インタビュー

『題名のない子守唄』ジュゼッペ・トルナトーレ監督 インタビュー

©2006 MEDUSA FILM – MANIGOLDA

私の人生における最大の愛の対象は、女性と映画だ

 世界中で愛されている『ニュー・シネマ・パラダイス』のイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレが、『マレーナ』以来、6年ぶりに送り出した母の愛の物語『題名のない子守唄』。初めて女性を主人公に据え、想像を絶するような苦しみと哀しみに満ちた運命の中に投げ入れられながらも、気高い美しさと強い意志を失うことのない女性を描き、イタリアのアカデミー賞というべきダヴィッド・ドナテッロ賞で主要5部門を独占した本作を携え、来日したトルナトーレ監督に話を聞いた。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督

 1956年イタリア、バゲリーアに生まれる。少年時代に写真を撮り始める。16歳にして、アマチュア劇団でピランデッロとデ・フィリッポの芝居を相次いで演出。国内の賞を得た『IL CARRETTO』など、ドキュメンタリー映画に着手した後は、79年からイタリア国営放送RAIと集中的に仕事を始め、ネットワーク用の映画、テレビ番組を制作。そのうちの1本『LE MINORANZE ETNICHE IN SICILIA』は、82年サレルノ映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。78年から85年には、ジュゼッペ・フェラーラの『CENTO GIORNI A PALERMO』のプロデュースで知られるCLCTで社長を務めた。トルナトーレは同作品に共同脚本ならびにセカンド・ユニット監督としても参加している。
 86年、30歳にして初長編作品『”教授“と呼ばれた男』を発表。カサヴェテス作品で知られるアメリカ人俳優ベン・ギャザラを主演に迎え、ナポリの裏社会のボスを描き、イタリア映画記者協会最優秀新人監督賞を受賞するなど好評を博した。そして89年製作の第2作目『ニュー・シネマ・パラダイス』で、カンヌ映画祭審査員特別賞、アカデミー賞外国語映画賞を獲得。50年代のシチリアの小さな町を舞台にした、古き良き時代の映画への愛に溢れるこの作品で、成功と名声を不動のものにした。
 続いて、マルチェロ・マストロヤンニ主演『みんな元気』(90)、トニーノ・グエッラの脚本によるオムニバス映画『夜ごとの夢/イタリア幻想譚』(91)の中のワンエピソード“青い犬”、ジェラール・ドパルデュー主演『記憶の扉』(94)、映画への愛を再び謳いあげる『明日を夢見て』(95)、ティム・ロス主演による伊=米合作『海の上のピアニスト』(98)、年上女性への憧憬を描く2000年の『マレーナ』を発表。2007年第79回アカデミー賞授賞式、外国語映画賞の発表前に上映された歴代受賞作品場面集の編集を手がけたのは記憶に新しい。次回作には、第2次大戦時のドイツ軍によるレニングラード占領を描く『LENINGRAD』が予定されている。

インタビュー続きでお疲れではないですか?

 インタビューで疲れているのではなく、今日飛行機で着いたばかりなんだが、飛行機の中で全く寝られなくてね。本来は睡眠薬というものは飲まないんだが、今回は飛行機の中で眠りたいと思って、医者の友人に睡眠薬を処方してもらったんだ。でも、なぜかそれを飲んだらかえって目が冴えて眠れなくなったんだよね。どんな睡眠薬をくれたんだろう。いたずらされたのかもしれないな(笑)。

何度目の来日になりますか?

 2回目になる。1990年に『みんな元気』で初めて来日した。そのときはまだ、『ニュー・シネマ・パラダイス』を上映している劇場があって、そこに観に行ったりして面白かったね。そのときは10日間いて、107のインタビューを受けたよ(笑)。その他に記者会見が2回あった。

たまたま目にした新聞記事からこの物語を発想されたそうですね。東欧諸国から西側に来た女性たちが売春を強要されるということは耳にしますが、今回はそれ以上のことがあります。

 もともとは20年前に気になった新聞記事があったんだが、それは東欧諸国の女性の話ではなかったんだ。その記事というのは、南イタリアのある若い女性が夫とともに逮捕されたんだが、二人は子供を作り、その子が生まれる前に売る契約をしていたということなんだ。それが非常に気にかかっていたんだよ。その後、もしもこの女性がそのまま捕まらないで子供を売り渡し、何年か経ってその子を取り返したいと思ったら、一体どんなことになるんだろうと、ずっと考えていた。ただ、この映画の脚本を書くにあたっては、現在の状況を考慮し、当然ながら話を膨らませて作っていった。おっしゃったように、諸外国から来た売春婦を搾取するという現実は確かにあるんだが、その背後にさらに複雑な状況があるということを踏まえて、もっと膨らませたのがこの物語なんだ。
 もちろん、そうした状況に関連したリサーチもしたが、私がこの映画の中で最も語りたかったのは、自分に否定された母性という感情を取り戻そうとあがく女性の姿だった。何よりもそのことが大切だったんだよ。

女性の目にも、この映画のヒロインはとても強く美しく気高かく見えましたが、監督にとって女性とはどういう存在ですか?

 私のキャリアの最初の頃、イタリアの映画批評家たちから「女性がきちんと描かれていない」と言われていたんだ。「女性嫌いなんじゃないか」と疑われていたほどだ(笑)。それはすごく心外なことだったね。私は女性が大好きだ。私の人生における最大の愛の対象はやはり、女性と映画なんだよね。いつだって、男性より女性のほうが興味深い存在だと思っている。例えば、イタリアの学校ではホメロスの「オデュッセウス」などの古典を勉強するが、オデュッセウスのような男性のヒーローも面白いが、私はペネロペイアなどの女性像のほうがもっと面白いと感じていた。私は女性のほうが強いと思っている。特に苦しみに耐えることにかけては、男性よりもはるかに優れているんじゃないだろうか。また女性は、何も言わないで物事を教える能力がある。男性は人に何かを教えるためには、口を開いて言葉を費やさなければならないが、女性は黙っていても伝えることができる。
 『題名のない子守唄』は本格的に女性を主人公にした私の最初の映画になるわけだが、私の女性に対するシンパシーが大きく表れていると思うね。

また、監督にとって映画とは?

 一番愛しているものを定義するのは何よりも難しいことだ。ある年齢までは、映画は私にとって夢だった。今は映画を作ることしか出来ない(笑)。これから新しい夢を抱いて、それを育てていく時間もなくなってきたので、私の最大の夢である映画というものをこれからも創り続けていくんだろうと思うね。

ヒロインのクセニア・ラパポルトさんですが、想像を絶するような過去を秘め、その瞳の暗さですとか、母の慈愛に輝く表情など、本当に素晴らしい演技を見せてくれました。彼女をどのように見出したのですか?

 これは私の生涯でもめったにないことだが、本当に稀な出会いだった。私は、無名でありながらも素晴らしい役者をこの映画に起用したかったんだ。でも、それは簡単なことではなかった。探しに探した結果、彼女をロシアで見つけたんだ。最初に会ったときから“彼女だ”と思ったんだが、何度かテストを繰り返すうちに、本当に生れながらの俳優としての資質を持った、非常に人間的厚みのある女性だと確信した。
 それともう一つ重要だったのは、この役は実際に母親である女性でないと演じられないと思っていたんだが、クセニアには娘さんがいるんだよ。

イレーナは、自己防衛本能を欠く少女テアに荒療治を施します。また、「やられたらやり返しなさい」と教えますが、それは彼女ならではの発想なのでしょうか。それとも、イタリア的な教育法の一つなのですか?

 イレーナのやり方は、イタリアで普通というわけではないよ(笑)。イレーナは無垢なままに狼の世界に投げ込まれて、そこで生きざるを得ない状態で、自分も周りにいる狼たちと同じような暴力的な言葉をしゃべらざるを得なくなっていた。彼女のやり方は、そういうところから出たものであるし、親というものは自分が犯した間違いを子供に繰り返させたくない、自分が置かれたひどい状況を子供には経験させたくないと思い、そのためにはどうにかして、同じ状況に陥ることを避けさせなくてはいけないという強い思いが働くものだ。だから、あれは非常に厳しい訓練ではあるが、むしろ彼女の愛情を暗喩するものになっている。その行為が激しければ激しいほど、彼女の愛情の深さを伝えているシーンになっていると思うね。

この映画のヒロインはイレーナ、それから『マレーナ』という映画がありました。『ニュー・シネマ・パラダイス』の中にもエレナという女性が出てきます。共通性を感じさせるこれらの名前には、何か託された意味があるのでしょうか?

 イレーナ、マレーナ、エレナと全部「ナ」で終わるというのは、言われた初めて気がついたよ(笑)。記者の方たちから、自分も気づいていないことを発見されて驚くことがよくあるんだが、今回の場合も、私自身どうしてなのか分からない。特に意識はしていなかった。イレーナはロシア語の名前イレナのイタリア語読みだ。マレーナはマグダレーナ(マグダラのマリア)の縮小形で、エレナは“トロイのヘレナ”から来ている。
 もちろん、名前を選ぶときはそれなりに考えるが、この三つの名前に似たところがあるというのは、本当に言われるまで気がつかなかったよ。

監督の映画を拝見すると、心の奥底から感情が揺さぶられます。愛においても、悲しみや怒りにおいても、暴力においてもその表現は非常に激しいものがありますが、それはシチリアの血のなせるわざなのでしょうか?

 それは分らないな。私は今51歳なんだが、自分でも自分のことが分らない。シチリア人である自分とはどういう人間なのか、私自身問い続けている。ただ、映画の中で登場人物を描くとき、映像を通して語られるものはもちろんだが、画面には表れないものによって、どのように登場人物を語っていくかということを常に考えながら映画を作っているので、そのことが今おっしゃったようなところにつながるのかもしれない。
 私は自分自身のことを、すごく矛盾を抱えた人間だと思っている。基本的には悲観主義者なんだが、突然意味もなく楽観的になるときもあって、自分でも非常に矛盾を感じることがあるね。

 現代の巨匠の一人、ジュゼッペ・トルナトーレ監督にインタビューできる機会が来ようとは夢にも思わなかったので、お会いする前には久々に緊張した。自分の中ではすでに70歳を超えた御大だったが、実は50歳を過ぎたばかりの若々しく穏やかな人物で、その静かな口調はシチリア人というよりも、この映画が舞台としている北イタリア出身の方のような印象だったのが意外だった。
 この激しく心揺さぶられる母の愛の物語、ぜひ多くの方に劇場でご覧になっていただきたい。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)

公開表記

 配給:ハピネット
 2007年9月15日(土)よりシネスイッチ銀座、新宿バルト9他にて全国順次ロードショー!

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