インタビュー

『パリのどこかで、あなたと』セドリック・クラピッシュ監督&アナ・ジラルド オフィシャル・インタビュー

©2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA

 『スパニッシュ・アパートメント』(01)や『おかえり、ブルゴーニュへ』(17)など、都会や田舎を舞台にごくありふれた人々とその日常を映し出してきた現代フランス映画界を代表するセドリック・クラピッシュ監督の最新作『パリのどこかで、あなたと』が、2020年12月11日(金)より全国順次公開となる。この度、セドリック・クラピッシュ監督と主演のアナ・ジラルドのオフィシャル・インタビューが到着した。

セドリック・クラピッシュ監督

 1961年9月4日、フランス・ヌイイ=シュル=セーヌ出身。
 ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。1985年フランスに戻り、レオス・カラックスの作品のスタッフなどを務める。
 1992年、初めての長編映画『百貨店大百科』でセザール賞にノミネートされ、注目を集める。その後、『猫が行方不明』(96)ではベルリン国際映画祭の映画批評家協会賞を受賞。
 以降は、『スパニッシュ・アパートメント』(01)、『ロシアン・ドールズ』(05)、『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』(13)からなる〝青春三部作″や、『おかえり、ブルゴーニュへ』(17)を監督。

アナ・ジラルド

 1988年8月1日、フランス・パリ出身。
 名優イポリット・ジラルドと女優イザベル・オテロを両親に持ち、映画・テレビ・舞台などで幅広く活躍。
 2010年、カンヌ国際映画祭で公式上映された『消えたシモン・ヴェルネール』での演技が高く評価され注目される。
 以降、フランス映画の新星として注目を集め、『最後のマイウェイ』(12)に出演。映画界でキャリアを積む一方、演劇界にも進出。2014年、シェイクスピア原作フランス語版「ロミオとジュリエット」のジュリエット役を演じる。
 セドリック・クラピッシュ監督の『おかえり。ブルゴーニュへ』(17)ではジュリエット役で出演し、弟・ジェレミー役のフランソワ・シヴィルと共演。

お2人は『おかえり、ブルゴーニュへ(原題:Ce qui nous lie)』以来のタッグとなりました。また一緒に仕事をされてみて、どうでしたか?

セドリック・クラピッシュ監督:また一緒に仕事ができて嬉しかったです。映画を一緒に作ったメンバーは、バカンスを共に過ごしたグループや小さなファミリーみたいなものなので、離れると寂しいですよね。アナとは家も近いし、友達だから、その後もプライベートで会っていますけど、仕事で会うのはまた違う喜びですよね。
 フランソワとアナとまた働きたいと思ったのは、職業に対しての構え方、考え方が似ているからだと思います。私たちは、仕事は真面目に、そして楽しくやるものだと思っているんですが、みんながそうというわけではなく、真面目なだけで頭でっかちな人、面白いだけで軽すぎる人もいます。フランソワもアナも私も、重さと軽さを両方が必要なタイプで、だから気持ちよく一緒に働けるんです。

アナ・ジラルド:私たちは自分の仕事、映画への強い愛を持っていて、その愛をスクリーンに映し出そうとベストを尽くします。芸術的で、クリエイティブな仕事だということを意識していますし、仕事を遂行するには真面目にやらないといけませんが、そもそも映画は人生、人々、人間について語っているので、そんなに上から物事を見る必要はなくて、一緒に笑うこと、よい雰囲気で仕事することがとても重要なんです。
 「セドリック・クラピッシュ監督との仕事はどう?」とよく訊かれます。映画業界の人はみんな、セドリックの作品はそういうユーモアのある、家族みたいな雰囲気で作っているという噂を聞いていて、フランス映画界のレジェンドみたいになっています(笑)。

メラニーという女性の役柄について、最初どのように感じられましたか?

アナ・ジラルド:かわいそうだとは思うけど、弱々しいというか。揺すって起こしてやりたくなるような。実際は、最後には彼女に「起きなきゃいけないのは、あなたよ!」とやられるんですけど(笑)。彼女の世代、若い女性の多くがこうなのでは思います。彼女のキャラクターはとてもよく描かれていて、しかも男性が書いたものなのに非常に正確です。例えば、元彼との関係で、メラニーは相手の求めるような人間になろうとしているだけで、自分の心の声を聞こうとしなかった。そして、精神分析医と内省をしていくうちに、誰かを喜ばせせる前に自分を喜ばせないといけないと気づく。それは時間のかかる、難しいことで、パリみたいな大都会ではそうする時間がないように思えてしまうんです。物事が早すぎて、男女の関係も次々とあって。例えば友人でも、独り身になるのが怖くて、一人で生きていても大丈夫という人は少ないと思います。それを超えていく作業が必要なんです。その部分に一番心が動きました。メラニーの中に自分と同じものを見て、直視したくない部分でも、彼女と一緒に対峙できたんです。

© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA
レミー役のフランソワ・シヴィルさんとは『おかえり、ブルゴーニュへ』以来2度目の共演となりました。再共演された印象はいかがでしたか?

アナ・ジラルド:フランソワとはいつもとてもうまく行きます。二人ともセドリックの現場にいること自体、既にすごく嬉しいですし、フランソワは演技でも大らかな俳優で、自由で明るくて優しくて、誰に対しても気持ちよく接する人。彼と一緒だと面白くて愉快すぎるくらい(笑)。最初に『おかえり、ブルゴーニュ』でセドリックや、マルマイ、フランソワと出会った時、私たちはすぐに意気投合したんです。すごく気が合って、愉快で、俳優としての仲間意識も生まれて。彼らと一緒の現場は本当に楽しいです。

© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA
撮影中に思い出深い、印象的だったエピソードはありますか? 難しければ、撮影現場の雰囲気について教えてください。

アナ・ジラルド:たくさんありますが、アパート全部が大きなスタジオの中にあったことですね。アパートのインテリアも細部まですごくよくできていて、ペンキや質感も本当のアパートのようで。思わず窓を開けてバルコニーで外の空気を吸いたくなるような。実際は開けてもスタジオの中なんですけど(笑)。舞台みたいでとても心地よかったです。実際のアパートよりも、演技や位置の調整にも時間を取ることができました。

© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA

 あとは『おかえり、ブルゴーニュ』でもしらふと酔っ払いの間を演じましたが、今回は泥酔したメラニーを演じて、ああいう状態の演技を追求するのはとても面白かったです。

セドリック・クラピッシュ監督:スタジオに関してはいろいろありますね。パリの典型的なアパートをスタジオに再現しましたが、メラニーのアパートは、インスタグラムで見つけたブロガーの写真をたくさんミックスしたインテリアで、若い女性の理想のアパートを作り上げたんです。あまりに理想的すぎて、アパートの部屋に入ると皆出たがらず、もう出てくださいと言わないといけなくて、ベッドルームはみんな本当に気に入ってしまって(笑)。なので現場の雰囲気はとても良かったです。
 私たちが目指していたのはパリの象徴的なアパートで、2人のアパートはかなり違うタイプですが、それぞれパリを象徴するようなアパートです。
 あとはスタジオでの撮影ならではのおかしな点もあって。例えばメラニーが妹に手を振るシーンは、妹の乗った列車がアパートの前を通過して行くんですが、スタジオなので列車の代わりにスタッフが前を歩いて横切っていて、それを見ながらアナが手を振るんです。シリアスな演技をしないといけないシーンなのに、みんな大笑いしそうになってました(笑)。
 それから、アパートの向かいの景色、巨大な30-40メートルくらいの長さのパリの景観の写真が設置してあって、あれは圧巻でしたね。

アナ・ジラルド:写真は1枚なんですけど、ライティングのシステムで朝から晩までの光の加減を選べて変えられるんです。

セドリック・クラピッシュ監督:照明係(ガファー)がipadで早朝、夕方、夜という具合に光を事前設定してあって、子供が現場に来た時なんかは、日の出、日没とデモンストレーションを見せていましたね。あれは面白かったですね。

本作で描かれている現代のパリのリアルな姿や、都会で孤独を感じる若者の姿など、日本の東京や世界中の都会に暮らす人が共感できる内容だと感じました。これについて、どのように思われていますか?

セドリック・クラピッシュ監督:本当ですね。この映画はいろいろな国で公開されていて、アメリカ、アフリカ、アジア、どこの都市でも人々は「大都会の孤独」という同じ経験をしているのではと思います。近くにたくさん人がいるから都会なのに、一人孤独を感じるという矛盾した表現で、これは都会に住む全ての人が共通して感じることだと思います。フランスの都市でも他の国の都市でも同様です。なぜか現代化は冷たさや、人々との距離を作り出します。人々はソーシャルなものを求めてネットやSNSでの「つながり」で補完しようとします。現代ではネットのおかげでこうやって2つの国で会話ができ、近くに感じるのに、でも距離もできている。

アナ・ジラルド:でも、今日本だったらよかったと思うわ(笑)。

セドリック・クラピッシュ監督:私も(笑)。ロックダウンになった頃、本当はうちの子たちと日本に行く予定だったんです。桜の時期だから、4月かな。コロナのせいで行けなくなってしまったけど、また予定を組み直して行く予定です。

本作では、多くの人々がSNSを利用している現代において、孤独や寂しさ、ストレス、うつ病など、身近にある個人の問題をリアルに描いていると思います。また、今年はコロナウイルスが世界中で蔓延し、日本でも外出自粛により人と会えないことで孤独やストレスを感じた人が多くいます。そんなコロナ禍の今だからこそ、本作で伝えたいメッセージはありますか?

セドリック・クラピッシュ監督:コロナについて一言でいうと、終息しないといけない、ですね。私も15日前にコロナにかかってしまって、それ以来この部屋にいて。3−4日前からよくなってきたんですが、奇妙な病気です。幸いそれほどひどい症状はなくちょっと疲れるだけでしたが、もし悪化したら病院に行くつもりでした。妻や子どもから自主隔離して、一人で部屋にいます。
 ブラジルでも日本でもフランスでもアメリカでも、世界中が同じ状況を体験しているというのは初めてのことではないかと思います。貧困や経済への全ての影響も。よくコロナ前、コロナ後、という言い方をしますが、早く「コロナ後」になってほしいですね。

アナ・ジラルド:同感ですね。いつどうやって終わるのか。8ヵ月前、フランスがロックダウンに入る頃、妊娠が分かったので、皆がとても優しく気遣ってくれて、一緒にロックダウンしてくれているような心強さがありました。でも、新しい世界がどうなるのか。いとこが10日ほど前に出産したんですが、彼女はその2日前にコロナに感染してしまっていて、マスクをしていて娘を抱くこともできないんです。ひどいですよね。自分が産んだ子どもにキスもできないなんて。
 学校に行っている子どもたちは、6歳の小さな子どもでも皆マスクをしていて。子どもたちにどんな影響があるのか、後々トラウマになってしまわないかと心配です。そして、これは急速に進みすぎた世界への警笛でもあるような気がしています。私たちが人間として、よりたくさんのことに意識を向ける、消費や世の中のペースについて、未来について考える時だと思います。

公開を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします。

セドリック・クラピッシュ監督:この映画は、パリを旅行するのにちょうどよい方法です。今、なかなか本当の旅行は大変ですからね(笑)。よくこれはロマンチック・コメディかと訊かれるんですが、普通とは違ったタイプのロマンチック・コメディだと思います。ロマンチック・コメディというと、最初は仲の悪い2人が最後はくっついたりしますが、この映画ではラブ・ストーリーをいつもとは全く違う方法で描いています。なので、日本の方には、パリが舞台、普通と違うラブ・ストーリー、という点で気に入ってもらえるのではと思います。

アナ・ジラルド:パリの物語ですが、東京も大都会なのでこういう関係はありうると思います。「近所の人が自分の探している男性じゃないかしら?」と。

セドリック・クラピッシュ監督:もう一つ都会について、日本では外出せずネットばかりやっている「ひきこもり」という人々がいます。この10-15年で出てきた、ある意味、新しい問題ですよね。どうやって私たちの時代がこれを作り出したのか。なぜ、ネットやSNSがソーシャルと真逆のこと、孤独を作り出すのか。この映画は現代社会のそういった点についても問いただしています。

公開表記

 配給:シネメディア
 2020年12月11日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか 全国順次ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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