インタビュー

『石の微笑』ブノワ・マジメル インタビュー

俳優は、自分から能動的に創造行為に参加する姿勢が大事だ

 ヌーベル・ヴァーグの現役最後の巨匠、クロード・シャブロル監督の最新作『石の微笑』。女流ミステリー作家、ルース・レンデルの小説を原作にした本作で、内に狂気をはらんだミステリアスな女性に心奪われるナイーブな青年を演じた、名実共にフランスを代表する人気俳優ブノワ・マジメルが、フランス映画祭2007に合わせて来日。シャブロル監督の映画出演は3度目になる彼が、監督の映画の魅力や、俳優としての今後のあり方について語ってくれた。

ブノワ・マジメル

 1974年パリ生まれ。
 『人生は長く静かな河』(88)のモモ役で注目を集める。『夜の子供たち』(96)でセザール賞有望若手男優賞にノミネートされる。TV、映画、舞台で活躍しており、『年下のひと』で共演したジュリエット・ビノシュと結ばれ、一児をもうけて話題を集めた。
 主な出演作に、『シングル・ガール』(95)、『夜の子供たち』(96)、『王は踊る』(00)など。ミヒャエル・ハネケの『ピアニスト』(01)でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いた。

個性的なキャラクターと衝撃的なストーリー展開でしたが、初めて脚本を読まれたときにはどのような印象を受けましたか?

 これはクロード・シャブロルの脚本の特徴なんだけど、最初に読んだときには映像に表れているような微妙な演出は感じさせないんだ。とてもシンプルで、淡々とした脚本なんだよ。ストーリーとしては、シャブロル的、つまり、普通の生活の中に何かしら狂気が入り込んでいて、どこかが変だというものを感じ取ることはできるんだけどね。でも、いざ撮影に入って彼が演出をほどこし始めると、途端にすごくシャブロル的なものになっていく。それを目撃するのは大きな驚きだった。
シャブロルはもともと、俳優にあまり演技指導をしないタイプの監督だ。だから、彼の演出というのはイコール、カメラ・ワークであって、それこそがシャブロル的演出を物語るものだと思う。
 同じことを、ミヒャエル・ハネケ監督と(『ピアニスト』で)仕事をしたときにも感じた。彼のやり方もシャブロルと近いものがある。でも、脚本という意味では、ハネケのほうがインパクトは強いね。だから、シャブロルの映画について言えば、脚本を読んだ印象よりも完成した作品のほうがはるかに良いんだ。もちろん、それは彼の全部の映画について言えることではないけど。時には残念なことに、完成した映画に失望することもあるね(笑)。僕ら俳優はあくまで、演じる側でしかないから。

クロード・シャブロル監督の映画は『Le Fleur du Mal(訳題:悪の華)』以来ですね。『Le Fleur du Mal』ではナタリー・バイさん、そして今作ではその娘さんであるローラ・スメットさんと共演していますが、相手役となったローラさんの印象をお聞かせください。ナタリーさんとローラさんお二人に共通する部分はありましたか?

 ローラは当時新人だったけど、ママが女優ということもあってか、映画界の空気に慣れていて、現場では緊張することもなくすんなりと溶け込んで、とても素晴らしい演技を見せていたと思うよ。彼女は非常に役にのめりこむタイプの女優なんだ。本作の前にグザヴィエ・ジャノリ監督の映画(『Les Corps impatients(フランス映画祭公開時タイトル:加速する肉体』2003年)を経験していて、病気の女性という難役に挑戦し、髪の毛を剃ることまでして熱演していた。つまり、彼女はそういったことも出来る女優なんだよね。
 二人の共通点か……、ないと思うな(笑)。ない、ない(笑)! ローラは彼女自身の個性を持っているし。でも、そうだな……、ナタリーは自分のやりたいことが明確に分かっている人で、強い個性の持ち主だ。それはローラも同じだね。シャイなところがない女性だ。すごくリラックスして演じていたよ、ラブ・シーンも含めて(笑)。

ローラさんは、外見はお父さんのジョニー・アリディさんに似ていますよね?

 似ているところはあるね。ジョニー・アリディが今日、どういう顔をしているかはちょっと分からないけど。リフティングをしていると思うんで……(笑)。

ジャン・ベッケル監督の『ピエロの赤い鼻』や、『Le Fleur du Mal』でもブノワさんと共演されていたシュザンヌ・フロンさんは、今回はわずかな出演でしたが、亡くなられた彼女に対してはどのような想いを抱いていらっしゃいますか?

 シュザンヌは僕も大好きな方だ。残念ながら去年お亡くなりになって、シャブロル監督もそのことをすごく悲しんでいらしたね。フランス映画界が誇る大女優で、まさしくフランス映画史の一端を担っていた方だったと思う。
 彼女はとても心が清らかで温かい女性だった。今回の共演シーンでは、僕はなぜか、とんでもなく緊張してしまったんだよね。シュザンヌと再会して、ものすごく気後れしてしまったんだ。その照れ隠しみたいにふざけていたら、彼女にちょっと叱られてしまった(笑)。「しゃんとして演じなさい!」って。もちろん、優しい心遣いからそう言ってくださったんだよ。

シャブロル監督は魔性の女を描くことが多いと思いますが、今作でもそうでしたね?

 魔性の女かどうかは分からないけど、とにかくシャブロルは、女性が世界を導いていると考えて映画を作っていると思う。どの映画でも、女性があらゆることの原動力になっていて、男性はむしろそれに従うといった構図になっているね。それはちょっとカリカチュアしすぎた言い方かもしれないけど。僕はこれまでシャブロル監督の映画には3本参加してきているけど、彼のフィルモグラフィーを見ても、やはりいつも葛藤や事件の中心にいるのは女性であって、男性の登場人物はいつも彼女たちに翻弄される哀れな存在にすぎないね(笑)。

ヒロインのセンタが愛の証として四つの条件を挙げていますが、その中で、ブノワさんが受け入れられることと受け入れられないことを教えてください。

 それは興味深い質問だね。「木を植える」というのは崇高なアイデアだと思う。「詩を書く」ことはできるね。実際、やったことがある(笑)。「同性と寝る」のは僕にとっては難しいことだ。やり方が分からない(笑)。「誰かを殺す」というのは残念ながら、これまでそうした機会に恵まれたことがない(笑)。
 考えてみると、フィリップというのは並外れた男だと思うね。というのは、明らかに狂気に囚われている女性を愛して、あのように完全に常軌を逸したことを要求されても、最後まで彼女を愛し続けるんだから。とても勇気があると思う。ほとんどの男は逃げ出してしまうんじゃないかな。でも彼は、最後まで彼女のそばにいて守ってあげようとするんだからね。

ブノワさんにとっては、そうした条件はありますか?

 僕にはそんな条件はないよ。人生は常に変化していくものだ。センタの挙げた四つの条件はこうすればこうなるという確信に基づいたものだと思うけど、万物・万人は変化するもので、昨日在ったものも今日は無かったりするわけだから、僕はそういった決め事は警戒するほうだ。人はそれぞれ違うわけで、他人に出会うことによって、人生はどんどん変化していくものだと思うからね。

ああいった女性に最後まで付き合うフィリップは勇気があるとおっしゃいましたが、彼はこれまで折り目正しく生きてきて、自分の平凡な人生にある種の諦めも抱いていたのではないかと思いますので、自分の中にある破滅的な欲望に従ったということもあるのではないでしょうか?

 だって、これはラブ・ストーリーで、情熱の物語なんだ。情熱が介入してきた場合にはやっぱり、自己破壊的な衝動にも囚われやすいものじゃないかな。そして僕は、情熱の介在しない愛はないと思っている。もちろん、現実においては、理性がどこかで歯止めを利かせなくてはいけないけどね。フィリップにも理性はあるんだけど、それを働かせるのが遅すぎてしまったんだよ。

フローラという名の女性の石像を抱いて寝たり、異常な執着を感じさせましたが、あの像にはどういった意味があると思われましたか? ブノワさんご自身は何かに対するフェティシスムはありますか?

 いや、僕自身はフェティシストではないよ(笑)。
 確かに、僕もフィリップがあれを寝室に隠しているというのは非常に奇妙に思ったね。ああした行為は何を意味しているのか……。僕が考えるに、フローラの石像というのは彼に無いもの、自分の生活に欠けていて、こういったものが欲しい、所有したいと思っている彼の妄想を象徴している物なのではないかな。というのは、彼はあの若さにしては、愛とは無縁のような生活を送っていたね。家族に対して責任を感じていて、まず考えるのは社会的に仕事で成功することだったわけで、立場的に恋愛を自分の生活から排除しているような生き方をしていた青年だ。だから、誰にでもちょっと“クローゼットの中の秘密”のようなものはあると思うんだけど、ああいったものを密かに所有することによって、精神のバランスを保っていたんじゃないかな。

先ほど、「俳優は演じる側でしかないから」とおっしゃっていましたが、俳優は監督に対して受け身的な存在だとお考えですか?

 それは間違ってはいない。オファーを待っているだけという姿勢でいたら、俳優という職業はどこまでも受け身的なものになってしまうだろう。でも、実際にそういう状況にいることに僕はあまり興味がなくて、俳優はある程度成功を収めて、ものが言えるような立場になってきたら、何か自分で企画を立てたり、才能ある人々を集めてイニシアチブを取ったりすべきだと思うんだ。僕もそうしたことを3~4年前にやった。僕から監督やプロデューサー、脚本家に声をかけて、アイデアを出し、映画を撮るまでにこぎつけたんだ。やはり俳優は、オファーを待っているだけだと、弱い立場になってしまう。僕はそんな風に他者に依存する立場ではいたくないんだ。
 ただもちろん、業界のルールとして、俳優は映画作家の要求、イマジネーションに奉仕しなければいけないということはある。イマジネーションを働かせて、どの役柄にどの俳優を起用したいと考えるのは映画作家なわけだから。ただし、近頃はそうしたイマジネーションに欠ける映画作家が少なくないと感じることもよくある。だから、僕ら俳優も自分の演じる役柄だけに囚われることなく、映画作家を常に刺激し鼓舞して、自分から能動的に創造行為に参加する姿勢は大事だと思うよ。
 このように僕は、受け身的な立場にならないように常に気をつけているし、イニシアチブを取って映画を製作することが究極の目標でもあるんだ。それにはすごく情熱をかき立てられる。ひたすら受け身で脚本を待っている立場だと、いざ脚本が来なくなってしまったら、あるいは、読んでいてガッカリさせられる脚本ばかり来たらどうなるんだろう。実際、優れた脚本というのは限られているものだ。だからもちろん、一緒に仕事がしたい偉大な映画作家はたくさんいるんだけど、ひたすら待つだけではチャンスは生まれないんだよ。

 ……ところで、僕が企画した映画について質問してくださらないのはちょっと悲しいね(笑)。……では申し上げるけど、その映画というのは、『スズメバチ』で一緒に仕事をしたフローラン・エミリオ・シリ監督との3度目となるコラボレーションで、アルジェリア戦争をテーマにした作品なんだ(タイトルは『L’Ennemi intime(訳題:内なる敵)』2007年)。共演はアルベール・デュポンテルだ。アルジェリア独立戦争は1950~60年代に起こった、フランスにとっては極めて重要な出来事なんだけど、ある意味、フランス社会の中では語ることがタブー視されている題材でもあったんだ。そもそもフランス人はアメリカ人のように、歴史上の事件を自分たちで掘り下げて映画にするということを積極的にはやってこなかったので、アルジェリア戦争も映画ではほとんど語られていなかったんだよ。

 面白い話がある。僕はフローランと友達なので、ある日曜日に彼の家で昼食をとっていたら、電話が鳴って、それがブルース・ウィリスからだったんだよ。ブルースはフローランに「君の映画を観たよ」と言ったんだけど、それが、日本でも公開されて僕もプロモーションで来日した『スズメバチ』だったんだよね。その電話がきっかけで、フローランはハリウッドに行って、ブルース・ウィリス主演の『ホステージ』を撮ることになったんだ。
 フローランはもともとは、フランスの地方にある炭鉱町に住む鉱夫の息子で、彼の最初の映画(『Une Minute de silence』1998年、ブノワも出演)も炭鉱の話なんだ。社会的にはあまり高い階層の出身ではないので、彼の人生の軌跡というのは、大きな夢の実現を象徴していると思うね。フランスの田舎からパリに出て、映画作家になって、ついにはハリウッドに渡って映画を撮るという、非常に興味深い人生を歩んできたと思う。彼は子供のときの夢を大人になって実現させることができたわけだ。
 そんな彼と、またいつか一緒に映画を作りたいとずっと願っていたので、このアルジェリア戦争の映画でその想いを実現させられたのは、僕にとっては友情の結実とも言えることで、本当に満足しているんだ。

 昨年のフランス映画祭に続いての来日となったブノワ。インタビューをさせていただいたのはこれで3度目だが、大スターであるにもかかわらず、以前に会ったことがあるのをきちんと覚えてくださる方で、この気さくさ、気取らなさが何とも魅力だ。ただ今回は、前日の夜にあったパーティに出席して明け方まで楽しんだらしく、午前中のインタビューはさすがに辛そうで、いつもよりはちょっぴりテンションが低めだった。とはいえ、自らが企画した映画の話になると、俄然元気が出て、時間がオーバーしてもたっぷり語ってくれたその様子から、今後はさらに製作のほうにも積極的に携わっていきたいという彼の想いがひしひしと伝わってきた。
 ちなみに、近年フランスでは、アルジェリア戦争を題材にした映画が新たに作られ始めている。昨年のフランス映画祭で団長を務めたコスタ=ガヴラス監督の脚本による『Mon Colonel』(06)、そして2006年のカンヌ国際映画祭でメイン・キャスト全員が最優秀男優賞を受賞した『Indigenes』(06)がそうだが、ブノワにそのことについて聞いてみると、その2作は50年代が舞台で、彼の映画は60年代が舞台であることが新しいのだとか。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

『石の微笑』作品紹介

 妹の結婚式で主人公のフィリップと妹の花嫁付添い人(ブライズ・メイド)の一人、センタが出会う。さして言葉を交わしたわけでもない二人は、ふたたび互いの人生に散っていくだけのように見えた。しかし、結婚式の終わった夕刻、雨に濡れた身体で彼の家を訪れたセンタ。美しいものに憧れるロマンティストのフィリップの胸に身を投げるように飛び込んできたのはセンタの方だった。
 「ずっと待っていた。あなたは運命の人。見た瞬間、この人だと分かった……」
 炎のごとく燃え上がる二人の愛欲が恐ろしい結末へと突き進んでいくとは、このときフィリップに分かるはずもなかった――。

原題:Le Demoiselle d’honneur、2004年、フランス、上映時間:107分)

キャスト&スタッフ

監督:クロード・シャブロル
出演:ブノワ・マジメル、ローラ・スメット、オーロール・クレマン、ベルナール・ル・コワ、シュザンヌ・フロンほか

オフィシャル・サイト

http://eiga.com/official/ishinobisyo/(外部サイト)

公開表記

配給:CKエンタテインメント
2007年6月30日(土)より、渋谷Q-AXシネマにてレイトショーほか、全国順次公開

(オフィシャル素材提供)

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