イベント・舞台挨拶映画祭・特別上映

『みんな、おしゃべり!』トークイベント

©2025 TIFF

 登壇者:河合 健監督、五十嵐大さん、中津真美さん

 11月27日(木)、『みんな、おしゃべり!』の公開初日を前に、河合 健監督が映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の原作者で作家の五十嵐大さんと東京大学で障害学生・教職員の支援コーディネーターとして従事するかたわら、主にCODAの視点から「聴覚障害のある親と聞こえる子どもの親子関係」に関する心理社会的発達研究に取り組む中津真美さんを迎え、トークイベントを実施。3人はCODAという共通点を持ち、CODAやろう者、外国ルーツの家族が抱える通訳的役割、そして“分かり合えなさ”と“解放”など多角的な視点から語られる濃密な時間となった。

 トークの冒頭では、五十嵐さんと中津さんが映画『みんな、おしゃべり!』を観て、強く共鳴したポイントを紹介。中津さんは、幼少期から“通訳としての役割”を担ってきたCODAとして、夏海とヒワが2つの世界の間に立つ姿に深く心を寄せ、「言語だけでなく“場の空気”まで調整してしまう重さが解けていく瞬間が描かれていた」と語った。また、最終的に当事者同士が“仲介者を介さず直接分かり合う”場面に、本作の核心を感じたと述べた。五十嵐さんは、夏海とヒワが夜の街に繰り出すシーンを「心理的安全性のある空間」と表現。自身もCODAとして、空気を読む役割を担い続けてきた経験から「2人が解放されていく姿に、子どもの頃の自分もほどけていくようだった」と振り返った。

 2人の感想を改めて聞いた河合監督は、自身がCODAであることを「映画を作り始める段階では深く自覚していなかった」と明かす。映画祭での上映時やこれまでの取材でも、テーマを“ろう者・音声言語・クルド人”の文脈から語られることが多かったと振り返り、「お2人の感想を聞いたとき、初めて聴者でもろう者でもない“別の軸で受け取られる”ことに救われた」と話し、本作の制作が自身のCODAとしての自己理解にも繋がっていったと語った。

 また、河合監督は「分からなくていい、という前提で作った。分からないことに対して、聴者は無自覚なことが多いが、ろう者は“分からない”ことに自覚的。本作では、“理解させる映画”ではなく、“分からないままでも他者と並び立てる”ことを前提にしました」と見解を述べた。

 イベント後半にはティーチインを実施。観客から、「夏海はその場の空気を読んで、言葉を端折ったり、意訳するが、ヒワは相手が話したことを忠実に通訳する。なぜそのような設定にしたのか?」と問われると、「クルド語は作品内でも触れられるように“奪われた言語”。ヒワの父親はクルド語を“アイデンティティそのもの”として大切にしているので、ヒワもその価値を理解しており、“発した言葉をそのまま伝えること”が誠実だと考えているから」だと理由を明かした。
 「現代的な翻訳ツールをなぜあえて排除ぎみにしたのか?」と質問が及ぶと、「劇中では翻訳アプリのYYSystem(主に聴覚に障害のある方を対象に、会話や環境音をリアルタイムに文字起こしし、雰囲気までオノマトペやアイコンで表現することで意思疎通をトータルに支援するアプリケーション・シリーズ)が登場します。ただ、夏海の父親・和彦は使用しません。彼は、日本手話という言語への誇り、聴者に寄り添いたくないという人物。なので、“日本語へ変換すること自体” を拒否しているんです」と説明した。
 ※ イベント中は、手話通訳に加え、YYSystemを使用し、発言をリアルタイムでスクリーンに投影した。

自身が“台湾人の母の通訳をして育った日本手話の話者”でもあるため、夏海の姿に深く共鳴したという、ろう者の観客からは、「この映画をきっかけに、3人はどう変わりたいか」との問い。河合監督は、CODAとしての自覚が強まり、“手話ができないCODA”への罪悪感から解放されたと改めて語り、「同じ境遇の人が楽になるよう、発信していきたい」と決意を伝えた。
 中津さんは、「違いに蓋をしたまま、“みんな一緒だよね。みんな平等だよね”っていうのがよくあると思いますが、映画『みんな、おしゃべり!』では、違いをとことん突き詰めて表現している。“みんな同じ”と覆い隠すのではなく、違いを認めた上で、どう一緒に生きていくかっていうところを描いているです。その素晴らしさを伝えていきたいです」と自身の想いを述べた。また、五十嵐さんは、本作を通して、社会が良くなっていったらいいなって言うのは大前提として願うことだと語り、「残念ながら、社会ってすぐには変わらないわけです。本当にゆっくりゆっくりと変わっていく。だから、この映画を観たひとりひとりが明日からほんの少し変わることで社会は変わっていくんじゃないかなと思います。ろう者やクルド人のこととか、特に何も知らない人たちに、とりあえず、映画『みんな、おしゃべり!』を観て!って勧めるようにしたい」と想いを託した。
 会場は温かい余韻に包まれてイベントは幕を閉じた。

 映画『みんな、おしゃべり!』は、明日11月29日(土)よりユーロスペース、シネマ・チュプキ・タバタほか全国順次公開! ぜひ、今後の動向にもご注目いただきたい。

©2025映画『みんな、おしゃべり!』製作委員会
公開表記

 企画・配給・製作プロダクション:GUM株式会社
 11月29日(土)より、ユーロスペース、シネマ・チュプキ・タバタほか全国順次劇場公開

(オフィシャル素材提供)

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