イベント・舞台挨拶

『怪物』監督・是枝裕和×脚本・坂元裕二登壇 早稲田大学「マスターズ・オブ・シネマ」

©2023「怪物」製作委員会

 6月2日(金)から公開中の映画『怪物』の是枝裕和監督、脚本を務めた坂元裕二が、10日に都内の早稲田大学で開講された第9回「マスターズ・オブ・シネマⅡ」に登場。本授業は早稲田大学の全学年、全学部の生徒が受講できるもので、当日はすり鉢状の大きなホールのような教室に約350人ものの生徒が集まった。岡室美奈子さんに呼び込まれ、壇上にあがった二人は映画の制作過程や撮影にまつわるエピソードを振り返ったほか、学生とのQ&Aを行った。

 是枝監督が参加する前、企画がスタートした経緯を聞かれた坂元は、2018年に東宝の川村元気と山田兼司から映画の開発に誘われたと言い「これを言うと川村さんが違うって言われるんですけど、僕が記憶しているのは『坂元さんは連続ドラマの脚本家だから、その良さを出してほしい』というふうに言われた記憶がありまして。そこから始まったという感じなんです」と回想。
 撮影が進む中で反響を耳にしながらテレビドラマの台本を書きあげていく作業を35年間続けてきたという坂元は「書くっていうのは、問題について考えることだと思っているんですよね。何か答えが見つかったからそれについて書きたいじゃなくて、何が問題なんだろうっていうことを登場人物と一緒に生きながら、同じ時間を過ごしながら、連続ドラマだと数ヵ月間、登場人物と一緒に過ごしながら、この問題について考えていこうっていうことが私自身にとっての書くということ」と語った。また「映画の場合は、その問いに答えをある程度想定しないと、なかなか書きづらいというイメージがあったんですが、(是枝)監督の場合は以前から撮りながら台本も作られていたり、あるいは演劇なんかだと稽古をしながら台本を作るっていうこともよく聞きますし。そういう方法もあるかとは思うんですが、今回の場合はラストを見据えないといけなかった。そこがとても大きな課題でしたし、かなり終盤まで頭を抱えていた問題でしたね」と振り返った。

 是枝監督が本作へ参加した経緯を聞かれた坂元は、2017年に是枝監督と早稲田大学の大隈講堂で対談したことがあったとしたうえで「『怪物』の企画が始まったときに、どこか是枝さんの名前は自分の中にあって。でもそれを言うと、何か悪いことをしてしまうような、悪いことというか、自分の中で控えめにしている部分を超えてしまう。不躾な人間になってしまうような気がして少し控えていたんですが、3人で監督をどなたにお願いしようかってお話ししている時に、たぶん僕の中からこぼれてしまって、お願いすることにしたんだと思うんです」と回想。
 是枝監督は、川村から坂元と開発している映画のプロットを読んでほしいとメールがあったと言い、これまでも坂元裕二とのタッグを望んでいただけに「その段階で“やろう”とは思っていました」と即決であったことを述懐。「2017年の対談の時って、僕が8割くらい質問しているんだよね。ほとんど僕からの一方的なファンレターみたいに」と対談を振り返り、坂元は「監督の映画を全部見て。世の中から埋もれているドキュメンタリーも全部探し出して全部見たんですけど、対談はほぼ僕の話で終わってしまって。その時の気持ちが今回に引き継がれたような思い」と返答し、監督も照れ笑いを見せていた。
 是枝監督は坂元の手掛けてきた脚本について「何となく自分が関心を持っていたモチーフがそこに含まれていたり。時期をずらしながらですけれども、ネグレクトの問題や犯罪の加害者家族の問題など、なんとなく同じものがテーマとして引っかかっているなと。特に2000年以降ですけれども、同時代で同じものが引っかかっている作り手が一人近くにいるっていうことを常に意識しながら、僕は坂元さんを見てきました」と印象を明かした。一方の坂元は「一番びっくりしたのは『さよならぼくたちのようちえん』というドラマを作ったときに、監督が『奇跡』という映画を作られて。それはどちらも子どもたちが子どもたちだけで旅をするお話で。別に社会的な問題でもなんでもなくて。でも僕の中で『これは必要だ』と思って作ったものだったんですが、その時はお会いしたこともないですから。もちろん示し合わせたわけではないですから、『同じモチーフを是枝監督と思いついたんだな』と思ったら嬉しかったですよね」と語った。

 『怪物』のプロットについて是枝監督は「とにかく面白かったんですよ。読み進めていく行為自体が非常にスリリングだった。かなり攻めている。これを映画でやるってかなり挑戦的だなと思ったのでワクワクしました」としたうえで「子どもたちの視点になって『ああ、なるほど。僕の名前が出たのはたぶんここだろう』と。この構成を受け止めて自分がどういうふうにこの複数構成を作っていけばいいのかというようなことを読みながら考えたので、その段階で演出家の目で読んでいると思うんです」と発言。そして「まだ細かく台詞が書き込まれているものではなかったと思いますが、非常に批評性がある。いろいろなことに対して。今の時代に対してもそうですし、ものを作るということ、作って伝えるということに対しても、非常に批評性の高いものだなと思いました」と評した。
 その後、坂元はかつて車を運転していた自分がトラックにクラクションを鳴らしたところ、そのトラックが車椅子の人の横断を待っていたことを知って、とても後悔したというエピソードに言及。「見えなかったせいで、車いすの方にある種の加害性を持ってしまった。そのことをとても後悔していて。それをどのように落とし込めば、作品としてお客さんに、下世話な言い方をすると体験してもらえうことができるだろうか。その形として、自分が加害者としての主観を持ったものを作りたかった」と明かした。

 話題がキャスティングに移ると、是枝監督は「脚本化していくプロセスと同時に、キャストの名前を出していく作業をしました」と言い、坂元が一つのシーンの変更で着地(結末)が大きく異なる「誠実な書き方」をしているとしたうえで「前半が大体固まってきて、じゃあキャスティングを……と話が進んでいくなかで、徐々に徐々に具体的に台詞が書き込まれていった」と回想。是枝監督は「キャストが決まって、ぐっと(キャラクターの)フォーカスが合っていくっていう過程を、そばで見させていただきました」と振り返っていた。従来のドラマ作品で手掛けてきた脚本のようにキャストが決定することによって、脚本やキャラクターが具体的に動き出していったのかと聞かれた坂元は「難しかったです。テレビ・ドラマをやっている時みたいにはいかないし。やっぱり映画を作るときは、キャラクターで描くよりもコンストラクションのほうを重視しているので。テレビをやっているみたいに自由自在に登場人物が動き出すということはなかったですけど、できるだけ、できる範囲で人間らしくなるようには努力しました」と答えていた。

 少年同士の感情の描き方について、是枝監督はプロットを読んだ段階で勉強するべきだと考えたと言い、これまではオーディションで会った子どもに無理がないよう、役を演じる子役に合わせていったり、台本を事前に渡さずに現場で口渡しでセリフを伝えてきたことに言及。「今回はそれをやめたほうがいいなという気持ちがあったので、きちんと相談ができる専門の方たちに入っていただき、坂元さんの本を読んでいただき、この描写の時にはこういう感情で齟齬がないかというようなことも含めて相談させていただきました。演じる本人のキャラクターに乗っかるというよりは、湊なら湊という役を一緒に作っていく」と、大人の役者と同じアプローチを採ったことを明かした。

 是枝監督は、子どもたちが役柄を理解するため、身体の変化に関する保健体育の授業を受けてもらい、LGBTQの子供たちを支援している団体のスタッフからさまざまな性自認があることを教えてもらったことも紹介。

 インティマシー・コーディネーターにも台本を読んでもらったと言い「役を演じるだけではなくて、演じていない時間も含めて、子どもたちがどんな感情的なストレスを抱えているか、抱えていないかということは、なるべく観察しながらの撮影というのを心がけたつもりです。ただ東京を離れて地方ロケ、ずっとホテルで長く生活をしながらの撮影だったので、いろいろ大変なことはあったと思いますが、なんとか無事に撮影は終えられたと、僕から見ている範囲では思っています」と話していた。

 子どもたちのキャスティングに関して、是枝監督は「クラスメートも含めていろいろ役を変えながらオーディションのプロセスでお芝居したんですけども、最終的にはこの二人以外はありえないなというのは、たぶん立ち会ったスタッフみんな共通だったと思います。そのくらい特別な二人でした」と黒川想矢(麦野 湊 役)と柊木陽太(星川依里 役)を称賛。
 二人のオーディションに同席していたという坂元は、3部が自分の子ども時代や秘密基地を作っていた友人との関係を描いているとしたうえで「自分が黒川君の役になったような気分になりながら映画を観て、ふって柊木君を見たら……僕の記憶の中にいるその友達が柊木くんと同じ顔をしていて。名前も忘れて顔も何となく忘れていたんですが『あ、この子だったんだ!』と。同じ子なんじゃないかって思うくらいの、すごく不思議な感情が動いて。ちょっとびっくりしたことがありました」と明かした。この流れで是枝監督は「友人から、カンヌで僕と坂元さんが並んでいる姿が、あの男の子二人が大きくなったみたいに見えたって言われて(笑)。大きさのバランスでそう見えたのかなとかいろいろ考えてましたが(笑)、ちょっと不思議な感じはしました」と笑顔を見せていた。

 坂元は『怪物』を作るうえで特別な覚悟があったのか問われると「これまで描いてきた加害者の物語も、今作での少年二人の話も、僕は自分の経験をベースにしていて。このドラマとお前の人生に何の関係があるんだと言われるようなものも、自分の経験と自分がその時に感じたことをベースに作っているので、とにかく自分の中にあるもの、それを誰かこの人に届けたいという一人の人を想定して、その人に向かって届ける。それが全てなんです」と返答。「だから自分の中では嘘はついていないし、自分が子どもの頃に感じた感情、小学校から中学校の間に出会ったいくつかの出来事や友達との関係や、そんなものをすべて思い返しながら書いたので。勇気というよりは、自分のことをいつものように書いた。それは他の人から見ると『この話のどこがお前なんだ』という。僕が黒川くんって言うと『そんなかっこよくないよ』って言われるんですけど(笑)。やっぱり自分は彼に投影したりしながら書いていましたね」と話していた。

 本作が映画『羅生門』に通じるものがあると評されることについて、坂元は「『羅生門』っていうのは伝言ゲームというか、話者によって話が変わっていくという『人の話は当てにならないよね』みたいなところかと思うのですが、(今作は)ファクトは一つで、それが視点によって見えるものが変わっていくというお話というほうが近いので。似ているところもあれば違うところもあるかなというふうには思っています。最近だと『最後の決闘裁判』のほうが、この作品に近いのかなっていう気はしました」と分析。是枝監督は「坂元さんは、突然視点を変えて、別の人の目線で語りなおす、気になった人を掘り下げて別の角度から見ていくっていうことが、『カルテット』とか他のドラマでもたびたびあって。それを今回は1本の映画の中でされたのではないかというふうには思っています。だから『羅生門』構造というよりは、坂元裕二(構造)のような」と考えを語った。
 坂元は「自分のさじ加減で悪い人に見えるように描くっていうのは、作っている人間は、実はちょっと罪の意識は感じているんですよ」と、キャラクターの描き方に感じる葛藤も吐露。「『本当はこっち(別の角度)もあるんだよね』って。『Mother』の8話とか。『それでも、生きてゆく』とか『カルテット』もそうですけど、見えていないところにこういうのがあるんだけどなっていうのは、出したくなってきますよね」と作り手としての思いを明かした。

 学生との質疑応答で、脚本を書き直さないで撮影する場合と書き直しながら撮影する場合で、どんな違いが生まれるのか聞かれた是枝監督は「今回は2018年に僕が参加してから(脚本の)決定稿に至るまでに、ある程度というか、かなり試行錯誤を坂元さんもされながら、これしかないという形にたどり着いているので、まず納得度が高かった」としたうえで、「それで現場がもし楽しくなかったり窮屈に感じたりしたら、つまんないなと思っていたんだけど、全然そんなことはなかったです」とコメント。それだけの脚本があっても「このお芝居が正しかったかっていうのは、常に問いかけながら」の撮影だったそうで「さっき岡室さんが触れていただいた、窓ガラスの向こうに何があるのかを、二人で手でかき分けながら、その先に何があるかっていうのを探っているような状況が、ずっと続くんですよ。映画の現場って。窓を開けたら何もない時もあるんだけど、その作業自体は変わらずにありました。今回の現場も。それは自分としてはとても発見というか、楽しいなと思いました」と語った。
 坂元の脚本に監督がセリフを足す提案をすることもあったようだが、どのセリフも素晴らしかったと絶賛する坂元は、台本に少しの演出を施すことで変化をもたらす是枝監督について「(脚本には)そんなに注文を出されなくて、ここがいいよねっていうお手紙をくださるんですけど……ちょっと意地悪な言い方をすると、すごく手のひらの上に乗せられているというか。『ちょっとここのボタンを押すだけで、お前の書いたものは全部変わるんだぞ』みたいなものをね、マジックを見せられたような気分を味わいながら、いつもやっていました」と笑顔で明かした。
 また「『ここも直せ! ここも直せ!』って揚げ足取りみたいに言うことって、誰でもできるじゃないですか。でも『ほら、ここに塩を入れればいいんだよ』みたいな感じでやってくれるので、こちらも『あ、美味い!』みたいな(笑)。そういうのが一番すごいなと思います」とディレクションを絶賛した。
 さらに坂元は「是枝さんを語るときに、ドキュメンタリー・タッチとか、即興ということをよく言われるんですけど、こんなに日本一脚本がうまい映画監督は他にいないと思っています。是枝さんの台本を何冊も読んだことがあるんですが、めちゃくちゃ脚本がうまいんですよ」とべた褒め。「(脚本を書く上での)教科書的なものが全て網羅されていて、こんなにしっかりとした脚本はないんですよ」としたうえで、「それをね、何もかも現場でアドリブで作っている、ドキュメンタリー・タッチだって言うのは、ご本人が誘導しているのか、もしくは世間の誤解なのか分かりませんが、ちょっと僕が思っている実態とは違うなって思っているんです」と考えを明かしていた。

 名脚本家から大絶賛を受けた是枝監督は「そろそろ終わりますかね」と照れ笑いを見せつつ「、裏でとても不自然なことをいろいろやらないと、自然には映らないんですよね。もちろん役者もそうですけど、子どもたちが自然に見えるのはしっかり演じているから。もし作り手目線で見るのであれば、そう思っていただいて。好きにしてくれって言って撮れば自然に見えるかっていうと、絶対そんなことはないので。そこは注意しながらやっています」と自身のスタンスを明かしていた。

 登壇者:坂元裕二(脚本)、是枝裕和(監督)

公開表記

 配給:東宝、ギャガ
 大ヒット公開中!

(オフィシャル素材提供)

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