
登壇者:斉藤陽一郎、松浦慎一郎
三宅 唱監督最新作『旅と日々』(原作:つげ義春 『海辺の叙景』『ほんやら洞のべんさん』)が11月7日(金)より全国で公開中。
本作の大ヒットを記念して、出演の斉藤陽一郎と松浦慎一郎がスペシャルトーク‼
これまで、11月9日(日)に主演のシム・ウンギョン、11月15日(土)には『夜明けのすべて』に続いて本作に出演した斉藤陽一郎、11月27日(木)に映画評論家の蓮實重彦、11月30日(日)に編集の大川景子がそれぞれ三宅 唱監督と語り合った《大ヒット御礼トークイベント》。この日は、再び斉藤陽一郎と、『ケイコ 目を澄ませて』に続いて本作に出演した松浦慎一郎が登壇し、監督不在だからこその“ぶっちゃけ”トークを展開。キャストと共に作り上げる、三宅監督ならではの現場の微細なやりとりが明かされた。
本編上映後に登場した斉藤陽一郎と松浦慎一郎。劇中で、主人公の李(シム・ウンギョン)が脚本を書いた映画を上映した大学の“磯貝 准教授”と、その映画の監督である“鮎川監督”として並んでいたシーンの組み合わせがそのまま登壇し、客席からは歓声が起こった。実は登場人物たちの名前には“魚”にまつわる細かい仕掛けがあることなど、作品の裏側にある小ネタも明かされた。
監督が細かく仕込んだ“忘れてください”前提のキャラ設定
実はキャラクター設定が事前に細かく決まっていたという磯貝 准教授と鮎川監督。磯貝准教授を演じた斉藤は「最初、三宅監督からとある映画批評家の方のイメージを伝えられたのですが、『一旦忘れてください』と言われたんです。なので一旦忘れて、その後、三宅監督のお友達でもある三浦哲哉さんという映画批評家で大学教授の映画トークを観に行って、一緒にご飯を食べに行ったりして、大学教授のトークの佇まいみたいなものを意識しました。実はちゃんとそういうこともしているんですよ」と役作りの過程を振り返った。

鮎川監督を演じた松浦は「鮎川監督という人物の設定を、事細かに三宅監督から伝えられました。鮎川監督の設定同様、僕自身が五島列島出身なので、人物を作るのか、それとも『これって僕自身のままでやっていいのか』と迷っている中、『鮎川監督は、この映画を撮った監督です』と、夏パートの映画が(自分たちの)撮影前に送られてきたんです。これを観ちゃうと、『すごい監督じゃん』とプレッシャーで(笑)。かと思えば、衣装合わせのときに『あの設定は忘れてください』と言われてしまって。正直なところ、混乱した状態でクランクインを迎えました(笑)」と当時の戸惑いを明かした。
斉藤は「磯貝准教授についてもそうですが、設定をたくさん書いてくださるのに、『一旦忘れてください』って三宅監督はおっしゃるんです。重要なことを言うだけ言って、『忘れてください』って(笑)」と、三宅監督ならではのユニークな演出を語った。
それぞれが選ぶ心に残ったシーン
改めて2人に本作の好きなシーンや見どころを伺うと、斉藤は「いちいち素敵だな、と思う映画です。冒頭で李さん(シム・ウンギョン)が脚本を書き出す前に考え込んでいる時間の時点で既に面白くて。『すごく面白いものが始まる』という予感から、素晴らしい景色が広がっていって。初めてこの映画を観た後に、三宅監督に『もう撮るものないんじゃない? やりつくしたんじゃない?』って伝えたくらい、素敵な映画だと思いました」と称賛。
松浦は「李さんが行くべん造さん(堤 真一)の宿、すごく歴史がありそうな宿なのに、ウサギ小屋に星のマークと“ピョンちゃん”と書いてあるのを観て僕はギャップに笑ってしまったんです。でも、その後にべん造さんの人生や背景が浮かび上がってきて、心がギュッとなりました。べん造さんのような偏屈そうな人でも、『この人にも家庭があったんだ』とかいろいろ考えさせられる、あのシーンは個人的に大好きです」と胸を打たれたシーンを語った。

2人が語る衣装合わせの時間とは?
ここで、三宅監督からお二人に“サプライズ質問コーナー”が勃発! まず、「僕は “衣装合わせ”という時間がすごく好きなのですが、衣装合わせは2人にとってどういう時間か」という質問。
斉藤は「衣装合わせって、最初に思い描いた通りになることが絶対ない。最初は『これか……』って違和感を覚えていても、着ていくうちに自分のものになっていくというか……。実際に着たりしながら、これからインする作品との距離がフィットしてくるっていう感覚があります」と、その奥深さを語った。
松浦は「三宅組は、良い意味で古臭くしてくれるんです。『ケイコ 目を澄ませて』のときは、監督に『このトレーナーを裏返しにして着てもらっていいですか?』と言われて、裏返しで着ているから変なはずなのに、着てみたらすごく良くて。そういうキャラクターと衣装の擦り合わせが出来るのが良いなと思います」と創作プロセスを振り返った。
思わぬハプニングも!“ここはもっとこうしたかった”シーン
次に、「お二人が出演されているシーンについて、『ここは良かった』『ここはもっとこうしたかった』等はあるか」という質問。
斉藤は「ポラロイドカメラを向けて撮るシーンで、カメラは壊れていたのに、テストの時だけ1枚出たんです。本番のときは1回も出なかったのに。本番で出たらもっと面白かったのにな、と思いました。まあ、出たら出たで面白くなかったのかもしれないけど(笑)」と裏話を明かした。
松浦は「魚沼教授の家で子どもを抱いてスープを食べるシーンは僕のセリフから始まるはずだったんです。テストは完璧だったんですけど、本番になったら、子どもが僕の腕をガシッと掴んで『食べたい』って言い出して(笑)。食べさせたら、『もっと食べたい』と言うので、僕のセリフが言えなくて、頭の中では『どうしよう、どうしよう』とテンパっていました。そうしたら、斉藤さんが僕のセリフを言ってくださって、シムさんと佐野史郎さんが繋いでくれたんです。その後も、テストでは見向きもしなかった魚沼教授の家にあるカメラを、子どもが急に本番で覗きこんで『何これ?』って言い出したり。そのシーンでも、皆さんに助けられました。アドリブでも三宅監督はそれを良しとするし、それを受け止める三宅組の感覚は素晴らしいと思いました」とキャストとスタッフのファインプレーで乗り切ったことを明かし、その場の感覚を大切にする三宅組の空気感を振り返った。

最後に、斉藤は「先日のトークイベントで三宅監督が『映画を観ることも旅である』ということを話されていました。本作でも、佐野史郎さん演じる魚沼教授が『気晴らしに旅行でも行ってみたらどうですか』と言うセリフがありますが、それは『気晴らしに映画でも観たらどうですか』とも思えるので、『旅と日々』に限らず、いろいろな映画を皆さんにも観てもらえたら良いなと思います」、松浦は「今日、このトークイベントが決まってから、どれくらいの人が集まってくれるんだろう、と日々ドキドキしながら過ごしていました。たくさんの方が来てくれて本当にうれしいです」と感謝を語り、イベントは温かいムードで幕を閉じた。
公開表記
配給:ビターズ・エンド
全国公開中






