
登壇者:竹中直人、ライムスター宇多丸
『天使のはらわた 赤い眩暈』『死んでもいい』『GONIN』『甘い鞭』で知られる映画監督・石井 隆の没後3年に合わせた特集上映『石井隆 Returns』が、6月6日より開催される。
それに先んじた5月23日には命日(5月22日)に合わせて、映画『ヌードの夜 HDリマスター版』の先行上映イベントが池袋 HUMAX シネマズで実施され、主演の竹中直人、石井隆監督ファンのライムスター宇多丸がトークショーを開催した。
石井監督の長編映画監督デビュー作『天使のはらわた 赤い眩暈』(1988)で主演を務めて以降、石井監督作の常連俳優になった竹中。元々『天使のはらわた 赤い眩暈』の台本上のタイトルが『ヌードの夜』だったそうで、その響きを気に入った竹中が石井監督に『ヌードの夜』というタイトルで映画を撮ることを進言したのが本作のスタートになったという。

石井監督の人柄について竹中は「石井 隆という人は本当に最高。役者を乗せてくれる方で、石井さんが放つエネルギーというのか、カメラ横にいる石井 隆の姿が僕は大好きでした。石井さんの作家性云々ではなく、石井さんの現場にいたいという気持ちがありました。石井さんの言う『ヨーイ!』という声を聞きたくなる」と愛おしそう。撮影後にはプライベートで一緒に映画を観に行くこともあったそうで「石井監督は“どうせ俺なんて”の意識を強く持っている方で前向きではない。その意味では僕と波長があった。“僕の映画なんて誰も観ませんよ”と言う。普通だったらネガティブで嫌な気持ちになるけれど、石井さんの場合はそれが色っぽくて愛おしくなる。そんな石井さんの気持ちが好きだった」と懐かしんだ。
石井監督もそんな竹中に強いシンパシーを感じていたようで「僕がテレビでやっていたギャグがあったりすると、それをやってと。でも僕としたらそれをやったら竹中直人になるわけで。でも石井さんは『それでいいんです』と。その言葉が好きでした」と振り返り「僕自身も役だとは考えていなかった。石井さんとの映画は“役”を超えたもの。石井さんと俺との関係なんだと感じることができた。僕を信じてくださっているという暗黙の了解。もはや役ではない。映画を挟んで石井監督と人間との関係になれた気がする。役なんて関係なくて、石井さんが現場を見てくれてる、それがよかった」と強い絆を伺わせた。この関係性について宇多丸は「竹中さんのお話しを聞くと、お二人の人柄がシンクロしているような気がする。石井監督はシャイな竹中さんにこそ“託せる”と思ったのでは?」と羨ましそうだった。

石井監督の撮影現場でのチャーミングな姿も竹中は忘れられないという。余貴美子と海にダイブするシーンでは「すごく汚い海で猫の死骸まで浮いていて。さすがに飛び込みたくないとプロデューサーの成田尚哉さんにコソッと言ったらそれが石井さんに伝わってしまい……。『ならば撮りません!』とロケバスから出てこなかった」と苦笑い。ロケバスのドアを叩いて何度も石井監督の名前を呼んだそうで、竹中は当時の様子を再現しながら「石井さん!石井さん! あ、もしかしたら今聞いてるかも? 石井さ~ん!」と天に向かって呼び掛けていた。
こだわりの強い石井監督だけに、撮影は長丁場になることも珍しくなかったそうだが、竹中は「フィルム時代はカメラの横で僕らの芝居を見ていたけれど、現場で直接モニターが見られるようになってから時間がかかるようになった。よくサブのカメラマンに『そのアングルでいいのか!?』と言っているのを思い出した。丁寧な言葉なんだけれど鋭かった」と美意識の高い石井監督の横顔を明かした。
そんな石井 隆監督は、2022年5月22日に75歳で永眠。改めて竹中は『ヌードの夜』について「僕にこだわってくださったというのは、愛おしくありがたい時間でした」と感謝しながら「石井 隆、何故死んだ!?と思う。もう1作撮って欲しかった。悔しくて切ない。本当にいい監督で石井 隆ならではの映像があって、こんな画を撮れる人はいない。ダメだ、泣きそうになっちゃう。どうしてこんなに素敵な監督が早くいなくなるのかと思うと、生き甲斐がなくなってしまう」とウルウル。これに宇多丸は「映画の良いところは、こうして上映するたびに新しい観客が観てくれること。僕は本作を観るたびに毎回驚き、感動し、思わず泣く。素晴らしい映画です」と励ますと、竹中は「本当にそう。こんなにたくさんの方が石井 隆の映画を観てくれるなんて本当に感謝です。初めての皆さんに『ヌードの夜』がどのように映るのか? どのように受け止めて、どのような気持ちで夜の池袋を歩いて帰るのか。……これが新宿だったら最高でしたけどね!」と笑わせながら、特集上映『石井隆 Returns』の反響に期待を寄せていた。

監督:⽯井 隆
(1946.07.11 – 2022.05.22)
映画監督・劇画家・映画プロデューサー。

没後3年 特集上映「石井隆Returns 初期監督作4本 HDリマスター版上映」


開催時期:2025年6月6日(金)より、シネマート新宿、池袋HUMAXシネマズ他、全国順次上映
『GONIN』『死んでもいい』『天使のはらわた』シリーズで知られる映画監督の石井隆が、2022年5月22日に永眠してから今年5月で3年という月日が経つ。この度、没後3年に合わせ、6月6日(金)より、石井 隆監督の特集上映「石井隆Returns」の開催が決定した。
1970年代より、名美と村木の悲しい愛を描いた「天使のはらわた」の劇画家として人気を博し、日活ロマンポルノでは『赤い教室』(79年/監督:曽根中生)、『ラブホテル』(85年/監督:相米慎二)などの脚本も担当。『天使のはらわた 赤い眩暈(めまい)』(88年)で映画監督デビューを果たした。その後も、『死んでもいい』(92年)、『ヌードの夜』(93年)などを脚本・監督し、【名美と村木】という女と男の愛の姿を、性愛と暴力を通して、叙情的に、かつ情熱的に描き上げた。『死んでもいい』は、第33回ギリシア「テッサロニキ国際映画祭」で最優秀監督賞を受賞している。
また『GONIN』(95年)では、これまでの男女の物語を抑え、社会で行き詰った5人の男たちが仕組んだ強盗計画の顛末を、壮絶なバイオレンス・アクションで描き、新境地を開く。その後も『黒の天使』シリーズ、『花と蛇』シリーズ、遺作となる『GONINサーガ』まで、唯一無二の美学、世界観でファンを魅了し続けた。
竹中直人、根津甚八、鶴見辰吾、柄本 佑、余貴美子、大竹しのぶ、夏川結衣、川上麻衣子など、石井監督の作品に常連で出演する俳優も多い。
上映作品
『ヌードの夜』 ※ HDリマスター版上映

(1993年、日本、カラー、110分)
監督・脚本:石井 隆
出演:竹中直人、余貴美子、椎名桔平、速水典子、岩松 了、根津甚八
ヤクザを殺した女・名美と、その女に惚れた何でも屋・紅次郎によるハードボイルド・サスペンス。石井 隆監督が劇画家時代から描く名美のイメージにそっくりな余貴美子が、監督第2作『月下の蘭』(90)に続き出演。石井監督のデビュー作から出演する竹中直人が、紅次郎(実は村木)を演じる。サンダンス・フィルム・フェスティバル・イン・トーキョー’94グランプリを受賞。
ヤクザを殺した女・名美と、その女に惚れた何でも屋・紅次郎によるハードボイルド・サスペンス。石井 隆監督が劇画家時代から描く名美のイメージにそっくりな余貴美子が、監督第2作『月下の蘭』(90)に続き出演。石井監督のデビュー作から出演する竹中直人が、紅次郎(実は村木)を演じる。サンダンス・フィルム・フェスティバル・イン・トーキョー’94グランプリを受賞。


『死んでもいい』

(1992年、日本、カラー、117分)
出演:大竹しのぶ、永瀬正敏、室田日出男、清水美子、岩松 了、竹中直人
監督・脚本:石井隆
原作:西村望「火の蛾」
撮影:佐々木原保志
音楽:安川午朗
ストーリー:
初夏の⼤⽉。突然の⾬の中、気ままな旅を続けていた信は名美に出会う。⼼魅かれるまま名美の働く地元の不動産屋を訪れた信は、社⻑の⼟屋英樹にアパートを借りたい旨を突然申し出た。名美に案内された古アパートで、信は名美が英樹の妻であることを知るが、すでに信の名美への気持ちは抗し難いまでにたかぶっていた。
結局信は英樹の下で働くことになる。あるドシャ降りの⼣⽅、帰りの遅い信を名美が探しにいくと、信は思いつめた表情でモデルルームにいた。⾃分を押さえ切れない信はそこで名美を犯してしまう。しかしその後、今度は名美が誘うように2⼈はベッドで肌を合わせた。そこに突然英樹の声が響いた。名美はベランダに⾝を隠し、最悪の事態だけは免れた。翌⽇、英樹が出かけると、信は名美に「⼀緒になって出よう」と誘うが、名美は⼿をふりほどいて英樹を迎えた。数⽇後の社員旅⾏の夜、酔い潰れた英樹が⽬を覚ますと名美の姿がなかった。⼤浴場で名美と信の姿を⾒つけた英樹は激怒、信をクビにしてしまう。
夏、⼯場で働く信のもとに名美が現れ、信はついに英樹を殺害することを切り出す。後⽇名美の⼿伝う布地屋を訪れた信は「次の⾬の夜に殺害を決⾏する」と伝えたが、英樹に⾒つかり名美を連れ戻されてしまう。次の⾬の夜、信が本当にやってきたが、名美はドアを開けなかった。しかし、意図せずに翌晩ホテルに泊まることを教えてしまう。新宿の⾼層ホテル、もう⼀度やりなおそうと告げる英樹をバスルームで信がスパナを⼿に待ち構えていた。泣き叫ぶ名美の前で、信は英樹を殺害した。翌朝、めざめた名美は英樹のライターを⼿にする信に静かに微笑むのだった。

『夜がまた来る』

(1994年、日本、カラー、108分)
出演:夏川結衣、根津甚八、寺田 農、椎名桔平、竹中直人 永島敏行
監督・脚本:石井 隆
撮影:笠松則通
音楽:安川午朗
ストーリー:
おとり捜査のため池島組に潜⼊していた⿇薬Gメン、⼟屋満の死体が横浜港に浮かんだ。殉職どころか、汚職の嫌疑をかけられ⽝死にした夫の無実を信じるのは妻の名美だけ。しかも彼⼥は満の葬式の⽇、池島組の組員たちにレイプされる。名美は絶望のあまり⾃殺を図るが⼀命を取りとめ、そして夫殺しの犯⼈は池島組会⻑である池島政信であると睨み、池島の命を狙おうとする。だが別の鉄砲⽟が池島に襲いかかる場⾯に遭遇、そこで村⽊哲郎に出会う。池島を殺すことに失敗した名美はまたもや⾃殺を図るが、村⽊に助けられ、池島組にかかわるのは⽌めろと忠告される。
しかし、村⽊と名美は池島組の幹部とクラブホステスとして再会する。村⽊の⼼配をよそに池島に接近する名美は池島の情婦となっていく。ある夜、ベッドの隣りに眠っている池島を名美は殺そうとして失敗、激怒した池島によって囚われの⾝になり、村⽊の舎弟である柴⽥にいたぶられる。そこでも村⽊の仲介で名美は命までとられなかったものの、シャブ漬けにされ、場末のバーに売られる。すっかり変わり果て、荒んだ毎⽇を送る名美を助けだし、介抱してやったのはまたもや村⽊だった。
⽴ち直った名美は村⽊に銃の撃ち⽅を教えてほしいと頼む。お互いの⼼の傷をなめあうように、2⼈はいつしか愛し合うようになっていった。そしてある⽇、池島組に警察のガサ⼊れが⼊った。村⽊に誘導され、屋上に逃げた池島の前に拳銃を持った名美が現れる。夫を殺した犯⼈の名を問う名美が油断した隙に銃を奪い、名美を追い詰める池島。その時、池島に向けられた村⽊の銃が⽕を吹いた。さらに組⻑を助けようとやって来た柴⽥と村⽊は壮絶な死闘を繰り広げるが、村⽊は何とか柴⽥を倒す。だが、その村⽊が持っていた銃が夫のものであったことから、名美は村⽊こそ夫を殺した男であることを知る。村⽊もまた、満よりずっと前から池島組に潜⼊していた刑事であり、⾃分の⾝を守るためやむを得ず満を殺したのだった。真相を知った名美は泣き叫びながら、近づいてくる村⽊を撃ってしまう。斃れた村⽊を抱きしめる名美。そして夜が明けようとしていた。



『天使のはらわた 赤い閃光』

(1994年、日本、カラー、87分)
出演:川上麻衣子、根津甚八、速水典子、鶴見辰吾
監督・脚本:石井 隆
撮影:笠松則通
音楽:安川午朗
ストーリー:
スチール・カメラマンの⼟屋名美はAV撮影現場で仕事を進めるうち、9年前、⾒知らぬ⼤男にレイプされた過去を思い出した。事件以来男性恐怖症に陥っていた名美は、バーのママちひろと愛し合ったりするが本気にはなれない。
その⽇、彼⼥は酒の⼒で気を紛らわせようとして酔い潰れてしまう。ふと⽬覚めるとそこはラブホテルの回転ベッドの上で、横にはハンディカメラと店の客だった須川の死体が。名美はとっさにビデオテープを抜き取り部屋を後にした。テープには⾒知らぬ⼥と須川の痴態が繰り広げられていた。
その⽇から男の声で脅迫電話がかかるようになり、警察の捜査も名美の近くまで及ぶ。彼⼥はあの晩、アドレス帳をちひろの店で落としたこと、仕事で⼀緒になったフリーの編集者・村⽊哲郎も店にいたことを思い出し、村⽊にビデオを⾒てもらおうとする。その時、カッターナイフを持ったちひろが名美を助けに来たと⾔い、村⽊を襲ってきた。名美に脅迫電話をかけ、須川を花瓶で殴ったのはちひろだった。ちひろは村⽊と揉み合ううちに⾜を踏み外し、3階から落下して死亡した。……村⽊と愛し合う名美。ビデオテープの続きには、名美が須川をメッタ刺しにしている情景が……村⽊の返り⾎を浴びた名美は全てを洗い流すかのようにシャワーを浴びていた。



配給・宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
協力:ファムファタル、キングレコード、日活、キネマ旬報社、中央映画貿易、ダブル・フィールド
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