
釜山映画祭正式出品作品『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』で、分かりあえないからこそ対話を続ける必要があるののではないかと探求した佐藤慶紀監督が、『淵に立つ』『よこがお』『波紋』など全ての作品で圧倒的な演技を魅せ、多数の主演女優賞を受賞している唯一無二の名優、筒井真理子と、三宅唱監督のロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門金豹賞受賞作品『旅と日々』で大注目の髙田万作を迎え、新たに対話の重要性を描く作品を制作した。
民法で大人扱いとなったことで、2022年の少年法の改正で18、19歳を厳罰化することになったことに疑問を持った佐藤監督が、「生きづらさ」を抱える思春期の青年と、同じく「生きづらさ」を抱えて生きてきた大人、そして、すごく繊細でどこにでも生きていけるわけではない珍しいコケを探す女子学生との交流を通して、言葉にして対話をすることの重要性を描く。
9月の第21回大阪アジアン映画祭(OAFF2025)での上映を経て、11月22日(土)より新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開されるのを前に、主演の筒井真理子のオフィシャル・インタビューが届いた。
本作に出演した理由をお教えください。
台本を読んだとき、心を掴まれました。典子という難しい役がとても自然に描かれていて、矛盾がひとつもなかったんです。きっと監督の身近な方の体験が息づいているのだろうと感じました。そういう“実在の温度”を持つ脚本には力がありますよね。参加しないという選択肢はありませんでした。
脚本を読んだ感想はいかがでしたか?
「人が人に会いに行くだけで、こんなに豊かな物語が生まれるんだ」と、静かに胸を打たれました。今の時代、生きづらさを感じていない人なんて、ほとんどいないと思うんです。誰もが少しずつ凸凹を抱えて生きていて、それが人間らしさなんだと思います。名前がついて“発達障害”などと呼ばれるようになっただけで、みんなそれぞれに個性があります。私もたくさんの方に出会ってきましたが、癖のない人なんて一人もいません。大切なのは、その違いとどう寄り添い、どう響き合っていくか。この作品は、主人公の二人を通してそれをとても優しく描いていて、大好きな脚本です。
監督からは典子の生きづらさについて何か具体的に聞いていましたか?
個人差があり、症状もさまざまなので、監督と話し合い、あえて特定はしないことにしました。私は心理学が好きで、昔はカウンセラーになりたいと思っていたんです。ただ、すぐに人の気持ちに共感してしまうタイプなので、向いていなかったかもしれません(笑)。でも、俳優も人を扱う仕事という意味では少し似ている気がします。役を通して誰かを励ましたり、元気にしたりできたら嬉しいです。以前、「名前がついているだけで、それも個性だと思えばいい」という言葉を聞いたことがあって、素敵だなと思いました。“健常者”とそうでない人の境界なんて、本当はとても曖昧で。社会生活を送れていても、ぎりぎりで頑張っている人はたくさんいます。みんなそれぞれ、大変なんです。
典子の夫について、監督から説明はありましたか?
特にはありませんでしたが、きっと典子にも好きな人がいたと思います。でも、彼女の特性に相手が少し疲れてしまったのかもしれません。「空気を読めよ」とか「それくらい分かるだろう」と言われて、すれ違ってしまったのではないかと感じています。愛することの難しさ、そしてその先に残る静かな痛みを想いながら演じました。
明夫とユウキの父・和也とのシーンは、演じていていかがでしたか?
明夫が怒る場面では、どこか居心地の悪さのようなものを感じていました。完成した映画を観たら、典子が足踏みをしていて、「あぁ、大きな声が怖かったんだな」と気づいたんです。自然に出てくる反応を信じていたと思います。ユウキのお父さん役の内田周作さんは、事務所のシーンでの“頼りなさ”がとても魅力的で、芝居に向き合う真摯な姿も、とても素敵でした。

「私にできることは、あんたの話を聞いて、何か話すことだけ」という台詞についてはどう思いましたか?
つくづくそうだなぁと思います。大人になると、どうにもならないことがたくさんありますよね。でも、ただ話を聞いてもらうだけで、ふっと心が軽くなることがある。昔はお寺のお坊さんがその役割をしてくれていたのかもしれません。今はカウンセラーだったり、友人だったり。私にも話を聞いてくれる人が数人いますが、それがどれほどありがたいことか。悩みは最終的には自分でしか解決できないけれど、“話すこと”と“聞くこと”があるだけで、人は救われることもあるんだと思います。
ユウキ役の髙田万作さんはご一緒していかがでしたか?
とても素晴らしかったです。彼の静かな立ち姿や、現代のリアルな若者らしいまなざしをした俳優はなかなかいないと思います。とても素直で、芝居にも真摯で、ラストでは本当に神々しい表情をしていました。カメラ越しではなく、肉眼で見て涙が出そうになるほど、美しかったです。

明夫役のにしやま由きひろさんはご一緒していかがでしたか?
大好きです。みんなが静かな芝居をしている中で、にしやまさんが時々ワッと声を出してくれることで、場面にリズムが生まれて、全体が引き締まる。とても良いバランスでした。現場にも温かく楽しい雰囲気が生まれました。

脚本も担当された佐藤監督はご一緒していかがでしたか?
穏やかで静かな方で、現場にもいつも優しい空気が流れていました。この脚本には、監督と私の間で“共通の感覚”のようなものがあった気がします。台本の中の人たちは“ほんとう”に生きていて言葉に無理がないんです。そういう“嘘のない世界”には、やっぱりかなわないですね。
完成した映画をご覧になって、どのような感想を持ちましたか?
本当に最小限のクルーで「よくここまで撮ったなぁ」と心から思いました。スタッフやキャストの皆さんに拍手です。典子とユウキの関係だけでなく、あの場所に流れていた“自然の力”が、この映画を包み込んでいるように感じました。
本作の見どころはどこだと思いますか?
みんな違う形の生きづらさを抱えながらも、ちゃんと生きていて、誰かと出会うことで何かが生まれていく――その瞬間です。不器用で、でもちゃんと生きている。その姿にいつの間にか、心が静かに動かされていました。
読者にメッセージをお願いします。
この映画の中で、自然とともに呼吸をしてもらえたら嬉しいです。映画館という空間で、自然に包まれるような感覚を、登場人物たちと一緒に味わってください。
公開表記
配給:渋谷プロダクション
11月22日(土)〜新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開
(オフィシャル素材提供)






