インタビュー

『あなたを忘れない』イ・テソン インタビュー

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©2007映画「あなたを忘れない」プロジェクト/ワイズジャパン

明るく健康で、夢に向かって一生懸命頑張っている韓国の青年の姿をお見せしたいと思いました

 2001年1月26日、JR新大久保駅のホームから線路に転落した男性を助けようとして、26歳という若き命を散らした韓国人留学生イ・スヒョンさんの実話をもとに、一人の夢見る青年の恋と青春を描いた『あなたを忘れない』。実在した青年を自然体でみずみずしく演じたイ・テソンが、故イ・スヒョンさんに深い敬意を示しながら、映画への思いを語ってくれた。

イ・テソン

 1985年生まれ。デドク大学在学中。2003年にドラマ「走れ、うちの母ちゃん」でデビューする。04年、『スーパースター カム・サヨン』で映画デビューを果たす。05年、『サランニ(親知らず)』で双子の高校生役を一人二役で演じ、高く評価される。最新作は本作とは全く違うワイルドな役を演じる『暴力サークル』(06)。今、最も注目されている若手俳優の一人。

2000人の中からオーディションで選ばれたそうですが、この映画に出演しようと思われた理由を教えてください。

 まず、日韓両国の多くの人々に感銘を与えた事故を題材としているということで、いろいろな意味で大切な映画だと感じました。二つ目としては、大変難しい役だと思いましたので、それだけに一層、俳優としての欲が出ました。日本語のせりふが非常に多いこと、外国のスタッフと仕事をすること、それ以外にも、マウンテンバイクやギター、歌など多くのことをこなすための準備が必要で、自分にとってはとても勉強になると思いましたので、ぜひともやってみたかったんです。

撮影前にイ・スヒョンさんのご家族などからお話をうかがったと思いますが、どのようなことを心に留めながら、今回の役を演じられましたか?

 この映画は脚本家が完全なフィクションとして書き上げたものではなく、実話に基づいた映画ですので、かなりのプレッシャーがありました。イ・スヒョンさんはすでに亡くなられていますから、当然ながら遺族の方々や彼を知っていた多くの方々がいらっしゃいます。ですから僕は、少なくとも皆さんにご迷惑をかけないような演技をしなくてはいけないと思いました。スヒョンさんのご両親はお会いしたとき、「また、私たちに息子ができたような気持ちだよ」と言ってくださり、「撮影は大変だろうけど、健康に気をつけてケガをしないようにね」と、本当の親のような言葉をかけてくださいました。僕としては、映画の中ではあくまでも、明るく健康で、夢に向かって一生懸命頑張っている韓国の青年の姿をお見せしたいと思いましたので、撮影している間は僕自身も一生懸命生きていたように思います。

今回は、名古屋、大阪と旅をされて、東京でも下北沢や池袋など、いろいろな場所に行かれたと思いますが、気に入った土地はどこでしたか? また、マウンテンバイクを乗りこなすのは苦労されませんでしたか?

 記憶に残った場所は池袋です。というのも、池袋で撮影した日が一番暑い日で、しかもヤクザに追いかけられながら走るシーンだったので、その日は朝から晩まで走り回って大変だったからです。また、池袋というのは昔、僕の祖父が中学高校時代の5~6年間、住んでいた町でもあるんですね。そういう意味でも感慨深い場所となりました。
マウンテンバイクについては、前のタイヤを上げてジャンプするというシーンがあって、それには苦労しました。自転車の高さとカメラの位置を考えながら、ピッタリのところでやらなくてはいけなかったので、すごく難しかったですね。

おじい様は日本で俳優をされていたとか? ご自身も日本映画に出演して、運命的なものを感じられましたか?

 祖父が俳優だったというのは、どうも話が大きくなってしまったようなんですね(笑)。祖父が日本に住んでいたというのは本当で、その当時はお兄さんと一緒に暮らしていたんですが、ちょうど二人が住んでいたアパートに日本人の映画監督さんもいて、祖父とお兄さんは二人とも俳優になりたいということで、その監督さんに「オーディションを受けさせてください」と頼んで、付いて回っていたそうなんです。実際に何回かオーディションは受けたんですが、二人とも日本人のようには流暢に日本語を話せなかったので、「もう少し日本語を勉強しなさい」と言われていたそうで、結局俳優になるというのは夢に終わりました。ですから、実際に撮影に参加したということはありません。ただ、そういうことが回り回って、今自分がこうして日本の映画に参加することになったのも、どこかで縁は感じますね。人と人との出会いというのは偶然ではなく、会うべく人と出会っているのだと僕は思っています。

おじい様や他の方々から、日本映画に出演するにあたって、何かアドバイスを受けたということはありましたか?

 この映画に出演が決まったときは誰よりも、祖父が喜んでくれました。日本で撮影されるということもありますし、祖父自身映画が好きだということもあります。この映画は釜山国際映画祭で上映されたのですが、祖父もその際に観て、非常に満足してくれていましたね。また祖父は、日本にいたときに好きだった俳優さんや、日本でよく行った映画館の名前などをノートに日本語で書きとめていたんですが、それを花堂純次監督とお会いしたときに、そのことについて一生懸命話していたんですよ。僕は祖父が日本語を話せるということは頭では分かっていましたが、実際に話しているところは生まれて初めて見ました。もちろん、家で日本語を使うことはありませんから。だから、花堂監督と話しているのを聞いて驚きましたね。あとは日本語の勉強の仕方を、ちょっとだけ祖父に教えてもらったこともあります。
 それと、スヒョンさんのお友達にも会ったんですが、いろいろな話をしているときに、ちょうど撮影に入る1週間くらい前だったんですが、スヒョンさんが左利きだということを初めて知りました。右手も使えたんですが、食事のときには左手を使っていたと聞き、短期集中で左手で食事をする練習をしまして、映画の中の食事のシーンは左で食べています。皆さんはお気づきになったかどうか分かりませんが。

日本語のせりふの難しかった点と、どういう風にせりふを覚えられたか、教えていただけますか?

 この映画のために日本語のせりふをマスターするのは、本当に大変なことでした。例えば、日本の俳優さんが韓国に行って、韓国の監督・俳優・スタッフに合流し、韓国語のせりふを言いながら演技をすることを想像していただいたら、その難しさを理解していただけると思います。僕は撮影に参加するため、6月に来日しました。せりふを覚えるにあたっては、文字を覚えて一つ一つ記憶していけばいいのですが、実際に発音してみたときのイントネーションや感情を表現するときのニュアンスなどは、最初はまったく分からない状態でしたので、何よりもそうした点が難しかったですね。一対一の対話でしたらまだ、相手役の人と何度か練習したらある程度分かってきますが、登場人物が一度に5人も6人もいるときにはもう、何が何だか全然分からない状況に置かれていました。ただ、撮影が進んで1ヵ月くらい経つと、だんだん聴き取れる単語も増えてきましたので、僕のリアクションも良くなっていったのではないかなと思います。

日本のスタッフと仕事をして良かった点、大変だった点は?

 外国の方たちと仕事をする場合は、もちろん国籍も言語も違いますが、同じ映画に一丸となって取り込んでいるわけですから、特に大きな違いや困ったことなどは感じませんでした。この映画を通じて、日本の俳優さんたちはもちろん、スタッフなど本当に多くの方たちと知り合えたということが、僕にとってはすてきなご縁だったと思っています。また、スヒョンさんは生前、日本と韓国の交流のために何かをしたいと思っていらしたようですので、この映画を通して両国がより親密に交流できるようになったら、本当にすばらしいですね。僕自身も、映画のおかげで日本とご縁ができてうれしいです。

今作に出演したことで、日本に対するイメージは変わりましたか?

 僕は、イ・スヒョンさんの追悼式があった1月26日に初めて来日しました。それまではやはり、外国だということで、韓国とはいろいろと違うのだろうなと漠然と思っていましたね。物理的にも飛行機で行かなければいけないということもあり、遠く感じていたのですが、いざ日本に来てみると、意外に似ている点がたくさんあることに気づきました。また、駅や空港にもハングルで書かれた看板がたくさんありますし、新大久保のコリアン・タウンに行ってみたら、韓国人が大勢いて、韓国の物もたくさんあって、“日本は決して遠い国じゃない。似たところもたくさんあるんだな”と実感しました。

スヒョンさんと同じ状況に置かれたとき、ご自身だったらどうされていたと思われますか?

 僕はおそらく、同じことは出来なかったと思います。スヒョンさんのとった行動が誰にでも出来ることだとしたら、このように後に映画化されることもなかったでしょうし、多くの人々の心に触れることもなく、記憶にも残らなかっただろうと思います。スヒョンさんがなぜああいう行動をとったのか、その理由は天国にいる彼しか分かりません。「きっとこうだったに違いない」と、他の人が簡単に結論づけることはできないと思います。

「富士山に登るシーンで急に晴れることがあり、スヒョンさんが見守ってくれている気がした」と監督がおっしゃっていたようですが、テソンさんご自身もそう感じられましたか?

 富士山では、まず僕たちが登ってくるシーンを撮っていて、その後カメラを頂上側に向けて撮るという段取りだったんですが、僕たちが登っているときはまだ、全体的に雲がかかっていました。それが、頂上にカメラを向けたときに、それまでが嘘だったみたいに辺りが晴れ上がったんです。その状態が10分くらいは続きました。現場にいた監督・スタッフ・俳優は全員、拍手をしましたね。もちろん、科学的に分析した場合にはごく当たり前の自然現象だったのかもしれませんが、現場にいた僕たちはやはり、スヒョンさんが見守ってくれているのだと感じざるを得ませんでした。

この映画では家族の愛を描いていますが、テソンさんにとって家族とはどういう存在ですか?

 僕の家族は地方にいて、僕は今、ソウルで一人暮らしをしています。撮影が続いたため、ずっと実家には帰れずにいたのですが、先週久しぶりに帰省しました。実家では本当にリラックスできて、そのとき、“これが家族というものなんだ”としみじみ実感したんですね。やはり家族というのは、一緒にいると幸せで、気がおけず頼れる存在です。いつも僕のことを考えて大切に思ってくれている両親こそ、自分の家族なんだと心から思いました。

スヒョンさんは日本滞在の間に夢を見つけられていましたが、テソンさんご自身はどんな夢を持っていらっしゃいますか?

 僕の今の夢というか、目標は、とりあえず自分の目の前にあること、与えられたことをどんどんこなしていきたいということです。今は、間もなく封切られるこの映画をより多くの方々に観ていただきたいので、日本と韓国においてプロモーションを一生懸命やらせていただきたいと思います。また、今は他の映画の撮影にも入っていますので、そちらもベストを尽くしていきたいです。

この映画には兵役にまつわる話が出てきますが、テソンさんは兵役を終えられたのですか?

 僕はまだ大学生なので軍隊には行っていませんが、韓国の男子であるならば、兵役を経験することが義務だと思っています。入隊の時期はまだ定めていませんが、僕としては、もう少し俳優の仕事を続けてからにしたいですね。

今後も日本映画に出演したいですか? 好きな日本映画がありましたら、お教えください。

 もちろん、機会さえありましたら、日本の作品にもどんどん参加していきたいと思いますし、すばらしい監督や俳優の方たちと一緒に仕事をさせていただきたいですね。
日本映画は、韓国で封切られた作品はほとんど観ていると思います。その中でも好きな作品は、『誰も知らない』です。あと、印象深かったのが、『ジョゼと虎と魚たち』『世界の中心で、愛をさけぶ』ですね。静かな中にも何かを訴えかけている映画が好きなんです。

韓国映画界で今後一緒に仕事をしてみたい俳優さんはどなたですか?

 俳優さんでは、イ・ビョンホンさんをとても尊敬しています。イ・ビョンホンさんが出演しているドラマ「オレンジ」を子供の頃に見て、“すごくすてきな俳優さんだな”と思いましたので、今後ぜひ機会があれば、映画でご一緒できるといいなと思っています。

ご趣味は何ですか? 日本で行きたい場所を教えてください。

 趣味は、僕自身もスポーツや音楽がとても好きです。家でも音楽を大音量で聴くのが好きで、休みの日には音楽を聴いたり映画を観たりしています。非常に平凡な趣味ですが……(笑)。普段俳優をしていますと職業柄、体を動かしたり、いろいろな所に行ったりもしますので、休みの日は静かに家で体を休めながら過ごすのが好きですね。
日本で行きたい所ですが、共演したマーキーさんが沖縄出身で「沖縄はいいよ~」という話を何度も聞かされましたので、時間があればぜひ行ってみたいと思うのと、あと、テレビでは何度も見ているんですが、富士急ハイランドに行ってみたいです(笑)。

これから映画を観る方々に向けて、メッセージをお願いします。

 (日本語で)皆さん、はじめまして。僕は今回の映画『あなたを忘れない』のイ・スヒョン役を演じたイ・テソンと申します。よろしくお願いします。(韓国語で)1月27日、2001年に多くの人々の心を揺さぶったイ・スヒョンさんの映画が封切られますので、皆さん、どうぞご期待ください。たくさんの方々にご覧になっていただきたいと思います。イ・スヒョンさんの人間愛を描いていますので、観ていただいて、多くの方々に伝えていただければうれしいです。

 新大久保駅での事故から、すでに6年という歳月が流れたが、当時のニュースを聞いたときの衝撃を未だに覚えている方々も少なくはないだろう。あれは、それほどの出来事だった。ホームから線路を見下ろすと身がすくむ。そこに落ちた人を救おうと、故イ・スヒョンさんが飛び降りたのは、本当にとっさの行動だったのだろう。そんな青年をモデルにした主人公を本作で演じたイ・テソンさんは、本当に初々しく真っ直ぐな方であることが話の端々からもうかがい知れ、彼だからこそこの難しい役に説得力をもたせることができたのだと実感した。本作とは全く違うワイルドな役を演じている最新作の彼も見てみたい!

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『あなたを忘れない』作品紹介

 日本で暮らすことに夢と希望を抱く若者がいた。彼の名前はイ・スヒョン。自分の歌を一人でも多くの人に聴いてほしいと願う少女がいた。彼女の名前は星野ユリ。広い東京の真ん中で、偶然出会った二人。音楽を通じて友情を育み、やがてそれは恋へと変わっていく。お互いにかけがえのない存在になった二人。そんなとき、悲劇は起きた……。
2001年1月26日、JR新大久保駅のホームから線路に転落した男性を助けようとして、命を落とした韓国からの留学生イ・スヒョンさんの実話をもとに、夢と恋に生きた青年の短くも美しい半生をフィクションを織り交ぜ描いた感動作。

(2006年、日本・韓国合作、上映時間:130分)

キャスト&スタッフ

監督:花堂純次
出演:イ・テソン、マーキー、金子貴俊、ソ・ジェギョン、ジョン・ドンファン、大谷直子、原日出子、竹中直人ほか

公開表記

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2007年1月27日(土)よりロードショー

(オフィシャル素材提供)

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