
愛知県名古屋市で「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(通称ANIAFF)がついに2025年12月12日に華々しく開幕した!
■『無名の人生』鈴木竜也監督「アニメ版の北野武映画を作りたかった」
鈴木監督は1年半の間まさに“のめりこんで”一人で作り上げたという『無名の人生』について「そもそも脚本をつくっていなくて、ワンカットずつ考えながら作りました。なので、最初と比べると最後の方が段々絵が上手くなっているんですよね(笑)」と苦笑い。「10章の構成ということだけは決めていて、10個の箱全部に各テーマを置いて、ここではこういう題材を扱う、という決まりだけでアドリブって進んでいった感じなんです」と制作秘話を明かしながらも「いわゆる普通の作り方のような最初に全てを書き上げて、それをなぞって行くような作業は飽きてしまうので向いていないんです。途中でやめちゃうかと思ったこともありました」と今回の手法を採用した理由を明かした。
一人のいじめられっ子の主人公が転機を迎えて成り上がっていく姿に、監督自身の人生が投影されているのかを聞かれると「やっぱり自分を投影すると、作品が自分に寄り過ぎてしまうと思ったところがあったので、あんまり入れないっていうのを逆に意識していました」と説明。だが「でも舞台を設定をするときに、場所については自分の経験が投影されている部分もあります。アニメというフィクションだけど、やはり説得力は欲しいなと思いまして、そういう選び方をしました」と明かす。

アニメよりも実写映画から多くの影響を受けたという鈴木監督は「編集とかテンポとかタイミングとかっていうのは北野 武監督の映画を参考にしていて、会話を撮るときに北野監督だったら真正面からの返しだけで見せることが多いので、実写でも全然動いてない印象というか……だからこれをアニメに応用すれば、動かす技術のない自分でも映画を作れるのではないか? アニメで北野 武映画をやろうって言うのがありました」と意外な影響を明かした。次回作への意欲について聞かれると意外にも「空っぽ」と即答しつつも「もう100年やっちゃったので(笑)。空っぽではあるんですけど、逆にその実写映画を撮ってみたいなという気持ちはあります。原作ものとかに挑戦してみたいとかヒップホップが好きなので、ラッパーさんのミュージックビデオをアニメで作ったりとか、それを短編映画みたいな感じで作ってみたいというのはありますね」と、まさに一人で一つの作品を作り上げたからこその無限の可能性をのぞかせていた。
■『ニムエンダジュ』タニア・アナヤ監督「制作に13年かかった」と観客を驚かせる

日本を訪れるのは2回目というタニア・アナヤ監督は、先住民とともに40年間生活した社会学者カート・ウンケルの物語をロトスコープの手法を用いて描いたことについて、「彼は本当にたくさんの重要な研究結果と資料を残してくれました」と冒頭からその功績をたたえた。彼の生きざまをアニメ化した理由を「アニメーションであれば、彼が生きた時代を構築することができると思いました。本人がいなくても直接結びつけることができることができると思ったんです」と明かした。さらに、アナヤ監督自身でも実際に多数部族の村を訪れて撮影や録音を行い、実際に映画の中にも生かされているという。完成した作品を観た観客から、制作時の苦労を質問されると、アナヤ監督は「苦労は本当にたくさんありました」としみじみ。「まずは予算の問題がありまして、特にブラジルではまだアニメはドキュメンタリーと同じ扱いを受けており、とても潤沢な予算があるような状況ではありませんでした。結局、制作に13年もかかりました」と明かし、観客を一斉にざわめかせた。「13年の間にコロナ禍などで2回もストップし、イランのスタジオを借りたり、共同制作を募ったりと本当に苦労をしました」と語り、改めて今回の上映に静かに喜びをにじませていた。

国際コンペティション部門では、このほかに『タイトルつけてよ、マヤ』、『オリビアとゆれる心』、『スペースタイム・クロニクルズ』が上映された。
■「当時ギャラもらってないかも?」の発言に「待った!」で予想外の豪華メンバー陣集結!『機動警察パトレイバー アーリーデイズ』トークイベント

メディアミックスアニメの先駆けとなった近未来ポリスアクション「機動警察パトレイバー」シリーズの原点ともいえる作品の上映には、当時から見ていたというコアなファンたちが詰めかけた。多くの拍手に包まれながら出渕 裕(メカニックデザイン)、伊藤和典(脚本)が登場。当時の思い出話に花を咲かせていたが、伊藤がふと「もう詳しいことは思い出せないけど、ギャラもらってないかも……?」とまさかの発言に観客がどよめくものの、最前列で見ていた当時のプロデューサーでANIAFFのジェネラル・プロデューサーである真木太郎が「それは嘘だよ!」と介入。さらには当時入社1年目でアシスタントプロデューサーを務めていた浅沼 誠も登場し、ステージはファンも予想外の豪華スタッフが集結した。
当時はOVA一本が1万円以上で売られていた時代に、あえて4800円で売られた全6本の「機動警察パトレイバー」について、本来は1話ずつ監督を変える構想もあったものの、予算の関係からすべてを押井守監督に託したという経緯や、OVAにCMを入れて費用を抑え、さらには通常は35ミリで作るところを16ミリで作るなど、徹底的に低予算で作られた当時の強烈なエピソードも飛び出した。一方で劇場版に合わせて描かれた第7話は吉永尚之が監督を務めていることについて、伊藤は「吉永さんは職人だからやりやすかった」と当時を回想。即座に「だからと言って押井さんがやりづらかったわけではないです。押井さんはクリエイターなので、6話にまとめる構成力はあると思っていた」とフォローする一面も。そんな当時の懐かしいエピソードが続々と飛び出し、4人の話は「パトレイバー」シリーズだけでなく、当時のアニメ業界の話も盛りだくさん。後半では、現在制作中の『機動警察パトレイバー EZY』についても全8本で構成されていることが明かされるなど、観客も興味津々な様子で大いに盛り上がっていた。
ニューウェーブ部門では、このほかに『Pokémon: PATH TO THE PEAK 頂へのきずな』が上映された。
■短編映画の魅力は「チャレンジができること」。
アカデミー賞®ノミネート作品『あめだま』をスタッフが語る

韓国の絵本をアニメ化し第97回アカデミー賞®短編アニメ部門にもノミネートされた『あめだま』が上映。上映後には西尾大介監督、鷲尾天プロデューサー、制作を手掛けたダンデライオンアニメーションスタジオの西川和宏プロデューサーと、アニー賞を運営するASIFA-Hollywoodのオーブリー・ミンツエグゼクティブ・ディレクターが登場。本作を初めて見たというミンツエグゼクティブ・ディレクターは「はじめは、子どもたちへ薬物への注意をするような作品なのかと思いました」と述べて制作陣を笑わせたものの「でもそれはすぐに違うなと思いました。これは、大人が持つ問題を子どもの目から見るという作品だなと気づきました。そして、私たちが子どもの頃どんなふうに感じていたかということ思い出させてくれました。例えば犬に話しかけることができたら何をしゃべるかなとか、友達がいなくて寂しい思いをしたことだとか。最後にはひとりぼっちだった主人公が他人に対して『こっちにおいでよ』と声をかけるという、とても素晴らしい話だなと思いました」と絶賛。一方で、鷲尾プロデューサーは短編映画について「ぜひ映像にしたいと思ったんですけれど、短編映画はビジネスとしては難しいだろうと思った」と明かす。それでも作品を届けたいという気持ちは強く、「会社の許可を得る時に、映画祭等に出品して評価を得ることによって会社のブランド力を高めるという言い訳をして作った」と経緯を語る。
短編映画の魅力について西川プロデューサーは「長編作品やテレビシリーズ作品は大勢で作るので作り方をフラットにしないといけない。短編だと少人数で作るので、チャレンジができるんです」と語ると、鷲尾プロデューサーも「短編ってものすごく短い中に凝縮していろいろな意味を込めることができるんですね。それがきちんとできないと長いものも作れないんじゃないかと思っているので、この1本の中にどれだけ自分の思い、意味を込めることができるかが自分のチャレンジでもありました」と振り返った。
西尾監督は「20分で話が完結して、起承転結もちゃんと抑えなきゃいけない。実はいろいろなところに技術的なことも含めてチャレンジをしなければいけないし、エモーショナルなものにしなければならない。自分たちが伝えたいことや見せたい部分が最も凝縮されて伝わるという気がしています」と明かした。
最後に、自身も短編映画を手掛けたミンツエグゼクティブ・ディレクターは「短編映画の場合はアーティストが何人もいるわけではありませんので、1人のアーティストのビジョンをはっきり出すことができる。短編映画というのは、1つのアイデアをクリアに見せることができる。そしてエモーショナルに見せることができる。それが魅力だと思います」と語った。
ASHIFAセレクションの短編作品上映では、そのほかに『Wander to Wonder』、『Bestia』、『Souvenir Souvenir』、『Ice Merchants』が上映された。
■アニメ業界で生き残る方法。自らを“アニメ界で一番無能”と語る谷口悟朗監督の気づきとは?

オールナイト上映を前に、映画祭ならではということで谷口悟朗監督自ら、今までなかなか語られることがなかったこれまでの作品に携わってきた経緯と、自身がアニメ界で生き残るための考え方を語った。冒頭で「まず前提として、アニメ界で一番無能なのが私だと思ってるんです」と持論を明かして観客を驚かせた谷口監督。アニメスタジオに入社した際に「将来何をやりたいのか」と聞かれた際には「自分で原作を作って、脚本も書いて、監督もやって、制作組織もやりたいです」と宣言したという。
結果的に「無限のリヴァイアス」がヒットし、次回作の構想を脚本の黒田洋介氏と練っていた際に誕生したのが「スクライド」だったという谷口監督。「お陰様でこれも当たっちゃいまして、もしかしたらもっと監督をやらせて貰えるのではないかと思ったんです。そこで偶然にも『この漫画をアニメ化しようと思うんだけど』と声をかけられたのが『プラネテス』だったんです」と意外な経緯を明かした。
そうして数々のヒット作を生み出してきた黒田監督は「ガン×ソード」の際にこれまでの経験を踏まえて、「普通に頑張るだけじゃだめなんです」と一つの気づきを得たという。「1つのセクションの仕事が100点満点だとします。私なんて実技もなにも持っていないので、よくても20点なんです。音響や作画に関してもせいぜい20点とか30点です。ところがそれを全ての所のセクションの所で合わせたらどうなるか。つまり企画や宣伝であったりとか、組織運営であったりとか美術とか仕上げとか、そういうものも全部ひっくるめて全セクションに対して20点から40点ずつ取って行けばいいのではないか。そうやって積み上げていけば、私の勝ちなんです」と30分ノンストップで持論を展開し、集まった観客を圧倒させていた。
後半では観客からの質問にも次々に回答し、『スクライド オルタレイション QUAN』、『スクライド オルタレイション TAO』、『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』が上映された。
第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル概要

名称:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル
英語表記:Aichi Nagoya International Animation Film Festival
会期:2025年12月12日(金)~17日(水)
主催:あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル実行委員会
ジェネラル・プロデューサー:真木太郎
フェスティバル・ディレクター:井上伸一郎
アーティスティック・ディレクター:数土直志
企画・制作:株式会社ジェンコ
共催:愛知県・名古屋市
協力:中日本興業株式会社、株式会社東急レクリエーション、株式会社新東通信、学校法人 日本教育財団名古屋モード学園・HAL名古屋、animate、BVコミュニケーションズ株式会社
協賛:アンスティチュ・フランセ、アルプスアルパイン株式会社
特別協力:ASIFA-Hollywood、Women in Animation
会場:ミッドランドスクエア シネマ、ミッドランドスクエア シネマ2、109シネマズ名古屋を中核とした上映施設、名古屋コンベンションホール、ウインクあいち 5カ所を予定
(オフィシャル素材提供)






