イベント・舞台挨拶

『ウォーフェア 戦地最前線』』×青山学院大学/国際政治経済学部 学生×米軍退役軍人 対談

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 登壇者:ジョー・ヒルデブランド(劇中でジョセフ・クイン演じる兵士のモデルとなった退役軍人)

 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』で国家の分断と内戦をリアルに描き議論を巻き起こした鬼才アレックス・ガーランド監督が、同作で軍事アドバイザーを務め、米軍特殊部隊の経歴を持つレイ・メンドーサを共同監督に迎え、彼のイラク戦争での実体験を極限まで再現! 世界を席巻するA24製作の下、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を越える、圧倒的没入感に挑んだ『ウォーフェア 戦地最前線』(1/16公開)。この度青山学院大学にて、映画に出てくる兵士のモデルとなった退役軍人のジョー・ヒルデブランド氏と学生たちをオンラインでつないでの対談授業が開催された。

 舞台は2006年、アメリカ軍特殊部隊8名の小隊は、イラクの危険地帯・ラマディで、アルカイダ幹部の監視と狙撃の任務に就いていた。ところが、想定よりも早く事態を察知した敵兵が先制攻撃を仕掛け、市街で突如全面衝突が始まる。退路もなく敵兵に完全包囲される中、重傷者が続出。部隊の指揮をとることを諦める者、本部との通信を断つ者、悲鳴を上げる者……負傷した仲間をひきずり放心状態の隊員たちに、さらなる銃弾が降り注ぐ。小隊は逃げ場のないウォーフェア(=戦闘)から如何にして脱出するのか――。

 対談授業に参加したのは、青山学院大国際政治経済学部の佐竹知彦准教授と佐竹ゼミの学生たち15名。ヒルデブランド氏は1995年にUS海軍に入り、2004年にSEALsに入隊、本作で描かれている2006年イラク戦争中のラマディにおいてケガを負うが、その後、再び軍に戻りCommand Master Chiefまで上り詰め、現在は退役。本作では劇中に登場する、ジョセフ・クインが演じている指揮役下士官のサムのモデルとなっている。

 ヒルデブランド氏は、最初に学生に向けて「今回、こうして皆さんにお話をする機会をいただけることをありがたく思います。というのは、私が戦争を通じて学んだ教訓は、皆さんが学んではならないことだと思っているからです」と本作、そして対話を通じて自らの経験を伝えることの意義を口にする。

 最初は佐竹准教授から「映画を観て、ご自身が経験されたこととどれくらい合致していると感じましたか?」と質問。ヒルデブランド氏は「この映画は、私たち経験者が記憶に基づいて話したものでできた映画ですから、95%は正確だと言えます。残りの5%も、事実と(事実と)異なるものが付け加えられたというわけではなく、実際に私たちがそこで使っていた言葉は誤解を生む可能性があり、そのまま話しても分かりにくいこともあるという意味です」と説明。映画という形で観客に戦場のリアルを<体験>させることの意義について尋ねられると「自分が非常に困難な状況で経験したことをなるべく正確に伝えることが、他の人たちの(戦争についての)理解を助けることになると思います」そして「映画をご覧になった方が、それぞれに自分なりの“旅”を経験することができる――実際に(戦争を)経験してない方がそれを体感できるというのは、とても大事なことだと思います」と語った。

 学生からは、劇中で描かれていることや、戦地から家へ戻った後のことなど、さまざまな質問が飛ぶ。戦地から家に戻った時の心理について、ヒルデブランド氏は「いろんな感情が渦巻いていましたが、『傷は深いけど治して軍に戻りたい』という決意を胸に抱いていました」とふり返り、映画で描かれた経験をする前後での“変化”については「やはり肉体的な変化が一番大きかったと思います。何度も手術をして、リハビリを行い、肉体的に戻ろうとする変化がありました。心理的な部分では『あの日何が起こったのか?』『なぜ起こったのか?』というプロセスを理解することに最も時間を要しました」と明かした。

 本作を映画として生み出すということは、ヒルデブランド氏にとって、戦地での過酷な経験をもう一度、思い出すというキツいプロセスだったはず。それでも「この映画の制作に参加しようと思ったのはなぜなのか?」という学生からの問いにヒルデブランド氏は「エリオット(※映画の中に登場する狙撃兵で、敵襲によって重傷を負う)は私たちの友達なのですが、ものすごい経験をしているのです。ですが、あれから19年が経ったいまも、あのときのことを全く覚えていないんです。周りの人に説明されて『そうか……』となるけど、本人はあのときの状況を分かっていない。だから、この映画をつくることで、彼にあの時、何が起きて、なぜいまこう言う状況になっているのか?というのを見せてあげたいと思いました。(この映画を)エリオットへの贈り物にしたかったし、それは私がもう一度、痛みを経験する価値のあるギフトだと思いました」と説明。

 また、ある学生からは「劇中で描かれている戦闘、そして負傷の経験の中で、最も記憶に残っていることは?」という質問が。ヒルデブランド氏は「あの経験の中で私がよく覚えているのは、通信兵のレイ(※本作のレイ・メンドーサ監督自身がモデル)の目を見て、彼が私を見返してくれた時『あぁ、俺は大丈夫だ。死なない』と思ったことで、その記憶は脳に刻み込まれています。彼の目がすごく冷静だったので『俺は大丈夫だ』と思ったのをすごく覚えています」と生々しい記憶を明かしてくれた。

 「平和な日本で生まれ育った人々にとって、そもそも<国のために戦う>という思いが、なかなか言葉では理解できても実感できない部分もある。遠く離れたイラクで戦闘に従事するモチベーションは何だったのか」という質問には「説明としては、羊がいて、狼がいて、牧羊犬がいるとすると、私たち(兵士)は自分たちを牧羊犬だと思っています」と言う。「狼から羊を守るために国に命じられ、遠い国まで行きますが、そこでやることはまずは『(部隊の仲間同士)お互いを守る』ということが、大きな目的であり、動機になっています。ある目的のために派遣され、その目的を遂行するためにお互いを守る――それが大きなモチベーションです」と戦闘に身を投じる上での自身の心理について語る。

 <イラクが大量破壊兵器を保持している>ということが戦争の名目、大義となっていたはずのイラク戦争。実際には大量破壊兵器は見つからず<大義なき戦争>との批判も起きた。こうした点に関して「戦闘に従事した兵士としてどのような思いを抱いているのか?」と問われると、ヒルデブランド氏は「不幸なことですが、私たちはそうした決断をする立場にはありません」と語る。「当時、軍として兵士が派遣されることになり、私たちが送り込まれました。その意味では私たちも被害に遭ったという言い方もできるかもしれません。ただ、先ほども言いましたが、私が派遣された先でやったことは『部隊の仲間を守るために戦う』ということです。私たちは良い情報を与えられていなかったし、与えられていたとしても、決断を下す立場にありません。それは軍の上層部、ひいては政府が決めることです」そして「残念ですが完璧な政府はありません。(より良い政府を)選ぶために投票に行きますし、この戦争についていろんな論争があることも分かっていますが、私は何かを変えられる状況にはありませんでした」と続けた。

 本作のメンドーサ監督は、まさにそうした状況の決断を下す「“上”の立場の人間にも見せたい」と本作を制作したともいう。ヒルデブランド氏は「先ほども言ったように、この映画は、エリオットに何が起こったのかを見せたいという思いで、私は参加しました。その意味で、この映画を私は戦争映画だと思っていなくて、個人に起きたドラマであると思っています」同時に「映画の中にはどれだけ戦争が醜いものかということも描かれています。それはどんな戦争であっても言えることで、(戦争は)非常に個人的なものであり、醜いものであり、過酷なものであるということが描かれていると思います」と戦争の過酷な現実について一兵士の視点をもって訴えた。

 また「この映画に参加したことが、過去のつらい記憶や心の傷を癒すセラピーのような役割を果たした部分もあったのでは?」という指摘に、ヒルデブランド氏は「この映画に携わるまでは、みんなで集まってあの経験について話したり、議論する機会はありませんでした」と言う。そのため「あの戦争の重荷をそれぞれが個々に背負っていて、他の人が重荷を背負っているということも知らずにいました。もちろん、このような重荷は誰も背負うべきではないですし、ですが、この映画のおかげで、自分たちのことについて話し合うことができて、ようやく荷を降ろすことできました。その点で、治癒という意味があったと思います」とうなずいた。

 ヒルデブランド氏が従軍したイラク戦争当時と変わらず、現在もウクライナやガザなど、世界各地で戦争、紛争が続いているが、こうした状況について、ヒルデブランド氏は「哀しいかな、世の中に戦争は常にあります」と嘆きつつ「先ほども言いましたが、戦争は本当に醜いものであり、どのような犠牲を払っても避けるべきものだと思います。ただ、戦地に送られる兵士たちは、行きたくて行っているわけではありません。戦争以外のより良い問題解決の方法があるのではないか?という気がしています」と反戦を強く訴えた。

 対談授業の最後にヒルデブランド氏は「私のコメントが皆さんの理解の助けになれば幸いです」と語り、さらに「皆さんのコメントで、素晴らしいなと思ったのが『日本は長い間、平和な状況にある』という言葉です。それは素晴らしいことであり、皆さんが生きている間、ずっと続くことを願っています。同時に私は“戦士”として戦ってきましたが、その中で日本人の義勇兵の姿も見てきました。皆さんを守ろうとする“牧羊犬”がいることも覚えていてください」と呼びかけ、学生たちからはヒルデブランド氏に感謝の拍手が送られた。

 オンラインでの対談後には、改めて映画と今回の対談授業について、学生たちによるディスカッションが行われ、活発な議論が交わされた。ある学生からは、映画の中の爆発や銃撃、そして、耳鳴りによる静寂を含め「“音”による衝撃が大きかったです。戦争の醜さを体感できました」という感想が。

 また、映画でメインキャラクターとして描かれるアメリカ兵の存在だけでなく、イラクの兵士や民間人の存在についての指摘も。ある学生は「アメリカ兵が撤退すると、(戦火から)隠れていたイラク人が出てきて、印象的でした。米兵が戦争に行くのではなく、米兵に戦争が付いてくるような印象を受けました」と語り、別の学生も「彼ら(民間人)はメインキャラではないけど、家を壊され、部屋に押し込められ、戦争に巻き込まれ、撤退後は置き去りにされるなど、悲惨な状況に置かれている」と戦争が民間人に及ぼす影響の大きさを指摘する声も上がった。

 別の学生は、今回のヒルデブランド氏との対話を通じて「戦争に行く兵士の心理状況について『国を守るため』と自らを奮い立たせるような気持ちで行くという印象があったけど、(ヒルデブランド氏の言葉で)『(国の命令で)送られている』という感覚があることに驚きました。私たちが想像する兵士たちの心理状況と乖離があるのかなと思いました」と語り、この授業がリアルな軍人の心理を知る貴重な機会となったと語った。

 また、ある女子学生は「これまで市民側の視点の映画は観てきたけど、この機会がなかったら、兵士の目線の映画を観ることはなかったと思うし、兵士のリアルな視点を理解できたので、自分のように(戦争映画に)興味がなかった人にも観てほしい」という感想を口にした。佐竹准教授はその言葉にうなずき「よく言われるのは、軍を経験している人間ほど戦争を行なうことに慎重で、シビリアン(文民)であるほど戦争を起こしやすいということ」と語り、戦争がいかに起こるか?といったプロセスや意思決定について学ぶことだけでなく、この映画で描かれるようなリアルな戦場の悲惨さ、過酷さを理解することの重要性を訴えた。

公開表記

 配給:ハピネットファントム・スタジオ
 2026年1月16日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

(オフィシャル素材提供)

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