イベント・舞台挨拶

『午前4時にパリの夜は明ける』トークイベント付き特別試写会

©2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

 シャルロット・ゲンズブールが主演を務めるミカエル・アース監督最新作『午前4時にパリの夜(よ)は明ける』が4月21日(金)より、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて全国順次公開となる。
 4月13日(木)に都内にてトークイベント付き特別試写会を開催。ゲストにライター・編集者の小柳 帝が迎えられ、上映後の余韻で満たされる中、時代背景やキャストの魅力、また、“雰囲気映画”の域を超え実は計算しつくされた本作の裏側をたっぷりと話した。

ミカエル・アース監督が一貫して描く“喪失感”、そして“再生”の物語

 これまで、前作の『アマンダと僕』(18)、そして『サマーフィーリング』(15)と長編を撮っていますが、日本では順番が前後して公開されました。『午前4時にパリの夜は明ける』は、日本で公開された作品の長編3作目となります。実は、長編デビュー作の“Memory Lane”(10)だけ残念ながら日本では公開されていませんが、3作だけでもミカエル・アース監督の作風について理解できるのではないかと思います。『アマンダと僕』は主人公が姉をテロで失ってしまう場面から始まります。次作の『サマーフィーリング』も主人公が一緒に住んでいた恋人を病気で失ってしまいます。どちらも、大切な人を失ってからの“再生”を描く作品でした。『午前4時にパリの夜は明ける』は、誰かが亡くなるというわけではありませんが、シャルロット・ゲンズブール演じるエリザベートにとっては夫を失い、ふたりの子どもにとっては父親を失うというところに “喪失感”が存在していて、そこからの成長が描かれています。そして、物語に絡む家出少女のタルラもある意味では家族を失っている状態から、成長していく。そういった意味ではミカエル・アース監督の作品のテーマは一貫しているといえるのです。

フランスにおける“7年”の意味とは?緻密に計算しつくされていた?
80年代・パリを背景に描かれる重層的な物語

 本作の過去作との大きな違いは、「時代」についてフォーカスしていることです。過去2作は、ほぼ制作した同時代が描かれていたのに対して本作は、1980年代を舞台にしています。監督は1975年生まれなので、その時代に青春時代を過ごした、というわけではありません。1981年は、フランソワ・ミッテラン氏が大統領に選出された年で、本作ではそれから7年間の家族の歴史が描かれています。10年ではなく、7年。7年というのはフランス大統領の任期を表します。その後も大統領を務めていますがこの作品ははじめの1981年~1988年を描きます。それまで保守政権が長く続いていたので、社会党のミッテラン氏は革新的な動きを求める若い世代から支持され、街の中はお祭り騒ぎのような状態になり、自由な空気感で満たされていたのです。

 また、本作のキーワードとなるラジオも、80年代という時代に大きな影響を受けています。もともと電波は国が管理していて国営のラジオしかなく、そのほかは海賊放送だったのですが、電波が自由化されたことにより、それらが合法化されていきます。つまり、一気にラジオ局が増えたのです。私が80年代後半、フランスに滞在していた時に聴いていた、ラジオ・ノヴァというラジオ局も、はじめは海賊放送だったのですが、81年に正式なラジオ局として認知されるようになりました。ラジオ・ノヴァはワールド・ミュージックを専門的に発信し、私もとても影響を受けました。
 それから、登場する家族の住居を「あまりパリらしくない」と感じた方も多いのではないでしょうか。本作の舞台になっている15区のグルネル地区には、パリ市内のイメージにはない高層マンションが立ち並んでいます。エリザベートが務めるラジオ・フランスも対岸の地区に存在していますが、ここはパリの中でも新しい地区なのです。家の窓から見えるパリの風景は宙に浮いているような、不安定な印象を抱くと思いますが、実はこの時代、ミッテランは自由で革新的なムードを作り出した一方で、70年代のオイル・ショック以降の社会的な問題を解決することができなかったという背景もあり、非常に不安定な時代であったともいえるのですが、この時代の不安定さを象徴しているかのようです。
 こういったところも、計算されて作られているんじゃないかなと思います。

およそ23年振りの共演!名優ふたり×期待の新人俳優が導くリアルな姿

 エリザベートは、ラジオ・フランスでエマニュエル・ベアール演じるパーソナリティ・ヴァンダと出会います。実は、過去にダニエル・トンプソン監督『ブッシュ・ド・ノエル』(99)に登場する三姉妹の次女をエマニュエル・ベアール、三女をシャルロット・ゲンズブールが演じていて、なんと今回は23年振りの共演となるのです! 2人とも、年齢差はあれど、ともに80年代から活躍した女優であり、「80年代の刻印を帯びている二人」とも言えるのではないでしょうか。
 そして映画に描かれているなかで注目したいのが、84年という年です。その年、子どもたちは封切り当時の、エリック・ロメール『満月の夜』(84)を映画館に観に行くんです。ミカエル・アース監督は『サマーフィーリング』でも、ロメールの『クレールの膝』の舞台になった、アヌシーという湖をロケ地に選ぶなど彼にオマージュを捧げていましたが、この映画の引用はオマージュでもあり、同時にその年代を示しているのです。ミカエル・アース監督は、このように徹底して「その時代のリアルな姿」を私たちに追体験させてくれます。

 この映画はただ「家族の物語」なのではなく、家出少女・タルラの登場によって緊張感や不穏な空気がもたらされます。
 息子と親しくなっていったり、エリザベートと疑似親子ともいえる関係になったり、家族にとってもタルラ本人にとっても自分たちのアイデンティティを見つめ直すきっかけになっていきます。キャラクターの置き方も、極めて計算されていると感じました。
 タルラを演じたノエ・アビタは、最近ではレア・ミシウス監督『ファイブ・デビルズ』(21)にも出演していて、フランス映画界で今とても注目されている女優です。彼女が演じたタルラは、パンキッシュなイメージや、俳優を目指すようになるところなど、『満月の夜』主演のパスカル・オジェのイメージを体現してもいます。

ホラー映画から『ハーフ・オブ・イット:面白いのはここから』に至るまで――
監督が映画音楽家に見出したリリカル性とは?

 本作では、音楽も大事な要素ですね。実際に、80年代当時の曲が、それも音楽マニアでもある監督の選曲で、数多く引用されています。そして劇伴については、シンセサイザーを主体としたものになっています。当時シンセサイザーをつかった音楽が流行っていたので、監督から音楽を担当したアントン・サンコに、そのように依頼をしています。このアントン・サンコはもともとホラー映画の音楽を多く手掛けている方なのですが、ミカエル・アース監督が彼のリリカルな部分を見出して起用したことにより、後にNetflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはここから』も手掛けるようになりました。当時の音楽と、彼のつくった音楽がこの映画のなかで違和感なく混ざり合うことで、自然にリアリティを感じることができるようになっています。

 本作には、現代で撮影された80年代風の映像と、当時のアーカイブ映像、そしてそこに乗せられたこだわりぬいた音楽……これらが違和感なくミックスされて当時の様子を描写しているだけでなく、パスカル・オジェの存在を投影していたり、引用映像による追体験を与えたりと、重層的に重ね合わされていることによりどの世代にとっても深い理解に繋がる素晴らしさがあります。
 ミカエル・アース監督は、ただ感覚やフィーリングで作っているのではなく、非常に緻密に構成して作っていると思います。
 ぜひ、そういったところも含めて、もう一度観てもらえたら、「実はそういう形で作られているのだな」と、映画の理解もより深まっていくんじゃないかなと思います。

 一早く映画を観たファンからは、“家族の繋がりがとても深い作品だった”“80年代の懐かしい雰囲気が、今そこにあるように映し出されていて素晴らしい!”との絶賛の声や、“どんなに落ち込んでも壁を乗り越える勇気を与えてくれる”“自分も80年代に青春時代を過ごしたので懐かしい気持ちになった!”など幅広い世代からの共感する声がSNSにも続々と上がっている。

 登壇者:小柳 帝(ライター・編集者)

(オフィシャル素材提供)

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 2023年4月 シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国公開

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