みを浮かべ、モモコグミカンパニーは「そういう方が1番怖いですよね(笑)」と苦笑した。
改めて、最初に本作を観た際の感想を求められたモモコグミカンパニーは「最初は原作を読まずに観たんですけど、完全に騙されたって思いました」と打ち明け、「2人の女性(悦子と佐知子)が同一人物とは思わなかったので、そこで1回衝撃を受けて、ほかの記憶が飛んじゃって(笑)、2回目は、これは1人の女性の反省と葛藤を描いたものなんだと冷静に見たら、また見方が変わりました」とコメント。

石川監督の元には悦子と佐知子に関してさまざまな質問が寄せられているそうで「いろんな解釈をされる方がいらっしゃるんですけど、女性と男性でも受け止め方が違う感じがしましたね」と感触を明かすと、モモコグミカンパニーは「確かに『女性はもっと目覚めなきゃ』というセリフだったり、最後の最後のセリフが刺さりました。物語のエンディングのところ、(80年代の悦子の娘の)ニキと悦子が帰り支度をしているときに、『結婚・出産以外は特に何もないじゃない』みたいなことを言っていて、自分自身もそこで葛藤しているなと思って、それ以外に大きいことって自分の人生であるんだろうかと、うまく言語化できないんですけどそこは共感しましたね」としみじみと語った。
これに、石川監督が「50年代の女性たちが抱えている問題も、80年代の女性たちが抱えている問題も、自分たちが今、直面しいていることと大して変わらないというか、少しずつ前進はしているけど、と海外の女性の方から感想をいただくことが多いです」と明かすと、モモコグミカンパニーは「カズオ・イシグロ作品って回想の作品が多いなと思っていて、今回の作品も過去にはいろんな自分がいて、一貫していないのが人間だよなって思いました。佐知子みたいな自分もいるし、悦子みたいな自分もいて、別人格がたくさんあるのが人間らしさだよなとすごく感じました」とコメントし、石川監督は「それすごく嬉しい感想です。ここで話している自分と、家に帰って家族といる自分って違うじゃないですか。でも今って人格は1つじゃなきゃダメだよねって感じになっているけど、いろんな自分を認めてあげられると、いろいろと生きやすくなるよねっていうことを前回の作品で扱っていて、今回も近いところがあって、最近の女性の生き方ってエンパワーメントで、子どもも大事で夢も大事で、でも現実ってうまくいかないこともあるじゃないですか。その辺をちゃんと受け入れつつというのがこの原作にあって、そういう思いで作っていたので、今の感想を嬉しかったです」と笑顔を見せた。

また、モモコグミカンパニーから「カズオさんの作品と、石川監督の作品って、観ている人に余白を委ねるところがすごく似ているなと感じて、今回、作品を作るにあたってカズオさんにオファーしたと思うんですけど、そういうシンパシーを感じたりしたんですか?」と質問された石川監督は、「ノーベル賞作家にシンパシーを感じるって恐れ多いんですけど(笑)」と恐縮しつつ、「イシグロ文学って最後に1〜10まで全部分かるってものではないじゃないですか。自分も、あとを引きずりながら映画館を出て、その後にご飯を食べたりする時間を含めて映画を完結してほしいなという思いがいつもあるので、そういう意味では共通していると言ったらおこがましいんですけど」と回答。
これを受け、モモコグミカンパニーは「久々にいい意味で分かりづらい文学的な映画を観たなって思って、衝撃を受けて後ろ髪を引かれるというよりも、もっと人間的な深い部分で自分に問いを投げかけられているような感じで。観たあともずっと考えちゃったり、2・3回目は映画館で観たんですけど、メモ帳を持参して(笑)、ここはこうなんじゃないかって書き留めながらじゃないとうまく自分の中で消化がしきれないくらい深い作品だなって感じました」と目を輝かせた。
イベントでは、観客とのQ&Aも行われ、編集をする際に苦労したことを聞かれた石川監督は「今回はいろんな国の人たちが関わっているので、ラストのバランスみたいなものも全然違って、日本ではこれくらいだろうと思ってイギリスとポーランドのプロデューサーに投げてみると、イギリスのほうはもっとはっきりと分からないとダメだって言うし、ポーランドのほうは回想のフラッシュバックは全部抜いて、もっとぼやっとしたほうがいいって言うし……」とエピソードを明かすと、モモコグミカンパニーは「へー!」と思わず声を漏らし、石川監督は「お国柄だけではなくて、今ここにいるお一人おひとりでも全然違うと思うんですよね。最終的にカズオさんに言ってみたら、カズオさんは『これはあなたの映画だから、最終的にはあなたがこれだというものを支持します』と言ってくれて、今の形になりました」と告白。
続けて、石川監督から「ちなみにモモコさんは、ラストはもうちょっと明瞭なほうがよかったですか?」と尋ねられたモモコグミカンパニーは、「私は……勝手なことは言えないんですけど、これがカズオ・イシグロ作品の小説を読んでいるときとの差があまりないなって感じました」と吐露し、「映画館を出たあとも後ろ髪を引かれてしまう感じというか、エンドロールですごく考えさせられるなという感じでした」と返答した。
また、佐知子はアメリカに行きたがっていて、実際に悦子はイギリスに行ったが、その違いに意味はあるのか質問されると、石川監督は「カズオさんの原作を読んでいたときも、悦子と佐知子が厳密なイコールで結ばれていたわけではなくて、時空を超えて重なって見える感じというか、逆に全部一緒じゃないほうがいいなって思ったところもあって、悦子が佐知子でしたってだけじゃなくて、娘のニキとかも同じような問題を抱えているし、実は女性たちの物語だとも言える気がして、その人たちが遠い山なみみたいにぼやっと重なってきて、最終的にスクリーンの前の2025年の自分たちにも重なってくるといいなと。そういうふうに小説を書かれていると自分も思っていて、ギミックとして“この人がこの人でした。びっくりしました”という話では全然なくて、自分たちに投影できるような仕掛けにするためにも、少しずつずらして、山がぼやっと重なっているような形にしたいなと思ったところで、アメリカ・イギリス、それ以外にも微妙に違う点はあったと思うんですけど、もう1回観る機会があったら、探っていただけたら嬉しいです」と意図を明かした。
さらに、自身も小説とエッセイを出版しているモモコグミカンパニーは、自身の作品の映像化に対する考えを聞かれると「映像化ってしようと思ってできるものではないんですよね……」と遠くを見つめつつ、「あとで言おうと思ったんですけど、私、BiSHが解散の時期に『悪魔のコーラス』というサスペンスものを初めて書いたんですけど、監督の作品を拝見してぜひ読んでいただきたいと思って自分の本棚から見つけ出して今日持ってきたんです。さっきメイクをしているときにリュックを開けて、どんな小説だったっけって見返そうと思ったら中身が白紙だったんですね……。やっちまったなと思って。見本本でした(笑)」と明かして会場の笑いを誘い、「こんな人生です……」と肩を落としたが、石川監督は「買います」と優しく声をかけた。
戦後80周年となる2025年の夏にスクリーンに描かれるこの物語は、終戦間もない長崎という、まだ過去にしきれない「傷跡」と、未来を夢見る圧倒的な「生」のパワーが渦巻いていた時代を生き抜いた女性たちの姿を鮮明に描き出す。先の見えない時代を生きる私たちに前へ進む勇気をくれる、感動のヒューマンミステリー『遠い山なみの光』は全国絶賛公開中。ぜひ劇場でお楽しみいただきたい。
<石川 慶 プロフィール>
愛知県出身。ポーランド国立映画大学で演出を学ぶ。『愚行録』(17)が、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に選出されたほか、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞など受賞。『蜜蜂と遠雷』(19)では、毎日映画コンクール日本映画大賞、日本アカデミー賞優秀作品賞など受賞。2021年には、世界的な SF作家であるケン・リュウ原作の『Arc アーク』を監督。『ある男』(22)は、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門、釜山国際映画祭ではクロージングに選出され、日本アカデミー賞で最優秀作品賞含む最多8冠を飾るなど、国内外から大きな注目を集めた。
<モモコグミカンパニー プロフィール>
2015年、BiSHのメンバーとしてデビュー。2016年1月メジャー・デビュー、楽曲の作詞を手掛ける。2023年6月29日、東京ドーム「Bye-Bye Show for Never」をもって解散。
グループ在籍中の22年に小説家としてデビュー。現在も音楽活動や、作家としての執筆活動など多岐にわたって活動中。
公開表記
配給:ギャガ
大ヒット公開中!
(オフィシャル素材提供)
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