
登壇者:ジョシュア・オッペンハイマー監督
『アクト・オブ・キリング』、『ルック・オブ・サイレンス』で世界的に注目を集めたジョシュア・オッペンハイマー監督が主演にティルダ・スウィントンを迎えた黙示録的ミュージカル『THE END(ジ・エンド)』(公開中)。この度、本作の公開に合わせてオッペンハイマー監督が来日し、12月13日(土)にヒューマントラストシネマ有楽町にて舞台挨拶を行なった。
舞台は、環境破壊によって居住不可能となってから25年後の地球。母、父、息子の3人は、母の親友と医者、執事とともに豪奢な地下シェルターで暮らしていた。ある日、見知らぬ少女がシェルターに現れ、彼らの日常は一変する。外の世界を知らない世間知らずの息子は、外の世界を知る来訪者に心を奪われる。そして、家族をつなぎとめていた繊細な絆が急激にほころび始め、長く抑え込んできた後悔や憤りが一家の均衡を乱しはじめる――。
映画を鑑賞したばかりの観客の拍手に迎えられたオッペンハイマー監督は「本日はお越しいただいて、ありがとうございます。皆さんに観ていただけて光栄です」と挨拶。長年、一緒に作品をつくり、寄り添ってきたパートナーが日本人ということもあり「この作品は、ある意味で日本的な部分もあるかも」と日本で公開を迎えた喜びを口にする。
インドネシアで起きた虐殺を描いた『アクト・オブ・キリング』、『ルック・オブ・サイレンス』というドキュメンタリーで世界を震撼させたオッペンハイマー監督の最新作がミュージカルであることに驚きを覚えたファンも多いだろうが、この点について監督は「驚くべきことではなく『アクト・オブ・キリング』も私にとって、ミュージカルのような部分があります。私にとって、ミュージカルはある意味で自己欺瞞の象徴であり、センチメンタルな現実逃避だと思っていて、歌を通して“嘘”をつくり上げていくようなものだと感じています」と語る。
さらに「私自身は、ドキュメンタリーとフィクションに共通点があると感じていて『アクト・オブ・キリング』では、主人公が自分に疑問を抱きつつ、嘘と自己欺瞞によって『私たちは素晴らしい人生を送っている』と真実を塗り固め、そしてそれが崩壊している中でミュージカル的なモーメントに入っていきます。この映画では、少女(モーゼス・イングラム)が(避難用の地下シェルターで暮らす家族の生活の中に)入ってくることで、彼らの嘘や自己欺瞞の世界が壊れていきますが、『アクト・オブ・キリング』で描かれる、自分たちのやったことを嘘で塗り固めていくという部分と重なると思います」と言う。

本作では、25年前に他の人々を見捨てることで生き残った者たちを描いており、“罪悪感”を主題に、前2作を寓話的に発展させている。オッペンハイマー監督は、本作の制作にあたり、石油採掘によって気候変動を引き起こしながらも、自身は地下シェルターを所有しているという実在の“石油王”の人物に話を聞いたと明かし「自己欺瞞の象徴のような人物で『アクト・オブ・キリング』の(虐殺者の)アンワル・コンゴに近い存在だと感じました」と振り返る。
オッペンハイマー監督は、この石油王の男性に地下シェルターを案内してもらう過程で、彼の妻の妹が出産したばかりで、そのことを彼が非常に喜んでいる様子を見て「罪悪感や後悔の念について、こうした状況の中でどう考えていくのか? 愛する家族を残していたり、壊滅的状況から逃れたり、シェルターで次世代を育て、理想的家族像を真っ白なキャンバスに描くというのはどういうことなんだろうか? という疑問がわき上がってきました」と本作の着想について明かす。
ちなみに、映画の中では登場人物たちには名前がなく、父、母、息子、少女などと匿名性をもって描かれているが、この点について監督は「普遍的な家族にしたかったんです。全人類の象徴であり、私たちの家族だと思えるようにしたかった」とその意図を説明。
劇中で、理想的な一家の日常を必死で保とうとする母(ティルダ・スウィントン)が、ケーキを吐いてしまうシーンが登場するが、司会者は『アクト・オブ・キリング』で虐殺者が思わず嘔吐するシーンを連想させると指摘、オッペンハイマー監督はその指摘に「そう感じたならば、そうなのかもしれません」と笑みを浮かべ「あのシーンは、脚本を執筆する中で、初期の段階で浮かんできましたが、真実に向き合えない様子を表しています」とうなずく。さらにオッペンハイマー監督は、映画の中で父(マイケル・シャノン)が、後悔の念を感じ、唸り声を漏らすシーンについて「マイケルから、『アクト・オブ・キリング』のアンワル・コンゴのマネをしたらどうか?という提案があったのですが、私はあえて、コンゴをなぞるのではなく、役としての真実を演じてほしかったので『マネはしないで父という役を演じてほしい』と伝えました」と明かしてくれた。
オッペンハイマー監督は、このディストピア・ミュージカルの結末についても言及しながら「人間が集まってこの作品をつくったということが、ある意味の希望であり、観客の皆さんも希望をもって劇場を出て、青空を見上げて『まだ私たちは息ができる』と実感できます。でも、何もせずにいまの状況を野放しにすれば、地球は滅亡してしまうかもしれない――私たち自身が、何とかしないといけないという思いを込めました」と本作に込めた思いを熱く語ってくれた。
公開表記
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
公開中
(オフィシャル素材提供)






