
登壇者:シム・ウンギョン、堤 真一、河合優実、髙田万作、三宅 唱監督
第78回ロカルノ国際映画祭で最高賞となる金豹賞とヤング審査員特別賞のW受賞した映画『旅と日々』のプレミア舞台挨拶が都内で行われ、シム・ウンギョン、堤 真一、河合優実、髙田万作と三宅 唱監督が登壇してクロストークが行われた。

本作は、つげ義春のマンガ「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」が原作。行き詰まった脚本家・李(シム)が、旅先のおんぼろ宿で“べん造”と名乗る宿主(堤)と出会い、人生と向き合い、前に向かって一歩を踏み出していく様子が描かれる。
今年8月にスイスで開催された第78回ロカルノ国際映画祭で最高賞となる金豹賞とヤング審査員特別賞のW受賞を手にした。金豹賞の受賞は日本映画では18年ぶりの快挙となった。
三宅監督は「この映画は登場人物同士が協力をするわけでもなく、それぞれの人たちの話。それぞれが主人公の映画だと思っています。今日は4作品分の舞台挨拶をさせてもらっているような気分です」とキャストたちに目をやりながら挨拶。
脚本家の李を演じたシムは「オファ―をいただいて『ほんとですか?』と何度も聞きました。三宅監督作品が大好きで、作品に出演するのが夢でした」と興奮気味に話す。また、「脚本を読んだとき、私の話じゃないかと感じるくらい親近感がありました。運命を感じました」と伝える。さらに、「三宅監督の作品で『ケイコ 目を澄ませて』が大好き」だと明かし、「いつか三宅監督とご一緒できたらと思っていました。とても光栄です」と話した。

宿主を演じた堤は「べん造は山形の庄内弁をしゃべります。関西人の僕になんでオファーが来たのかなと。東北弁は初めてなのに監督から『ガチでやってください』と言われ、方言テープをもらって自分のセリフを(必死で)勉強しました」と苦笑い。また、堤は「監督の作品は嘘っぽいことがないというか、全部リアルに感じて、『どうしてこんなことができるんだろう』って。それに応えるのは大変だな、と思いながら、自分の中では“チャレンジ”、そういう気持ちでした」と仕事へ向かう姿勢について話した。

ナギサを演じた河合は「監督のファンでした。この作品が終わって、もう一度三宅監督とご一緒することが目標になりました。それくらい(三宅作品への参加は)特別な意味があります」と話した。

ナツオ役を演じた髙田はオーディションで役を射止めた。「大きなチャンスだと思い挑戦しました。僕の人生にとって大きな節目となる作品です。作品の一部になれて、幸せでした」と話した。

三宅監督は、本作の原作となっているつげ義春のマンガについて「好きだと言うのがおこがましいくらい、すごいマンガです。大学生の頃に初めて読みました。つげさんのマンガには1コマ1コマに驚きがあります。その驚きが連鎖していく感じは、映画で表現できたら面白いだろうと思っていました」と話した。
好きなシーンや印象に残ったシーンについて聞かれたシムは「全シーン大好きなのですが……」と前置きしてからと「ラスト・シーンが特に好き。べん造(堤)と李(シム)のやり取りで何が起きるか、ぜひ観てほしいです。届けたいメッセージが込められています」と話した。
堤は「風景の描写が入るのですが、奇跡的で素晴らしい」と伝える。どのシーンからも目が離せない。
河合は「夏と冬、2つの季節が登場しますが、自然に触れる感覚がとても豊かです。登場人物たちが自然をどういうふうに捉えているかが伝わってきます」と話した。
髙田が「どのシーンも愛しくて大切ですが、自分が演じたナツオは可哀想な目に遭うことが多くて……(笑)」と苦笑しながら伝え、周りに笑いを誘った。監督は同情を誘う髙田の発言に大笑いだった。
ロカルノ国際映画祭で最高賞となる金豹賞とヤング審査員特別賞のW受賞をした本作だが、ここで受賞トロフィーが登場。監督は身近に置きたいと思い、自分のリュックに入れ、しょって帰ってきたと明かす。手にしてその重みを実感するキャストたち。
三宅監督は「画面には映っていない数多くのスタッフの力によって出来あがった作品なので、そういった働きを含めて認められたことが嬉しかった」と喜びをかみしめる。

三宅監督や河合と一緒に映画祭に参加したシムは「受賞を知ったとき、河合さんは泣いてましたよね? 私も大感動でした。夢のような感覚でした」と述懐。
シムの言葉を受けた河合が「受賞を聞いたときはびっくりして、大きな声が出てしまいました。恥ずかしくて、泣いたことは記憶から消したかもしれません(笑)」とにっこり。

トロフィーを手にした堤が「監督のリュックの匂いがする」とジョークを飛ばし会場に笑いを誘う。

最後に、三宅監督は受賞について、「本当に嬉しいです」としみじみ。そして「作品を心から楽しんでほしい。観終わってからつげ義春氏のマンガも読んで欲しいです」。髙田は「夏と冬、ふたつの季節、それぞれの美しさがある映画です。楽しんでください」。河合は「初号を観た時から好き。いろんな要素が含まれている豊かな作品です。フラットな気持ちで楽しんで」。堤は「いい作品に参加できて良かった。陽の中の陰、陰の中の陽。絶妙のバランスです」。シムは「今日は感無量です。映画館に行く楽しさを感じることができれば、幸せです」と作品をアピールした。


日本映画が金豹賞を受賞したのは、小林政広監督『愛の予感』(2007)以来18年ぶり。 これまでに最高賞を手にした日本人監督は衣笠貞之助、市川 崑、実相寺昭雄、小林政広の4人。金豹賞となって以降は、三宅監督が4人目の快挙となる。
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:ビターズ・エンド
11月7日(金) TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー






