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小津安二郎生誕120年記念 『父ありき 4Kデジタル修復版』第80回ヴェネチア国際映画祭国際映画祭・ワールドプレミア上映

©1942/2023 松竹株式会社

 第80回ヴェネチア国際映画祭(8月30日~9月9日)クラシック部門(Venice Classics)にて小津安二郎監督作品『父ありき 4Kデジタル修復版』(1942年、英題:There Was a Father 4K Digitally Restored Version)ワールドプレミア上映が、9月6日14:30~(※現地時間)行われた。(SALA CORINTO)

 現地では修復に合わせて新たに作成した海外向けポスターを掲出。大変好評を博した。上映は高い注目を集めており、世界中の映画関係者が来場。会場は熱気に溢れた。

 上映前には高川 彩(松竹株式会社 メディア事業部 海外版権室)が登壇。松竹が保有していたマスターポジはGHQの検閲によってオリジナル版に比べて多くのシーンが削られていること、ロシアで発見されたプリントと組み合わせることで、オリジナルに限りなく近い修復ができたことを説明した。

 さらに続いて、最新作『悪は存在しない』がコンペティション部門に選出されている、映画監督・濱口竜介がご登壇。『父ありき 4Kデジタル修復版』の作品紹介を行った。

 小津安二郎監督作品のデジタル修復版は、2013年のベルリンクラシック部門から数えて11回目の選出。生誕120年を迎える本年、第76回カンヌ国際映画祭『長屋紳士録 4Kデジタル修復版』に続く、世界三大映画祭クラシック部門2度目の出品となる。

濱口竜介監督『父ありき 4Kデジタル修復版』作品紹介

 ボンジョルノ! 今日は小津安二郎監督の『父ありき』のご紹介をする大役をいただきました。
 あまりにも身に余る仕事なので、より相応しい監督の言葉を紹介することから始めたいと思います。ご存じの方もいるかも知れませんが、吉田喜重監督という、小津と同じ松竹にいて、個人的な付き合いもあった方です。この方は非常に、日本の中でも最も優れた監督の一人だと思っておりますけども、国際的にはまだまだもっと相応しい名声を得るべき監督だとも思っています。
 残念ながら、昨年の12月に亡くなられたのですが、その方の「小津安二郎の反映画」という本から紹介します。『父ありき』の中の素晴らしい場面についてです。

 陽差しのみちあふれる渓流で、流し釣りをする父と息子。
 釣り糸を急流に投げかける、その反復の単調きわまる動作に、なぜかわれわれは魅せられる。
 そして反復の果てに起こるずれ。
 やがて成人した息子は、ふたたび年老いた父と流し釣りを試みる。
 そのとき無言のうちにあらわになるのは、過ぎ去った時間である。

 これから作品をご覧いただくと、この短いコメントがどれだけ正確に、そのシーンの素晴らしさを描写したものかと分かっていただけると思います。吉田喜重監督がここで小津監督の最も美しい場面の一つを描写しながら、その特徴として語っているのは、反復とずれです。
 それがどれだけ素晴らしい場面かというのは、実際にご覧いただくのが一番なので、これ以上この作品の中のことについては申し上げません。
 この吉田監督が指摘した反復とずれという特徴は、実はこの『父ありき』の一つの作品に収まるものではなくて、小津のフィルモグラフィ全体に広がっているものです。これは「父と息子」の愛情の話です。ただ、もし小津の代表作である、1949年の『晩春』をご覧になっている方がいたら、これが『晩春』の「父と娘」の話の、ある原型になっている、オリジナルになっているということに気づかれると思います。
 さらにこの「父と娘」の関係が、今度は1960年の『秋日和』になると「母と娘」の関係に転換されます。そして遺作、1963年の『秋刀魚の味』では、この「娘の結婚」という主題がまた反復されるわけです。
 そして先ほど触れた渓流釣りの場面自体が、この映画の8年前、1934年の『浮草物語』の場面と全く同じような場面の反復になっています。そしてその『浮草物語』は1959年に『浮草』という、全く同じ物語のリメイクがなされます。そこにも釣りのシーンがあります。小津はフィルモグラフィを通じて、こういう似ているんだけど違うモチーフを、ひたすら反復使用していきます。
 それが実際どんな意味があるのか。全く分からないです。この意味は分からない、でもその効果は、一応小津作品を観てきた人間として、はっきりと言うことができます。小津のフィルモグラフィの新たな一本を観る度に、それまで観た小津作品の姿というものが、変わっていきます。その一本に刺激されて、変わっていきます。その体験は、一度観たとしても全く終わることのない、無限に続くような体験です。
 この小津のフィルモグラフィで起きていることは、実は小津の人生に起きていることと、とても良く似ています。今年は小津の生誕120年です。そして没後60年にもあたります。この60年という数字は、実は東洋の人間にとっては特別な意味を持っています。60年という時間は、ちょうど暦が一周する、そういう時間です。その60歳の誕生日というのは、新たに生まれ変わる日、新たに赤ん坊になる日、と言われています。小津はまさに、この60歳の誕生日に亡くなりました。新たに生き直すその日に、まさに新しい世界に旅立ったわけです。この小津の人生を思うと、小津のフィルモグラフィを観る時に起きる、無限の体験みたいなものとの相似に驚かざるを得ない、動揺せざるを得ないと思います。
 小津の映画を観るということは、絶え間なく揺れ動くことです。この反復されるモチーフが、観ている観客の中で繋がり合って、刺激し合って、そしてそのモチーフが自分の中でまるでダンスを踊るように活性化されていきます。観客は小津を観ることによって、そのモチーフが踊りだすダンスフロアのような場になることができます。それがどれだけ刺激的で喜びに溢れていて、そして時には激しい畏怖を起こさせるものであるかは、体験していただくしかないと思います。
 もし、今日はじめて小津をご覧になる方がいたら、この冒険へ出発することを祝福したいと思います。そして、もう何度も観ているという方も当然いると思います。そういう人には、一緒に旅を続けましょうと誘いかけたいと思います。先ほど紹介にあった通り『父ありき』の中には今までちゃんと観ることが出来なかった部分というのが含まれています。そのことがまた、小津作品の見え方を変えてくれると思います。もう一つだけ重要なことは、小津のこのフィルモグラフィ、実は20本くらい観られない映画があるということです。これらの映画が発見されることを心から願っています。その度に、小津の映画を観る体験が更新されていくと思います。その素晴らしい事態が起こることを祈って、ご紹介を終えさせていただきます。本当に楽しんでください。

濱口竜介

 1978年生まれ、神奈川県出身。商業デビュー作品『寝ても覚めても』(18)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した黒沢 清監督作品『スパイの妻』(20)では共同脚本を手掛けた。『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞。『ドライブ・マイ・カー』(21)では、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、第94回アカデミー賞®にて日本映画史上初となる作品賞にノミネートされたほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の計4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した。最新作『悪は存在しない』(23)は、本年度のヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品されている。

ワールドプレミア上映詳細

 【ゲスト】濱口竜介監督
 【日時】9月6日(水) 14:30~(上映時間92分)※現地時間
 【会 場】SALA CORINTO(Via Falier 4 30126 Lido di Venezia)https://www.labiennale.org/en/venues/sala-corinto(外部サイト)

ヴェネチア国際映画祭公式サイト

Biennale Cinema 2023 | Homepage 2023

 (開催日程:2023/8/30~9/9)

『父ありき 4Kデジタル修復版』作品情報

 (英題:There Was a Father 4K Digitally Restored Version、1942、日本、上映時間:92分)
 監督:小津安二郎
 脚本:池田忠雄、柳井隆雄、小津安二郎
 出演:笠智 衆、佐野周二、津田晴彦、佐分利信、坂本武、水戸光子、大塚正義、日守新一、西村青児、谷 麗光、河原侃二

<概要>
 戦時下に製作された『父ありき』は、同じ教師の道を選んだ父と子の親子関係を繊細かつ濃厚に描いた、哀感に溢れた作品。笠智 衆の初主演作品であり、佐野周二など後の小津作品の常連となるスターたちを数多く起用。後の小津作品にも共通する、「人と人との繋がり」や「家族」といった、普遍的なテーマを題材としている。

<あらすじ>
 金沢で中学教師をしている堀川周平(笠智 衆)は妻に先立たれ、息子の良平(佐野周二、少年時代:津田晴彦)と2人で暮らしている。そんな中、周平は修学旅行先で教え子を溺死させてしまい、責任を感じて退職。良平を寄宿舎に残し、東京の工場で働きだした。時が過ぎ、良平は仙台の帝大を卒業して、秋田の学校で教師となった。彼は久々に父親と再会するのだが……。

『父ありき』4Kデジタル修復について

 戦時下に製作され、当時の社会状況や戦争に関する言及がある小津安二郎監督作品『父ありき』の公開当時のオリジナル版は、本編尺が94分、フィルムの長さにして2588mと記録に残されている。戦後占領期の1945年再公開時にGHQの検閲によりオリジナル版から多くのシーンがカットされることとなり、松竹に残された原版素材(16㎜マスターポジ)は、本編尺が87分に短縮されたものだった。
 国立映画アーカイブと松竹の共同事業にて修復を行った。4Kデジタル修復《フル4K(4K解像度<4096× 3112>スキャン、4KDCP》では、松竹が所有する16mmマスターポジと、ロシアで新たに発見され、国立映画アーカイブが保管している35mmプリント(72分)の両方を4Kスキャン。双方の画と音を比較し、欠落している箇所を組み合わせ、1942年公開当時のオリジナル版に限りなく近い状態への修復を行った。4Kデジタル修復しました本作の上映尺は92分。
 画像修復は、近森眞史キャメラマンが監修し、イマジカにて作業。音声修復は96kHz24bitでデジタイズし、電源、キャメラ、光学編集、ネガのキズや劣化等、さまざまな要因によるノイズ、レベルオーバーによる歪みを、原因に立ち返って類推し、清水和法氏監修のもと松竹映像センターにて修復。小津安二郎監督の製作意図を尊重して修復することを主眼に作業している。

これまでにデジタル修復された小津作品ワールドプレミア上映

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