
蔦哲一朗監督の長編第2作『黒の牛』が、4月30~5月9日開催の第26回全州国際映画にてNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。
全州国際映画祭は「境界を越え、常に新しい挑戦を続けること」をアイデンティティとし、良質で斬新なインディペンデント映画を数多く上映する映画祭。今回『黒の牛』が受賞したNETPAC賞は、1990年にアジア各国の良質な作品や優秀な若き映画製作者を世界に広めるために設立された国際団体であるNETPAC(正式名称 Network for the Promotion of Asian Cinema)の審査員により選ばれ、最優秀アジア映画賞として世界の60以上もの映画祭に設けられている。本作の受賞にあたりNETPAC賞審査員からは「人間・動物・自然のつながりに光を当てながら、非線形的で詩的かつ映画的な手法で展開する。人間と世界に対する監督の洞察に満ちた探求と独自の世界観が際立っており、音、色彩、アスペクト比、そして時間と空間の境界を越えるその豊かな想像力に敬意を表したい」とコメントが寄せられた。
『黒の牛』は、禅に伝わる悟りまでの道程を十枚の牛の絵で表した「十牛図」から着想を得て、全編フィルム撮影にこだわり8年の歳月をかけ完成させた蔦哲一朗監督の第2作目の長編映画。主演はツァイ・ミンリャン監督作品で知られるリー・カンション、田中 泯が禅僧を演じ、音楽は生前参加を表明していた坂本龍一の楽曲を使用。撮影も長編劇映画では日本初となる70mmフィルムを一部使用し圧倒的なスケールで描いている。
5月4日に行われた韓国プレミア上映は、チケットが即完売となり、満席の盛況ぶりを見せた。会場には若い観客が多く来場し、「すごいものを観た」「観ながら涙を流した。人生のベスト・フィルムだ」といった熱い反響が寄せられた。上映後にはQ&Aセッションが行われ、蔦哲一朗監督と脚本の久保寺晃一氏が登壇。「監督にとって“無”とは何ですか?」という哲学的な質問に対し、蔦監督は少し戸惑いながらも、「幼い頃から観てきたスタジオジブリ作品の影響が強く、私は常に自然との関係をどう取り戻すかを考えています。自然と融合できた状態こそが、私にとっての“無”の境地なのかもしれません」と答えた。

翌5日には、韓国の著名な映画評論家チョン・ソンイル氏とのトークイベントが開催された。チョン氏から「最初からリー・カンションをイメージしていたのか?」と問われると、ツァイ・ミンリャン作品の大ファンである久保寺氏は、「シナリオは最初の3年間、あてもなく想像を膨らませながら書いていましたが、リーさんの名前が浮かんでから一気にイメージが固まりました」と語り、リー・カンションへの愛情をにじませた。また、本作が35mmと70mmフィルムで撮影されたことに話が及ぶと、チョン氏と蔦監督によるフィルム談義が白熱。チョン氏は「蔦監督の今後の作品にも大いに期待している」と激励の言葉を贈った。

映画『黒の牛』は2026年1月公開予定。
公開表記
配給:ALFAZBET、ニコニコフィルム、ムーリンプロダクション
2026年1月 公開予定
(オフィシャル素材提供)