インタビュー映画祭・特別上映

「東京ドキュメンタリー映画祭2023」『繁殖する庭』小宮りさ麻吏奈&鈴木千尋監督 オフィシャル・インタビュー

 6回目となる東京ドキュメンタリー映画祭が2023年12月9日(土)~12月22日(金)まで新宿K’s cinemaにて開催されることが決定した。今年も「短編」「長編」「人類学・民俗映像」の各コンペティション部門の厳選された作品のほか、舞踏の世界や、90年代沖縄の伝説のお笑いコンビ『ファニーズ』、2016年に逝去した歌手「りりィ」の生前のライブを記録した『リリィ 私は泣いてます』の特別上映など、2週間にわたり多彩なドキュメンタリー映画の上映を行う。

 12月11日(月)14:10~及び12月16日(土)12:30~に舞台挨拶付きで上映される繁殖する庭プロジェクト(小宮りさ麻吏奈+鈴木千尋)による『繁殖する庭』は、2つの制度によって規制された2つの「家(庭)」を重ね合わせ浮かび上がらせるとともに、新しい家の形として「庭」を作ることを模索するエクスペリメンタル・ドキュメンタリー。

 この度、上映を前に、繁殖する庭プロジェクト(小宮りさ麻吏奈+鈴木千尋)のインタビューが到着した。

<繁殖する庭プロジェクト(小宮りさ麻吏奈+鈴木千尋) プロフィール>

 小宮りさ麻吏奈と鈴木千尋からなるユニット。既存の制度によって去勢された存在や事象をすくい取り、異性愛規範の外側を模索するためプロジェクトを展開。「繁殖する庭」の運営を行うほか、実際の場所にとどまらず、従来の家族制度の外野と言えるクィアネスを抱えた存在がどのような「場」を構築できるかを模索する。

繁殖する庭プロジェクトついてお教えください。

小宮りさ麻吏奈:プロジェクト自体は2018年から始めていまして、プロジェクトの実験的なドキュメンタリーの形式として今回の映画になっています。元々現代美術の領域で作品を発表することが多いんですけれど、その中で、既存の美術館ではない外側で実験的に作品を作ったりプロジェクトを行うことに関心があって、たまたま建築ができない土地が借りれるというのを知ったんです。法的に家が建てられない土地は、「家」を持てないという意味で日本の同性婚が法律的に認められていない状況と重なるんじゃないかと思いました。異性愛規範と呼ばれるような、男女二元論の世界に対して違和感があって、そういうことに関して考える作品を作っていたんですけれど、その土地を使って、何かプロジェクトをできないかと思い、その土地を借りました。「庭」っていう文字の古い意味に「場所」という意味があり、法律上同性婚ができないマイノリティの方たちは居場所がないと感じることもあるから、居場所を作るという意味で、社会から阻害されたり、普通はぶかれてしまう雑草を自由に育てて、それを庭にしようと思い、庭を作り始めました。
 インスタレーション作品としても発表しているんですけれど、庭を作っている記録や物語性があるプロジェクトなので、それを伝えるにあたって、映画、ドキュメンテーションという手法が合うのではないかと思い、今回は映画を作って発表しました。

「再建築不可の土地」があるというのはたまたま知ったんですか?

小宮りさ麻吏奈:元々花屋を経営するプロジェクトをやっていたり、展示スペースとしてオルタナティブ・スペースを作ったりしていました。賃貸情報サイトで変わった条件で検索すると、「こんなものが借りられるんだ」という物件が結構あるんです。たまたま空き地がヒットしたのですが、「使用用途は不動産会社は思いつかなかったので、自分で考えてください」とあって、調べていくと、建築の法律に触れている制限されている土地ということが分かりました。土地そのものは、人間の制度の外側では何の制限もないはずなのですが、都市とか人のシステムの中で特定のルールに沿ってしか使えないというのも面白いと思いました。本来制限されるべきではないセクシャル・マイノリティの人たちが制限されているのも人間が作った制度のせいだなと思い、自分の中でピンときて、もうちょっと調べてみようと思いました。

作中、婚姻届に署名している女性とお子さんはどなたですか?

小宮りさ麻吏奈:あれは大学の友人です。作中婚姻届の不受理の理由が出てくるんですけれど、一つが同性同士だからというのと、もう一つは証人が存在しないからと書いてあります。その友人は、結婚されてお子さんがいるんですけれど、今の制度だと夫婦別姓ができなくて、相手方の苗字になっているんです。でも私たちが出会った時は、大学生の時でご結婚もされていなかったので、新しい苗字になってからの彼女のことより、元々の名前の彼女との方が長く付き合いがあったということもあって、彼女は元々の名前で活動しているので、保証人の欄に旧姓で書いてもらったんです。役所は保証人がちゃんと存在するかも調べるんだと分かりました。

作中、区役所に婚姻届を提出した際に対応した区役所職員の方の声は使わず、特定されないようにテキスト化してやり取りを再現していますが、想像以上にすごく丁寧に選択肢を説明してくださり、寄り添ってくれていると思いました。お二人はどう感じましたか?

小宮りさ麻吏奈:知らない人でもどんなに知っている人でも、カムアウトのような行為をする時は常に緊張感を伴う上に、法的な場所に行くという意味では、ものすごく怖かったんですけれど、すごく丁寧だったのには驚いたし、安心もしました。元々その場で婚姻届を出すかどうかは迷っていたんですけれど、すごく親身になってくださったし、提案をしてくださったので、「今出そう」となって、出しました。
鈴木千尋:婚姻届をもらいに行った時も、「どういう手続きがあるんですか」というのを一応聞いて、「不受理届けが来ます。それで裁判する方もいます」と説明していただき、その日にちょっと話して婚姻届を出してみようとなったんです。人対人では親身になってくれたと感じました。

編集でこだわったことはありますか?

小宮りさ麻吏奈:映像を分割したり、映像のフレームの中にさらにフレームがある状態の画面があります。元々美術の映像作品を作っている中でそういう映像を作っていたから、自分が作りやすい手法ということもあるんですけれど、最初と最後だけ、フレームじゃなくて360°見渡すようなフレームのない映像を入れています。制度の話の時に、画面にフレームが入るのは、「制度という人間が暮らす中でのフレーム」と「映像のフレーム」を重ねています。

法律だけでなく、「家」や「家庭」という言葉の意味など、お二人は歴史にもすごく興味があるようですが、以前からそうなのでしょうか?

小宮りさ麻吏奈:元々自分の美術の作品のリサーチをするにあたって、例えば特定の地域に入って作品を作る時に、その土地はどういう土地なのかを調べるところから制作が始まることが多いです。「その場所で発表する上で、自分がどういう位置にいるのか」ということは、表現する上で最初に掘り下げるようにしています。今って過去の積み重ねで、私たちが生きているということも、ある意味では異性愛主義ではあるんですけれど、生殖の歴史の積み重ねです。今現在に位置している自分たちがクィアで、「生殖の歴史からこぼれ落ちるかもしれない」「過去から受け取ってきたものを途絶えさせるかもしれない」という意識が個人的にあって、そういう意味でも、過去の積み重ねの中から、何を拾ってこられるかに関心があります。
鈴木千尋:最末端にいるというのをすごく思います。今の自分の立っている場所から眺めた時に、過去に戻っていくと、いろいろな情報を得られるし、自分の助けにもできるというふうに思います。

特に近年は「同性愛者の多くは自分の子どもを作っていないのに、同性愛者はずっと繁殖している」というのは、同性愛が遺伝ではないということの証明でもあるし、すごく興味深い指摘だと思いましたが、「繁殖する庭」というタイトルもそうですが、生物学的な着眼点というのは、お二人が自らの存在を考える上で、以前から持っていたものなのでしょうか?

鈴木千尋:自分が親から生まれてきて、未来を見た時に、いつか死ぬことを考えます。種無しスイカなどの植物について調べていた時に、減数分裂できないということを知ったのが面白かったです。
小宮りさ麻吏奈:今の体や性というのは進化で得てきたものですが、今後人間がどういうふうに変化していくのかというのには興味があります。性別的にも寿命という面でも、自分の体に限界があるということも考えます。今子どもを作ろうとしても、男性と女性でしか作れないという限界だったりについてはなぜなんだろうという、それをどうにか変える可能性はないかということに関心があって、自分の美術の作品で、自分の体を使うアプローチや、細胞の培養をやっています。なので、生物学的な視点や興味は以前からありました。
鈴木千尋:私も考えてみたら、植物を育てる作品を多く作っていました。繁殖していかないF1の種が植物の主流として売られているので、学生の時からずっと繁殖ができない種と自分を重ねていた部分も少なからずあったと思います。

本作を既に観た方はいますか? 反応はいかがでしたか?

小宮りさ麻吏奈:2021年に20分位の展覧会用のインスタレーション用の映像として上映しました。フルバージョンは、今年の5月にパンフレットの発売記念で上映会を神保町の演劇のスペースでやりました。すごくいい反応をいただけて嬉しかったです。映像や映画はどこで上映するかによって見え方が変わると思うんですけれど、その時は演劇のハコだったので、映像というよりはパフォーマンス的な見え方だったと思います。映画館で上映されるのは今回が初めてなので、すごく楽しみです。

本作が新宿K’s cinemaで開催される東京ドキュメンタリー映画祭2023で上映されることについてはどう思いますか?。

小宮りさ麻吏奈:個人的には、ずっと気になっていた映画祭だったというのもあって、すごく楽しみだし、今回参加できるのはすごく嬉しいです。本作は「現代の家」というプログラムの中で上映されるんですけれど、他の作品もすごく気になっています。ジョイス・ラムさんの今回上映される『家族の間取り』は見たことがないんですけれど、レクチャー・パフォーマンスの映像作品は見たことがあって、自分と関心が近くて面白かったので、そういうお互いいろいろな響き合うような要素のある作品3作品が一緒に観られるというのは楽しみです。
鈴木千尋:人が集まる新宿という土地で上映されるのが楽しみです。

読者にメッセージをお願いします。

小宮りさ麻吏奈:自分は、結婚という制度自体にそんなに共感しない部分があるので、同性婚が選択できるとしても選択は多分しないんですけれど、今の日本は選択の権利が奪われている、平等とは言えない状態なので、今後同性婚ができるように法律が変わることを希望しています。本作の映像の中で起きることは、ドキュメンテーションとして、自分達が思った以上に現在の状況を反映しているんじゃないかなと思うので、ある種の今の日本のマイノリティーを取り巻く環境について考えたい人にはぜひ観てもらいたいなと思います。
鈴木千尋:東京ドキュメンタリー映画祭の後は、しばらくは上映の予定はありません。違和感を持って生活しているような方と、本作を観ていただいた後にいろいろなお話をしたり、共有したいので、ぜひいろいろな方に観ていただいて、さまざまな意見を頂けたら嬉しいです。

『繁殖する庭』

 監督:繁殖する庭プロジェクト(小宮りさ麻吏奈+鈴木千尋)/2023年/59分/日本

 現行の建築基準法の規制により家を建てることができない「再建築不可の土地」では「家」を建てることができない。また、結婚制度で規制されている「同性による結婚」においても、「家庭」を持つことができない。2つの制度によって規制された2つの「家(庭)」を重ね合わせ浮かび上がらせるとともに、新しい家の形として「庭」を作ることを模索するエクスペリメンタル・ドキュメンタリー。

東京ドキュメンタリー映画祭2023

 開催期間:12月9日(土)~12月22日(金) 新宿K’s cinemaにて開催
 

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