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「森田芳光レトロスペクティブ」ニューヨーク リンカーン・センター 舞台挨拶

 「森田芳光レトロスペクティブ」がNYリンカーン・センターで開催された(12/2~12/11)。10日間にもわたるこの特集上映は、国際交流基金とフィルム・アット・リンカーン・センターが共催。
 ダン・サリバン氏FLCプログラマーと日米両国を拠点に映画のキュレーション・製作に携わるキュレーター・増渕愛子氏によって企画 。世界的にブレイクするきっかけとなった『家族ゲーム』(1983年)をはじめ、『の・ようなもの』(81)や、『(本)噂のストリッパー』(82)、『ときめきに死す』『メイン・テーマ』(84)、『それから』(85)、『キッチン』(89)、『(ハル)』(96)、『失楽園』(97)、『39 刑法第三十九条』『黒い家』(99)、『間宮兄弟』(2006年)の12作品、計21回が上映された。

 12月4日(日)、『失楽園』の上映では、三沢とともに森田監督作品を『失楽園』をはじめとして10作品手掛けた作曲家の大島ミチルが 舞台挨拶に登壇し特別な日となった。
 三沢は、「ニューヨークは、『家族ゲーム』が公開されて、森田と松田優作さんと来た思い出の地です。実はこの『失楽園』も、モントリオール映画祭のコンペに出品されたので、その帰りに森田と一緒に 1週間くらい滞在しました。ヤンキースやメッツなどの野球やテニスも見て、すごく楽しい思い出があります」と語り、会場から歓迎の温 かい拍手が送られた。大島は 、「実は森田監督が亡くなった12月、ニューヨークにいてショックで信じられず、すごく寒い中で、悲しい気持ちで街を歩いた記憶があります。三沢さんとも、こういう(特別上映の形で会えるなんて嬉しいです。しかも私が初めて手掛けた『失楽園』の舞台挨拶。三沢さんと一緒に、監督の亡くなった12月にここに立てるというのは、上から監督が操っているんじゃないかとすら思います(笑)。監督が亡くなった後も、こうやって運命が動いているような気がして、すごいことですよね」。

 このレトロスペクティブが実現したのは、国際交流基金により、かねてより進められていた森田作品のデジタル化が大きい。世界のカルチャーの中心地ニューヨークは、森田作品が世界で最初に評価された場所であり、思い出もある地。満を持しての国外デジタル初上映の運びとなった。三沢は「本当に運命を感じるし、何より監督が亡くなった後に、映画が世界で未来にむけて再生する瞬間を目撃できた」と振り返る。
 初日のプログラム『家族ゲーム』から満員の観客に迎えられ、続く『失楽園』に集まった観客も、熱心な森田ファンのみならず、初めて森田作品に触れる若い世代も多かった。そもそも今回の特集上映を企画したプログラマーのダン・サリバン氏、増渕愛子氏も、『家族ゲーム』後に生まれた世代。
 ダン「今回、全く森田映画を知らなかったような新しい観客が来てくれて、彼らの反応も良いし、それがすごくエキサイティングで嬉しい」。ニューヨークの新世代に森田映画を紹介できた意義についても、「それこそがプログラマーの仕事の本質だと思う。森田映画は過去にも上映されてきたが、今回のように彼の作品群をテーマ性を持って紹介したことは ない。彼の作家性を確立し、これを基盤にしてアメリカ中に広がってくれたらすごく嬉しい。このレトロスペクティブが、森田映画の未来につながっていくと思っている」。
 三沢も今回の会場の様子を見ていて、「『家族ゲーム』や、『ときめきに死す』は、どこで上映しても安心なんですけど(笑)、森田が『ポップで明るい、だから怖いと感じる映画を作るんだ』と言っていた『黒い家』が、観客に受け入れられたのが嬉しいです」と確かな手応え。増渕も「個人的に好きな作品は、『黒い家』や『(ハル)』。とりわけ『黒い家』は、あまりに怖くて同時に笑えるのが最高。最後に流れるポップソングも新鮮」と語っていた。
 『家族ゲーム』がニューヨークで早くから称賛された理由について、ダン「この近くに あったリンカーン・プラザ(アート系老舗映画館。最近惜しまれて閉館)には、偉大な監督たちの写真が飾られていて、当時の入り口の写真を観たら、森田作品は、エリック・ロメールの『満月の夜』と、ジャン=リュック・ゴダールの『カルメンという名の女』と同時上映だった。もちろんその2作は非常に知られた作品であり、それらと並んで公開されたことで、当時森田がどういう監督であり、彼の映画がどのように受け止められていたのかを象徴しているように思うんです」。

©ニューズ・コーポレイション


 そして、『失楽園』についてのエピソードも。実は企画が立ち上がった際、三沢は「森田は多分断ります」と言ってしまったのだそう。「本人は、『えっ、何言ってるの。やるよ』って。女性でも楽しめるような美しいベッド・シーンがある映画にしたい、という計算があったようです。不倫をしそうにない、真面目な感じがする役所広司さんと黒木 瞳さんの2人をキャスティングしたんですが、役所さんは森田と会う時に、断るつもりでいらしたらしいんです。ところがしゃべっているうちに『やります、頑張ります』と言ってしまった、と」。

 さらに大島は、「『失楽園』で初めて音楽を手掛けたが、台本を読んで作ったものを聴いてもらったら、監督が『違う。全然違う』って言ったんですよ。それから3日後にまた10曲くらい書いたら、そのうち3曲くらいオーケーをくれたんです。でもレコーディング・スタジオでは、クライマックス・シーンの曲で、監督から 『ストップ! 違う』と言われ、その場で書き直しました」と当時の厳しくも強い森田のこだわり、制作中のエピソードを明かした。「森田監督はピュアで妥協しない人だった。監督の作品は予想がつかない。予想をはるかに超えているんです。それがクリエイティブの面白さなんじゃないかと思います」。

 増渕は、監督の映画史における重要性について語る。「彼の作品はあまりに多岐のジャンルに及ぶので、とりわけレトロスペクティブで観てもらうことで、彼の作品がひとつのジャンルに捉われたものではないということがより理解してもらえると思う」。
 ダン「70年代、80年代の日本映画は、盲点だと思う。50年代、60年代の日本映画はよく知られるところだし、90年代以降の監督はニューヨークでもよく知られている。さらに現代の是枝裕和、濱口竜介という監督もいるし。だから僕らにとっては、すでにみんながよく知る過去と現在の作品の間の、知られていない時代を森田映画を通じて紹介することで、日本映画の流れや全体像をここで再構築することにも繋がっているんです」。
 三沢「日本でも海外でも上映したいですね。東京では命日の12月中旬に毎年やりたいと思っています。また、今日を皮切りに海外でも。デジタル素材の英語字幕を国際交流基金が作ってくださって、すごくありがたいです。森田だけじゃなく、他の監督の良い作品もデジタル化して欲しいなあと。そのためにも今回、絶対成功しなければ と思います」と力強く語った。このニューヨークで、森田映画の世界への、未来への第一歩が刻まれた熱気のあるイベントとなった。

登壇者:三沢和子(プロデューサー、森田芳光夫人)、大島ミチル(作曲家)、増渕愛子(キュレーター)、ダン・サリバン(フィルム・アット・リンカーン・センター・プログラマー)

【今後の日本国内の上映】

●「森田芳光70祭 2022」

 東京:新文芸坐
 【公式サイト】(外部サイト)

新文芸坐
感動はスクリーンから - 池袋駅東口徒歩3分の名画座

 会期:2022年12月17日(土)~18日(日)
    12月17日(土)『それから』(DCP)10:30~ トーク13:00~14:00
          『そろばんずく』14:30~ トーク16:40~17:40
    12月18日(日)『未来の想い出 Last Christmas』(BD)10:30~ トーク12:50~13:50
          『(ハル)』(BD)14:20~ トーク 16:40~17:40
 トークイベント:ライムスター宇多丸(ラッパー、ラジオパーソナリティ、『森田芳光全映画』編著)、三沢和子(映画プロデューサー、『森田芳光全映画』編著、森田芳光監督夫人)
  ※17日ゲスト:原 隆仁・鈴木 元(監督/元森田組助監督)
  ※18日ゲスト:『未来の想い出』川島章正(編集)
    『(ハル)』小椋俊一(株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス/タイミング)

©ニューズ・コーポレイション

●2023年の上映も決定!
 大阪:シネ・ヌーヴォ
 東京:新文芸坐
 名古屋:ミッドランドスクエアシネマ名古屋
 広島:福山駅前シネマモード
 海外:パリ、ソウルほか予定

★「生誕70周年記念 森田芳光監督全作品コンプリート(の・ようなもの)Blu-ray BOX」絶賛発売中
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■「森田芳光70祭2022」公式ホームページ(外部サイト)

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(オフィシャル素材提供)

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