映画『土を喰らう十二ヵ月』の初日舞台挨拶が都内で行われ、主演の沢田研二が演じるツトムの恋人役を演じた松たか子とメガホンを取った中江裕司監督、料理監修を担当した料理研究家の土井善晴氏が出席して作品について語った。
本作は、1978年に作家・水上 勉が自身の経験を基に描いた料理エッセイ「土を喰う日々 わが精進十二カ月」を原案に、中江監督オリジナルの物語を紡ぎ出した。ツトム(沢田)が、自然を慈しみ、畑で自ら育てた野菜を料理し、季節の移ろいを感じながら原稿に向き合う日々が描かれる。丁寧な生き方とはどういうものか、ツトムの姿を通して、真の豊かさとはなにかを問いかける。
沢田研二が主人公のツトム役を、松たか子がツトム(沢田)の担当編集者であり、25歳下の恋人・真知子役を演じている。
撮影は1年半にも及び、長野県白馬村で行われた。中江監督は「始めたときのことも撮影中のことももう覚えていません(笑)。その日その日でやっていって、脚本を書き始めてから4年くらいかかって、やっとここ(公開)までたどり着きました」と安堵の表情を見せる。
主演の沢田研二とは初共演となる松は、沢田とは事前に打ち合わせをしていたのか問われると、「話し合わないです」とちょっと戸惑い気味に答え、「お芝居を面白く、さりげなく、客が見るものとして動けるテクニックがある方です。結果としてお芝居が面白く見えた、というのとはまた違うんですよね」とその巧みさを称賛。また、「中江監督にオファーをいただいて、沢田さんとご一緒できて、土井さんのお料理もついてくる。私は季節が変わるたびに山に行っておいしいものを食べる――。皆がこだわりを押しつけるのではなくて、持ち寄るという現場でした。こんなに素晴らしく贅沢な仕事は近年なかったです。本当にいい思いをたくさんさせていただきました」と充実の笑顔で撮影を振り返った。
松は、子どもの頃にバラエティーでコントを披露している沢田を見て、「こんな格好いい人なのに、こんな面白いことができるんだ!と衝撃を受けました」と話す。また、「歌舞伎をやってる甥っ子(市川染五郎)がいるんですけど、沢田さんの大ファンでコンサートにも行って大興奮でした。感動したそうです。『映画で共演するよ』と言って自慢しました」とにっこり。
今作で料理を手掛けた料理研究家の土井氏は、初めて映画の料理に挑んでいる。「作ったのは私ではなく、大自然なんです。季節と時間、そこにいる人間を思えば、おのずと料理は浮かび上がる」と話し、信州の自然に感謝。
現場で対面した沢田について、土井氏は「撮影中もずっと沢田さんはツトム。ツトムはずっとツトム。本当にツトムとしか会ってない」と、印象を語る。しかし、「僕が最後の役割を終えて帰るときに、沢田さんが車に乗った僕を追いかけて来てくれたんです。『ありがとうございました』ときちっと言っていただいて、そのときに初めて沢田研二さんと会ったという実感がありました。本当に感激しました」とエピソードを披露した。
中江監督は沢田の印象について「役者は役に近づいて演じることが多いけど、沢田さんは自分のほうに役をぐいっと引き寄せて、自分の中にあるツトムを取り出す感じ。それをドキュメンタリーのように撮っていけば良かった」と述懐する。劇中に、ツトムが「鉄腕アトム」の曲を鼻歌で歌うシーンがあるのだが、それは沢田が休憩中に歌っていたのを聞いて、「いいな」と感じて採用したという。
最後に松は、「皆さんが一番会いたい方には成り代われません。ごめんなさい」と沢田が舞台挨拶を欠席していることに触れ、恐縮しながらも、「わたしはとてもこの映画が好きです。ユニークだと思うし、でも山の暮らしをしている方からすれば普段の暮らしだと思ったり、観る方によって何かを感じていただける映画だと思います。じわじわ来るんじゃないかな。どうぞ長く愛していただければ……」と満員の客席に向かってメッセージを送った。
(取材・文・写真:福住佐知子)
公開表記
配給:日活
11月11日(金)より 新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座 他にて全国公開