
登壇者:荒野政寿(元クロスビート編集長)、汐月しゅう(MC)
10月25日、26日の東京ドーム公演のチケットが完売し、オアシス復活フィーバーに沸く中、2022年に制作されたリアム・ギャラガーと息子たちが最新アルバムのレコーディングのためウェールズのロックフィールド・スタジオへ向かう様子を追ったオフィシャル・ドキュメンタリーを日本初公開。新作3曲をはじめ、ソロ時代の代表曲「Once」「The River」ほか、オアシスの名曲「Supersonic」「D’You Know What I Mean?」の計7曲をリアム本人が歌うパフォーマンスを披露するほか、兄ノエルとの確執、バンド、音楽、これまでのキャリアについて赤裸々に語るインタビューが収録されている。
この度、リアムをインタビューしてきた音楽雑誌「クロスビート」の元編集長・荒野政寿がトークイベントに登壇し、本作の魅力を語った。
再結成が話題のオアシスの成り立ちについて、荒野は、「リアムもただ面倒臭い人なのではなく、ストリートキッズみたいな育ちをした中で、たまたまお兄ちゃんと馬があってバンドマンになれた。リアムからしたら『オアシスは俺が作ったバンド』という自負があると思う。ノエルはそれを見て、『このバンドいいね、俺の曲をやったらもっといいよ』と言って入ってきたという流れがある。今回の再結成ツアーについては、リアムが引っ張った部分が大きいのではないかと感じる」と解説。
再結成について聞いた時の感想を聞かれた荒野は、「最初に聞いた時は頭にきたんです。ノエルに取材した時に、『俺はザ・スミスのファンだぞ。分かるだろ。スミスのファンは再結成なんてしないの。やるなら、金額の話だな』と言っていた。何で覆ったのかは気になっている。ノエルも人間なのでいろんな事情があるでしょうし、離婚して金銭的にも今までとは違う生活になっていると思うので、そういうのも要因の一つになっているかもしれない」と話した。

本作の感想を聞かれた荒野は、「本当に素晴らしい。再結成して来日をするという流れになったことを踏まえてみると、リアムって本当にいいボーカリストになったなと実感している」とのこと。
リアムの息子二人も登場するが、「ビリヤードのシーンが最高ですよね。いい温度の親子関係なんだなと思いますし、ああいうオフの顔ってなかなか見られないので、貴重な映画」と本作の価値を評価した。
劇中、スタジオで演奏していたバンド・メンバーについては、「ここのところあのメンバーでやっている。ギターのうちの一人のジェイ・メーラーはカサビアンのサポートを長いことやっていて、ビーディ・アイの最後のほうもサポートするようになった。センスの良いプレイをする人なので、ジェイのギターも見せ場を作ったのではないかと思う。あと、ドラムのダン・マクドウガルは、今のリアムのボーカルのタフな感じにすごくハマる強いビートを叩き出すタイプ。オアシスのサウンドをなぞるというよりアップデートするものをやれているので、適任のメンバーが揃っている」と絶賛。
劇中のリアムのボーカルに関しては、「オアシスの来日公演をずっとご覧になっていた方は覚えていると思うんですけれど、昔のオアシスのリアムのボーカルは、当たり外れがすごかった。ダメな時は本当にダメだし、福岡で伝説を作ったけれど、『歌えないからやめちゃう』という姿勢でやっていた時期もあって、ノエルとの関係が拗れる原因でもあったんだけれど、今見ていただいたスタジオライブは次元が違う。発声から何から、アスリートが体を作っていくように声を作っている感じがする。無理に振り絞っている声でもないし、歌詞をちゃんと噛み砕いて表現できるすごく懐の大きいシンガーになったと思う」と感慨深げに語った。

オアシスと舞台となったロックフィールドの関係については、「全部がロックフィールドで完成したわけでもないみたいなんですけど、『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』は兄弟どっちが歌うかを最後まで揉めていたらしい。リアムは自分が歌いたいし、ノエルはノエルで『お前には歌わせない』みたいなやりとりがあった。兄弟が今みたいに対等ではなく、明らかに上下関係があって、ノエルが絶対的にコントロールしていた。『モーニング・グローリー』のレコーディングは短期間で進んだらしくて、朝の早めにレコーディングが始まって、午前中にあらかた終わって、昼にはパブに行く。リアムはノエルが曲を作らないと歌を入れられないから、イライラしていた。歌入れを1発2発でキメて、パブに行くということを繰り返していた」と裏話を披露した。
本作の副題は、『オアシス復活の序章』。荒野は「リアムがしゃべっている内容からして、いろんなことを反省している。ソロになって成功できるか分からなかったと正直に言っている。ネブワースであれだけオアシスの曲を歌う。そのウォーミングアップにロックフィールドをわざわざ選んでいる。いろんなことがお兄ちゃんに対する目配せで、『そろそろいいんじゃないの』という無言のアピールに感じる」と分析。
劇中、リアムは2曲オアシスの曲を歌っている。荒野は、「さんざん歌ってきて慣れ親しんでいる曲ではあるけれど、『スーパーソニック』をあれだけ大事に、今日初めて歌ったかのように歌えるのがあの人の才能。手練れた感じになりすぎないでフレッシュにいられるシンガーはあまりいない」と絶賛。「基本的な態度や俺様っぷりは多分変わっていないと思うけれど、解散してからの長いブランクは辛かったと思う。一人でバンドをやってもうまくいかないというのを経験して、そこからどうやってキャリアを立て直すかは相当悩んだと思うので、冒頭しゃべっていたリアムの言葉に集約されていると思う」と推測し、本作が捉えたリアムの姿の貴重さを熱弁した。
公開表記
配給:NEGA
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(オフィシャル素材提供)