インタビュー

『人間椅子』宮地真緒 単独インタビュー

©2006 アートポート

表現することを楽しんでいます。お芝居するのが大好きなんです

 没後40年以上の時を経た今もなお、その独特の感性と美意識で読者を魅了し続ける昭和の鬼才作家・江戸川乱歩。このたび、「エロチック乱歩」と題して、乱歩の代表的な短編2作が現代的アレンジで新たに映画化されたが、その中の1本『人間椅子』で、官能と狂気の渦巻く世界に挑戦した女優・宮地真緒がインタビューに応えてくれた。

宮地真緒

 1984年2月2日生まれ、兵庫県淡路島出身。2001年フジテレビ・ビジュアルクイーン、02年旭化成の水着キャンペーン・ガールを経て、02年のNHK朝の連続ドラマ小説「まんてん」のヒロイン役に抜擢される。
 03年には歌手として山口百恵の名曲「秋桜」のカバー曲を発表する。
 その後も女優として「ウォーターボーイズ」(03)、「南くんの恋人」(04)、「アタックNo.1」(05)などのドラマ出演、ミュージカル「ピーターパン」の7代目主人公として舞台に、そして『暗いところで待ち合わせ』(06)、『赤い鯨と白い蛇』(06)など映画出演にと活躍している。

ブログを拝見しましたが、すごく筆まめですよね? 女優の方でこれほど毎日のように書かれているのも珍しいと思いました。

 今、自分の課題のようになっていまして……(笑)。毎日何か続けていけたらな、と思って続けている感じです。寝る前に書くことが一番多いんですけど、面白いものを見つけたときや、何か思いついたときにも書いています。ケータイで送っているんですよ。

これまで、江戸川乱歩の小説は読んだことがありましたか?

 いえ、実はなかったんですよね。江戸川乱歩って難しいイメージが強くて、これまではあんまり気乗りしなかったというか……。

でも、今回読んでみていかがでしたか?

 先に台本を読んで、その後に小説を読んだんですけど、内容は結構違っていましたね。映画は現代が舞台ということもありますが、あまり小説のほうにもって行かれてしまうと、台本の印象が薄まってしまうといけませんから、小説は1回パッと読んで、とりあえず置いておこうと思いました。あとはもう、台本のほうに集中して……という感じでした。

台本を読んだときの印象はいかがでしたか?

 う~ん、やっぱり難しかったです。不思議な世界ですよね。私は巻き込まれていくほうですけど、こういう愛の形、欲望の形があるんだなあと思いました。結局はSとMの話なのかな、と(笑)。

乱歩の文学は、禁断の愛、倒錯的な愛の世界、タブーのない世界ですからね。宮地さんにとっては異質でしたか?

 そうですね。こういう屈折したものに触れたのはやはり、この台本を読んだときが初めてでした。

抵抗感はありましたか?

 抵抗はなかったんですけど、素直には受け止められなかったというか、こういう世界もあるんだなと、ちょっと考えさせられました。私、人を殴るのも殴られるのもイヤですから(笑)。

ああいうフェティシズムは理解しにくいですか?

 いや、フェチ的なものはかなり理解できるんですけど、それが椅子の中に入っちゃったりというのは、言うなれば変態の世界かな……と(笑)。

宮地さんご自身は何かに対するフェチがありますか?

 私、血管が好きなんです(笑)。男の人の浮き上がっている血管を触るのが好きで(笑)。

私も結構出ているほうなんですけど……(笑)。

 それではまだ足りませんね、その二倍くらい膨らんでいないと(笑)。

今回の真理という役柄は一見普通そうなんですけど、実は結構壊れていますよね?

 そうですね、盗み癖があったりとか、あの部屋とか。部屋に関しては、片づけられない気持ちはすごく分かるんですよ。あそこまでひどくはないですけど、うちも結構散らかってますので(笑)。

彼女はどうしてあんなふうなんでしょうね?

 まず、ミーハーですよね。でも、自分のことになるときっと、どうでもよくなるんじゃないでしょうか。外見はちゃんとしているけど、人に見えないところは別にどうでもいいから、ああいう風になっちゃうんだと思います。

最近の若い人たちの中には、部屋をあのような状態にしておく人もいるようですね。それも同じような理由からだと思いますか?

 う~ん、人それぞれだと思うんですけど、やっぱりどうでも良かったりとか、家にいる時間が少なかったりするからなのかな。あとは普通に、面倒くさいということもあると思いますよ。ただ、あそこまで行ってしまうと、私は生活できませんね。

宮地さんは、元気いっぱいでナチュラルなイメージがあるんですけど、今回のような役は初めてという感じでしたか?

 いえ、ナチュラルに……と思いながら演じたので、けっこう素に近くて、無理にテンションは上げていないんですよ。普通に生活している普通の女の子がちょっとずつおかしな世界に巻き込まれていくというイメージでしたから。

それでは、この役のお話が来たときには違和感はなかったですか?

 違和感というよりも、どう役を作っていけばいいかなというのはありましたね。年は同じくらいですけど、OLさんの生活というのは経験がないので、逆に想像がつかない世界なんですよ。勘を頼りにしたというか、あとは、テンションのもっていき方というのは佐藤監督と相談しながら……という感じでした。

子供の頃から芸能界でお仕事をされているんですものね。周りにはOLのお友達はいらっしゃらないのですか?

 OLの友達もいるんですけど、真理のように出版社に勤めているわけではないですし、結局は仕事というよりも性格かなって。あくまでも、真理個人の性格として考えながら、キャラクターを作っていこうと思いました。

それでは、かえって新鮮というのはありました?

 ええ、新鮮でもありましたし、体験したことのない世界でしたので、難しかったというのもありましたね。楽しかったですけど。

佐藤監督からはどんなことを言われましたか?

 佐藤監督はシーンの頭毎にいろいろと説明してくださる方で、分かっていても、それを伺うことで自分の中でモチベーションが上がったりしましたね。あと、監督は譲れないところは絶対に譲らないんですよ(笑)。私が「こうだと思います」と言っても、「いや、でもね……」と。

どういう部分で考え方が違っていたんですか?

 最初の頃は完全に監督の指示通りにやっていたんですけど、日が経つにつれて自分の中でキャラクターが出来上がっていったので、「このときにはこういう風に言ってはダメですか?」とか「こういう風に動いていいですか?」と聞いても、却下されたりということは何度かありました(笑)。信念の固い方でしたね。

プロフィールを拝見すると、どちらかというとアート志向的な方のようですね。

 そうですね。撮影に入る前から、おそらく頭の中で“このシーンはこう”と明確なイメージが出来上がっている方なんだと思います。

引きの映像が多かったですね。

 ええ、長回しもすごく多かったです。ワンシーン・ワンカットで。

それのほうがやりやすかったですか? テンションは保てますよね?

 ん~、私はどちらでも大丈夫なほうなんですよ。

今回はどのキャラクターもヘンで、まともな人は一人もいませんでしたね? 現場の雰囲気はいかがでしたか?

 みんな、まともでしたよ(笑)。

小沢真珠さんと共演された印象は?

 小沢さんは本当にお美しいですし、一緒にお芝居をしていて初めてという感じがしませんでした。普通初めてのときって、息が合うまで私はちょっと時間がかかったりするんですけど、小沢さんとは結構すっと入れたんですね。きわどいシーンもありましたけど、抵抗感なく演じられました。

やっていて、つい笑っちゃったようなシーンはありませんでしたか?

 いえ(笑)、結構淡々とやっていました。カメラが回っていないときはいろいろお話ししたり楽しくやっていたんですけど、撮影中はシリアスでしたね。

あの椅子はかなりこだわって作られたそうですが、見たときの印象は?

 座ってみたんです。後ろに人が入っていないときですけど(笑)。ちょうど良い凹み具合で、すごく気持ち良かったんですよ。人が入っているときは、何とも気持ち悪かったですけど(笑)。

今回の愛の形はとてもいびつですけど、ブログで宮地さんは“恋愛特攻隊長”だと……(笑)。

 あ、ノリでそんなことに(笑)。すみません、ノリで変なことばっかり書いて(笑)。

“恋愛特攻隊長”としては、椅子に入った男に相談されたとしたら、何と答えますか?

 一度、自分自身を見直してほしいですよね、“このままでいいのか?”って(笑)。でも、本人が納得していて、なおかつそれを受け入れてくれる人がいるんでしたら、それはそれで私はありだと思うんですよ。他人が批判することではないですし、かといって私は「良かったね」とも言えないですけどね。まあ、「あなたがそれでいいのなら、いいんじゃない?」と答えると思います。

最後にプリンターだけが動いていましたよね? あのとき、彼女はどこにいたと思われますか?

 私もそれは監督に伺ったんですけど教えていただけなくて、私の中では、椅子の中にいるのか、どこかに完全に身を潜めて手伝っているのか、あるいは死んでしまったのか……、それもありかなと思いました。観客の方それぞれで解釈が違っていていいんじゃないでしょうか。とにかく、世間からは完全に消えた存在ですね。

彼女はどちらかを選ばなければいけなかったんですよね? 表現するためには自分を消さなくてはいけなかったですし、自分を主張したら潰されるわけです。自分の存在は消しても作品は生かすという彼女のあり方をどう思いますか?

 私は無理ですね。私だったら、何年かかっても他の道を探ります。彼女はもしかして、普通に人生を歩んでいたら面白い表現はできなかったかもしれませんけど、自分を消してまでその1回のチャンスをつかむかと問われたら、私はできませんね。

宮地さんご自身が女優であるのは、自分を表現したいからですか?

 いえ、ただ好きだからです。お芝居するのが大好きなんです。“こう表現したい!”とか、こだわりがあるわけではなくて、自分が感じたことや、監督やいろいろな方々の助言も伺いつつそれを自分の中で消化して、表現していくことは楽しいですし、好きなことを仕事にしているのは本当に幸せだなと感じています。

宮地さんのブログには犬がよく登場していますね? とても珍しい犬種だと思うのですが。

 あれは、パグとポメラニアンのミックスなんです。ホント、可愛いですよ(笑)! 散歩に連れていったりドッグランに行ったりしたときも、「何という犬種ですか?」とよく聞かれますし、「可愛いですね」とおっしゃっていただくとやっぱり、鼻高いかなって(笑)。

鼻が高いと言えば、“天狗”という名前ですよね(笑)?

 あれは直観でつけました。初めてうちに来たときに、すごく生意気そうだったんですよ。“この子、天狗みたい”って思ったのと、これは後付けなんですけど、“天狗”って“天からの犬”という意味があるのでいいかなって。もう、親になった気分で漢字の意味とか調べましたから(笑)。
小さく見えますけど、もう3歳半くらいなんですよ。5匹兄弟の末っ子ということで、すっごく甘えん坊で。もともとはパグを飼おうと思っていたんですけど、たまたま見つけたブリーダーさんの所にパグとポメラニアンのミックスがいるとお聞きし、写真を見たらあまりに可愛くて、“ぜひこの子が欲しい!”と思ったんですね。犬はかけ合わせたらいけない種類もあるようですけど、この“天狗種”だけは繁殖させたいな~なんて(笑)。

オフのときはどういう過ごし方をされますか?

 あまり家を出ないほうなんです。DVDを見たり、小説やマンガを読んだりするのが好きですね。料理をするのも好きです。一人分だと余ってしまうのであまり作らないんですけど、たまにお母さんの味が恋しくなって、そういうときは自分で作ります。長女なのでお手伝いするのが当たり前でしたから、そばで見ていて自然と覚えたんですよね。だから、大体の味の取り方は分かっています。よく作るのは炊き込みご飯ですね。

最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

 こんにちは、宮地真緒です。私が出演している映画『人間椅子』が6月30日からシアターN渋谷にて公開になります。江戸川乱歩原作の映画で、かなり面白いことになっていると思いますので、皆さんぜひ観にいらしてください。

 子供の頃から芸能界でお仕事をされてきただけあって、とてもしっかりとして落ち着いた雰囲気でお話ししてくださった宮地さん。その語り口から、女優という仕事に対するその深い想いと情熱が十分に伝わってきた。もうひとつ伝わってきたのが、相当なアニメ・マニア(オタクとは言いますまい……笑)っぷり。某アニメ系スポットを「そこは私の庭」とさりげなく語ったり、当日着ていらしたTシャツのプリントも「エヴァンゲリオン」の綾波レイですから! それがまた、カッコ良く着こなしているんだよね。アニメをおしゃれにしている宮地さんを見習おう!

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『人間椅子』作品紹介

 長らく筆を折っていた美貌の人気作家、今野佳子の担当となった新人編集者の真理。若くして華々しくデビューした佳子は、ここ数年新作どころかエッセイすら書いていない。真理が勤める出版社の新人賞に応募したことが佳子のデビューのきっかけで、作家志望だった真理はその賞にも応募した過去があり、彼女にとって佳子はまさに憧れの存在であった。
 担当編集者として“書かせる”ために佳子の家へ日参するようになる真理。エキセントリックな女流作家と次第に心を通わせていくうち、彼女は一本のビデオ・テープを見せられる。そこには佳子の師匠大御所作家、大河内俊作との変態プレイが映し出されていた……。
 大河内俊作の行方にも興味を持った真理は、彼が佳子の家にいるのではないかと思うようになる。一人暮らしの佳子の家にある黒革の大きく、まるで生きているかのような椅子の中に……。

(2006年、日本、上映時間:76分、PG-12)

キャスト&スタッフ

監督・脚本:佐藤圭作
原作:江戸川乱歩
出演:宮地真緒、小沢真珠、板尾創路、鈴木 薫、鈴木拓也、茅野雅生、水戸ひねき、石川 謙、辻 修

公開表記

配給・宣伝:アートポート、宣伝協力:アルゴ・ピクチャーズ
2007年6月30日(土)~7月6日(金)、7月14日(土)~7月20日(金)、シアターN渋谷にてレイトショー

(オフィシャル素材提供)

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