
登壇者:小林 薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧、木下 麦監督
長編アニメ映画『ホウセンカ』の公開記念舞台挨拶が都内で行なわれ、声を入れた俳優の小林 薫、戸塚純貴、満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧とメガホンを取った木下 麦監督が登壇して作品についてクロストークを行った。

本作は、テレビアニメ「オッドタクシー」のスタジオCLAPが企画・制作したオリジナルアニメ。此元和津也の原作・脚本。無期懲役囚の阿久津(声・小林)は、人の言葉を操るホウセンカ(声・ピエール瀧)から声を掛けられ、自身の過去を振り返っていく――。一発大逆転に人生を賭ける男の愛の物語。2年ほど前に声入れが行われた。
W主演として、主人公のヤクザの男・阿久津の過去と現在を小林と戸塚が演じた。現在の阿久津を演じた小林は「オファーが来たとき、最近のアニメは若い男女の恋愛ものじゃないと当たらないんじゃないのか、老ヤクザが死にかけて大逆転なんて、誰が観るんだって、監督に失礼なことを行ってしまいました。ゴメンナサイ」と木下監督に侘びを入れる。「2年ぶりに再会して完成した作品を改めて観て、感動してしまいました。皆さんご覧になってどうでしたか?」と満員の客席に向かって呼びかけると、観客からは大きな拍手が起こった。

また、小林は「今日は出演者やスタッフに配られた“ホウセンカ”のTシャツを着てきました」と言いながら着ていたジャケットをめくってTシャツを披露。「監督とペアです」と嬉しそうにアピールした。

過去の若いころの阿久津を演じた戸塚は、声優に初挑戦。「実写とは違って、気持ちの乗せ方や会話の仕方もどこに向けて表現したらいいのか分からなかったけれど、隣に満島さんがいてくれてすごく救われました。皆さんに支えていただいて素敵な作品に出会うことが出来て嬉しいです。(収録時点では)どうなるか想像できなかったからこそ、冒頭の花火の場面はこんなことになるんだ!ってものすごく感動して。すごく幸せな気持ちになりましたし、アニメの力を感じました」と感謝を伝える。

阿久津のパートナー・過去の永田那奈の声を務めた満島は「渋いアニメだなぁ~って」と最初の感想を話し、「仕上がりを観て、たくさん好きな場面がありました。最初の花火のシーンとか……。温かな雰囲気があって、好きな映画です」と話す。オープニングの花火のシーンでかかるceroの主題歌もお気に入りの様子で「監督の音楽のセンスが素敵だと思いました」と話した。

現在の永田那奈役・宮崎は「観客の皆さんの心の中にはいろいろな感想や言葉が浮かんでいると思いますが、言葉にならなくても気持ちの揺れ動きを持ち帰っていただけたら……」と作品に期待をかける。

人の言葉を話すホウセンカ役のピエール瀧は「SNSで『実写でいいんじゃない?』という感想もありました」。キャスト陣を見まわして「うん、確かにいける。全部いける」と納得しながらも自身はホウセンカ役なので、「俺は全身を緑色に塗らないといけないのか……」とがっかりした様子を見せ、会場に笑いを誘った。

キャラクターのデザインも手掛けている木下監督は「日本のアニメは世界に誇れるカルチャーだと思っています。日本人にしか作れないものがあると思います。創造性というものを大事にして作った映画です」と紹介した。

印象に残っているシーンを聞かれ、戸塚は「引越し直後の家で阿久津と那奈が“Stand By Me”を口ずさむシーンが好きです」と話す。戸塚は満島と一緒の収録で、一緒に遊んでいるうちにその流れで本番が収録できたことを明かす。今回は、アフレコとは逆に、先に音声を収録する「プレスコアリング」という手法で製作さており、収録の時には段ボールや電子レンジの音などの効果音は入っておらず、文字だけで“ボンッ”と出ていただけで「二人で作り上げたリズムですね」と振り返っていた。
宮崎は“手紙を重ねる”シーンを挙げ「どんなふうになるのかな?って収録しているときはわからなかったので、ああこんなふうに重なっていくんだと……。美しかったです」と話した。
満島は「私は、菅原文太サンの出ている作品とか、北野 武さんが撮りそうな映画とか、岩下志麻さんが啖呵を切るような作品が好きなので、今回のアニメでそういった作品に少しだけ参加できた気がして嬉しかった」と笑顔を見せる。
一人の男の大逆転を描いた本作にちなんで、「大逆転」エピソードを披露。戸塚は「小さい頃、野球少年でしたが、小さくて体も細いし、練習しても遠くに球が飛ばなかった。レギュラーになりたいと思って、バントをすごく練習した。そうしたら送りバント要員としてレギュラーを勝ち取ることができたんです。これが僕の大逆転です」と話した。小林は「人に頼んで買ってもらった馬券が、3千円のつもりが間違って3万円買ってしまった。でもそれが当たって108万円になったことがある。コレ、大逆転と言えるのかな……」とビックリの告白を披露していた。

最後に戸塚は「僕も30歳を過ぎていろんな選択する場面が増えてきました。そんな中、この作品で僕は決断する阿久津から勇気をもらいました。一人ひとり感想は違うと思いますが、何か心に残るものがあれば嬉しいです。この映画を通して何かを感じてくれる方の輪が広がって行くことを願っています」と話した。
小林は、似ている作品として、無償の愛を描く日本映画の名作『無法松の一生』(三船敏郎主演)の名前をあげ、「映画を観終わると、清々しくて幸せな気持ちになるのは、何事にも変えられない無償の愛のようなものを感じるからだと思います。現代の日本でもそれを尊ぶ精神は生き残っているんだと感じることができて、すごく気持ちのいい仕事になりました」と話した。

木下監督は「皆で頑張って作りました。大きなスクリーンで上映されて本当に幸せです。皆さんにとって日常を一瞬忘れて90分間休息するような優しい映画になっていたら嬉しいです」と客席に向かってメッセージを送った。

(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:ポニーキャニオン
全国劇場にて大好評上映中!
(オフィシャル素材提供)