イベント・舞台挨拶

『エディントンへようこそ』トークイベント

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 登壇者:奥山由之(映画監督、写真家)
 MC:立田敦子(映画ジャーナリスト)

 『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』『ボーはおそれている』に続きA24製作で贈る、アリ・アスター監督の最新作『エディントンへようこそ』が、12月12日(金)に全国公開! この度、アリ・アスター監督最新作『エディントンへようこそ』の試写会が11月30日(日)に都内で開催され、上映後にはアリ・アスター作品のファンで、映画『秒速5センチメートル』が大ヒット中の奥山由之監督のトークセッションが開催された。

 10月に開催されたジャパンプレミアで一般の観客と共に『エディントンへようこそ』を鑑賞したという奥山。本作は2020年を舞台にしているが「いままさに自分たちが置かれている状況と何の変わりもなく、過去のこととして見られなかった」と語る。

 劇中「コロナ禍やブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)といったことを通して、アメリカという国自体が精神的に混乱していく状況をそのまま提示してくる」と感じたと言い、また、「“状況報告書”みたいな作品であり、(アリ・アスターが)ここまで社会というものを正面から描いたのが、ちょっと意外な感触」と述べ、これまでのアリ・アスター監督は「<家族>や<カルト>など、小さな共同体の歪みを通してトラウマを描く作家だと思っていたんですが、今回は国家――エディントンというひとつの共同体、ひいてはアメリカという国自体も描いているのかも」も指摘。さらに「それが新鮮でもありながら、特定のイデオロギーを代弁するとでもなく、フラットに右も左も、陰謀論もリベラルな偽善も全部、等価値に並べて、そういうものの滑稽さと同時に危うさみたいなものを見せてくるのが、アリ・アスターらしいなと思いました」と感想を語った。

 アリ・アスターといえば、じわじわと精神を蝕むようなホラー表現が秀逸であることでも知られるが、奥山自身は「怖いものがとにかく苦手で、昔はホラーは見られなかった(笑)」と明かす。だが、最初に見たアリ・アスター作品『ボーはおそれている』をきっかけに興味を持ち、過去作『へレディタリー/継承』や『ミッドサマー』へと遡って鑑賞したという。そして、『ボーはおそれている』くらいから<物理的な怖さ>から<潜在的に人間が抱えている不安>へと恐怖の質が変わったことに言及「ジャンル映画としてのホラーというより、感情を起点にして、いま、画に映っているものが『どこか変な気がする……』と見ている側が不安になり、それが笑いにも繋がるし、恐怖にも変化」すると語る。さらに「笑いと恐怖の混在みたいなもののバランスが、ここまで確立されている監督は珍しいと思う」「そういう種類の恐怖の描き方は、みんなができることじゃないと思います。超自然や幽霊といったことで驚かせることの“先”を行ったホラー作家であり、興味深いです」と評価した。

 映画ファンはもちろん、特にクリエイターから絶大な支持を集めるアリ・アスターだが、奥山は『ボーはおそれている』について「目に見えているものの現実の質量と、頭の中での妄想が等価値になって、境目がシームレスで、どっちがどっちなのか混濁していく感覚は、創作をしている人にはあると思います。僕自身、小さい頃からそういう感覚はありました」と振り返る。

 本作についても「それぞれが持つ<現実>が存在していて、客観的な現実というものは、もうこの世に存在していないとも思う。同じエディントンという町で暮らしていても、同じ場所では生きていない――そういう意味で、現実と非現実を行き交っている感じがした」と指摘する。そして「真実よりも<それぞれが信じるもの>を優先してしまう世界が描かれていて、そういう状態への恐怖はよく理解できます」と頷いた。

 さらに話題は、本作で強烈な存在感を放つエマ・ストーンとホアキン・フェニックスに及んだ。最近はランティモス監督作品(『哀れなるものたち』『憐れみの3章』など)でエマを観ることが多かったと語る奥山。本作のエマについては、「前半は特に無表情なシーンも多い。でもだからこそ、ちょっとした笑顔や目の動きで観る者を不安にさせ、『不穏だな』と感じさせる。それがエディントンという町の雰囲気とリンクしていて、本当にすごいなと思いました」と称賛。「こういうエマ・ストーンが見られてよかった」とも語った。
 そしてホアキン・フェニックスについては「今回のホアキンは<喘息持ち>の役ということもあって、もともと声質がか細く、不安を感じさせる」と声の特徴に注目。あるシーンで「カメラがジョーの不安に寄っていく感じがして、呼吸がどんどん荒くなり、息ができなくなる感覚が、観ている側にも伝わってきて苦しかった。映画館で映画を観ながら、初めて自分の呼吸が苦しくなった」と語る。さらに、「アリ・アスターはよく“人に悪夢を植え付ける”みたいに形容されますけど(笑)、本当に映画にそういう力があるんだと感じました」と感嘆していた。

 本作は、その内容から“トランプ政権の二期目を予言した”とも言われている。これについて奥山は「南北戦争や公民権運動、ベトナム戦争など、アメリカにはこれまでもさまざまな“分断”の歴史がありますが」と前置き。「ただ、トランプ政権下の分断の決定的な違いは、SNSなどを通じて真偽が精査されていない有象無象の情報が事実と混在してしまっている点」だと言う。「フェイクニュースを信じる人もいて、そうした状況がより分断を助長していると言えるかと思います」と推察する。

 また、「この映画にも描かれている“視野狭窄“になり、自分の世界にどんどん入り込んでしまう”感覚は、現在のアメリカの分断にも通じるものがある」とコメントした。

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ
 12月12日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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