
 舞台は1972年、沖縄。本土復帰が目前に迫った中、現金を輸送していた銀行の車両が何者かに襲撃され、100万ドルが強奪される事件が発生する。当時沖縄では復帰に際し円ドル交換(米占領下ではドルを使用していたが、復帰に伴い円への交換が必要だった)が琉球政府の重要事業と位置付けられており、琉球警察はこの件が日本政府やアメリカ政府に知られると、重大な外交問題に発展しかねないと、これを秘密裏に解決する特別対策室を編成。復帰までの期限は18日。彼らは事件解決に奔走するが……。2021年に「インビジブル」で第23回大藪春彦賞を受賞、第164回直木賞候補にもなり注目を集めた坂上 泉の小説をもとにしたクライムサスペンス。
 捜査に当たる特別対策室の班長・真栄田太一を演じるのは高橋一生。真栄田は石垣島出身、さらに東京の大学に進学し琉球警察に入署したエリート。沖縄の出身でありながら地元の署員からは「ないちゃー(本土の人間)」と揶揄され、真栄田は自分が何者なのかアイデンティティを問い続ける。本作で高橋は、連続ドラマW作品で初主演を飾る。監督は、『愛を乞うひと』(98)、『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』(19)の平山秀幸。高橋とは『よい子と遊ぼう』(94)、「連続ドラマW ヒトリシズカ」(12)以来、3度目のタッグとなる。
■本土復帰目前、激動期の沖縄の“匂い”を画面に刻み込む「1972 渚の螢火」沖縄ロケ・撮影現場リポート!
 舞台は1972年、本土復帰目前の沖縄。日米の国家間外交、日本と沖縄の歪な関係性、そして沖縄県内での個人レベルの社会意識の差異まで、苛烈な時代を背景に日本、米国、琉球警察、財界人、ギャングのさまざまな思惑が入り乱れるクライムサスペンス「1972 渚の螢火」が放送・配信中だ。
 本土復帰に伴い、米国施政権下で使用していたドルを円に交換するために現金を輸送していた銀行の車が襲撃され、100万ドルが強奪される事件が発生。この事実が日米両政府に知られれば、重大な外交問題に発展しかねないと危惧した琉球警察は特別捜査班を編成する。この事件を秘密裏に解決すべく奔走する琉球警察の真栄田太一役に高橋一生、同僚の与那覇清徳役を青木崇高が演じ、沖縄財界に影響力を持つ実業家・川平朝雄役には沢村一樹など、キャストには第一線の実力派俳優たちが名を連ねる。ドラマの舞台となる沖縄での撮影が行われた2月、第3話(11月2日(日)22時放送・配信)の物語の鍵を握るメインキャストが集結した撮影現場に2日間密着した。
現場リポート
 取材期間中、主に撮影が進められたのは真栄田たちが追うアシバー(ヤクザ、もしくは今で言う“半グレ”)の宮里武男(嘉島 陸)が束ねる「宮里ギャング」のアジトで物語が展開していく一連のシーン。若いギャングたちと川平との関係性を描きつつ、彼らを捜査する真栄田たちが交差する重要なパートだ。
 ロケーションは沖縄本島北部にある廃ホテルで、地元では心霊スポットとしても有名な場所。柱しか残っておらず瓦礫だらけのフロアは絵に描いたような廃れ具合で、アウトローたちの隠れ家としては持ってこいの情景だ。
 取材初日は、このアジトに複数の車両で乗り入れるシーンの撮影からだった。ちなみに1970年代という時代設定に合わせて、現在はあまり見かけないタイプの車両が用意されており、数台のレトロ・カーが廃墟付近に並んでいるだけでも非日常感が醸し出されていた。
 平山秀幸監督が車両を四方から眺めながらイメージを膨らませ、アジト前に車を駐車する動きや、宮里ギャングの関係者を尾行する琉球警察の3人が車中でやりとりするシーンなど、画作り・演出をしながら車を使った撮影が進んでいく。途中、にわか雨が強まって撮影が一時中断し、天気に振り回される“沖縄の現場あるある”な一幕もあった。
 モデルガンを手にした黒ずくめのガスマスク集団がアジトに突入していくシーンの撮影に及ぶと、現場の雰囲気が少しだけフィクショナルな色合いを帯びてきた。「もっとここは動かしてもいいよ」。トラックで乗り付けて強襲する集団を追うカメラに対し、平山監督がアクションの起点や臨場感を際立たせるための画角や動きの荒々しさについて指示を出す。
 アジトの建物内に黒ずくめ集団が入っていくシーンはワンカットで撮るため、リハーサルを重ね、本番に近づくにつれて緊張感が増していき、監督の掛け声にも力が入るようになっていた。
 そのすぐ傍で、高橋をはじめとする琉球警察のメンバー3人が銃器の取り扱いについてレクチャーを受けながら、車両から降りてアジトに進入していく動線と身体の動きを入念に確認している。ごく短時間のシーンでも、演者同士でそれぞれの身を置く位置や進行方向を微調整しながら臨む。
 撮影の合間、青木が無造作に地面の砂利を握りしめて拾い上げ、手首に擦り付けて埃っぽい質感を演出しており、細かなところまでリアリティを追求している姿勢が垣間見られた。
 宮里ギャングアジトの内部では、若いアシバーたちと沢村一樹演じる川平朝雄とのやりとりが撮影された。
 ここでは、沖縄の祭事で使われる天国のお金・ウチカビを燃やしたり、酒を酌み交わしながらカチャーシー(宴などで披露される沖縄の踊り)を踊ったりと、沖縄濃度高めの演出。カチャーシーを踊る場面では、待ち時間の間に沖縄出身の演者はもちろん、同じく沖縄出身のプロデューサーや方言指導のスタッフも混じりながらレクチャーが行われ、さらには沖縄出身キャストの宮里ギャングのメンバー・稲峰が(佐久本宝)三線の弾き語りも披露。現場は沖縄の宴会場さながらの雰囲気に。無邪気さやあどけなさも感じさせる若いアシバーたちの楽しげな舞いは、この後のストーリー展開からすれば途方もなく儚いものに感じざるを得ず、この時点で既にグッと胸が締め付けられた。
 実業家・川平について「自分の目的のためには冷徹なところがある男なんだろうな、という感覚で演じています」と沢村。アシバーたちと付き合いながらも、彼らを自らの“足”として使役する川平の割り切った態度にキャラクターの核を見出したという。沖縄という舞台、そして沖縄での撮影については次のように語った。
 「この作品と出合わなかったら、きっと誰かが解決してくれるだろうと他人事として捉えていた問題も、本当は自分に引き付けて考えていかないといけない、そんなふうに身近なものとして感じられていなかったと思います。撮影期間にはそれを実感する出来事が何度もありました。その意味でも、すごく良いタイミングでこの作品が作られているのではないかと思います」。

取材期間中、現場が最も緊迫した撮影はアジトの襲撃シーンだった。たくさんの人物とそれぞれの思惑が交錯する本作の核を体現したようなこの場面は、アクション動作や各出演者の動線が複雑に絡み合い、カメラ無しの状態でも既に撮影が困難ということが傍目からもうかがえる。加えてスモークや手榴弾、銃器の発砲など、火薬を使用した物理的な演出もあり、演者・製作陣ともに緊張感のフェーズが一段階上がった。

 アジトは瓦礫だらけで足場も悪い上、移動する通路も狭い中で演者たちがカメラと一緒に動き回る。そのため、主に高橋・青木が互いの細かな動作の確認を重ねつつ、監督とも頻繁にやりとりを行っていた。その中で、ストーリーの進行やそれぞれの人物の動作、爆発に伴う演出のあり方など、空間の使い方やビジュアルと時系列の整合性について、かなりシビアな議論が交わされ、撮影が一時中断する時間もあった。
 主人公・真栄田のライバル的存在の刑事・与那覇清徳に扮する青木崇高は「さまざまなキャラクターの沖縄に対する思いが、いろんな形で出てくると思うのですが、そこで与那覇なりの沖縄への思いがちゃんと出ればいいかなって思っています」と、役に向き合う姿勢を語る。沖縄への思い、ひいてはこの作品へかける思いについてこう語った。
 「本作のテーマは、沖縄だけでなく日本全体、世界が抱えている問題で、それは1972年から変わらず今も続いているわけです。僕自身の関わりとして1つの役を演じるということですが、この作品自体が今後何かの課題解決への1つのきっかけになったら嬉しいなと思っています。沖縄の地の匂いというか、それがちゃんと匂い立つような作品と映像にするために、なるべくその雰囲気を作り上げていきたい。沖縄はとても好きですし、友人もたくさんいて昔からよく来ていますから。愛すべき沖縄の風を身にまとったキャラクターとしてありたいと思っています」。
 青木の言葉にある通り、沖縄が抱えている問題は沖縄だけで済むものではなく、日本全体が抱えるものでもあり、戦後ずっと在り続けている問題でもある。
 とはいえ、本作はあくまでフィクションであり、手に汗握るサスペンス要素も盛り込まれたエンタメ作品に仕上がっている。画面から沖縄の“匂い”を感じ取り、ドラマのストーリーや出演者たちの熱演を十分に楽しみながら、その延長線上で沖縄ひいては日本が直面し続けているものが何なのか、少しでも思いを馳せてみてほしい。
取材・文=真栄城潤一
■坂上 泉(原作)の特別インタビュー映像の配信が決定!
原作の坂上 泉のインタビュー映像が、本リリース解禁と同時にWOWOWオンデマンドにて配信される。さらにその映像の一部をYouTube WOWOWオフィシャルチャンネルにて配信される。坂上と制作チームがどのようなやりとりを経てドラマを作り上げていったかをメイキング映像を交えて、そして坂上のお気に入りシーンまで深堀りする。
「連続ドラマW 1972 渚の螢火」スペシャルインタビュー
 ・配信期間:2025/11/02 23:00~(本リリースの解禁と同時)
 ・出演:坂上 泉(原作)
 ・配信:WOWOWオンデマンド https://wod.wowow.co.jp/content/202027(外部サイト)
     YouTube WOWOWオフィシャルチャンネル(一部) https://youtu.be/eQkOOA_2yDY(外部サイト)
「連続ドラマW 1972 渚の螢火」ストーリー
 1972年、本土復帰を間近に控えた沖縄で、100万ドルの米ドル札を積んだ現金輸送車が襲われ行方を絶った。円ドル交換が完全な形で遂行できなければ日米外交紛争に発展しかねないと、琉球警察はこれを秘密裏に解決する特別捜査班を編成した。班長に任命されたのは警視庁派遣から沖縄に戻ってきた真栄田(高橋一生)。そのほか、同級生でありながら真栄田をライバル視する捜査一課班長・与那覇、そして定年を控えたベテランの玉城をはじめとするたった5人のメンバー。事件解決のタイムリミットは本土復帰まで18日間。捜査を進めるうちに、事態は沖縄財界や地元ギャング、さらには米軍関係者を巻き込み、二転三転していく……。
真栄田らは期限までに100万ドルを取り戻し、犯人を捕らえることができるのか――。沖縄の未来を懸けた戦いが始まる!
「連続ドラマW 1972 渚の螢火」
放送・配信:毎週日曜午後10:00放送・配信中!(全5話)【第1話無料放送】
 出演:高橋一生
    青木崇高 城田 優
    清島千楓 嘉島 陸 久本 宝 広田亮平 MAAKIII 北 香那    Jeffrey Rowe 藤木志ぃさー ベンガル
    沢村一樹 小林 薫
 原作:坂上 泉『渚の螢火』(双葉文庫刊)
 脚本:常盤司郎、倉田健次
 監督:平山秀幸
 音楽:安川午朗
 撮影:藤石修 照明:鈴木康介 録音:中里崇
 美術:中澤克巳 装飾:小山大次郎 小道具:持田千鶴
 スタイリスト:森本裕治 メイク:東村忠明
 スクリプター:川野恵美 編集:洲崎千恵子
 助監督:村上秀晃、野本史生 制作担当:宿崎恵造
 プロデューサー:高江洲義貴 廣瀬雄
 制作プロダクション:東北新社
 製作著作:WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/1972nagisanokeika/(外部サイト)
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