インタビュー

『ナチュラルウーマン』ダニエラ・ヴェガ 来日オフィシャル・インタビュー

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© mitsuhiro YOSHIDA/color field

 世界が注目する才能セバスティアン・レリオ監督と驚くべき新人“女優”が描く、パワフルでエモーショナルな愛の物語『ナチュラルウーマン』。2017年ベルリン国際映画祭脚本賞受賞、2018年アカデミー外国映画賞チリ代表となった本作でヒロインを演じたのは、自身もトランスジェンダーの歌手であるダニエラ・ヴェガ。来日時のオフィシャル・インタビューが到着した。

ダニエラ・ヴェガ

 1989年6月3日、チリ・サンティアゴ生まれ。
 8歳でオペラ歌手としての才能を認められる。高校卒業後、ヘアスタイリストとして働く傍ら、地元の劇団で演技をスタート。2014年に著名なソングライターのマヌエル・ガルシアのビデオクリップに登場するなど存在が話題に。
 2017年には演劇「Migrantes」でテアトロ・ア・ミル国際演劇祭の最高賞のひとつに選ばれた。
 また同年本作『ナチュラルウーマン』では驚くべき才能を開花、ベルリン国際映画祭で上映されるや絶賛を浴び、トランス女優として初のオスカー・ノミネートもささやかれるなど世界で脚光を浴びている。
 次回作ではストレートの女性の役を演じ、女優として新たな一歩を踏み出している。

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当て書きじゃないかと想像してしまうほどダニエラさんに合った役だったが、この役に決まった経緯は?

 はじめは監督にトランスジェンダーについて知りたいと言われ、映画のプロジェクトのことは詳しく聞いていなくて、相談役のような感じで1年半くらい、自分の人生哲学やプライベートなどあらゆることをおしゃべりしていて、ある日突然、この映画の脚本が送られてきて、そこでこれまでの事が、映画のためだったのかと後から分かりました。脚本を読んで、ドイツに住んでいるレリオに「面白いけど、ほとんど理解できない」と伝えると、「演じるのは君だよ」と言われて。電話口では「分かった」とは言ったけれど、そのあと3日間飲み歩いて酔いつぶれて、二日酔いが醒めたあとにきちんと現実と向き合い、オファーを正式に受けました。

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演技を始めた経緯は?

 この作品は映画主演作2本目です(1作目は『La Visita』2014)。小さい頃から歌を歌っていたので、アートの世界でどんなことができるかいろいろ試していたのですが、演技に関しては劇団の練習を見学させてもらっていて、1週間くらい見学しているうちに「ここはもっとこうしたほうがいいんじゃないか」と意見を言ったところ、意見を言えるくらいだから君ならできるね、ということで本をもらって1週間後の舞台に出て、もし本気でやる気があるなら小さな役だがやってみるかと言われ、小さな役をもらいました。

 小さな役だったけれど、その時の演技を1本目の主演作の監督が見ていて、やってみないかと勧めてもらったんです。その後、モノローグの仕事をやり、そこでレリオ監督と知り合ったり、その後もビデオクリップや音楽の仕事をしています。

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トランスジェンダーの役を演じるプレッシャーはありませんでしたか?

 プレッシャーと言うよりも、自分たち(トランスジェンダー)の物語が少ないので、そこに注目されるのは分かるんですけど、自分のことをよく知っている人が見れば、トランスジェンダーとかそこじゃなく別のところに注目しますし、そのことを人から言われるのは別に嫌ではないけれど、そこばかりをフォーカスせず、もっと別の部分にフォーカスしてほしいですね。トランスジェンダーという部分以外のところ、その先の部分も見てほしい。例えばニコール・キッドマンは女性だからと言って女しか演じられない、とは言われないでしょう? 私が特別なのではなく、どんな俳優も大なり小なり、自分の経験や感情を演技に生かしていくものだと思います。

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強さと美しさを兼ね備えた素晴らしい演技でしたが、役(マリーナ)にはダニエラ自身が入っているのか?

 強さと美しさを褒めてくれてありがとうございます。ただ、映画を観ていただければ、その強さと美しさは全体の女性性であり誰もが持つものであると分かると思います。監督とも話して、「尊厳・粘り強さ・反逆性」という普遍的な女性性の3つの要素を柱にこの役を構築しました。なので、周りの誰かを真似したとか、自分を投影したとか、特定の誰かを参考にして演じたわけではありません。自分に価値がないと思っている人がたくさんいると思うけれど、みんながどういう形であれもっと自由に生きるために、この3つの要素の上にマリーナのキャラクターを築いていくと決めました。俳優は自分が演じる役柄について、その人物像を考え、創造する責任を負っていると思います。

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(将来を担う高校生たちとの討論が楽しみという話題から)今後、世界の状況はよくなっていくと思いますか?

 世界を見ると、今は冬の時代に向かっていると思います。けれど雪の下には花が咲いていて、それを掘り起こすかどうかは自分たちの能力次第だと思います。一番大事なのは、自身への恐れへの反逆、恐れることを恐れないこと、そして見返りを期待しない愛を持つことだと思います。もしもそれができたら、みんなを呼んで一緒に闘おうと言えるけれど、まずは自分が出来ないと言えないから、今はそのための準備だと思っています。

この映画を観てもらう人に一番届けたいものは?

 メッセージというよりも問いかけです。この映画を観終わった後に、観客が自分に問いかけてくれればいいなと思います。自分がどこまで共感できるのか、共感の限界を広げるのか狭めるのか、許されない範囲があるのか、身体性をどこまで自分は許せるのか、もっと自由な世界をつくるのか、それとも多様性を認めない世界をつくるのか、壁をつくるのか、橋をつくるのかです。映画は答えを与えるものではなく、問いかけなのです。

この物語は、性的マイノリティが対面する逼迫した状況を描く作品だと思いますか。

 私はそういった概念のための作品だとは思いません。トランスジェンダーの人物像が世間の目と闘うだけの映画ではなく、大きく普遍的なテーマは「死によって分かたれた愛の物語」です。そして彼女が自らを取り巻く一つひとつの壁とどう対峙していくかということが描かれます。トランスであるか否かということは、オルランド(亡くなった恋人)の家族や周りがそういう目で見るから定義づけられてしまうだけのこと。チリの性的マイノリティの実情も同様で、本人の意思に関わらず、周囲が男や女はこうあるべきと決めてしまうために苦悩する人がいるのです。<

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映画ではマリーナに対し、失礼で傲慢な態度をとる人々が現れますが、彼女は自分らしさを失わずにポジティブに決然と生きていきます。その原動力の源は何だと思いますか。

 彼らにとってマリーナが“脅威”であるということを、マリーナ自身よく分かっているからこそ、暴力に暴力で応えないのです。マリーナには、オルランドが焼かれてしまう前に、絶対に彼に会わなければ、という最大にして唯一の目的がありました。それが彼女を突き動かしたのです。

あなたが生きていくうえで大切にしているもの、ポリシーは何ですか?

 “反逆性”と“抵抗”と“愛”です。私は何か公式にタイトルを持っているわけではないし、歌も演技も独学で、大学を出ているわけではありません。アートへ通じる扉はすべて閉ざされていて、だから反逆児である私は窓から入ってほしいものを手に入れました。政治権力、差別や偏見、自由に生きるものを拒むものに対して、私は抵抗します。今、私たちが生きる世界は、前の世代が作り上げたものに他なりません。私たちが多様性という新しい認識を築くことで、次の世代が進む道になっていくのです。生きたいように生きる人生のために、私は闘います。

世界的に評価されるレリオ監督の演出はいかがでしたか。

 すごく美しく幸せな体験でした。彼はこれまでに会ったことがないくらい寛大な人で、いつでも愛を持って演出してくれました。自分にとって挑戦となるような難しいシーンもありましたが、彼は私を決して見捨てたりしないという安心感の中で演じることができました。

日本では昨今、LGBTを取り上げた映画やドラマがたくさんつくられています。このムーブメントについてどう感じますか?

 今この時代というのは、人類の歴史の中で一つの検証の段階に来ているのだと思います。国境や民族、性差といった、自分たちの中に境界をつくってしまった理由を考える節目の時を迎えているのです。なにを排除してきたのか? なぜ世界はこうなったのか? なぜ共感の限界を定めてしまうのか?
 そんな常識に縛られた限界を飛び越えた存在というのが、トランスジェンダーなのでしょう。彼らから学ぶ部分があると考えているのだと思います。現在は、私たちが歩んできた歴史を振り返る時期に来ていて、それを問いかけるのが、今作られている映画やドラマなのかもしれません。

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公開表記

 配給:アルバトロス・フィルム
 2018年2/24(土) シネマスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか 全国ロードショー!

(オフィシャル素材提供)

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