
登壇者:伊藤詩織監督、エリック・ニアリ(プロデューサー)、ハナ・アクヴィリン(プロデューサー)
ジャーナリスト・伊藤詩織の身に起きた性被害を通して、沈黙を強いられてきた“ブラックボックス”に自らカメラを向けたドキュメンタリー映画『Black Box Diaries』が、ついに日本公開。公開初日同日の12月12日(土)にはT・ジョイ PRINCE 品川にて公開初日舞台挨拶が実施され、伊藤詩織監督、エリック・ニアリ(プロデューサー)、ハナ・アクヴィリン(プロデューサー)が登壇した。
作品を巡っては、音声や映像の一部に許諾を得ることなく使用している箇所があるという指摘があり、それについて伊藤は、本日12月12日付で自身のHPでその経緯についてのステートメントを掲載。これら一連の騒動に関して伊藤監督は「2024年1月にサンダンス映画祭でワールドプレミアされてから、いろいろな国を旅してきました。そしてようやくこの日本、私が生まれ育った、この問題に対して向き合いたい場所で公開されるのは意味のあることでした。ただこの映画の制作プロセスについてさまざまなご意見もあり、私も反省するところがありました」と言及した。
続けて「今日この日を迎えるまで、この映画が上映できるのか?という恐怖がありました。同時にこれまでお世話になって来た、尊敬している元弁護団からのご意見があって、その方々に対して中には事実と違うことが報道されたり、一方的な情報が出回ってしまったりしたことに対して、私としては正面から対立する形でお話はしたくないと避けてきました。ただ事実でないことは正していかなければいけないと思いましたので、どのようなタイムラインで防犯カメラ映像等を使用するに至ったのか、また西廣陽子弁護士が昨日出されたステートメントにある事実ではないことに対して、監督としてのステートメントを私のHPでリリースしました。なお日本版上映に際しての修正点に関しても書いています」と説明。改めて「ご迷惑、ご心配をおかけいたしました」と謝罪した。

念願の日本での劇場公開実現に伊藤監督は「まだ実感がありません」と笑顔を浮かべながら「映画をご覧になった方々のお顔を見て目を合わせることができたのは夢のよう。そして本作のコアメンバーであるこの3人で舞台挨拶に立てていることにも感謝しています」としみじみ。エリック氏も「詩織さんは毎日のように辛い映像に正面から向き合ってきたわけで、編集時からいろいろな思いがありました。でもこうして日本公開ができるのは私たちにとって意味のあること。本作の日本公開を機に、詩織さんが安心安全に日本に戻って、自分のライフワークを続けられることができるよう心から期待しています」と述べた。

ハナも「詩織さんを助けたい、彼女の物語を伝えたいと思っていました。彼女が経験したことは世界中で起きていることですから。だからこそ、このことに対して強く惹かれた部分もありますし、真実が語られるべきだとも思いました。そして誰も沈黙をしてはいけない。改めてこの美しい作品を通してそのようなことを感じています」と確信を込めて話した。

著書『ブラックボックス』(2017年)は、感情を排してジャーナリストとして執筆したという伊藤監督。その過程で、事件と距離を保つことでトラウマから「逃げていた」側面に気づいたそう。本作製作に当たっては、当事者としての映画を自分でも観たいと思い、ジャーナリストとしての自分は一度封印し、映画監督として、言葉にできない感情や向き合いたくない事柄に真正面から向き合った。
「450時間にもわたる映像素材と向き合ったことで、自分の中でいい意味で整理ができたと思います。自分の身に起きたストーリーを組み立てて、観客の皆さんに伝えることができたのは大きな意味があると感じています」と本作への手ごたえを明かした。
今年の3月に行われた第97回アカデミー賞®では長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。日本人監督が同部門にノミネートされるのは史上初。エリックは「サンダンス映画祭からアカデミー賞®までいろいろと旅をして、多くのオーディエンスと交流し、一生忘れられない経験となりました。詩織さんのアカデミー賞®ノミネートは歴史的なことだと思うし、日本でも詩織さんのことを評価していただきたいです」と期待。ハナも「アカデミー賞®ノミネートは素晴らしい経験でしたが、最も光栄なのは今日のように映画館で観客の皆さんと時間を共にすることです。さまざまな映画祭で観客の方々が感動し、立ち上がり、自分の経験を通して本作を語ってくれる姿が印象的でした」と回想した。
最後に伊藤監督は「私の名前や私が経験した事件を忘れていただき、自分自身や自分の大切な人に当てはめて、似たようなことが起こった場合に自分はどう動くのだろうか?と想像してほしいです。話しづらいことを少しずつオープンにしていけたら、それが私の願いです。皆さんの周りにあるBlack Boxについて考えて、それを少しずつ開けていくことができたらと思います」と呼び掛けた。
公開表記
配給:スターサンズ、東映エージエンシー
2025年12月12日(金)よりT・ジョイPRINCE品川にて上映
(オフィシャル素材提供)






