
出席者:舘ひろし、笹野高史
昨年に公開され数々の映画賞を総なめにした映画『正体』にて、第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人監督とキャメラマン・木村大作が初タッグを組み、北陸の港町を舞台にした完全オリジナル脚本で描く、映画『港のひかり』が絶賛上映中。
この度、撮影でお世話になった富山刑務所にて、舘ひろし・笹野高史による受刑者に向けた講話を実施した。
本作は2023年11月〜12月まで長期にわたって石川県、富山県を舞台に撮影を敢行。実際に撮影場所としてお借りした富山刑務所よりお招きいただき、受刑者の更生に向けて舘ひろしと笹野高史による講話を実施する運びとなった。
受刑者の前に姿を現した舘と笹野は、「映画『港のひかり』の撮影でここ富山刑務所をお借りし撮影させていただきました。撮影にお邪魔したのは、2023年の12月、雪の降る日でした。私は普段刑事役が多いのですが、今回は皆さんと同じ立場を演じさせていただきました。本当に印象的だったのは皆さんの所内での歩き方です。当初台本に所内を歩くシーンは無かったのですが、皆さんの姿を見て急遽シーンを追加しました。今日は本当に貴重な機会であると感じております。よろしくお願いします」(舘)、「舘さんと同じく『港のひかり』の撮影時には大変お世話になりました。とてもとても恐縮しているのですが……皆さんが何かを感じていただければ良いなと思っています。今日はよろしくお願いします」(笹野)と挨拶。

共に俳優として長く活躍してきた舘・笹野。長いキャリアを持つ2人は俳優生活を振り返り、「私は今75歳です。俳優デビューしてから50年になります。本当にあっという間だと感じています。映画は1人で出来るものではなく、さまざまな人が力を合わせて作り上げるものです。皆様の支えがあってこそ、今の私がいると痛感しています。長く俳優を続けられたのは、いつも自分が100%できたという記憶がなく、今度はもっとうまくできる気がするという気持ちでい続けることができたからだと感じます」(舘)と振り返り、「俳優はオファーが無いと続けることができない仕事なんです。それはつまり自分1人じゃ何も出来ないということ。もちろん家族にも助けられてきました。もう77歳になりましたが、セリフが覚えられなくなるまでは続けたいと思います」(笹野)と未来を見据えた。
俳優生活を長く続けられたのは渡 哲也の言葉がきっかけだという舘は、「私が俳優としてこれからやっていけるかどうかというときに、TVドラマ『西部警察』で渡さんと初めてご一緒しました。撮影が始まってしばらくしたときに渡さんが“ひろし、お前には華がある”と言ってくれました。本当に大きな自信となりましたし、その言葉を頼りに今までやってきたような気がします。『西部警察』の撮影中、私が何度NGを出そうが怒ることはなく見守ってくれましたし、“ひろし、芝居なんて上手くならなくていい。お前自身でやれ”と言葉をかけてくれたんです。今私がこうしているのは全て渡さんのおかげだと思います」と感謝の想いを伝えた。

俳優という仕事のやりがいを聞かれた笹野は、「“人の人生を変えてしまうこと”です。以前ジャズ・トランぺッター役を演じたのですが、その作品を見たある方が実際にジャズを仕事にしているんです。映画に触れた人の人生を変えてしまう可能性がある、影響を与えてしまう仕事なんだと感じる出来事でした。俳優という職業にプレッシャーを感じましたし、逆にやりがいを感じました」と実体験と共に語ってくれた。

2人の挫折経験や挫折から再起する方法を問われると、舘は代々医者家系の長男に生まれ周囲からも医者になることを期待されながらも応えられなかったエピソードを披露。「自分もきっと医者になるだろうと甘く考えていたんです。結局勉強もしないまま医大に二度挑戦して不合格。家族の期待に応えられなかった挫折感も大きかったです。ただ、挫折というのは次にジャンプするための準備だと思うんです。ただ立っているだけでは高く飛べませんが、一度沈み込んでジャンプすることでより高く飛べる。挫折を糧により高く飛ぶことができると考えています」と自身の挫折体験と共に、前向きな言葉を投げかけた。
笹野は俳優として主役を演じることを目標に懸命に努力していた際に演出家にかけられた言葉にショックを受けたエピソードと、その挫折から立ち直ったエピソードを披露。「ある演出家に“笹野さんは脇で光るタイプ。主役を目指したら駄目”と言われ、ショックと悲しみから涙で一晩枕を濡らしました。やっぱり役者をする以上は主役を演じたいですから。でも決めたんです。考え方を変えて、日本一の脇役になろうと。カメレオンのようなどんな役でも演じることができる俳優になろうと決意を新たに頑張ることにしました」と述べ、自身が求められる役割を果たすことで挫折から乗り越えたと伝えた。
映画『港のひかり』に描かれた自己犠牲の精神。主人公の三浦は裏の世界で生きてきたかつての人生を捨て、ひっそりと孤独に暮らす漁師という役どころ。そんな三浦は盲目の少年と出会い友情が芽生え、三浦は少年のために我が身を厭わず生きることを決める。主人公の三浦役を舘ひろしが、孤独な三浦を見守る荒川役を笹野高史が演じた。
そんな『港のひかり』を通して受刑者に伝えたいことを聞かれると舘は、「自分のために生きることは素晴らしいことです。ただ、自分ではない他の誰かのために生きることはもっと素晴らしいことであり、美しいことです」と話した後に、「男っていうのは弱いものだと思います。弱い男が、それでも強くあろうとする男がそこにいることが、すごく大事なことなんだと思います。私は強くあろうとする男でいたいと考えています」と熱を持って語った。

作品にちなみ2人に光を与えてくれた人物について問われると、舘は渡 哲也、笹野は渥美 清と答えた。舘は「やっぱり渡 哲也さんですね。とにかく渡さんと出会えたことが私の人生の全てのような気がします」と、自身の俳優人生を照らしてくれた大先輩に感謝を伝え、笹野は「渥 美清さんですね。まだ俳優として駆け出しの頃に渥美さんが声をかけてくれて、芝居を褒めてくれました。そこから一緒に芝居を見て、食事に行くようにもなりました。心の師匠のような存在です」と、日本を代表する名優への想いを語った。
最後に2人は受刑者へ激励の想いを言葉にした。舘は「強くなくていいんです。強くなろうとしてください。今日は本当にありがとうございました」と熱い激励の想いを言葉に市、笹野は「待っている方のためにも、どうかお身体を大事にしてくだい」と優しい言葉を投げかけ、講話は終了した。
なお、受刑者への講話を終えた舘と笹野に富山刑務所から感謝状が手渡された。


公開表記
配給:東映 スターサンズ
絶賛上映中!
(オフィシャル素材提供)






