
登壇者:藤元明緒監督、渡邉⼀孝プロデューサー、北川喜雄(撮影監督)
藤元明緒監督の最新作『LOST LAND/ロストランド』が、この度、第38回東京国際映画祭<Nippon Cinema Now>部⾨にて公式上映され、レドカーペットへの登壇、そしてジャパン・プレミア上映が⾏われた。本作が⽇本の観客に披露されるのは今回が初めてとなる。ジャパン・プレミアの上映後には藤元監督、渡邉⼀孝プロデューサー、撮影監督の北川喜雄⽒が登壇。Q&Aを実施し、観客からの質問に答えた。
映画『LOST LAND/ロストランド』のジャパン・プレミアの上映後には、会場内に⼤きな拍⼿が鳴り響き、その後、藤元監督、渡邉プロデューサー、撮影監督の北川⽒が登壇。作品への想いや制作の裏側について語った。

藤元監督は「ヴェネチアから始まり、さまざまな国で上映してきて、ようやく⽇本で皆さんの前でこうしてお披露⽬できることがすごく嬉しく思っております」と喜びを語った。⼀⽅で、「主演で出てくれた子どもたち2⼈。実際にロヒンギャの⼈たちが出演しているんですけど、こういう晴れ舞台があってもパスポートがないなど事情があり、国外に渡航することはできません。⼀緒に⽴ち会うことができないことは⾮常に残念ですが、その代わり、僕ら3⼈で今⽇は進めさせていただければなと思います」とロヒンギャの現状を伝えた。
渡邉プロデューサーは「これまでの藤元作品の中でも最⼤の挑戦作になります。インディペンデント映画としての精神がすごく滲み出るような。そして、それが⾃分たちのチームだけではなく、⽇本、フランス、マレーシア、ドイツと、4 カ国の共同制作で、スタッフは8、9ヵ国以上の⼈たちが⼀丸となったからこそできた企画だなと思っております」と語り、国際的な制作体制への⼿応えを述べた。
撮影監督の北川⽒も「僕も彼らのこの映画の旅に、⼀緒に撮影し、いいものが撮れたと思っています」と感極まった様⼦で涙して語った。
その後は観客からの質問に答える形でトークが進んだ。
観客から「劇中の船でロヒンギャ語で歌うシーンがすごく印象的でした。歌は実際に彼らがよく歌っているような歌だったんでしょうか」と質問が上がると、藤元監督は「歌詞だけはオリジナルで、メロディーは通訳してくれたロヒンギャの⽅がよく聞いていたメロディーをもとに、彼⾃⾝が作ってくれた歌です。たまたま、エキストラの中に歌⼿の⽅がいて、3⼈でディスカッションしながら決めていきました」と説明した。
さらに、別の観客から「藤元監督の作品はドキュメンタリーと⾒間違うような作品が多いですが、子どもたち2⼈はどこまでシナリオを理解して、どこまでセリフは⾃然なのか」と問われると、藤元監督は「基本的にいわゆる映画の脚本というものは毎回ありまして、今回もそうなんですけども。ロヒンギャの出演者は、⽂字を通してのコミュニケーションが難しかったので、基本的には脚本に書かれていることを⼝頭で説明していく撮影のスタイルでした。子どもたちには構成上外せないセリフだけは、結構練習をしてもらったんです。特にラスト・シーンの弟くんは4歳とは思えないほど、頑張って練習をして演じてくれました。お姉ちゃんも説明を⾃分なりに受け取て、現場でどんどん発揮してくれたので、ほんとに撮影が進むにつれ、芝居に対して、ゲームをクリアしてるような感覚で楽しくなってきているように僕には⾒えました。2⼈の頑張りとしか⾔いようがないです」と明かした。
また藤元監督は「お姉ちゃんはこのような旅のことについてはお⺟さんとかから聞いており、エキストラの⽅々の中でも、多くの⽅がこのような旅を経験されている中で、⽇常的にたくさん話すわけではないですけども、知っているということはかなり地になっていたんではないかなと思います。お姉ちゃんが撮影の中盤あたりで、『なんか今のセリフの⾔い⽅、私、気に⾷わない』って⾔ったんです。あの時、すごいなと思いました」と笑いを誘った。
撮影監督の北川⽒も「撮影しながらブートキャンプのように、子どもたちがどんどんカメラのことも分かるようになって、現場の中で進化していくので、ついていくのがすごい⼤変でした」と振り返った。
撮影について尋ねられると、藤元監督は「結構、本番前にカメラのポジションを決めていた感じがしますよね」と振り返りつつ、「ただ、カメラと撮っているものに対する近さって、その⼈への愛着で決める⼈と映画的な発⾒をしたいという欲望で決める⼈は、これまでの経験上、タイプが分かれる。北川さんが⾯⽩いのが、どっちかに偏ってない。それ以上⾏くと何か⼀線を超えてしまうっていう部分があって。寄る時にすごい気持ちいいポジションを即興で撮っていた。特にラスト・シーンで思いましたね。僕だったらめっちゃ寄るなとか(笑)」と語り、会場を和ませた。
北川⽒は「そうですね、適切だったと思います。僕はちょっと⾃覚なしかもしれないですよ(笑)」と笑顔を⾒せると、藤元監督も「⾃覚すると嫌です(笑)」と笑いを交わした。
また北川⽒は「いつも被写体の⼈を好きになりすぎて寄っちゃうんですよ。でも、あの時はちょっと寄りすぎないようにやろうという意識だったので、そこがちょうど良かったのかもしれないのと、あとはレンズの選択について監督とディスカッションできていたので、共通⾔語があるっていうことがよかったかなと」と語った。
トークの終盤、観客から「ロヒンギャの問題っていうと、ミャンマー2017年8⽉末に⼤虐殺があって、70万⼈以上がバングラディッシュに逃れて、今も8年以上経ちますけど、問題解決してない。ミャンマーでもクーデターが2021年2⽉にあって、混沌としていて解決していない、⼤変な状況なんですけど。ミャンマーとずっと向き合ってきた藤元監督が、ミャンマーの中でも1番タブーというか、触れちゃいけないテーマに切り込んだ覚悟を感じました」との声が上がると、藤元監督は「『僕の帰る場所』という映画を撮りましたが、その前にやりたかったことではあったんですけど、ずっとこの題材を。出演してくれるっていうのが⼀番リスク。僕らの知らないとこで上映されるわけで。じゃあ、その時オッケーでも、1年後やっぱやめとけばよかったなってなるかもしれないし、そういった意味では、その覚悟を持って出演してくれたっていうのはすごいありがたかったなと思います。ほんとに、とばっちりで北川さんがミャンマー出禁になるかもしれないし。でもほんとに僕だけじゃなくて、それはみんなのいろいろな思いがあってこの映画ができたっていうのは、ミャンマーと関わってきた僕⾃⾝が結構救われてるなって思いました」と感慨深げに語った。

本作はヴェネチア国際映画祭の受賞以降、アジア太平洋映画賞・最優秀監督賞にノミネート、15ヵ国以上の映画祭で上映が決まっており、海外でもさらなる展開が広がっている。
『LOST LAND/ロストランド』は2026年4⽉、ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma 新宿、ポレポレ東中野ほか全国公開。
公開表記
配給:キノフィルムズ
2026年4⽉ ヒューマントラストシネマ有楽町、kino cinéma新宿、ポレポレ東中野ほか全国公開
(オフィシャル素材提供)




