イベント・舞台挨拶

『熱のあとに』一般試写会イベント

©2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisya

 主演に橋本 愛、出演に仲野太賀、木竜麻生を迎えた、山本英監督最新作『熱のあとに』の一般試写会が1/24(水)に行われ、上映後には作家として「グレイスレス」「トラディション」など、自らの体験に基づいた視点で数々の小説やエッセイを世に送り出している鈴木涼美さんと映画評論家としてさまざまな媒体で連載を持ち幅広く活動している森 直人さんが登壇。
 本作で沙苗が導いた“愛し方”を二人独自の角度から掘り下げながら、本作を読み解く貴重なイベントとなった。

 まず鈴木は「作家として断続的に歌舞伎町の話を書いてきたので、今日ゲストに呼んでいただいたのかなと思っています」と一言挨拶。続けて森は「本作を大変面白く拝見しまして、この映画をお話しするのに相応しい鈴木さんとお話できるのを楽しみにしてました!」と挨拶しトークイベントが始まった。

 まず初めに本作の創作のきっかけとなった、2019年の新宿ホスト殺人未遂事件について、鈴木は「私がたまたまこの事件があったときに、事件現場の斜向かいのマンションに住んでいて。現場は見ていないんですけど、翌日ニュースで知って、ちょうど当時ホストの方と住んでいたので他人事ではないなと思っていました」と少し笑いながら当時の様子を振り返った。
 森は「僕もこの事件については記憶にあったんですけど、他にも同じ事件をモデルにした『そこにいた男』という短編映画があります。『さがす』(22)などの片山慎三監督が2020年に作った作品なんですが、一風変わったクライム・ミステリーという感じで、同じ事件でも『熱のあとに』とは全然違うのでぜひ見比べていただけたらと思います」と映画評論家ならではの視点から事件について切り込んだ。

 本作の全体的な感想として、鈴木は「もう、面白くて! 私は事件に“至るまで”の人々の話も好きだけど、この映画は事件を起こした女性の“その後の話”を描いているというのが、まず面白いと思いました。事件って、起きた当時は頻繁に報道されますけど、その後のことは風化してしまいますよね。そもそも歌舞伎町という街は“人生の一時期だけ縁のある人”が多くて、年を取ってまで居続ける人は少ない。だからこの映画は普段人が見てないところを丁寧に描いてるなって思いました。あと、冒頭シーンの橋本さんの獣のような目と、6年後の橋本さんの死んだ魚の目の違いがすごいと思って。序盤で“橋本 愛”という女優さんに吸い込まれました」と熱く話すと、それに森も深く頷いた。

 森は「セリフの量も多いですよね。鈴木さんもおっしゃったように、この映画は実際にあった事件をベースにしつつもルポ的なものになっておらず、白熱の思想闘争の映画になっていると思っていました。また、僕がパッ思い出したのが、(山本監督の大学院の先輩にあたる)濱口竜介監督です。思っていることをはっきり口に出して言う、その言葉を相手に直接ぶつけるスタイル。そして本作でも描かれている、“安全な愛VS危険だが充足的な愛”は、『寝ても覚めても』(18)とほぼ同じ主題だと思いました。本作はこの問題にあえて踏みとどまって、しつこく掘っていったなという印象」と話すと、それに対し鈴木は「私は(本作を)2回観たんですけど、“幸せは現実だけど本当じゃない”とか“現実を馬鹿にしないで”っていうセリフが私は好きでした。痺れるセリフがいっぱい出てくるのは印象的。余韻として続くので」と、本作の魅力について語った。

 セリフの多い本作と歌舞伎町という街の関係について、鈴木は「歌舞伎町は“言葉にしない街”だと思うんですよ。お金や愛で人が分かり合ったり関係ができていったりして……。なので、沙苗もホストの隼人(水上恒司)といるときは言葉で語らず、刑務所や外で生活するようになったときに、言葉を獲得していったのかなと想像しました。本作は歌舞伎町の外に出た沙苗の話だから、言葉が多いのは歌舞伎町の本質をついているなと思いました」と歌舞伎町に住んでいた経験のある鈴木だからこその見解が飛び出した。

 お見合いという形で事故的に出会った沙苗と健太。森は「健太(仲野太賀)が無傷じゃないところ」が本作で一番怖いと話すと、鈴木が「分かります。健太が沙苗と出会って狂気的な愛に “感染する”」と返した。それに対し、すかさず森が「今“感染”という言葉を聞いて一番しっくりきました」と、いうと会場の中でも大きく頷くお客さんが多々見受けられた。

 沙苗(橋本 愛)とホスト・隼人(水上恒司)の関係について、鈴木は「できるホストの方って、女の子が好きな理想の物語を詰め込めるような“箱”になれる人だと思います。隼人もきっと優れている人だったから、沙苗が理想的な愛を詰め込んだ。でも6年という月日が経った“熱のあと”で箱をあけると何も入っていなかったという……」と分析すると、森は「“箱”という表現がすごく腑に落ちます」と唸り、「要は隼人っていうものを沙苗が自分のファンタジーとして描けちゃうってことですよね」と返した。
 鈴木は「沙苗が本作中で語っている隼人のエピソードも、ホストだから当たり前にしただけのことなのに、沙苗の中では壮大な物語の一部だから、自分の中の理想と物語を語っているように感じました」と語ると、森は「沙苗はなにか宗教的に支配されているような、ある概念に準じているようなイメージで言葉が繋がれていたと思います。それが覚めるシーンで本作は終わるので、それぞれの人物がこのあとどうなるのかが気になる」と本作で描かれていない、その先の部分についても考察した。
 「ぜんぜん話がつきないです」と鈴木も森もまだまだ話し足りない様子の中、イベントは幕を下ろした。

 登壇者:鈴木涼美(作家)×森 直人(映画評論家)

公開表記

 配給:ビターズ・エンド
 2024年2月、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国ロードショー

(オフィシャル素材提供)

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